<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
+ 貴方と過ごす夏祭り +
「ザド。今から服を買いに行って、それから祭りに行こうか。夏祭りは人が多いからな。少しは雰囲気を変えておかないと誰が見てるか分からない」
「うん! 行く!」
早めの夕食後、皿を洗いながらルドは提案する。
エルザードは夏祭りで活気に溢れ城下町も賑わいを見せていた。元気良く頷き即答したザドを連れて二人はまだ比較的明るい街へと出かけることにした。
衣料店を幾つか見回るが洋風のものが多い。
祭りであることもあり派手な衣服が全面的に押し出されている。当初の変装という目的は何処に行ったのか、いつの間にか純粋に祭りという雰囲気を楽しみつつ、他に何か変わったものは無いかと探していれば和風の店を見つけた。マネキンには半被や浴衣など涼しげな着物が幾つも飾られている。
それに惹かれるように中に入れば子供用、女性用、男性用など様々な種類の着物が並ぶ。値段も手頃だった。
ルドはザドに着せる物は何にするか考え始める。
そもそも男物か女物が良いのか、どのサイズのものを選べば良いのか。腕を軽く組んで適当な着物や和柄の洋服を眺めていればそんな彼の様子など気にもせず、ザドはある浴衣に目を奪われていた。
くっくっとルドの袖を指先で摘み、そしてその浴衣の方へと指を差す。ルドはザドが興味を示したものが何なのか知りたくて視線を移動させた。
其処に有ったのは女性物の浴衣。
紺地に白の紫の花柄の模様が描かれた可愛らしい着物だった。
「……ザド、女の子っぽい格好をすることに抵抗はないのか?」
「んん? だってきれいだもの!」
ルドが耳元でそっと問い掛ければその質問の意味が理解出来ないのかザドは首を傾げる。
美しい柄と色合いの浴衣を手に取りそっと身体に当ててみて嬉しそうに笑う。サイズについて店員に問うと「おはしょりを作りますから大丈夫ですよ」とのことなのでザドの服はそれに決定した。
店員が着付けてくれる間ザドはにこにこと笑顔が絶えない。
「ルドもゆかたきるよね?」
「そうだな。お前と並んで歩くならこの浴衣とかどうだろうか」
藍色の縦縞の浴衣を手に取り男性店員の指示に従い試着室へと入る。
女性物とは違い男性物は簡単に羽織れる。しかし帯の綺麗な結び方ばかりはよく分からなかったので店員に任せることにした。
着心地は良い。しかし普段ベルトを多く付けたスーツを着用している自分に似合っているのだろうか。そう考えながらザドの着付けが終わるのを待つ。
やがてザドが出てきて彼の姿を見て楽しげに口を開いた。
「ルド、それかっこいいよ!」
「お前も随分と可愛い女の子になったな。正直驚いた」
浴衣を着付けたザドは何処から見ても晴れやかな笑顔が眩しい女の子だった。
それは別の意味で危険かもしれないと密かに思うほど。
やや戸惑いながらもルドはザドの頭にそっと手を伸ばす。いつもは意識していない部分が刺激されたかのような、そんな複雑な思いだった。
ザドは手の中に握り込んでいた何かをルドに差し出す。何かと視線を下げればそれはいつも髪に括りつけている革紐と赤いリボンだった。
「店員さん、むすんでくれるって、いった。でも、髪のリボンはね、ルドに結んでほしいんだ。ぼくがどんなに結ぶのうまくなっても、ルドに結んでほしい」
照れながらえへへ、と笑うザド。
後ろに控えていた女性店員がその言葉を聞いて視線を和らげる。愛の言葉でも囁くカップルの様に見えたのかもしれない。
だが周りがどう見えたのかは関係ない。ルドはザドの言葉の中にいつまでも変わらない甘えが見えて少しだけほっとした。
いつもならば突っぱねるそれも今は受取り、店員にブラシを借りて紐とリボンを丁寧に結んでいく。
より愛らしくなったザド。
相手の手を取り店の外へと出れば祭りの音楽が聞こえてくる。
先に荷物を置いてから祭りに回ろうと二人は家に一旦戻る事にした。
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家から出て祭り会場へと足を運べば丁度パレードが始まった。
煌びやかな衣装を纏い先頭で踊る若い女性たち。そして声を張り上げる一人の男性を乗せた神輿が続いたかと思えばまた歌と踊りを披露する女性達が現れる。ピエロ達が芸を見せ、時折観客達の方へと近付き大きくお辞儀をし挨拶をする。美しいドレスを着た女性を乗せた移動式舞台にはランプが取り付けられ辺りを照らす。美麗な姫君が投げキッスをすれば歓声が湧いた。
「すご、すごぉい! きれい、きれいだ!」
「ザドはぐれるんじゃないぞ。手は離すな」
「うん、うん!」
人混みの多さに惑わされながらパレードに気を取られた人達を避けて出店の方へと足を向ける。数多く並んだ出店からは美味しそうな匂いが漂い、楽しそうな子供達の声が聞こえ、そして普段見ることに出来ない遊戯を見ることが出来る。
だが一番面白いものはザドだとルドは思う。
かき氷を買えばその甘さと何より冷たさにひゃぁ! と声をあげ、くじ引きをすれば「吹き戻し」を手に入れずっと吹いて遊んでいるし、ヨーヨー掬いをすれば微妙な力加減が上手く行かずすぐに紙を切っては何度かチャレンジをする。
ルドにとっては些細な事もザドにとっては大きな事。だからこそリアクションの良さにルドは始終驚かされっぱなしだ。
どれも楽しくてあれもこれも手を出したくなっているようで、ザドは先程からどれから遊べばいいのか迷ってばかり。
やがてパレードが終わったのか人が出店のほうへと流れ込んでくる。
人の量が増えればそれだけはぐれる確立が高くなってしまう。ルドはザドの手をしっかりと握り返しその身体を引き寄せた。
―― ドーン!
不意に空が明るくなる。
何が起こったのかと空を見上げれば闇色をしていた空に大きな光の花が咲いていた。
「ルド、ルド! あれ何!」
「あれは花火だ。火薬を使ってあんなふうに空に花を描く見世物だよ」
「ぱれーどもきれい、でもあれもすごくきれいだ!」
―― ドーンッ! ドーンッ!
音が連続し空には数多の花が開く。
ザドが指を差しあれもこれも綺麗だというのを楽しげに見つめた後、ルドもまた花火を楽しむ。
一緒に来れて良かった、心の底からそう思いながら。
もう祭りは終わってしまう。
だがこの時間は忘れない。
ザドはルドの肩に手を乗せ、そして下駄を履いた足先を伸ばす。慣れない下駄にバランスを崩しかけるもなんとか耳に唇を寄せた。
「ルド、ありがと」
「……どういたしまして」
花火が上がる。
その赤い光に照らされて照れ臭そうに微笑み返すルドの顔までほのかに赤かった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、発注有難う御座いました。
夏祭りもそうですが浴衣を着てきゃっきゃと楽しくザド様とそれを見守るルド様を書かせていただきました。甘く優しい特別なひととき、どうか気に入っていただけますように。
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