<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


『ランタン持ちの男』



○オープニング

 静かな夜、その町の墓地には彷徨うジャック・ランタンが現れる。
 依頼人の話では、そのジャック・ランタンは悪事を働きついには事故死をした男、イルアン・ソーネスなのだという。元々この町に住んでいたが、悪事を働き、堕落した人生を送ったおかげで死後の世界に行けず、悪霊となった彼はその恨みから、墓地を彷徨い近づくものを襲撃しようとしている。このままでは墓地に近づく事も出来ない。早く、この悪霊を退治し、町に静かな夜を取り戻さなくてはならない。



「ほーお、死霊の癖に炎を使うやつがいるたあ、生意気だな。ここは俺様の出番ってわけだ!」
 ソーンの首都エルザードから、村へ向かう定期馬車の中、虎王丸(こおうまる)は自信たっぷりに叫んだ。
 彼の種族は炎使いで、戦闘時には日本刀と炎を組み合わせる事が出来る。そんな虎王丸にとって、話に聞いた悪霊を見過ごすわけにはいかなかった。
「女たらしの上、自業自得で追われて転落死、挙句に死んでからも化けて出て迷惑をかけるとはな」
 呆れたような表情で、腕組みをしながらジェイドック・ハーヴェイ(じぇいどっく・はーう゛ぇい)が呟いた。
 獣人であるジェイドックはその柔軟な体を生かした強力な能力を発揮するが、魔法的な要素はほとんど持ち合わせない為、悪霊を退治する決定的な能力は持ち合わせていない。
 しかし、だからといってこの町での事件を放っておくわけにもいかず、知恵を使い道具をうまく使えば退治出来ると確信し、町行きの馬車へと乗り込んだのであった。
「そんな悪霊が彷徨っていたらさぞかし迷惑だろう。まったく、本当に困った奴だ。そいつを退治すれば良いわけだな?」
 ジェイドックの言葉に、依頼人の女性は小さく頷いた。
「貴方方の様な冒険者にお越し頂いて、とても心強いです。私達の町は小さな町ですから、大したお礼は出来ませんが」
「礼なんていらねえよ、おばさん。そんな迷惑な奴、誰だっていなくなってほしいだろ?俺らに任せておけよ!」
 申し訳なさそうに表情を暗くした女性に、虎王丸は笑顔を浮べて親指を上に立てた。
「ハイハーイ、優秀な冒険者代表、よーこちゃんに任せておけばバッチリよー!」
 虎王丸に続き、葉子・S・ミルノルソルン(いぇず・すぺーど・みるのるそるん)が明るい声を上げた。
 葉子のその正体は悪魔なのであるが、これから悪霊を退治するという時に、自分も悪魔です、などと言うのは、この依頼主を怯えさせるだけだろう。
 尖がった耳、漆黒の悪魔の翼が悪魔をイメージさせるのではあるが、このソーンには様々な種族がおり、悪魔に外見が似ている種族も存在する。
 町へ翼を使い直行しようと思っていたが、他の同行者が馬車で向かうのを見かけて、ひっそりと馬車へ便乗したのであった。
「にしてもイケナイ悪霊君だヨネ。ハロウィンの夜を乱すなんてさ。お祭りのハロウィンは歓迎だけど、悪霊はお断りさ」
「そうだな。だからこそ、さっさとそのイルアンっていう悪霊を退治せねばならん」
 葉子の言葉に、ジェイドックが続けた。
「ネェネェ、君達、ハロウィンには何て言うか知ってる?」
 イタズラっぽく、葉子が訪ねると虎王丸が答えた。
「そんな事知ってらあ!トリック、トリック何とかだ!」
 ハロウィンの事をあまり知らない虎王丸が、無理やり答えた。
「トリック・オア・トリートではないのか?」
 虎王丸を助けるようにして、ジェイドックが答える。
「ぶー。違いマッス!」
 葉子は人差し指を立てて、それを虎王丸の前でチッチと振って見せた。
「違うのか?他の言葉なんて聞いた事ないが」
 そう言って、ジェイドックは腕を組んだまま葉子の顔を見つめ、彼が答えを言うのを待った。
「正しくは、トリックアンドトリート、お菓子くれても悪戯するヨ!」
「そうか、つまり両方というわけだ」
 葉子の答えを聞き、ジェイドックが苦笑した。
「何だそりゃあ!俺、マジで考えちまったじゃねえか!」
 今にも殴りかかりそうな虎王丸を見つめ、葉子は楽しそうに笑顔を浮べた。
「とまァ、冗談はこの美しすぎる顔ダケにして」
 けらけらと笑う葉子は、からかう様な表情で虎王丸とジェイドックに顔を向けた。
「ところでさあ、ハロウィンって何だ?俺、あまり詳しく知らねえんだ。仮装するって事は知ってるけどよ」
 今度は虎王丸が質問をする番であった。
「何で化け物の格好すんだよ?それに、あのカボチャのランタンとか」
「簡単に言うと、ハロウィンの夜には死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた」
 ゆっくりと、落ち着いた口調でジェイドックが説明をする。
「これらから身を守る為に、仮装をするのだ。仮装をして、自分達を怪物の仲間と思わせて身を守るというわけだ」
「そしてね、ジャックオーランタンは、魔よけに使うんダヨ。もともとはカブで作ってたんだけど、ある時からカボチャが使われるようになったのサ」
 ジェイドックの説明に、今度は葉子が付け足しをした。
「そのジャック・オー・ランタンっていうのは、もともと堕落した生活を送っていて、死後、死者の国に入れずに彷徨っている男の姿だと言われているんだヨ」
「それが、今回の悪霊ってわけだな」
 虎王丸は納得した様に、腕を組んだ。
「季節ごとに出る魔物が違うってのは、この世界じゃあ珍しいなあ。ともかく早くそいつを何とかしねえと」
「そろそろ、町に到着するんじゃナイ?」
 だんだん馬車が低速になっていくのを感じ、葉子は少し真面目な表情をして言った。
「そのようだ。窓の奥に町が見える」
 ジェイドックは窓の外を見つめた。そこには、木造の家が数十軒並んだ小さな町があった。
「皆様、到着しました。早速、町を案内しますね」
 馬車が完全に止まってから、依頼人の女性は立ち上がった。虎王丸、ジェイドック、葉子も女性に続き、馬車を降りた。



