<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『ルノとリノの珍獣探し』

○オープニング

 ほぼ住まいと化している霧の図書館で、珍獣図鑑を見つけた双子の子悪魔・ルノとリノは、本物の珍獣見たさに図書館を飛び出した。実力の有る冒険者と一緒に行けば、自分達も珍獣を見つける事が出来るはず。
 イタズラ好きのちびっ子子悪魔達は、果たして珍獣を見つけることが出来るのだろうか?



 もうすぐ夏になるというのに、その地を囲む切り立った山々の山頂付近には、いまだ白い雪が積もっている。
 聖都からはるか彼方、人家もまばらであるこの地には、英雄が怪物を倒した時、その怪物の切り口から流れる血液から生まれたという不思議な生物がまれに、この近くにある清らかな泉の水を飲みに来るのだという。
 飛猿(ひえん)は、この付近を根城にしていた小規模の盗賊のアジトを1つ、潰して来た所であった。
 盗賊は民家から奪った食料や金目のものを溜め込んでいたが、飛猿にはそれらの財宝はそれほど興味はなく、あくまでも自分の実力をキープし、高める為にやっている事であった。
 その盗賊は5人程度のグループであったが、それでも無力なこのあたりに住む住人達は恐れており、近くにある村はたびたび盗賊の被害に合っていた。
 異界の戦術を使い飛猿は、盗賊のアジトのあちこちにあらかじめ罠を仕掛け、目くらましをして相手を気絶させ、またさらにその魔力の篭った演奏で盗賊達の精神を操り、それ程苦労する事なく盗賊団を壊滅させる事が出来たのであった。
 飛猿が木陰で休んでいると、後ろの方から2つの足音と声が近付いてきた。
「だから、ルノがあの変な鳥を見に行きたいって言うから、皆と逸れちゃったんじゃない!」
「オイラのせいにするなよー!リノがトロトロしているのがいけないんだろー!」
 どう聞いても、子供の声であった。飛猿は木の陰からそっと後ろを覗く。
 蝙蝠の様な悪魔の翼と、尖った悪魔の尻尾。飛猿はぎくりとして顔を引っ込めた。今自分が見たのは、どう見ても子供だが悪魔の類には間違いない。
 急に、飛猿の頭の中で過去の出来事がフラッシュバックした。いつぞやのバレンタインで大暴れした青い悪魔娘の姿が、飛猿の頭の中でケラケラと笑っている。
 こちらへ近付いてくる子供達はあの娘と同類なのだろうか。年齢はおそらく、7つか8つ位だろうが、おかしな術を使うかもしれない。そして、あの子供らはその術を飛猿に向かって放ち、飛猿は術にかかってこの平原の真ん中で裸にされ、踊りを躍らせるかもしれない。
 飛猿の頭の中で過去の傷が広がっていった。飛猿はあの子供らを警戒していた。もう2度と、あんな思いはしたくない。
 飛猿は木の上に飛び上がると姿を隠した。あの子供達が何者なのかはわからないが、幼くても子悪魔である。何か企んでいるかもしれない。
「ルノのせいだからねっ!珍獣を見たいなんていうから!おかげで、迷子になったじゃない!」
「リノだって乗り気だっただろー!悪い事ばっかり、オイラのせいにすんなよ!」「おばかルノ!」
「ナンだと、このオニババリノ!」
 顔のそっくりな男の子と女の子の子悪魔は、飛猿のいる木の下で互いをつねったり、ぶったりの喧嘩を始めた。とても、ずる賢い悪魔とは思えない。悪魔の姿をしているが、やはり子供なのだろう。
 飛猿はしばらく様子を見ていたが、双子と思われるその二人がいお互いをつねりあうのをやめないので、音もなく木の下に降りて、子供達の前に姿を現す事にした。
「いい加減にやめないか、何をそんなに喧嘩をしているんだ」
「おっちゃん誰だ?」
「おっ‥‥ちゃんだと」
 いきなり男の子の方が生意気な口を聞いたので、飛猿は出てきたのを即後悔した。「こらルノ、そんな事言うなんて失礼よ。せめて、おにーさんと呼びなさいよ」
 女の子の方もその訂正の仕方も失礼だぞ、と思ったが、相手は子供。大人である飛猿は、ここは我慢をする事にした。
「オイラ達、ここに珍獣を探しに来たんだ。知ってるか、おっちゃ‥‥おにーちゃん。このあたりな、翼の生えた馬が住んでいるんだぜ?」
「翼の生えた馬?それはペガサスの事か?」
 怪物の首から滴る血から生まれたという、気高い生物ペガサス。どこかに生息しているという話は聞いたことがあるが、それがこの地である事は、飛猿も初耳だった。
「アタシ達、白山羊亭のルディアさんにお願いして、戦士さんと一緒にここへ来たんだけど、途中で逸れて迷子になっちゃったの。帰り道もわからなくなっちゃって。この、弟のルノが余所見をしてたから!」
「だから、オイラのせいにすんなよ!」
 と言って2人がまたつかみ合いそうになったので、飛猿は2人の間に入り喧嘩しそうになるのを止めた。
「まあまあ、もうこうなってはしょうがない。どうにか、帰る方法を探すしかないな」
「じゃーさ、おにーちゃんがオイラ達と一緒に来てくれよ」
「え、俺が?」
 唐突に男の子が飛猿に提案をする。
「せっかくここまで来たんだ、羽ウマを見てからじゃないと帰れないよ、勿体無いだろう?」
 男の子は飛猿を見つめてにやにやと笑っていた。
「おにーちゃん、どうせ暇だろ?木の上で昼寝してたんだしな!」
「いや、別に俺は木の上で昼寝をしていたわけでは」
「オイラ、ルノってんだ。子悪魔だ。好きな季節はハロウィン。よろしくなー」
 ルノがペラペラと勝手に話を進めていく。
 どうして自分は、このおしゃべりな子悪魔達の世話をしなければならないのだろう。相手が子供とはいえ、飛猿はそこまでお人よしではない。
「アタシはリノ。このルノの姉なのよ。好きな食べ物は甘いお菓子よー」
 リノまで、もう勝手に飛猿を保護者に仕立て上げている。飛猿は子供達が自分を見上げているのを見て、小さく息をついた。
「俺はそんなに暇じゃない。やらなくてはいけない事があるんだ。子供の遊びに付き合っている時間はないぞ」
「えーっ!なら、何で木の上で昼寝なんかしてんだよっ!」
 だから昼寝をしていたわけじゃない、と言おうとしたが、ルノの頭には飛猿が昼寝をしていた事決定になっているようであったので、飛猿は何も答えなかった。
「おにーさん、アタシ達本当に困っているの。帰り道もわからないし、このままだとここに取り残されてこのまま‥‥そうなる前に、早くおうちへ帰らなきゃ」
 リノがうるんだ目で飛猿を見つめた。ああ、子悪魔というのは誰もがこんな調子なのか。飛猿はうるうる顔のリノを見て、再び青い悪魔娘を思い出した。
「じゃーさー、ちゃんと帰ったら、おにーちゃんの仕事を、オイラ達が手伝うってことでどうだ?」
「手伝う?お前達が?」
「こう見えても、オイラ達子悪魔なんだぜ?魔法はそれなりに得意なんだ。ま、超強い怪物退治とか、どこかのおエライさんのボディーガードとか、そういう難しい事は出来ないけどさ」
 ルノが真面目な表情をして答えた。その表情から、彼がウソをついているとは思えなかったが、何せ子供の言う事だ。あまり期待せず半信半疑位にしておいた方がいいだろう。
「アタシもおにーさんを手伝うよ。そうね、魔法のお菓子なんてどう?アタシ、魔法のお菓子は得意よ。例えば、気になる女の子が食べると、たちまちのうちにおにーさんを好きになっちゃう、魔法のチョコレートとか!」
「い、いや、そういうチョコはいらない」
 飛猿はあの騒動を思い出し、そこだけは強烈に拒否をした。
「わかった、あまり期待はしてないが、ペガサスを見たら満足するんだな?」
 飛猿がそう尋ねると、二人は同時に頷いた。
「やっぱな!さすが、この平原で堂々と昼寝をする度胸のいいにーちゃんだぜ!」
 飛猿はもう、反論をする気も起きなかった。半ば強引に、双子に手伝わされるハメになったが、怪物の血から生まれたとされる伝説の生き物なら、一見の価値はあるかもしれない。そう考えた飛猿は、この双子に付き合う事にした。
「おにーちゃん、名前なんてんだ?」
「俺は飛猿だ」
「飛猿さんね。よろしくね!」



