＜聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記＞
『【ラット】小さな小さな大捜索』
○オープニング
人間の言語を理解できる鼠の種族、ラット。そのラットの名門の令嬢・ティナが図書館へ行く途中、車を飛び出し、どこかへ行ってしまったのだという。
家庭教師のピートは、ティナを探す為に白山羊亭を訪れるが、何しろ小さな種族である。冒険者はラットと同じサイズになり、巨大な町の捜索を開始する事となったが。
■魔法の薬
「こんなに頼もしい方々が、協力してくれるとは。感謝致します」
ピートは、白山羊亭に集まった２人の冒険者を見て、いや、ピートからすれば見上げる事になるのだろうが、小さく頭を下げた。
「俺は自分を獣『人』だと思っている。だが、顔はこの通り、虎そのものだ。お嬢様とやらが怖がらなければいいがな」
ジェイドック・ハーヴェイ（じぇいどっく・はーう゛ぇい）は、ピートを見下ろした。確かに、本人の言う通り虎の姿をしているのだが、ピートは首を振ってにこやかに言った。
「大丈夫ですよジェイドックさん。お嬢様は我らの天敵の、猫や猛禽類もお好きですから。ま、もうちょっと注意してもらわないと、危ない事になるといつも言っているのですが、まだまだ怖いもの知らずな方ですので」
そう言って、ピートはその隣にいるシルフェ（しるふぇ）にも話しかけた。
「シルフェさんも、ありがとうございます。では、そろそろ魔法のお店へ行きましょうか」
「まあ、小さくなるのも楽しそう。ピート様、必ずティナ様を見つけ出してみせますわ」
シルフェが柔らかい笑みを浮かべる。その笑顔を見て、ピートも安心した様な笑顔を見せた。
「お嬢様が遠くへ行ってしまわないうちに、参りましょうか」
「すぐそばに魔法の薬を売る店があるのはラッキーでした。ちょっと怪しい雰囲気ですが」
ピートはジェイドックとシルフェを店のカウンターまで案内し、自分はカウンター前の本箱を上って、カウンターの上によじ登った。
「すみません、小さくなる薬をお願いしたいのですが！」
ピートがそう言うと、店の奥から、緑色の髪の毛に、アクセサリを沢山身に着けた若い女性が姿を見せた。
「ハーイ、いらっしゃい！小さくなる薬をご希望ね？」
「あら？」
その店主の顔を見て、シルフェが、あっと息をついた。
「ここはレナ様のお店でしたの。お久しぶりですわ。蟲使いの依頼以来ですわね」
シルフェが、レナ・スウォンプ（れな・すうぉんぷ）ににこやかな笑顔を返した。
「あら、貴方、前に一度依頼で一緒した。お元気？また会えるなんてね」
「何だ、お前達、知り合いだったのか」
ジェイドックがそう答えると、レナは引き出しから白い小瓶に入った瓶を取り出して来た。
「小さくなる薬が必要で、一緒にいるのは可愛らしいラットさん。ふふ、何か面白そうな事をしているみたいね」
レナは笑顔のまま、瓶の蓋を開けた。
「お代はいらないわ。でも、代わりにあたしも仲間に入れてくれない？ちょうど、この薬の効能を見てみたかったのよ」
「え、いいのですか？」
驚きの声をピートが上げた。
「あたし、自分でつくっといて何だけど、この薬で小さくなったことないのよねー」
「自分で作った薬の、効果を試した事がないのか？」
今度はジェイドックが、驚いた様な声を出した。
「あたしの使い魔猫だから、あたし自身がちっちゃくなって、じゃれられたらひとたまりもないじゃない？」
レナは瓶の中に、小さなさじを入れた。
「でも今は使い魔の猫もどっか遊び行っちゃってるし、オッケーオッケー。どんな感じかしらー、楽しみねー」
「ピート様、先ほど申し上げました通り、レナ様とは依頼でご一緒した事がありますが、魔女様でいらっしゃいますので、頼りになるかと。レナ様にも、協力して頂きませんか？人数が多い方が宜しいですわ」
シルフェが、レナの魔法の薬を扱う手先を目で追いながら、ピートに提案する。
「そうだな。皆で探した方がいいだろうな」
ジェイドックもピートに言葉を返した。