「ここが問題の墓地です」
 女性は3人を宿へと案内し、それから悪霊が出るという墓地へと案内した。町の外れにあるその墓地はさほど広くないが、悪霊が彷徨うせいか、静か過ぎる空気が返って不気味であった。所々に木が生えており、墓石が突き出している場所も数箇所あり、走り回るには少々苦労するのは目に見えていた。
「悪霊は夜になるとこの墓地へ現れます。墓石が多少傷ついてしまうのは構いません。早く、あの不気味な悪霊を退治して下さい、お願いします!」
 女性が怯えたように叫ぶと、ジェイドックが優しく言葉を返した。
「大丈夫だ。あとは俺達に任せてくれ。なるべく墓地を荒らさない様に、悪霊を退治する」
「そうですね、貴方方に来て頂いたのですから。では、私はこれにして失礼します。何かあれば、私の家を訪ねてください」
 それだけ言ってその女性は、多少心配そうな表情を浮べながら、墓地を後にしていった。
 やがて訪れる静寂。昼間だからまだ悪霊は出ていないが、それでも不気味な雰囲気はなくならない。夜になると悪霊が出る場所に、清々しい空気など流れるはずもなかった。
「さてと、これから夜になるのを待つか?」
 ジェイドックがそう言うと、虎王丸は墓場の出口へと向かった。
「いや、俺は町を見回るよ。少しでも調べておいて、悪霊を退治する時に役に立てたいからな」
「そんジャ、俺も」
 虎王丸に続き、葉子も墓地から出て行った。
「そうか。では俺は、夜に備えて少し休む事にする。体力は温存しておいた方がいいからな。ではまた夜に落ち合おう」
 町の内部へと歩き出す2人を見送り、ジェイドックは宿へと戻る事にした。



