<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


おいでませ♪難攻不落(?)な洞窟ツアー〜愉快なトラップ天国お断り!


―ありえない。
知らせを聞いた自分が抱いた感想はその一言に尽きた。
多少(とはかなり言い難いが)お遊びの意味合いを込めたが、厳しく育て、生きていくだけの力をつけさせた。
故に信じられない。
―行方不明?しかも『あの程度』の洞窟ごときで?
「どういうことよ…全く」
ぶつくさ文句を言いながら捜索の依頼を出すところはレムらしいと言えばレムらしい。
世間一般の評判としてレディ・レムが弟子に厳しい―の話ではなく、徹底的に厳しいので知られている。
―あれが師匠ってのは肉体的・精神的……いや、全面的にきつい。
現在、絶賛行方不明中な弟子の少年が遠い目をしながら、ある意味人生を悟りきったような目をして館の使用人に語っていた。
ちなみに、そう語った直後に弟子がレムにはり倒されたのはいうまでもないが。
ともかく使用人に泣きつかれるまでもなく心配なのは当たり前で、自らも捜索に出向く心積もりでいた。

「あら、行方不明?穏やかな話じゃないわね」
どんよりと暗い影を背負っているレディ・レムに蟠一号はふむと顎に指を当て、思う。
声をかけて正解だった、と。

白山羊亭でいつになく―いや、以前もそうだったが、とてつもなく凹んだ状態のレムはある種近づき難い空気を纏っていて、冒険者が声を掛けられないという悪循環を作り出していた。
そんな引きまくりの周囲をものともせず、声をかけた蟠一号は只者ではない。
「お久しぶりね、レム。どうかしたの?」
また妙なことにまきこまれたのかしら、とおどけて問いかけてきた蟠一号にレムはやや呆れたように―だが、救われたような目で見上げながら、そうじゃないのよね、と苦笑混じりに単純かつ簡潔に事情を話す。
「唯一無二の弟子よ。この世界であろうとなかろうと、私にとっての弟子はあの子だけ……それが行方不明。しかも、危険性が…いえ、あの子の実力なら余裕だと思ったのに」
「なるほどね……分かったわ、ボクでよければ力になるわ」
あまりの落ち込み振りに肩を竦め―世界の真実しか写さぬ瞳を向けて微笑む蟠一号にレムはその手をしっかりと握りしめたのは語るまでもない。

