<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


【人形師が夢を語る頃】シザー/ネメシア

□Opening

 聖獣界の片隅で、一人の人形師が亡くなりました。
 彼が残した物は、三体の人形と遺言書。
 遺言書には、こうあります。

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 私は世界の滅びを見てみたい。人々が恐れおののく瞬間を感じたい。
 私はこの黒い欲望を抑える事に疲れてしまった。
 だから魂を込めて人形を作った。

 頑丈なストンは私の瞳を原動力にするだろう。
 鋭いシザーは私の髪を原動力にするだろう。
 身軽なペパーは私の血液を原動力にするだろう。

 ああ、私の人形達よ舞い踊れ。最早ここに枷は無い。
 ああ、私の人形達よ世界を滅びに導くが良い。
 その時私は蘇る。
 そして私は世界の滅びを見るのだ。
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 人形師の遺体には瞳がありません。髪は無造作に切り取られていました。奇妙な事に外傷はあれど血痕は一切見つかりません。


 人形師の人形が実際に現われ人を殺したという噂が広まった。しかし、そこには以前のように娯楽混じりの楽しげな印象はない。次はどこに人形が現われるのか。もしや自分が犠牲者になるかも。
 人々は怯え、少ない情報に戦々恐々としていた。
 そんな折、白山羊亭に一人の老人が訪ねてきた。
 老人はネメシアと名乗った。人形師の噂が書かれたビラを握り締めている。
「ワシはカラクリの里と呼ばれる里の生き残り。カラクリの里では、皆が様々なカラクリを生み出し生きていた。機械道具や……機械仕掛けの人形をな。……けれど、機械に夢中になりすぎてな。人間としての繁栄を忘れてしまったんじゃ。そして、カラクリの里は滅びた」
 突然語りだしたネメシア。その話に、ルディアは我慢強く耳を傾ける。
「そう。滅びたと思っていたんじゃが。これじゃ。この人形師の人形。これは、もしかしたらあの里の生き残りの仕業かもしれん」
「何故そう思うの? 人形を作る人なんて、きっといっぱいいると思うよ」
「実は、噂が気になってな。ワシは髪を狙う人形……シザーと言ったか。その居場所を突き止めた。もし同郷の者の人形なら、ワシのカラクリで見つけることができると思ったんじゃ。部品を強化する魔法が特徴的でな。カラクリの里で生み出した独自の式も山ほどある」
「人形を見つけたの?」
「そうじゃ。見つけたんじゃ。恐ろしい程の素晴らしい人形じゃった。ワシでは多分アレは壊せん。速さ、頑丈さ、スタミナ。全てが常人のはるか上を行く。じゃが外見は人間と変わりない。アレが起こした事件は、犯人不明のまま放置されておるのじゃ」
「つまり……普通の殺人事件ってことになってるの?」
「そうじゃ。ナイフや刀剣のような物で切り殺されている。髪が切り取られているのも、被害者を切りつけた際偶然切れてしまったと、思われておる。じゃが実際は、髪を切るために殺して、髪はその場で原動力にすると言う仕組みじゃ」
「それは、確かなの?」
「おそらくは。ワシならあの人形の居場所を特定できる。じゃが、ワシではアレを止められない。アレを壊してもらえんじゃろうか。アレはすでに幾人も手にかけてしまっている」
 ルディアはすぐに冒険者達に声をかけた。