「ここが、あのイルアンってやつがよく遊んでいた酒場か」
 虎王丸は、情報収集の為、イルアンという男が生前出入りしていたという酒場を訪ねた。
 この酒場は今でも夜賭け事などで賑わうが、昼間の今は店のマスターが一人でグラスを拭いている姿しかなかった。
「兄さん、まだ準備中だよ」
 無愛想なマスターが、虎王丸を追い払おうとする。
「いや、酒を飲みに来たわけじゃねえんだ。ここに、昔、イルアンってやつが出入りしてただろ?」
 虎王丸がそう言うと、マスターが怯えた様な表情を浮かべた。
「今は悪霊になったってな。俺達、そいつを退治しに来たんだ。やつの弱点とかねえかなあ。幽霊になっちまったから、昔と変わってるだろうけどさ」
「では、墓地に出るのはやはりあいつか」
 マスターは虎王丸の話を聞き、恐怖の色を顔に表した。
「確かに、イルアンはここによく出入りしていたよ。毎日違う女を連れて、ここで賭け事をしていた」
「この村の人に頼まれたんだよ。倒して欲しいってさ。で、どんな奴だったんだ、そいつ?」
「見かけはかなり男前だったな。いつもシャレた服を着ていて、そんな悪い奴には見えなかった。だからこそ、女が耐えないのだろう。しかし、裏では女から金を騙し取ったり、老人を騙したりしていたらしい」
 マスターはそう言ってため息をついた。
「まあ、そんな奴だから悪霊になったのかもしれないがな」
「なあ、賭け事って楽しいか?」
 急に話を切り替えた為、マスターは面食らった様な顔をした。
「俺は好きだが。ハマる奴はハマるんじゃないだろうか。それで身を滅ぼす奴もいるぐらいだからな。だが、それがどうかしたのか?」
「イルアンはもう、賭け事も出来なくなっちまったな」
 不思議そうな顔をしているマスターから視線をずらし、虎王丸はカウンターに出しっぱなしになっていたコインを摘み上げた。
「これ、少し買わせてくれ。賭け事に使うコインだろ?」
「そうだが。そんなもの何に使うんだ?」
 マスターの問いかけに虎王丸はにやりと笑い答えた。
「イルアンに見せてやるのさ。あいつ、もうこのコインを使う事も出来ないだろうからな。そんじゃ、ありがとな!」
 マスターに金を払い礼を言うと、虎王丸は酒場を後にした。



「なるほどネ、町から墓地は相当近いんだネ。これじゃあ、町の人が覚えるはずダヨ。だって、いつジャックが町へやってくるか、わからないもの」
 葉子は虎王丸とジェイドックと別れたあと、空から町の地形を確認したあと、また墓地へ戻ってきて、この周辺がどのような作りになっているかを確認していた。
 自分は空を飛べるから、いざとなったら空を飛ぶことも出来るが、他の2人はそういうわけにもいかないだろう。
「ここで走りまわっても、墓石がかなりジャマダネ。戦いになったらどう動こうかナ」葉子は再度、上空へと飛び上がった。
「聖水をまけば、ゴーストの動きを制限できるだろうケド。俺はチョット、ネ」
 そう言って苦笑をした葉子は、墓地の上空を浅海した。
「悪霊が夜に出てきてくれるから良かったヨ。昼間がダメってわけでもないケド、どちらかというと、俺は夜行性だからネ〜」
 再び墓地に降りた葉子は、そばにある石の上に腰掛けた。怖がって人が近寄らないせいもあるが、葉子一人でいる墓地は不気味な程に静まり返っていた。
「そのイルアンってヒトはどんな人だったのカナ。死んで悪霊になるなんて、よっぽどの悪人だったのかもネ。でも」
 葉子はすぐ目の前に、新しく建てられたであろう墓石を見つけた。墓石はまだ新しく、出来たのはほんの数日前かもしれない。
 しかし、その墓石には名前が入ってなかった。名前を入れてもらえない程、嫌われ者が埋葬されていたのだろうか。この墓はもしかしたら、と葉子は思った。
「イルアンクン、まさか、悪魔が自分を退治しに来るなんて、夢にも思わないだろうネ」
 艶っぽい笑みを、葉子は浮かべた。
「悪霊対悪魔。どちらも皆に恐れられる存在だネ。どっちが怖いか、思い知らせてあげるヨ」
 名前のない墓を見つめ、葉子は悪魔の様な妖絶な笑顔を見せた。



 虎王丸と葉子が出かけている間、ジェイドックは一人、宿で休んでいた。
 戦いは夜に行われる。夜中になるまであと数時間はあるが、特に魔法をほとんど使わずに戦うジェイドックにとっては、何より体力を温存しておくのが得策だ。
「悪霊相手なら聖水なんかをまいておくのが一番だろうがな。まあ、他の奴らもいるし、何とかいけるだろう」
 宿についてすぐ、軽食を食べたジェイドックは、ベットの中に入った。馬車の旅はそれほど大変なものではなかったが、少しでも休んでいた方がいいだろう。
「葉子と虎王丸はどこへ行ったのやら。まあ、いい。俺はひとまず休んで置こう」
 賞金稼ぎとして、これまで沢山の依頼をこなして来た。今回は悪霊が相手だというが、どんな相手でも、これまでの経験を生かして相手をすれば勝てない事はないと思っていた。そうでなければ、あの時、ルディアの店で名乗りをあげたりはしなかったはずだ。
 ジェイドックは目を閉じた。宿の枕は、小さな田舎の宿であるにも関わらず、とてもふかふかしていた。枕だけは高級品を使っているだろうか。
 それにしても村が静かだ。ここがエルザードの宿なら、絶えず外から音楽やら人の叫び声が聞こえてくるのだが。もともと静かな村なのか、それともこの様な事件があって、皆言葉を無くしているのか。
 何にせよ、早く悪霊を倒さなければならない。一眠りしたら、悪霊との戦いが待っているのだ。