洞窟はかつて魔道の研究に身を捧げた『偉大な』魔導師の住まいであり、彼が残した莫大な遺産が数多くの罠に守られながら奥深くに眠っているという。
そして過去に幾多の冒険者が遺産を手にしようと挑み―あえなく敗退してきた曰くつきのだった。
だが『偉大』と謳われる魔導師にも関わらずその研究成果が後世に伝わっていない上に各地に残された魔道書や歴史書にその名が記されていない。
また当時の有力者や権力者に疎まれ、その名を抹殺されたとしてもどんな形であれ、しかるべき研究機関や古老らに伝えられていく。
実際に歴史書から名を消された―真に『偉大な』魔導師も少なくはない。だが、彼らが残してきた研究は多少の変質はあれ、語り継がれている。
そういった形跡が全くなく、ただ洞窟周辺のみに伝わっている時点で、こう判断した。
地元じゃちょっと知られたが、この世界では知られていない偏屈魔導師が住んでた遺跡と。
「ストレートというか容赦がないというか……そこがいいところなのかしら」
歯に衣着せぬ物言いに蟠一号は感心半分呆れ半分といった表情を浮かべる。
魔道の本質を見極め、冷静に力を御す事の重みと危うさを知りうる者ならば当然だろうが、なんというか、本当に容赦がない。
普通なら諍いの元にもなりかねないだろうが、その辺りをきちんとわきまえているから大事にはならないのがレディ・レムなのだろう。
「でも、キミの言うとおりなのかも。『有名無実』っていうのかしら?」
「解説には感謝するわ。けど、ちょっとずれているような気がするけど」
小首をかしげて考え込む蟠一号にレムは苦笑しながら、手にしていた大剣を軽々と振り払う。
その先にあるのは何者かによって既に―きれいさっぱりと破壊された罠の残骸の数々。
経緯はどうあれ数々の冒険者達を追い返してきた洞窟だ。
慎重に期した事はないと意気込んで踏み込んだ割に、ごくあっさりと入り込めたことに蟠一号は拍子抜けした。
念を入れて先を歩くレムもやや脱力気味で、少しばかり残った罠を発動する前に壊していく。
途中、立ち寄った村で聞いた話によると、相当手の込んだ罠がいたるところにあると言われていたが、ここに至るまでの道のりはいたって平和そのものだ。
ただ、壁のいたるところに鋭利な刃で切りつけられたとおぼしき傷と微量の血痕さえなければ―の話である。
「何者かが争ったってことなのかしらね、これは」
「おそらく弟子と誰かが戦ったってところかしらね……あの子がやったみたいな刀傷があちこちにあるもの」
ざっくりと刻み込まれた痕を確かめながら、レムがため息をこぼす。
数日は経過しているらしいその痕は確かに弟子がこの洞窟にいて、生きていることを物語っている証なのだが、正直言って歓迎されるものではない。
彼が付けたとおぼしき痕と重なり合うもう一つの刀傷―それは何者かが弟子と戦っていたということを意味していた。
「さすがお師匠さまね〜弟子くんの剣だって分かるのね」
どんな事態に巻き込まれるのよ、と肩を落としてへたり込むレムにわずかばかり苦笑しながら、蟠一号は眉をしかめた。
弟子の少年はレムが鍛えただけあって、大抵の危険は乗り切れるだけの場数は踏んでいるし、師匠の贔屓目を差し引いても最上級の腕前だという。
それだけの実力者と戦っているもの。
「嫌な予感がするわね〜」
大きく息をついて壁にもたれかかった瞬間、ガコンとやけにありきたりな音が洞窟内に響いた。
やがて小さな振動が法則のように大きくなるにつれて、二人の顔から一気に血の気が引いていく。
「もしかして仕掛けが作動したとかじゃ…」
「もしかしなくても、何か作動したのね」
否定する必要なんてないのだが、なんとなく否定して欲しかったがそんな暇は蟠一号とレムに与えられることはなく、現実は容赦なく、轟然と襲い掛かってくるものである。
隙間なくきっちりと敷き詰められたレンガの壁が唐突に消えうせ、生まれた空間に閃くのは無数の赤い光。
引き攣った声を上げ、思わず手と手を取り合うレムと蟠一号。
ズシッと重みのある足音とともに単眼を閃かせて、のそりと現れたのは無骨な岩石の人―ゴーレム。
ただしサイズは拳2つ分―が、アリの群れがごとく暗闇の中からいきなり沸いて出てきたら、それはある意味、恐怖である。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ」
日頃の豪胆ぶりはどこへやら、似合わぬ悲鳴を上げて蟠一号の腕を掴むが早いか、わき目も振らずに走り出すレディ・レム。
ちなみに―元が岩だけあってゴーレムたちの動きの鈍く、俊足を通り越して光速となったレムから遥か彼方に置き去りにされたのは自明の理である。

「ちょ……ちょっと落ち着いてよ!あれは魔道人形なんでしょう。キミの得意分野じゃないの」
「いやぁぁぁぁぁっ!!気持ち悪いぃぃぃぃぃっ!!あんな不気味なものいやぁぁぁぁぁ〜」
完全に引きずられて走り回った挙句、洞窟の壁をぶち壊しまくったレムの混乱ぶりに蟠一号は頭を抱えたくなる。
これでは弟子の行方を捜すどころか、自分たちが遭難してしまう。
未だ混乱の極致にあるレムにため息をつくと、蟠一号は『力ある』言葉を載せた歌を紡ぐ。
瞬間、電撃に打ち抜かれたようにレムの身体が硬直し―そのまま床に突っ伏した。
「落ち着いた?もしかしなくても、キミ……ああいったちっちゃい魔道人形とかが群れになると苦手なのね?」
「わざわざ確認しなくても、その通りよ。昔、冗談半分に作った人形が勝手に分裂増殖してくれて」
退治していくそばから増えてくから手に負えなくなって、最後には文字通り潰された。
偶然気付いた弟子と使用人がなんとか倒して助けてくれたのだが、以来完璧にトラウマなのだとレムは半ばヤケ気味に言い放つ。
誇り高いレムにしてみれば、ものすごい屈辱なのだろうと思いつつも、蟠一号は笑いを堪え切れなかった。
「なるほどね。でも弟子君の手がかりが分からなくなると元も子もないでしょ?ちょっと落ち着いたら」
くっくと喉の奥を鳴らしてくれる蟠一号をジロリと睨みながら、レムは乱雑に頭をかく。
魔道を操る者、常に平常心と冷静を失うことなかれと散々弟子に言っておきながら、これではあわせる顔がない。
それよりも何も弟子の少年が指差して笑ってくるのが目に浮かんでくる。
全く腹立たしいことこの上ない。
「こうなったら、憂さ晴らしね。ちょうど良さそうなのがお出ましみたい」
剣を手にして立ち上がるとレムは通路の奥から知性が乏しく血の色に目を輝かせた青白い肌のした魔物―オーガたちを睨みつけた。
手ごたえのありそうな魔物の登場に蟠一号も楽しげに身構える。
引きずられて気づいたが、この洞窟はかなり頑強に作り上げられており、ちょっとやそっとの衝撃では崩れる恐れはない。
先ほどのような仕掛けさえ気をつければ、暴れるには充分だ。
しっくりとなじむ愛用のハープを構え、柔らかくだが峻厳に弦を奏でながら蟠一号はその喉を振るわせた。
目に見えぬ鋭い糸がオーガたちの動きを絡め取り、縛り上げてる。
蟠一号が奏でる天上の調べにあわせ、優雅に繰り出されるレムの剣舞にオーガたちが倒されていくその様はまるで華麗なるオペラの一幕のよう。
見る者の心を奪いながらも、その実はかなり凄絶であった。

