<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『月の旋律―希望<情報>―』

 眩しい光に目を細めながら、山本建一はその地に降り立った。
 戦いの爪痕は、至る所に残っている。
 月の騎士団との戦いを終えて数ヶ月――。
 領主、ドール・ガエオールの帰還の知らせを受けて、建一は再びこのテルス島を訪れた。
 やっておかねばならないことも、知っておくべきことも、まだいくつも残されている。
 港から少し歩けば、生い茂る木々が目に入る。人々の声も時折耳に届き、見回せば仕事に励む人の姿が目に映る。
 この平和がつかの間のものではないように、そう願いながら建一は領主の館に向かうのだった。

 捕らえた敵兵のうち、月の騎士団の関係者と判明している生存者は2名であった。
 仲間が捕らえたスリン・ラグサルというハーフエルフの男と、建一が捕らえたシーナ・ラシルカという名の、ザリス・ディルダの側近だ。
 まず建一は、スリンとの面会を求めた。
 建一の実力と功績は領主側も認めているため、面会は問題なく許可された。
 警備兵と共に、建一は薄暗い地下牢へと向かい、檻の中にスリンの姿を見た。
 島に魔法を封じる設備はないのだろう。スリンは猿轡を噛まされ、両手を繋がれている状態だった。
「あの状態でも使える魔法がないとは言えないため、自分はこれ以上先には行けません」
 魔術師ではない警備兵は、檻から少し離れた場所で立ち止まり、建一に鍵を渡す。
「もしもの時は、地下への入り口ごと塞ぐことになります。お気をつけ下さい」
「ありがとうございます。大丈夫です」
 建一は鍵を受け取ると、檻に近付いて鍵を開けて――中へと入った。
 鋭く睨み、唸り声をあげるスリンに近付くと、その頭に手を置いた。激しく体を振るスリンを、もう一方の手で押さえつけながら、魔力を彼に向けて発動し、彼の魔力を抑え込んでいく。
 印を結んで封印術を施すと、建一はスリンの頭から手を離し、後頭部の結び目を解いて、猿轡を外した。
「少し、話を聞かせて下さい。魔法を封印しましたので、これからは多少良い扱いになると思いますよ」
 建一は軽く微笑んだ後、舌打ちをしてベッドに腰かけたスリンの傍に立ち、問いかける。
「まずは、現在の騎士団の構成。事実上壊滅したとの見解が出ているそうですが? あ、嘘を仰られても記憶を探らせてもらえばわかりますので」
「……領主、の娘だったかに話した通りだ。団を指揮する者が、いねぇんなら、騎士団として機能はしてないはず。壊滅も同然だ。他の人員を募るにしろ、団長と信頼関係を築くまでは時間がかかるだろ?」
「その団長自ら率いる可能性は?」
 建一の言葉に、スリンは嘲りのような笑みを見せた後、体をベッドに投げ出した。
「団長達トップは単なる貴族に過ぎねぇ。ただ、団長の傍には騎士団の隊長格すら知らない側近が仕えてるって話しだがな。あとは、団長の娘はかなりの美人でな。騎士団の中でアイドル的存在だ。騎士団員には優しいんだぜ? 団長や彼女の居場所は俺等一般騎士にはいちいち知らされてねぇよ。個人的に面会することも許されない。屋敷の在りかくらいは知ってるけどな」
「一応、その屋敷の位置もお教え願えますか?」
 建一の問いに吐息をつくも、スリンはアセシナートの住所を口にするのだった。最も、アセシナートは簡単に入り込める場所ではないため、それがどのあたりなのかは、建一には分からなかったが。
 メモをとり、その他彼の知っている範囲の構成員の名前、騎士団の情報を聞きだして、建一はその牢獄を出ることにする。

