<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【炎舞ノ抄 -抄ノ捌-】糸を切る/糸を手繰りて

 ……。

 邪魔をするかなんて、その時にならなければわからない。
 でも、この蓮聖を――秋白のことも、龍樹も。放っておく気になれないこと、だけは私にも言える。

 街の中で。久しぶりに蓮聖と会って。ちょうど、ケヴィンも居て。……前に、エルザードのあちこちが壊されてるのを調べてくれ、って白山羊亭で依頼のビラが撒かれてて、それで、現場に出向いてたあの時みたいに、偶然、合流して。でも蓮聖は今回は、逃げたり、はぐらかしたりしないで、私の前に居るままで、私たちにも、話してくれて。
 これから秋白の元に行くって、龍樹を止めるんだって、私に、私たちに、協力してくれって、申し出てくれて。
 でも。

 ……蓮聖は、それでもやっぱり、自分が、やろうとしていることは、譲らないんだろうなって、思えて。

 それを、直接、聞いた、私は、どうしたらいいのかなって、たくさん、たくさん、考えて。
 蓮聖に……ううん、秋白にも、龍樹にも。私は、何を、どう言ったら……どうしたらいいんだろうって。

 答えは、まだ、出なくて。



 考えながら、蓮聖と……あと、少し時間が欲しかったらしいケヴィンを待ってから一緒に移動する。戻って来た時にはケヴィンは弓矢一式を持っていた。状況とか、相手とか、色々考えて……間合いが離れた時の攻撃手段とか、用意しておきたいと思ったらしい。蓮聖も特に待てないとは言わなかった。……今、私も一緒に居たからかもしれない――蓮聖と一緒に居るのがケヴィンだけじゃなかったからかもしれない、と少し思う。

 移動した先は、前に来たことのあるような場所だった。……前に秋白と会った場所と。違うけど、似ている場所の気がした。エルザードが見える丘の一角。……秋白が居た。前、会った時みたいにぽつんと一人で居た。こちらに気付いているかはまだわからない。不意に、すぐ近くで熱い風が渦巻いた気がした。……龍樹が居た。いつの間にそこにまで来ていたのか、炎を纏う刃を――抜き身の日本刀を手に、秋白に躍りかかるところだった。今私の居るすぐ側で、蓮聖が動くのがわかった。秋白が龍樹を振り返る、ところだった。誰も何も口を開かなかった。人間らしい制止の言葉も、戦いの宣言も、獲物を襲う時の獣みたいな雄叫びも、何も。
 私も、動いていた。殆ど、体が勝手に動いている感じだった。蓮聖が、いつの間に持っていたのか、青銅色の大きな刃――凄まじい剣気を纏った大薙刀を、龍樹に向かって今にも撃ち振るおうとする形で構えていて。秋白に躍りかかる龍樹の、土色の逆巻く炎を纏った刃が、今にも秋白に達する――その牙を以って、躍りかかる勢いのまま、秋白に斬り込もうとするところで。





 私は、その間に、割って入っていた。





 ……ただ、割って入っただけ。
 結局、私は、そうすることを選んだ。
 考えても考えても、答えが出なかったから。
 体中に巻いている呪符を剥がして、私の中の魔や獣の、爪や牙を――その力を使って応じることすら、頭になかった。
 ただ、龍樹の振るうその牙を、代わりに、受け止めよう、とだけ、思った。……私なら、神聖とか退魔の属性の力でさえなければ、致命傷にはならないから。龍樹の力が「そう」じゃないことは、前に戦った「あの時」で知ってるから。意識を飛ばされないようにとだけ気を付ければ、何とかなる。
 それに、蓮聖より先に、私の方が龍樹の前に出られれば――私の方が先に龍樹に対峙する形になれば、蓮聖の言う「蓮聖の邪魔をする」のとは違うとわかってくれると思うから、多分、蓮聖は、今しようとしているこの攻撃を取り止めて、様子を見てくれるだろうし。……龍樹のことは、止めることが目的で、殺すことが目的じゃ、ないはずだから。
 ……だから、大丈夫。