「だぁぁぁぁぁぁぁ!!そこ動くなっ〜師匠!…レム!!」
哀れにも残された最後のオーガに倒すべくレムと蟠一号が動こうとした瞬間、この世の終わりとばかりの絶叫が木霊する。
同時に向かい側の壁が見事な円形にぶち抜かれ、そのままオーガを潰す。
立ち上がる土煙と光ゴケの胞子に思わず口元を覆うレムと蟠一号の前に転がるように現れたのは金色の髪をした一人の少年。
少々やせこけているがしっかりした目でレムにどなる。
「ここの洞窟、壊れた罠が自己修復するんだよ!一歩踏み出したら、罠発動!!また鎌が襲ってくるんだよ〜頼むから止めて」
勢いよく怒鳴っていたが最後には泣き声に変わっている弟子にレムと蟠一号はいまいち事態を飲み込めずに立ち尽くしかなった。

―洞窟の調査が終了したので戻ろうとしたら、帰れなくなった。
何があったのかというレムの質問に一週間ぶりに見つかった弟子が返した答えに蟠一号は言葉を失った。
単純に迷子になったとかではなく、戻ろうとした道が全く変わってしまった。
しかも完璧無比に破壊したはずの罠が時間の経過と共に直っていて、2重3重の手間がかかり―やっと出口に向かうルートを見つけたら、蟠一号たちと合流できた。
ついでに罠再生の仕掛けを踏みかけつきで。
「仕掛けによって温泉とか結界の休息所とかがあったけど……もうヤダ。あんな面倒な洞窟行きたくない」
「そうね、でも無事でよかったわね〜キミのこと、お師匠様心配してたんだからね」
ぐったりと椅子に倒れこむ弟子の少年に蟠一号は笑顔で呟きながら、痛感した。
ある意味レム以上に冷静な弟子だから、あの洞窟でも無事だったのだろう。
大体、時間と共に罠が直るなどありえない。
それを破壊しながら、ひょっこりと姿を見せる魔物を退治してきたというのだから、本当に弟子の実力がものをいうところだ。
「まぁ無事に帰ってこられたから良し…なのかな?これは」
「そう思いたい。いや、本当にもう嫌だ」
また調査に行けとか言われたらどうしようと悩む弟子とは裏腹に蟠一号はさすがのレムも二度とあの洞窟に調査しようとはおもわないのではないかと思いつつ、紅茶を飲み干した。

FIN

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■   登場人物
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【3166:蟠一号:無性:外見年齢26歳:吟遊詩人】

【NPC:レディ・レム】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、緒方智です。
ご依頼頂きありがとうございます。お待たせして申し訳ありません。
さて今回のお話はいかがでしたでしょうか?

洞窟調査での迷子事件、ややあっさりとなりましたが無事に見つかってなによりです。
たぶん弟子くんは何があったのかは話してくれないのでは?
あんまりにも危険だからでしょうか?
ついでに妙なレムの苦手も発覚したようです。
これからあまり無茶は言わないといいのですがね。

本当にご参加頂きましてありがとうございます。
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。