 シーナも、スリンと同じように猿轡をかまされ、両手を縛られていた。
 彼女の魔法も封印し、会話を試みた建一だが。
 こちらは頑として口を開こうとはしなかった。
 憎憎しげに建一を睨むだけで、魔法をかけて吐かそうとしたのなら、舌を噛み切って自害しそうにも見えたため、建一は慎重に語りかけることにする。
「語らないだけではないですよね? 語れない理由も貴女にはある」
 建一のその言葉に、シーナは軽く反応を示す。
「貴女の主であるザリス・ディルダは……。聖都エルザードに亡命したそうですよ。貴女はもう彼女の人形ではないのですから、領主に情報を提供し、慈悲を乞うのも1つの道だと思います」
「消えろ……っ。領主等には言うべきことは言った」
 吐き出すように、彼女はそれだけ建一に言ったのだった。

 建一は警備兵と共に、領主の執務室へと戻る。
 皆で相談を行なったソファーには、今は自分と領主、それから領主の娘のミニフェ・ガエオールしかいない。
 夫であった男は、他の騎士達とは違う良い待遇で監禁しているらしい。
 建一は出された紅茶を一口飲んだ後、口を開いた。
「シーナ・ラシルカですが……彼女は、魔術か魔道具により、発言を制限されている可能性があります。シーナだけではなく、フラル・エアーダもそうかもしれません。上司であるザリス・ディルダの手によって」
 ザリスの現状について、領主やミニフェに話すかどうか迷いもしたが、これは今は言わずにおくことにした。
 万が一アセシナートの耳に入ってしまったら、それが更なる戦いの切欠になってしまう可能性もあると考えて。
「それでも、私達が聞く必要のあることは、一通り聞けたと思われます」
 ミニフェは建一にそう語った。
 シーナはミニフェにザリスの配下であることを話し、ミニフェとドールはザリスという研究のトップに立つものが、聖都に亡命したという情報を耳にしていた。
 それで十分だった。
 島は、騎士団とこれ以上ことを構えるつもりはない。
 騎士団が事実上壊滅したのなら、再び島が何者かに狙われる前に、キャンサーの問題を解決すればいいと、領主も島の民達も考えていた。
「キャンサーはどうなさるおつもりですか?」
 建一の問いに、領主とミニフェが顔を合わせる。
「……まだ決定はしていないが、移住させるつもりだ」
「聖獣の加護のある場所に住まわせたいと思っています」
「試練、にも興味あるのですけれどね……」
 建一は紅茶を飲み干した後、小さく息をついた。
 接触すれば、キャンサーの試練を受けて、その力を分けてもらうことが出来るかもしれないが。島の人々だけではなく、彼等もアセシナートに囚われ、仲間を連れ去られ傷つけられて、まだ間もない状態だ。とりあえず、今日のところは接触は控えることにした。
「生き残った騎士団関係者ですが、聖都エルザードの聖獣王に預けてはいかがでしょうか?」
「それは願ってもないことだが……受け入れてくれるかね」
「多分、受け入れてくださると思います。但し、戦闘時の傷が原因して死亡したという扱いにしていただければと思います」
 建一の言葉に、領主は強く頷いた。

 窓からは強い光が射し込んでくる。
 闇を忘れさせてくれるかのような、眩しい光だ。

 戦いの調べはもう聞こえない。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0929 / 山本建一 / 男性 / 19歳 / アトランティス帰り(天界、芸能)】

【NPC】
ドール・ガエオール
ミニフェ・ガエオール
スリン・ラグサル
シーナ・ラシルカ

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
月の旋律の後日談へのご参加、ありがとうございました。
キャンサーの試練に関しましては、ちょっと別の話になってしまう為、今回は控えさせていただきました。
騎士団の聖都への連行につきましては、聖獣王は受け入れると思いますので、また参加される際には、聖都にいるものとしてプレイングを纏めてくださっても構いません。
別のご意見(プレイング)があった場合、違う状況になってしまう可能性もありますが、ご了承いただければと思います。

いつもありがとうございます。
また機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。