 くれぐれもご注意を。
 鋭いシザーの原動力は毛髪です。彼はただ鋭い刃で斬りつけるだけではありません。
 どうか毛髪にお気をつけ下さい。


□01
 白山羊亭に集まったのはアレスディア・ヴォルフリート、ジェイドック・ハーヴェイ、千獣の三名だった。
「ふむ……髪を狙ってくる、か……であるなら、下ろしたままの髪では都合が悪いな」
 アレスディアはちらりと自身の長い髪を見る。
「なびかぬよう、髪留めで束ねてしまうか」
「あ、それ良いねー」
 なびかないようにしてしまえば、少しは狙いにくくなるはず。その考えに、ルディアもぐっと親指を上げた。アレスディアは、頷きながら器用に髪をまとめていく。
 隣で、千獣も自分の髪を持ったりしながら、ルディアに協力を頼んだ。千獣の髪もとても長いのだ。
「……私、も……髪、まとめ、たい……」
「お、手伝おっか?」
 ルディアは千獣の言わんとすることをしっかりと汲み取り、さっそく千獣の髪を梳きはじめる。簡単に編んで、まとめ上げたら良いだろうか。
 大人しくルディアに髪を預け、千獣は椅子に座った。
(……シザー……人、殺して……髪、奪う……)
 それは、あのストン――村を一つ、もしくはそれ以上を滅ぼした人形師のゴーレムと同じ。人形師の欲望……つまり、世界を滅ぼすために、人を殺して髪を奪う。人形師は何故そんなことをしたがるのだろうか。
(人間は、よく、わからない……けど……)
 大事な人がいる、この世界を滅ぼさせはしない。
「はい、できたよ! どうかな」
 髪をまとめ終わったルディアが明るい声を上げる。
「う、ん……。あり、が、と」
 そこで、千獣の思考は中断した。誰にも怒りを見せる事無く、静かに、思考を中断した。
 さて。
 二人の準備を傍観していたジェイドックがぼそりと呟いた。
「……髪……といっても、俺の場合は、どうなんだ……?」
「え……」
 そう言えば……。野生の虎そのものの顔。獣の頭や尾を持つビースターであるジェイドックに……、女性二人のような髪はない。ルディアはそのことを失念していたのか、はっと顔を上げて絶句する。
「それはまぁ……バリカンでなら刈れるだろうが……」
「バ、バリカン?!」
 それがジェイドックの体毛についての言葉だということに気がつき、ルディアはひたすら首を横に振った。
 だめだ、だめ。だめだめ。人間が丸坊主にするのとはわけが違う。もし、ジェイドックが体毛を剃ったら、それはもう、色々大変なことになってしまいそうだっだ。
「さすがにそれは、ないだろうしな……」
「ないない。ないからね」
 ジェイドック自身の口から否定の言葉が出て、ルディアはほっと安堵した。
「まぁ、逆を言えば俺は狙われにくいのかもしれん」
「そ、そうだよね。きっとそうだよ。そのままで良いと思うよ」

□02
「それでは、行こうか」
 準備を終えた三人に、老人ネメシアが声を掛けた。
 最初に、アレスディアがすっと一歩前に出る。
「ご老人、あなたはシザーの居場所を突き止めたという」
「そ、そうじゃが……」
 アレスディアの堂々とした物腰に、ネメシアは知らず後退った。
「そのカラクリとやらは貸し出しを願えぬだろうか?」
「え?」
「シザーの能力が人を大きく上回るのなら、ご老人を護れるかわからぬ。安全な場所で待っていて欲しい」
 どうだろうか、と。あくまで冷静に、アレスディアはネメシアに申し出る。
「…………」
 老人は、言葉をなくした。アレスディアの言葉をじっくりと吟味するように、目を閉じる。そのままの状態で、何度か呼吸を繰り返した。
「いや、失礼。まさか、ワシを置いていくと、言われるとは思わなかったんじゃ」
 はははと、ネメシアが笑う。
 一瞬動揺したが、すぐに感情を立て直した。それは、成熟した老人ならではの感情コントロールだ。出来上がったかわいいお団子頭を確かめながら、千獣は思う。
「カラクリを壊したいと言っても、爺さん自身は戦えないだろう? シザーを見分けるカラクリを俺達に貸して、爺さんはここで待っていてくれないか?」
 ジェイドックも同様に、ネメシアに進言した。
 何故、カラクリを壊したいのだろう? 里の生き残りだとして、里が生み出した技術が外の世界で非道を行うことに責任を感じているからなのか。それとも、何か他に意図があるのか。老人の様子から、それを読み取る事はできない。よく分からない以上、現場へ近づけさせたくなかった。
「ふむ……」
 討伐に名乗りを上げた三人のうち、二人からそう言われ、ネメシアは両手を挙げた。
「それを言われると、何も言えん。確かに、ワシでは戦力にならない」
「では」
「うむ。お主達に、これを預けよう」
 そう言って、老人は懐からガラス玉のような物を取り出す。
 手のひらで転がせるような、小さな玉だった。それにワイヤー細工を絡めて固定しているようだ。ワイヤーから伸びた紐を持つと、綺麗なストラップに見える。
 ネメシアは、アレスディアにそれを差し出した。
「昼間は、人込みに紛れているはずじゃ。出店が並ぶ路地があるじゃろ。その辺りをいつも徘徊しておる。おそらく、昼間獲物を物色しておるのじゃろう。ワシが何度近づいても、襲ってこなかったよ」
「では、これを預からせていただく」
 アレスディアは、慎重に差し出されたストラップを受け取った。
「爺さん……ネメシアといったか。確か花の名前だったと、思ってな……。これは、どうやって使うんだ?」
 ネメシアがカラクリの貸し出しを簡単に承諾した。意外に思ったし、肩透かしを食らったように感じる。それでも、ジェイドックはそんな事をおくびにも出さず、ストラップを眺めた。
「ははは。よく知っておるな。そうじゃ、ネメシアとは花の名前じゃ。ちなみに、響きが格好良いから、そのように名乗っておる。本当の名前は、忘れてしまったよ」
「…………」
 はははと、もう一度、老人はおかしそうに笑った。ネメシアの態度は柔らかかったが、どこか違っていた。すでに何人も手に掛けた人形を壊してくれと焦る姿。その人形を冷静に分析している冷静さ。滅びてしまったというカラクリの里。全ての老人からの情報を素直に受け止める、という気持にはなれない。何か、違和感があるのだ。
 それは、黙って状況を見ている千獣も感じていた。さりげなく、ネメシアの様子を観察している。
「これを下げて歩くと良い。そうじゃな、服装のどこか……、アクセサリとして使えば不自然じゃなかろう。それで、女性に手渡したというわけじゃよ。シザーが近づけば、ガラスが光る。お互い使用している技術……術式が生み出すエネルギーに反応するのじゃ」
 じっとストラップのガラス玉を見てみる。今は光っていない。
「他の……もし、の話だが、他のカラクリに反応する可能性はないだろうか?」
「ワシがあの辺りを歩いた時にはなかった。もとより、カラクリの里の技術を使ったカラクリなど、ほとんどこの世に残っておらんのじゃ。いや、世に出ていない、と言うほうがしっくりくる。ワシらは里の中だけでカラクリを作り満足しておった。外の世界に、興味がなかったんじゃ」