「そうですね。では、レナさんもよろしくお願いします」
「ふふ、こちらこそよろしく。それじゃ、薬を使うわね」
レナが、さじで取り出した白い粉末状の薬を、ジェイドックとシルフェ、そして最後に自分に振りかけた。
急に、体がむずむずしてきたかと思うと、視界がどんどん下に下がり、店のカウンターや本棚、壁が上の方に伸びていく。
「まあ、凄いですわ」
シルフェとジェイドックは、お互いにお互いを見た。薬を振りかける前と変わってはいないが、そのまわりの景色は数秒前とまるで変わっている。天上は、空高く覆っており、先ほどまで自分の胸のあたりの高さであった店のカウンターは、まるで断崖絶壁の崖のようにそびえていた。
「薬の効能はばっちりね。今度、売り出さなきゃ」
カウンターの下にある隙間から、レナが歩いてきた。彼女は、好奇心に満ちた表情で、店の景色を見つめていた。
「へえ、小さくなるとあたしの店もまるで別世界ね」
「皆さん、準備は良いですね！さあ、参りましょうか！」
ピートがカウンターの上から降りてきた。少し前までは手の上に乗るサイズであったピートが、今は自分達と同じ背丈になっている。一瞬、着ぐるみを着た人にも思えた。
「レナさんには、依頼の内容を説明しますね。お嬢様、まだ遠くには行ってないかと。しかし、くれぐれも大通りに急に飛び出したりしないで下さいね。巨人達に踏み潰されますから」
「ラット様達にとっては、わたくし達も巨人なのですわね。それなら、ジャイアントみたいな巨人は、どうなるのかしら。超巨人？メガ巨人？」
小さくなった自分の姿を楽しみながら、シルフェはジェイドック、レナ、ピートに続いて店の外に出た。
■小さくて大きな世界
「なるほど。女の子は、男を多少振り回すくらいが可愛いのよ、将来有望なお嬢様じゃない？」
今回の依頼の話を聞き、レナはクスリとピートに返事をした。
「そんな、笑い事じゃありませんよ。御主人様のお耳に入ったどんなに心配されるか。お嬢様にも困ったものです」
「その、お嬢様は普段からピートを困らせたりするのか？」
一行は、天使の広場へと向かっていた。ティナが賑やかな場所が好きと聞き、最初に思い当たったのが天使の広場であったからだ。
「ええ。今は色々な物に夢中で、１人で自由に遊びに行きたいと、毎日１０回は言っております」
「そりゃそうよ、思春期の女の子じゃないー？好き勝手にしたいと思う、お年頃よ。今回の件も、自由になりたいっていう思いが、飛び出しちゃったのかもね？」
レナの言葉に、ピートは溜息をついた。
「お気持ちはわかるのですが、今回の様な事が何度もあっては、私も困ります。万一の事があっては、遅いですし」
「ま、お嬢様だってあんたを困らせようとしてどこかへ行ったわけではあるまい。１０歳位なら、突然反抗してみたくなる事だってあるだろう」
ジェイドックは、繁華街を見上げた。いつもの様に、繁華街はとても混雑しており、人々の行き来は激しい。が、その雑踏がまるで地震の様に感じる。人間がそばを通る度に、まるで吹き飛ばされそうな気分になる。
「いつも見慣れた場所だが、こんなにも違うのだな。ピート、いつもどうやって移動しているんだ？常に道の真ん中を歩くわけでもあるまい。お前達の移動方法を教えてくれ」
「はい。私達は、常に壁伝いに端の方を移動します。どうしても、反対側に行かなければいけない時は、人がいなくなったのを見計らいますが。あとは、木や壁に登って移動する事もありますけどね」
ピートはそう答えると、上を見上げた。ピートの視線の先には、魔術で箒を小さくして、それに跨り、宙に浮いているレナがいた。
「うふふ、これなら踏み潰されるって事もないでしょ？しかし、面白いわねー。世界が大きくなった感じがするわ」
「これだけ小さいと行動範囲も狭いですから、レナ様の様に飛んでいった方が便利かもしれませんわね」
シルフェも、上空を自由に飛びまわるレナを見上げた。が、その時、巨大な人影がレナのそばへ集まってきた。
「わ、こんなところに変な虫がいるよー！！」