 3人は、ペガサスが来ると言う泉を目指して歩いていた。双子を先頭に、飛猿がその後ろをついて歩く。 
 傍目から見ると、ピクニックに来た子供と、その保護者、といった感じに見えるだろうか。
「ところで、ルノ、リノ」
 飛猿が、双子の背中にある悪魔の羽と、ゆらゆらと動く尻尾を見つめて問いかけた。
「お前達の同族で、もっと年上の青い髪の毛の悪魔娘を知らないか?」
「青いの?」
 ルノが振り返り、首をかしげる。
「ソーンにも、色々な悪魔達がいるからな。オイラ、青い悪魔は知らない。図書館の美霧ばーちゃんなら、知ってるかもしれないけど」
「美霧?」
 「アタシ達がお世話になっている図書館の主なの。何でも知ってるのよ」
 リノが振り向き、飛猿に答える。
「何でも知ってるのか。そうか」
 さらに進むと、目の前に小さな林が見えてきた。その林の中央に、太陽の光を受けて輝く泉があった。まるで、ガラスの様に透き通った泉で、泉の底が見えている。
 虹色に輝く魚が水の中を泳いでおり、こんなに美しい泉は、なかなかないだろうと飛猿は思った。
「綺麗ねえ!ここに、ペガサスが来るのね」
 と言って、リノはあたりを見回したが、羽の生えた馬の気配はまったくなかった。
「バカだなあ、リノは。誘い出さなきゃ来るわけないだろー」
 ルノはふふんと鼻で笑うと、懐からニンジンを出し、それを近くの岩の上に置いた。
「頭を使わなきゃな!」
「そういう食べ物につられてくるのか、ペガサスは」
 色々と突っ込みをしなければいけないと飛猿は思ったが、かといって自分もペガサスを誘い出す方法がよくわからないので、とりあえず双子の行動を黙ってみることにした。
「よし、あそこの岩陰に隠れてようぜ」
 ルノが指差した方向に視線を向けると、大人が数人は身を隠せそうな岩があった。
 飛猿は忍者であるから、わざわざ岩陰に隠れなくても身を隠す方法は知っていたが、ここはあえて双子に付き合うことにした。
 岩陰に身を隠し、最初の数十分は双子もかわるがわる岩陰から頭を出していたが、なかなかペガサスが姿を現さなかった為に、そのうち飽きてしまい、岩に寄りかかって眠そうな顔をし始めた。
「なかなか来ないわね」
 すでに地面にねっころがっているルノに、リノがあくびをしながら答えた。
「そりゃあ伝説の生物だ。そうやすやすと会えるもんでもないだろう?」
 飛猿が2人に言ったが、納得いかないような表情で飛猿を見つめるだけであった。
 そのうち、双子は眠ってしまった。日差しがちょうど当たり、ぽかぽかと春の陽気がこの場を包み込んでいた。飛猿は寝てしまった双子に苦笑しつつも、このまま置き去りにして帰るのもどうかと思い、仕方がなく澄み切った青空を見上げていた。
「ん?」
 飛猿は、その濁りの一点もない青空を、真っ白な、気高さすら感じる白い翼を持つ馬が横切っているのが視界に入った。
 飛猿は起き上がり、その馬が飛んでいく方向を見つめたが、馬は空を滑るように飛び去り、あっという間にどこかへ消えてしまった。
「まさか、本当に見られるとはな」
 あれは確かに、ペガサスであった。怪物の血から生まれたとは思えないほど、真っ白でどこか高貴なものさえ感じる。
 飛猿は再度座り込み、双子に視線を移した。春の陽気に包まれて、気持ち良さそうに眠っている。あの瞬間を見られなかったのは残念だ。せめて、夢の中だけでも、ペガサスに会えればいいのだが。