「昼間も静かだったが、夜になるともっと静かだな。自分の心臓の音まで響き渡りそうだ」
 ジェイドックはそう呟いた。一眠りしたおかげで、体の調子がとてもいい。すでに聖獣装具であるサンダーブリッドを手にしていた。
「じゃ、俺は空で応援してるカラ!」
 陽気な笑顔を浮かべ、葉子がそう言うと、無表情のままジェイドックが葉子を見つめた。
「なーんていうのは冗談サ!」
「こんな時に冗談なんて言うなよな!」
 虎王丸も葉子を睨んだ。3人は夜をふけるのを待ち、この墓場へと足を踏み入れた。今は3人しかこの場にいない。昼間よりもさらに静まり返り、すっかり暗くなってきた墓地は、いつ悪霊が出てきてもおかしくない程、不気味な雰囲気で満たされていた。
「ま!どんなのが出て来たって、この虎王丸様の敵じゃねえけどな!」
 自信たっぷりの表情で虎王丸が言うと、墓地の奥の墓石の1つから、白い煙の様な光が立ち上ってきた。名前が何も刻まれていないその墓石の影に、ゆらゆらと炎が染み出してきた。
 輪郭がはっきりしていないが、それは徐々に男の姿に変化した。その手にはカブで作られたランタンが握られている。しばらく墓石のそばに佇んでいたその幽霊は、3人の存在に気付くと風に乗った様に飛び、近づいて来た。
「さ、お出ましって訳だ!」
 虎王丸が余裕の笑顔を見せながら叫んだ。
「これがジャックランタン。ハロウィンでよく見る、ランタンを持っているというには本当だな」
 ジェイドックはサンダーブリッドを構えたが、まだ悪霊がどんな動きをするわからない以上、撃たない方が懸命だと思い引き金を引かなかった。ここは狭い墓場、むやみに撃てば墓石を傷つけてしまう。
 悪霊は当然、ランタンから炎を放った。あちこちに炎が拡散したが、3人はそれをすぐにかわした。
「そういや伝説では、悪魔が憐れんで灯り渡すってネ」
 トランプのカードを指に挟み、葉子は呟いた。
「だったら、その役は俺の役目かもネ。ま、まずはイルアンクンをどうにかしないと」
 葉子がカードを投げようとすると、横から声が響いた。
「やーい、イルアン!そんななっちまったら、もう好きな事も出来ないだろうな!」
 そう挑発し虎王丸は自身の火炎能力である、白焔を酒場で買ったコインにこめて指で弾いて、悪霊に向かってぶつけた。コインは激しく飛び、悪霊へとぶつかる。普通の炎なら悪霊に効果はないが、この白焔は悪霊でも攻撃が出来る特殊な力だ。
「賭け事ってのは楽しいなぁ!お前はもう、そんな楽しい事も出来ねえけどな!」
 たちまちにうちに、恨みを込めたように悪霊の動きが虎王丸へと向かう。半分、楽しがってやったのもあるが、とにかく注意を自分へと向けたかった。
「そうだ、こっちへこい!」
 次いで虎王丸は、悪霊に刀で切りかかった。白焔を宿らせた刀でなら、攻撃も有効なはずだ。刀が、悪霊の肩に炎の傷を作った。
「虎王丸、一歩下がれ!」
 ジェイドックが叫ぶ。言われたとおり虎王丸が一歩下がってすぐ、サンダーブリットを放った。銃から発射された弾が。たちまちのうちに悪霊の体を貫いた。
 通常の銃なら傷つかないだろうが、この聖獣装具にはサンダービーストの力が宿っている。悪霊に向けて撃てばダメージを与える事が出来るはずだ。
 しかも、銃であれば走り回る必要もなく、この墓地の様な場所には都合が良かった。
「効いているみたいだが、まだ倒せないか」
 今度は自分の方に向かってくる悪霊を見つめ、ジェイドックは唸った。
「出来るだけ墓を荒らさないように片付けなければ」
 悪霊は流れるようにジェイドックへ近づくと、ランタンから炎を吹き出した。激しく燃える炎が、あやうくジェイドックの毛皮を焼きそうになる。
「危ない。近づきすぎても危険だ」
「そろそろ俺の出番だね。いくよっ!」