その人影は、レナを捕まえようと手を振りかざしてきた。レナは、それを華麗な動きで避ける。
「失礼ね、虫じゃないわよ！」
レナはその人影に叫んだが、人影はその言葉すら聞かずレナを捕まえようとするので、彼女は魔法で炎を生み出し、その人影に投げつけた。
「うわー！何だこの虫！火を吐いたぞー！」
巨大な人影は、すっかり驚いてどこかへ立ち去ってしまった。
「失礼な事するからよ。まったく」
「もうすぐ天使の広場だ、レナには空から広場の様子を伺ってもらった方がいいだろう」
「了解。あんなに賑やかな場所なら、ティナもいるかもねー！」
炎で巨人を追い払ったレナは、箒で一足先に天使の広場へ向かった。
■天使の広場
天使の広場には様々な店があり、さらに混雑していた。広場にたどり着いた一行は、まず最初に広場の様子を確認する為、小高い所に上がり、全体の様子を見渡すことにした。
「あの上なら広場全体を見渡せるな。広場の中心近くにある木」
天使の広場の中心にある、天使の像のある噴水のそばに、街路樹が植えられている。
箒に乗っているレナ、身のこなしの軽いジェイドック、おして普段からこの様なことには慣れているらしいピートは、すぐに木の上へと上がることが出来た。が、シルフェは少々苦労している様子であった。
「木登りは、苦労しますわね」
レナがシルフェを箒で引っ張り上げ、ようやく木の上へと到着した。
木には赤い花が咲いているが、それがとても大きく、花の中にすっぽり入れそうであった。それに、葉っぱもまるで布団の様な大きさで、巨大な虫食い痕がぽっかりと空いていた。
「レナさん、有難うございます。こうして上から見ますと、この天使の広場の賑やかさが一目でわかりますわね。でも」
シルフェは、広場を見渡しながら言う。
「この広場のような、賑やかで人の多いところへ向かわれたとしても、危なくて長居も難しいのではないかと思いますの。もしかしたら、案外車のそばでウロウロしているかもしれませんわ」
「では、ティナはどのあたりにいるだろうか？」
ジェイドックがシルフェに尋ねた。
「人が行き来している様なところにはいないでしょうね。女の子が好きそうなお店とかどうでしょうか。大きな人がいないような、場所にいるかもしれませんわ」
「ふむ。確かに最初からお目当ての場所があるなら別だが、好奇心に誘われるまま向かっているなら、あまり深く考えずに目に付いたところへ向かうかもしれないな」
ジェイドックがシルフェに答えた。
「そうねー、ティナってどんなものが好きなの？好みの店なんか、あるんじゃない？」
箒で旋回しながら、レナがピートに尋ねた。
「最近は人形集めに夢中になっていらっしゃいますが。ただ、この広場の店に行ったのでしょうか。我々の生活用品とはサイズがまるで違いますのに」
「とりあえず、お人形屋さん行ってみない？ここでずっといても、しょうがないし」
レナがそう言うと、木の枝が揺れ、後ろにある巨大な葉っぱの影から、大きな影がゆっくりと動いてきた。
「ああっ！！」
シルフェが声を上げた。
「ぎゃーーー！！」
今度はピートが、飛び上がってしまいそうな声を上げる。
「と、これは危険な相手だな」
ジェイドックが構えた。自分達の背丈以上もある蜘蛛が、こちらへ忍び寄ってきたのである。その複数ある目がこちらを見つめており、今まさに襲いかかろうとしているのがわかる。
「俺にレナみたいな力があるなら、武器も小さくするんだがな。ここは仕方がない！」
ジェイドックが一歩後ろに下がり、葉っぱをもぎ取った。
「ここから飛び降りよう。蜘蛛のエサになる前にな」
「それでは、私が引き付けておきますわね」
そう言って、シルフェはマリンオーブを操り、そこから大量の海水を呼び寄せた。その海水が蜘蛛の方へと流れ込み、蜘蛛は躊躇した。
その隙に、ジェイドックは葉っぱをパラシュートの様にして木の枝から飛び降りた。その次にシルフェが飛び降り、怖がっていたピートも、レナに導かれるままに、葉っぱを使って飛び降りた。葉っぱが空気を受けて体がゆっくりと宙に舞い、一行は木の下へと着陸する。