「結局、いなかったなー」
「残念だわ。一瞬でも、見られればいいのに」
 さすがに夜になってしまった為、ペガサス探しは諦めていた。飛猿は今回は1人でこの場所にやってきたので、帰りは一番最寄の村まで歩き、そこで馬車を借りて双子と一緒に聖都へと帰ることにした。
 飛猿は、子供達がとても羨ましがるだろうと思いながらも、ペガサスを見たことは秘密にしておいた。見たとはいえほんの一瞬だし、おそらくはこの子供達のことだ、きっと見たと言えば何かとうるさいに違いない。
 馬車に揺られながら、残念そうにしているルノとリノの顔を見た。自分の手伝いをする、と言っていたが、その約束はどこまで期待していいのやら。
「飛猿さん、アタシ達いつでも手伝いに行くからね」
 その表情を読みとったのかそれとも偶然か、リノが答えた。
「ああ、そうだな。待っている」
「飛猿おにーちゃんへの報酬がまだだからな!ま、オイラ達よく聖都にもいるし、霧の図書館っていう場所にもいるからさ。霧の図書館はここだ、地図をやるよ」
 ルノは、霧の図書館という場所がかかれた一枚の地図を、飛猿の手に置いた。飛猿があまり行かない森の中にあるらしく、そこはいつでも霧に包まれているのだという。
「飛猿おにーちゃん、またオイラ達の手伝いしてくれよ!」
「アタシも待っているわ。またどっか行こうね」
 元気に自分に笑いかける双子の子悪魔に、まったくどっちが報酬を支払うんだか、と飛猿は苦笑するのであった。(終)



◆登場人物◇

【3689/飛猿/男性/27/異界職】

◆ライター通信◇

 飛猿様

 参加有難うございます、WRの朝霧です。

 今回はかなりお任せ頂いた部分があったので、伝説の生き物ペガサスが登場、という内容にしてみました。全体的には、コミカルな部分も取り入れつつ、かなりライトな内容になったかな、と思います。
 最後に、双子が飛猿さんにお手伝いの約束をする、というところで一度物語を終了しました。双子は飛猿さんをかなり信用しておりますので、これからも機会があれば交流で出来るといいな、と思っております。

 それでは、どうも有り難うございました!