□03
 老人の話を聞き、アレスディアは腰にストラップを下げた。
 シザーを見つける事ができるかどうか。ひとまず、ネメシアを信じるしかないだろう。
「それと……ご老人。一応、聞かせていただけぬか?」
「ぬ?」
「あなたがカラクリを壊したいわけを」
 アレスディアは、まっすぐネメシアを見た。
「おかしな質問じゃな。これ以上人形による被害が出ないよう聖都を守る、という思いは不自然かの?」
 老人は笑う。
 それでも、アレスディアは、呟くように言葉を続けた。
「作られた人形が悪いわけではないと思う。だが、シザーは人を殺した。ストンも然り。人の命を脅かすために作られたものを、素晴らしいなどと評する、それが少し、怖い」
「…………」
 すっと、老人の顔から笑顔が引く。
 感情の起伏を上手くコントロールしていたように見えたネメシアが、今度は笑顔を取繕わなかった。
「そうか。そうじゃな。ワシ達は、カラクリの里は、それで失敗したのじゃ。人を殺す人形も、人を助ける機械も、目的もなく動くカラクリも、全て同じに見えてしまう。つまり、使われている技術の優劣で、全てを判断してしまうのじゃ。人の意志を、思いを、計算に入れない。そうして、あの里は、他人を思いやる事を忘れ滅んだ」
 ネメシアは遠くを見つめているようだった。
「ワシも、同じじゃ。お嬢さんの言う通り、あの人形は人を脅かす。けれど、ワシは、あの技術を素晴らしいと思うてしまう」
 一旦言葉を切って、ネメシアは一同の顔を順に眺める。
「そこから、ワシらは、他人の感情と少しずつずれる。すでに、人間として間違った位置に立っているのやもしれんな。結局、ワシは件の人形師と同じ穴の狢」
「それは……」
 どこか寂しげな表情に、アレスディアがなにか言葉を探した。けれど、適当な言葉が見つからない。
「何故、あの人形を壊したいのかと言ったかの。ワシは、嫌なのじゃ。いや、里の技術が非道なことに使われているのが、ではない。一つ間違えば、ワシが件の人形師になっていたかもしれぬ。それが……たまらなく、嫌なのじゃ」
 だから、どうか、あの人形を壊して欲しい。
 それは、聖都を守りたいと語った時よりも余程しっくりとくる理由だった。

