<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
+ 君が笑えば つられて笑う誰か +
「ルド、おはよう」
「ああ……先に起きてたのか……。ん、おはよう。ザド」
陽の光より眩しいザドの無垢な笑顔。
微笑む子供の頭には眠る前ルドが結んだリボンが自身の存在を主張している。それはザドが大好きな赤いリボンだ。
にこにこと笑むザドの頭にルドの大きな手が掛かる。ザドはその手が髪を、頬を撫でてくれるのがとても好きだった。
そしてルドもまた純真無垢なザドの事をとても大切に想う。
「もうすぐエルザードに着く。それまで海を一緒に見に行こう」
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旅は続く。
エルザードへと船が着いてもそれは一つの中継地点に過ぎないのだ。
「ルド、ルド! あれなに! あれ!」
「そうか。もうすぐ夏祭が有るんだな。ルド、あれは灯りだ。夜は暗いだろう? そんな夜道を照らし出してくれる道具だ」
「なつまつり? それはおもしろいもの?」
「ああ、面白いと思うぞ」
「っ〜、行きたい!」
港から中央広場へと移動する最中、夏祭の準備で賑わう人々の姿を見かける。
出店の準備をする人、高台を設置する男達、そんな彼らを手伝う小さな子供達……と。皆がとても楽しげに笑顔を浮かべているものだからルドまでもつられて口端を持ち上げてしまいそうな雰囲気だ。実際ザドは子供達を見て目を輝かせている。
店の壁に貼られた夏祭の日付は二日後。連れて行けないことはないが、如何せんザドは追われている身。簡単にでも変装をする必要性があるだろう。
だがまずは今後の情報収集と生活資金を稼ぐ事を考えなければいけない。
街の中央より少し外れた場所で長期滞在型の宿泊施設――つまり貸家を借りた。集合住宅ではあるものの狭さ故か階ごとに独立しており他の住人に余計な気を使う必要がない造りになっている。自分達は三階建ての三階、つまり最上階だ。これなら変にザドの存在を探られたりする事もないだろう。
部屋は炊事場、バストイレルーム、それから大き目の寝室の二つだけだが二人で暮らす分には充分だった。ただ簡易ベッドだけが置かれた室内は他の生活用品が一切用意されていない。
「仕方ない。これからの生活に必要なものを買い出しに行ってくるか……ザド、お前はここで待ってろ」
「ううん、ザドもいく!」
「ザド、お前は追われている自覚があるのか?」
「…………うー、だって、だって、まち、みるんでしょう? ルドがいっしょだから、だいじょうぶ、でしょう?」
金銭だけ持って外に出ようとするルドの腕にザドがしがみ付く。
回された腕の力は強く、手はしっかり指を絡めて離さない。好奇心旺盛なザドが浮き足立った街の雰囲気に興味を抱かないわけがない。最終的には頬を膨らまし始めたザドに若干苦笑いを浮かべ、両手を軽く上に持ち上げてルドは降参の意思を示した。
家から出て街の方へと行く最中もザドは手を離さない。まるで離れる事が怖いかのように。
いや、実際彼は怖いのだ。それでも楽しそうなことには惹かれずにいられないのは子供ゆえ、か。
ふとルドがザドを見下ろしていればその髪に結わえられたリボンが風に吹かれ結い元が解けそうになっている事に気付く。辺りを見渡せばアクセサリー屋の看板が目に入った。
「ザドこっちにおいで。革紐を買おう」
「ん、んぅ?」
「リボンだけじゃすぐに解けてしまうからな。先に革紐で髪を結うんだ、それからリボンを結べば良い。ほら、お前はどの色が好きだ?」
「んー……、……」
店内に入れば色取り取り、種類も様々な装飾品が目に入る。
二人は革紐が沢山並んだ壁へと移動すると手にとって選び始めた。最終的にザドは茶の革紐の端に白い石が取り付けられている物を選んだ。服を選んだ時もそうだったが、ザドが意外にもシンプルなものや色穏やかなものを選ぶ。