着陸した時、上から水が降ってきたよ、という声がどこからか聞こえてくるのであった。
「はわ、びっくりしました」
ピートは腰を抜かしそうになりながら答えた。
「小さいと危険も多くなるわけだな」
ジェイドックは、再度木の上を見上げて呟いた。
「地上へ降りたのだし、とりあえず、人形屋へ行ってみるか」
まだ目を見開いて驚いているピートを連れて、一行は天使の広場に並ぶ店を壁伝いに進みながら、人形屋へと向かった。
■人形屋
「おっと！」
一行が人形屋へ入ろうとした時、出口から巨大な人間が３人出てきて、あやうくその１人に、ジェイドックが踏み潰されそうになった。
「危ないですわね。駆け抜けるのも危険ですわ」
シルフェがそういい終わると、また別の人間が店の中へ入り、その度に土煙が上がりむせ返りそうになった。
「体が小さい者にとって、俺達の世界はさぞかし住みにくいだろうな」
ジェイドックに続き、レナとシルフェ、ピートが店の中へと入る。
店には人形が、高い場所に沢山並べられているがどれもこれもが大きく、まるで巨大な石像の神殿にでも来た気分であった。
「あたし、店の様子を見てくるわね」
レナが箒で店内を見ている間、ジェイドックとシルフェは、なるべく壁側をつたい歩きながら、ティナを探した。
しかし、ラットの姿はどこも見当たらず、ジェイドックはさらにピートへ、ティナの好きそうな店を聞き出そうと、後ろからついてくるピートへと振り返った。
「少々、危険が迫っているな」
「どうかなさいまして？」
シルフェが後ろを繰り向いた。白い、毛玉の様な犬が、こちらへ物凄いスピードで迫ってきていた。まるで巨大な怪物にも見えるその犬は、明らかにジェイドックやシルフェ、ピートに向かって突き進んでいた。
「今度は犬ですか！どうしましょう！」
「落ち着けピート。冷静に判断すればいい」
「冷静といわれても！」
ジェイドックは、ピートを突き飛ばすようにし、庇う様にピートの前へ立った。
「先に逃げろ。後は、俺達に任せるがいい。すぐに行く」
「わかりました！」
ここは早く撤退した方がいいと思ったのだろう、ピートがすぐに店の外へと出て行った。
「レナはいるか！」
「いるわよー！店の中にティナらしき影はないみたいー！」
「わかった。それで、あの犬をどうにか引き止めてくれ」
箒にまたがったレナは、犬の前へと飛び出した。
「おっけー！ごめんなさいね、わんちゃんー。今は、遊んでいる暇はないからね」
そう言って、レナは犬の目の前で魔法を使い、火花を散らした。とたんに、犬がびっくりし悲鳴を上げる。
「ふかふかな犬様ですわね。わたくし、あの犬様の上で寝てみたいですわ」
一人だけ妙に友好的なシルフェが、のほほんと答えた。
「のんきな事言ってる場合か。行くぞ！」
一行は店から脱出し、ひとまず店から離れ、天使の広場の隅の方にある、閉店していて人も近寄らない店の壁で、一息ついた。
「ティナ様、いらっしゃいませんわね。けれども、近くにいらっしゃるのではないでしょうか」
「そうだな。家出をするつもりではないだろうしな。もしかしたら、戻っている可能性もあるな」
シルフェの言葉に、ジェイドックが言葉を乗せた。
「んー、それなら、一度戻ってみる？」
レナが箒にまたがり、上から降りてくる。
「好奇心でふらっと行っただけなら、ちゃんと帰ってくると思うの。そろそろ、貴方の事が恋しくなってきた頃じゃない？」
「それだと良いのですが。しかし、あてがありませんからね。戻るのも良いかもしれません」
ピートはレナに、頷いて見せた。
■戻った先で
一行は、元来た道を戻り、車の方へと向かった。ラット達の車は、馬車ならぬトカゲ車で、トカゲに縄をつけて走らせるものであった。
「ピート、遅いよー！」
突然、車の中から可愛らしい声が聞こえてきた。
次に、ジェイドック、レナ、シルフェが目にしたのは、可愛らしい赤い服を身につけた、ラットの少女が車から降りてくる姿であった。
「お、お嬢様！戻っていらしたのですか？」
ラットの令嬢・ティナは、ピートのそばにいる見たことのない３人組を見つめて、こくりと頷いた。