□04
 シザーはすぐに見つかった。
 ネメシアの言葉通り、普通に女性の服を着てつばの広い帽子を被り、普通に出店の通りを闊歩していた。すれ違った瞬間、アレスディアの腰につけたストラップが輝いたのだ。
 光はすぐに消えた。
 けれど、その光をシザーも見ていた。
 シザーは音も無く町の外へ走り出す。三人は黙って、人形の後を追った。出店を見ていた客も、路地を歩いていた人も、全て置き去り。風を縫うように、シザーは駆ける。気を抜くと、見失ってしまいそう。
 そして、広い草原に出た。
 視野が開けたと感じた瞬間、くるりとシザーが向きを変え腕を振り上げる。
 きりきりと、ネジを巻く音が響く。
 一番近くにいた千獣は、人形と目があったような気がした。けれど、シザーの瞳は光を反射するだけのガラス玉。もしかしたらそこで動きを感知しているのかもしれないが、少なくとも何の感情も読み取れなかった。千獣は、シザーが自分へ向かっていることを悟り、足に力を込める。前に進んでいた身体をよじって、地面を蹴る力と合わせた。
 無理矢理進む方向を変更し、シザーの初撃をかわす。
 シザーの腕がからぶった。そのまま勢いを殺しきれずに、シザーは地面へ激突した。
 砂埃が巻きあがる。
 ざざっと、胴体と地面がこすれ合う音が続いた。
 きりきりと、ネジを巻く音が響く。
 シザーがすっと立ち上がった。着ていた服はボロボロに破けている。帽子は既にどこかへ飛んでしまっていた。目も鼻も、口もある。ただ、その表情が変わらない。気を付けて見ないと、人形とは分からないだろう。けれど、じっくり見ると、やはり生きていないことがよく分かる。むき出しになった胴体は、陶器を思わせる無機質なモノだ。丁度、人間の心臓がある部分だけ透明になっていて、光る液体と、その中へと繋がっているパイプがちらりと見える。あれが、核のようだ。
 シザーは、何事もなかったように千獣を見た。既にかなり距離を取っている。
 同じように、アレスディアもシザーからある程度の距離を取った。
 アレスディアは鎧装をまとっている。聞いていた通り、シザーの速さは常人以上だ。ならば、追い掛け回すのは不利。しっかりと防御を固め、相手の攻撃にカウンターを入れるつもりだ。
 ジェイドックも同様に、じっくりと相手を見ていた。素早いシザーに銃を乱発するのは避ける。最悪、相手の攻撃を若干受けてでも、確実に当たるところまで引き寄せるのが良いだろう。
 きりきりと、ネジを巻く音が響く。
 シザーの両腕から鎌のような刃が伸びた。それが、髪を刈る道具なのだろう。ぐいと、シザーが屈む。勢い良く走り出す姿勢だ。
 予想通り、シザーの体が跳ねる。
 そのまま、真っ直ぐ千獣に向かってきた。
 千獣は鎌を意識しながら、シザーの動きにあわせてステップを踏む。横から、上から、デタラメに鎌が舞う。女性のような躯体は、人間らしからぬ動きで次々と攻撃を仕掛けてきた。人間の手首は、そんな風に回らない。人間の腕は、360度もひねらない。人間の肘はその方向へ折れない。
 シザーの攻撃を受けながら、千獣はその動きを見ていた。
 やはり、作られた人形なのだ。
 エネルギーが途絶えない限り動き続ける。忠実に命令を実行し続ける人形。
「こっちだ!」
 その時、アレスディアの声が聞こえた。アレスディアの待機する近くまで来ていたのだ。
 千獣は自分とアレスディアの位置を確認し、人形を誘い込む。
「……飛ぶ、よ」
 シザーが腕を振り上げる瞬間、力いっぱい地面を蹴る。人形に髪を見せないよう、身体を後方上空へ飛ばした。シザーが目標を失いよろめく。
 千獣が飛んだ場所のすぐ後ろに、アレスディアが長剣を構えていた。
 シザーはアレスディアを新たな攻撃対象と判断し腕を構える。
 その一瞬に、アレスディアの長剣が人形をなぎ払った。
 人形が真横に吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされた先には、ジェイドックが待っていた。
 シザーは飛ばされながらも、地面に鎌を突き刺して体勢を立て直す。片方の腕の鎌を地面に突き刺したまま、シザーはジェイドックを蹴り上げた。
 ジェイドックは腕で顔をかばいながら絶妙のタイミングで身体を引く。かろうじて直撃を逃れた。銃は構えたままの位置にある。ジェイドックは迷わず引き金を引いた。
 パンと聞きなれた音が響く。
 シザーは地面に突き刺していた鎌を引き抜いて、跳躍した。
 アレスディアがなぎ払った箇所は小さく凹み、ジェイドックの銃痕はヒビとなり残っている。攻撃が効かないわけではないのだが、やはり作られた身体は頑丈だ。
 その時、千獣が広い場所に飛び出した。
 シザーが再び千獣を見る。
 それを意識して、千獣はゆっくり走り。
 ……。
 …………。
 ……………………。
 こてんと、石につまずいてこけた。
 よろよろと身体を起こそうとする千獣に、一瞬でシザーが走り寄る。
 すぐ目と鼻の先までシザーの鎌が迫っている。
 距離を計っていた千獣は、落ち着いてスライジングエアを飛ばした。スライジングエアの鎖がシザーに絡みつく。
 シザーはすぐに鎖から逃れようと身体を振り回した。
 それを、力で押さえ込む。
 鎖が這うようにシザーの身体にまとわりついていく。
「撃っ、て……!」
 千獣が声を張り上げた。
 ジェイドックが狙いを定める。思うように動け無くなったシザーの身体に狙いを定める。
 先ほどヒビの入った部分、同じ箇所に数発叩きこんだ。
 ばりばりと、ガラスにヒビの入る音。
 シザーのひび割れた胸の部分からどろどろと液体が零れ落ちた。
 その様子を見ていたアレスディアが、はっと目を見張る。
「危ない、離れろっ!」
 その言葉が合図になったかのよう。
 千獣が飛び退くのと、シザーの胸が青白い光を放ったのはほぼ同時だった。
 そして、青白い光はあふれだし、天に昇って行く。
 一筋、天に繋がる青い光は、ストンの時と同様すぐにかき消えた。