ルドが会計を済ませるため店員を会話をしている間、サドは他のアクセサリーに興味を抱く。指輪、ネックレス、腕輪……だけど欲しいとは決して口には出さなかった。
店の外に出た瞬間ザドはリボンをしゅるりと解く。
それから「ん、」と顔を突き出しルドを待つ。言葉にはしない。ただ待つだけの行動。
だがそれが何を意味するかなんて簡単なこと。ルドは袋から買ったばかりの革紐を取り出すとザドの髪を後頭部で纏め結わい始める。短めな髪が解けぬようきつめに結うとザドが次の要求を差し出してきた。つまりリボンを。
遠慮なく甘えてくるザドの頭を小突くもルドは革紐の上にリボンを結んだ。
「ルド、ありがと」
「後ろは結びにくいからな。次からはまた練習しろよ」
「んんー」
「おい、目を逸らすな」
他愛のない会話。
それがとても楽しくて楽しくて二人笑いながら先を進む。途中ザドが色んな物に興味を抱き足を止める。それはただの鳥だったり、子供たちが美味しそうに食べているアイスだったり。ルドからすればなんて事のないものだがザドにとってはそうではない。どれもが目新しい刺激物なのだ。
ルドにとっての刺激物はザドそのもの。
ザドの存在がどれだけ彼の生活を楽しませているかきっとザド自身はまだ知らない。
視線の先が知りたい。
また何かに惹かれて行くザドを追いかける様にルドもまた足を止めた。
■■■■
仕事の依頼がないか黒山羊亭、白山羊亭に寄った。
賢者の館にも足を運びたいが時はすでに夕刻を過ぎ、夜の時間帯だ。今日は白山羊亭にて夕食を取りながらまた明日行く事にする。
メニューを渡して見せたがザドは料理名が良く分からず首を捻る。それを見かねたルドは適当に子供が好きそうな料理を幾つか頼んだ。自分は軽いお酒とつまみ代わりに一品料理をオーダーする。
出てきた料理をもくもくとザドは食べる。その口からは「嫌い」と飛び出てこなかったのでルドは一人ほっとした。むしろザドは美味しそうにフォークに食べ物を突き刺している事から好みの味だったらしい。
黒山羊、白山羊の両方から現在の依頼をメモさせて貰った。
その紙を手元に寄せ出来そうなものを選び出す。若干危険は伴うが報酬の良い護衛の仕事に丸を付ける。カチャ、と音が鳴りザドの手からフォークが置かれる。食事の途中で手を止めたザドにルドは「どうした」と声を掛けた。
「ぼくもおしごと、てつだいたい」
「駄目だ」
「だって、おかねひつようでしょ? ふくもたべものも、おかねでかうんだよ。ルド買ってくれるけど、ぼくだってルドになにか、したい」
「ザド……。だが危険なんだよ」
「ルド、でもぼくいざとなったら、じぶんのみくらい、まもれる」
「…………ザド」
「しってる、でしょう」
赤い瞳がルドを射抜く。
「自分の身くらいは守れる」――その意味が重かった。
ルドの出会うまでのザドがどのように身を守ってきたのか、それらが例え仕方がないとは言え誰かを酷く傷つけてきた事を意味する言葉だったからだ。
依頼に同行する事は危険だと口にするのは簡単だ。だけどあの部屋に一人で置いていく事も危険ではないかと考える。
小さな子供ではないのだからという考え方と、小さな子供の様にしか扱えないもどかしい考え方。
答えは出ない。
「ザド、まだ時間はあるから後で一緒に考えよう。今は食事を」
「ん」
ザドの口端に付いていたソースを指先で拭い、お絞りで拭う。
有難うというようにザドが小さく頷いてから再びフォークを掴み食事を再開させた。その横でルドは酒を飲み干してから店員を呼び、お代わりを頼む。
何故だろう、今日は少しも酔えそうにない。
ルドは黒い瞳をやや伏せながら言葉を飲んだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、発注有難う御座いました。
そしてお二人ともエルザード上陸おめでとう御座います! これから先様々な冒険や他愛のない日常が待っていると思われますがどうぞ楽しんでください!
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