 その時、葉子は悪霊に向かって、ミラーイメージを放った。この魔法を使えば、悪霊に幻を見せて撹乱する事が出来る。悪霊が幻をみるかは不明だが、やってみた方がいいだろう。
 しかし、悪霊はひるまず先程攻撃を仕掛けてきた、ジェイドックへと向かって行った。
「ありゃ悪霊には幻は見えないのカナ。だったら、こっちだね」
 カードに風の力を混めて、葉子は悪霊へと投げつけた。カードは鋭い空気の刃となり、悪霊の体に突き刺さる。今度は、悪霊がダメージを受けた様で、とたんに奇声を上げた。
「何て薄気味悪い声だ」
 女とも男とも判断のつかない切り裂かれたような声に、ジェイドックは顔をしかめた。
「しかし、ダメージは蓄積されている様だな」
 悪霊の動きがだんだん鈍くなって来ていた。それに、出現した時よりも体の輪郭がわかりにくくなっており、かなり消えかかっていた。
「最後は俺がやってやるぜ!ちょっと待ってろ、今気合を入れる」
 そう言って虎王丸は、精神を集中させた。
「必殺技でもあるのか?まあいい、早くこいつを倒そう」
 ジェイドックはそう言って、さらに銃を悪霊に撃ち込んだ。
「虎王丸クンがトドメ差すの?」
 葉子も訪ねた。
「よし、皆離れてな!本当の炎の使い方を見せてやるぜ!」
虎王丸は精神を集中し敵の炎ごと敵を燃やせるぐらいに力を籠め、炎弾を放つ。激しく燃え上がった炎の弾はたちまちのうちに悪霊を燃やし、葉子やジェイドックが攻撃してダメージが蓄積していたおかげで、ジャックランタンは燃えて崩れてしまった。
「よっしゃ!やっぱり、炎はこう使わないとな!」
 虎王丸はガッツポーズを取った。
「消えたか。それほど手ごわい相手ではなかったが、迷惑なヤツだった」
 ジェイドックは、ジャックランタンが消えた場所を見つめ、長く息をついた。
「無事に倒せてよかったヨ。あ、そうそう。悪霊を倒したら、あれを持ってこないと」
「あれとは?」
 葉子の言葉に、ジェイドックが首をかしげた。
「チョット待っててね。今、持ってくるから」
 葉子は墓場を離れると、すぐに空を飛んで戻ってきた。葉子のその手には。南瓜で出来た、本物のジャックオーランタンがあった。
「そりゃあ、ハロウィンの時に飾るのだろう?」
 と虎王丸が顔をしかめた。
「ん、確かにそうダネ。コレには、旅人が道に迷わないっていう、力が有るんダヨ。さ、この墓場の前に置いてあげよう」
 葉子は名前のない墓石の前に、ジャックオーランタンをそっと置いた。
「迷い人がもう出ないヨーに、ネ?」
「さてと、宿に戻ろう。朝が着たら、あの婦人に報告をしてやらねば。きと、安心するだろう」
「そうだな。ようやくハロウィンも祝えるって訳だ」
 ジェイドックの言葉に、虎王丸が頷いた。
 ハロウィンの夜には霊があの世からやってくる。このイルアンという男も、今度はまっすぐあの世に行ってもらいたい。ジャックオーランタンに、そんな思いを託し、3人は墓場を後にした。(終)



◆登場人物◇

【1070/虎王丸/男性/16/火炎剣士】
【1353/葉子・S・ミルノルソルン/男性/23/悪魔業+紅茶屋バイト】
【2948/ジェイドック・ハーヴェイ/男性性/25/賞金稼ぎ】

◆ライター通信◇

 葉子様

 初めまして。発注有難うございます。WRの朝霧です。

 美形で陽気な悪魔、という事だったので、各所にその明るさを描いてみました。依頼が依頼なので、美形さはあまり前面に出せませんでしたが、悪魔らしい妖しい雰囲気が出ていればいいなあ、と思います。

 ハロウィンシナリオなので、ジャックランタンについて何度も調べました。結構知らないこともあったりして、なかなか勉強になりました。

 それでは、発注有難うございました!