□Intermission
 白山羊亭では、ネメシアがすっかり旅支度を整えていた。
「あのカラクリは、置いて行こう」
 シザーを見つけたカラクリを、ルディアに譲り渡すというのだ。
「次の人形は、それで探す必要がないかもしれん。しかし、可能性に備えることは必要じゃろ?」
「うん。それはいいけど……。あなたはこれからどうするの?」
 ルディアは今すぐにでも旅立とうとする老人に訊ねた。
「ふむ。この、人形師の遺言が気になるのじゃ。世界の終わりを見てみたい、そう願うわりに、人形がたいしたことないと思わんか?」
「うーん。十分酷いと思うけど……」
 ルディアは頬を引きつらせて、首を傾げた。
 けれど、ネメシアの言うことも確かに一理ある気がする。
 世界の終わりを願う人形にしては、規模が小さいような……。少なくとも、聖都の人々を皆殺しにするような人形ではない。勿論、討伐した冒険者の腕が良いのが一番の理由だが、世界を滅ぼすのならもっと違う方法もあったのではないだろうか。
「ワシの杞憂ならばそれで良い。じゃが、やはり気になるのじゃ。ワシは一度里に戻ろうと思う」
「カラクリの?」
「そうじゃ。どこもかしこも風化してしまっているのじゃろうけれど、何か分かるやもしれん」
「一人で大丈夫?」
 ルディアは心配そうにネメシアを見つめた。
 もし万が一、滅びた里に何かがあるとしたら、老人一人で調べる事ができるだろうか。
 いや、それ以上に、人形はもう一体残っているはずだ。その人形が、いつ襲ってくるのか。
 シザーの件が片付いたとしても、懸念材料はいくつもあった。
<To be continued>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2919 / アレスディア・ヴォルフリート / 女 / 18 / ルーンアームナイト】
【2948 / ジェイドック・ハーヴェイ / 男 / 25 / 賞金稼ぎ】
【3087 / 千獣 / 女 / 17 / 異界職】

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■         ライター通信          
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 この度は、依頼へのご参加有難うございました。人形の討伐お疲れ様でした。まさか、老人を置いて行く提案があるとは! 驚かされました。しかし、それで良かったのだろうと、思いました。シリーズシナリオですので、そのうち次のシナリオも公開予定です。そちらもどうぞよろしくお願いします。

■アレスディア・ヴォルフリート様
 こんにちは。いつもご参加有難うございます。
 老人の考え方へはっきりと疑問をぶつけていただきまして有難うございます。おかげで、すっきりとして討伐へ向かえたと思います。
 それでは、また機会があリましたらよろしくお願いします。