<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
+ これは始まりに過ぎない物語 +
―― ある国で一人の錬金術師が殺された。
犯人はザド・ローエングリン。
練成された魔石を核に生み出された生み出した戦闘用レプリスだ。そのレプリスがなんと生みの親を殺し逃走。「上」の方々は賞金稼ぎ達の力を借りてでもそいつを捕獲したいとの事。状況によっては生存は問わずというおまけ付きだ。
レプリスの外見は十五、六歳程度。だが中身はとんでもない能力を宿した化け物、らしい。事実そのレプリスによって数人負傷している。
配布された絵姿は幼く凶悪犯には見えない。だが掛けられた賞金は成人男性が数年は悠々自適に暮らしていけると考えていい程の金額だ。
「金額も破格な上、最悪の場合は殺害もやむを得ない……か。どれだけ危険な生物なんだか」
肩より少し長めの黒髪を一つ括りにし黒スーツを身に纏った長身の青年――ルド・ヴァーシュは深夜の裏路地を走る。その場所は深夜ゆえか人影はなく静まり返っていた。
そして彼の前には一人のレプリスが時折追跡者である彼の姿を気にするように振り返りながら全速力で駆けていた。とっくに体力の限界が来ているのだろう。それでも止まれば自分がどういう「処理」を受けるのかは理解してるらしく足は止まらない。事実がくがくと膝を震わせながらも逃げ続ける身体がそれを物語っていた。
ルドは懐に収めてある銃に手をかける。一旦爪先で地を擦る様に止まると狂狗銃・マッドドッグチェイサーを素早く取り出し、空を切る音を鳴らしながら体勢を整え今にも転びそうな相手へと「念」を込め銃弾を放った。
―― ダンッ!!
黒い地金に意匠化された炎のデザインが描かれた銃、その口から煙が上がり銃弾は真っ直ぐ放たれる。だが真っ赤に燃えた高熱の銃弾は相手へと撃ち込まれる直前散りとなって消えた。
「炎の『無効化』っ!? ……っ、確かに厄介な相手だな」
銃弾は燃え尽きたのではない。
炎を纏う其れは相手の意思によって掻き消されたのだ。もう一発撃ち込んでも結果は同じ。相手の視線がルドに向けられている事から無意識ではなく意識的に術を使っている事は間違いない。
熱を持つ愛銃で狙いを定めつつレプリスを追い詰める事にした。銃弾を撃ち込みダメージを喰らわせる事は敵わなくても無効化する際どうしても術へと意識を向け、動きが鈍る。
其れを繰り返しているうちに自然二人の距離は縮まり始めた。
やがて路地の行き止まりへと追い詰め壁際へと背を向けルドへと視線を向けるレプリス。息を切らし胸を押さえているのが見える。月明かりに二人照らされれば緊張のために浮いた汗がレプリスの額から顎へと滴り落ち石畳へと落ちていく様が確認出来る様になった。
レプリスは中性的な少年だと聞き、絵姿にもそれらしき面立ちが描かれている。
だが目の前にしてみればまるで幼い少女の様にも見えた。短く切り揃えられた黒髪、瞳の色は月の光を吸っているせいかやけに反射のきつい赤に感じる。服装は白無地の寝間着。垣間見える身体のラインは丸っこく、華奢。靴は履いておらず裸足で薄ら汚れていた。
ルドは右手から左手に銃器を移動させるとスーツの裏側に備えていた短刀を取り出す。
炎を纏う銃弾を無効化する相手には物理的攻撃の方が有効だと考えての事だ。二丁拳銃使いである彼にとって左手で照準を定める事など容易。引き金に掛けた指に力を込め銃弾を放つ。その隙に距離を詰め、彼は短刀を振り上げた。
――だが。
「ふ、え」
首筋に突き刺すための凶器は目の前のレプリスが涙ぐむんだ瞬間、動きが止まった。
「ぅ、……ぇ、え、っふく、ん、んぅ、ぅー、!」
指一つ動かせず視線すらルドから逸らす事が出来ないまま涙を零し始めたレプリス。
瞳には殺される直前多くの者が浮かべる恐怖に満ちた色を確かに宿していた。だがその表情は酷くあどけなく、そして無防備に感じる。まるで幼子のようだ。
その表情に引き摺られるかのように急にルドの中の熱が冷めていく。
今まで狩って来た者達と違い懺悔も乞いもしないレプリスを見て一つの可能性に辿り着いたからだ。
こいつは追われた事が怖くて、ただ反応して反撃してただけじゃないのか、と。
滅法強くて討伐に来た連中を全て返り討ちにしてただけじゃないのか、と。
戦闘用レプリスとしての能力は多大だ。
だがレプリスはその能力を「攻撃」として使用していない。ただ自身に向けられた攻撃を無効化し逃げようと足掻いていただけだった。
その事実に気付いたルドは唇を開いた。
「一つだけ質問するぜ」
レプリスはひく、と肩を竦ませ身体を震わせる。
もし悪意を持って多くの者を傷付け、生みの親を殺した犯罪者ならルドが攻撃の手を緩めた瞬間に反撃し命を奪うだろう。だがその気配など微塵もなかった。
首に添えた短刀を緩慢な動きで下ろし、銃も銃口を空に向けた。
更に言葉は続く。
「お前は『親殺し』か?」
その瞬間ルドは賭けていた。
自分の望む返答以外であれば今度こそ容赦なく命を奪おうと心に決めて。
「っ――、ぅ、ぅうー、! うー!」
そしてレプリスは答え、応えた。
髪がぐしゃぐしゃになるほど首を左右に振り涙を散らし、「否定」するという行為で。
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「……」
「…………」
「あのさ、何で付いて来るんだ」
ルドは自分の後ろを付いてくるレプリス――ザドに呆れた息を吐き出す。だがザドは言葉を気にせずルドを追いかけた。
ザドが全身で否定を示したあの後、ルドは彼が犯人ではないと考え身を引いた。
しかし、ザド討伐を命じた「上」は、意図的にザドを犯人にしたがっていた様子。自分の勝手な判断で殺さずにこの件から撤退するのは自由だ。だがザドは犯人ではないと伝えても「上」がザドの討伐を「願う」ならばその意見に意味は無い。
ルド自身、錬金術師を殺した真犯人が何者か気になるが、この件に関しては自分で選んだ事とは言え「失敗」した身だ。ほとぼりがさめるまで身を隠した方がいいんじゃないかと考え夜の間にこの国を出ることにした。
だがそんなルドを全ての元凶であるザドが追いかけてくる。
それこそまるで親鳥を追いかける雛の様に無邪気に、だ。
「俺もなにやってんだか」
空を見上げれば月が二人を追いかけてくる。
太陽が姿を現すまでずっと、ずっと。
「賞金首が賞金稼ぎの後をついてくるなんて話、聞いたことねえよ」
彼の呟きは風に攫われ散った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ (るど・う゛ぁーしゅ) / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン (ざど・ろーえんぐりん) / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、初めまして。発注有難う御座いました!
今回はルド様、ザド様の出会いをあえて「会話」はせずにこの様に表現させて頂きました。あの時点での警戒心は多分にあると信じて。
討伐からは撤退したルド様、彼についていくザド様。
これからお二人がどうお過ごしになられるか密かにわくわくしつつ失礼致します。
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