「心配したのですよ！皆で貴方を探していたのです。何かあったらどうなさるおつもりだったのですか！」
ピートが、大きな声を出して叫んだので、ティナは一瞬、泣き出しそうな表情を見せた。
「だ、だって」
「まあまあ、ピート。心配する気持ちはわかるが、彼女にも色々あったのだろう」
ジェイドックが、ピートをなだめるように言った。
「またこんなことがあっては困りますから！本当に、困った方です！」
「だって、私、もっと自由に色々なところに行きたかったんだもの。車から、美味しそうなお菓子やさんが見えたから、だからちょっと行きたくなって、車を飛び出したの。でも、その後に近くにいた猫、仲良くしようとしたら追いかけられて、帰れなくなっちゃって」
「猫！だから言ったではありませんか！もし、もしも襲われたりしたらどうなさるおつもりですか！またこんな事をしたら、絶対に許しませんからね！」
ピートはそう叫んで、溜息をついた。
「ティナ様、そんなにお菓子屋さんに、行きたかったのですか？」
言葉の間を縫って、シルフェがティナに尋ねた。
「うん。家ではお菓子をいっぱい用意してくれるけど、どこにも行っちゃいけないの。お友達と遊ぶ時も、必ずお供がいて、買物にも行っちゃいけないし、それに、何をするにも必ず召使がいて。私、１人になりたかったの。一人で、自由に歩き回れたらいいなあ、ってずっと思ってた」
「ティナ様！」
ピートが、困り果てたような顔を見せた。
「俺が口を出す事ではないのだろうが、ピート。彼女もかなり疲れているのではないだろうか」
静かな、落ち着いた口調でジェイドックが言葉を返した。
「あたしもそう思うわねー。だって、そんながんじがらめに、好きな事出来ないなんて、遊びたい盛りの女の子にはちょっと辛いと思うわよ。自由に食べて、寝て、遊んで。それって、大切な事だと思うのよね」
箒から降りてきて、レナもジェイドックに続けた。
「自由にしたいという気持ちが、爆発したのだろうな、今回の件は」
「そうですか。そんなに、お疲れだったのですね」
溜息交じりの声で、ピートが答えた。
「お年頃の子ですもの、仕方の無い事ですわ。だけれど、無事でよかったですわね？」
そう言って笑顔を見せたシルフェに、ピートは優しく頷いた。
「はい、あなた方のおかげです。本当に有難うございました。私は、少々お嬢様に厳しくしすぎたのかもしれません。ご主人様に、もう少しお嬢様を自由にして欲しいと、頼んでみるつもりです」
「本当？わーい、嬉しい！ピート有難う！」
ティナは嬉しそうな笑顔を見せ、ジェイドック、レナ、シルフェにも礼の言葉を言った。
ピートとティナを見送ったレナとジェイドックは、レナの店へと戻り元の身長へと戻った。
しかし、シルフェだけは小さいままの姿で、ピートに頼んで一緒に車へ乗り、２人が行く予定だった図書館へとやってきた。
その図書館はラットサイズの図書館で、人間用の図書館の中の壁の中に作られていた。壁の穴から、ラット用の図書館にやってきたシルフェは、ラット達の図書館の本を十分に堪能したあと、レナの店へ行き元のサイズに戻ったという。
小さなラットの世界は、人間達が知らない小さな世界で、今日もせわしくなく活動しているのである。（終）
◆登場人物◇
【2948／ジェイドック・ハーヴェイ／男性／25／賞金稼ぎ】
【3428／レナ・スウォンプ／女性／20／術士】
【2994／シルフェ／女性／17／水操師】
◆ライター通信◇
ジェイドック様
いつも参加有難うございます。ＷＲの朝霧です。
今回はラットが主役の物語でしたが、小さくなっても勇ましくかっこいいジェイドックさんを描くことが出来たかな、と思っております。武器が使えない、という設定のシナリオでしたので、戦うシーンはなかったのですが、それはそれで面白いかな、とも感じました。
それでは、今回は有難うございました！
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