 周りの時間が、動きが、何となく、一瞬、止まった気がした。
 一拍置いて、私の体に衝撃と――ざらっとした灼熱と痛みが走るのを感じる。……でも、感触からして、斬られて、はいなかったと思う。「前の時」は、斬られたから。……だから、わかる。龍樹も、ひょっとすると、私が、出たことで、目的の相手じゃない、って思ったの、かもしれない。攻撃を、止めていたのかも。
 ただ、龍樹が刃に纏わせていた炎の力の方で――振るわれる牙の剣圧の方で、私の体が、焼かれたり削られはしたらしい。凄く、凄く強い力ではあるから、直撃しなくても、余波が掠るだけでも、負傷はする。……多分、私でなければ、もっと酷いことになっている。私の体に巻いてある呪符も負傷と同時に幾らか削られていて、表に出て来た魔や獣の部分の私が勝手に私の体の回復を始める。
 でも、出て来た魔や獣の部分の私に、反撃は――攻撃はさせない。
 ちょっと驚いたみたいな、秋白の貌が見えた。突然、私が、自分の前に、庇うみたいにして出て来たから、かもしれない。
 でも、すぐに、今の状況が、どうなってるのか、わかったみたいで。
 秋白は、私をちらっと見てから、私を通り越した、先を――龍樹を、蓮聖を見ていて。
 何かが、自分が思った通りになったみたいな貌をして、笑っていた。
 ……笑っていたけど、気持ちの方は、笑ってなかった気がする。
 凄く攻撃的な、貌だと思った。……人間以外の場合だと、「笑顔」に相当する表情は、だいたい、威嚇の貌になるってことを、思い出す。

「有難う千獣おねーさん。ボクの事、庇ってくれて」
「……うん……そう、だけど」

 少し、途惑った。
 今、私がお礼を言われたのは確か。でも、その礼を、その科白を聞かせたい相手は――蓮聖、のような。そんな言い方だったように聞こえた。
 私が、視界に入ってない気がした。

「ボクの為に千獣おねーさんを連れて来てくれたのはあなただよね」
「…秋白」
「あなたはどれだけ周りを巻き込めば気が済むんだろう。自分の手を汚す覚悟もできてないって事だよね。あなたの為にこうなった、あなたの弟子の相手をこのおねーさんに任せるなんてね。否定したって今のでわかるよ。あなたがおねーさんより遅れた、その事だけで証も同じだ」

 そうじゃない、と私は思う。

 ……秋白は、そう言うけど。
 でも。

「……私、蓮聖に、巻き込まれた……わけじゃ、ない」

 これは、私が、私が知ったことを、私なりに考えて、していることだから。
 私がここに居るのは、蓮聖のせいじゃない。
 伝えたいのはそれだけじゃないけど、上手く言葉にできなくて、今は、そうとだけ、秋白に言う。

 言った時点で、秋白は否定するみたいに緩く頭を振る。でも、このひと――蓮聖のことだろう――が居なかったなら起きてない事なのは確かなんだよ――そう、私に言い聞かせるように――言い聞かせている姿を蓮聖に見せ付けるように口を開いて来る。
 また、熱い風が渦巻いた。龍樹。土色の炎。何だか、今のやりとりを聞いて、憤った……みたいな感じも、少しした。今の龍樹は秋白を狙って、私の、すぐ近くに居たはずなのに。龍樹の姿が、それまであったところになくて、いつの間にか移動していて、今度は私を避けるようにして、私の居るのとは逆の側、私を間に置かないで、直接相対せるところから、また。
 秋白に襲いかかろうとしていて。
 私は慌てて、そっちに、移動して。また、受け止めようと、強く地を蹴って進み出て。多分、次も何とか間に合うとは思えて、ほっとして。
 ギィン、と凄い音がした。今度も、私のすぐ側。硬い何かがぶつかる音。今、すぐ近くにあるだろうもので言うなら、牙とか爪とかの――私自身は、そんな音がしそうなものを今は具えていない。牙も爪も、真っ当に顕してはいない。なのに、音がした。
 ……ケヴィンの持っている刃が、横合いから龍樹の刃を狙って、強く叩き付けられていた音だった。ケヴィンがいつの間にかそこにまで来ていた。体中の力を籠めて、龍樹の牙を折りに来たみたいに躍りかかって来ていた。龍樹の、刃持つ手許……の辺りを叩き付けて、牙を取り落とさせるか、叩き折るか、どちらかを狙ったんだろうと思う。その勢いのまま――躍りかかってくるそのまま、勢いを殺し切れず自分も地面を転がって、そうしつつも、ケヴィンは、私を、見た。「止めろ」って目をしてた。私に対して。……何が「止めろ」なのか――秋白の前に立つ私の負傷とか、見てて気持ちが悪かったのかもしれない、と何となく思う。
 ケヴィンのそれで、今の龍樹の攻撃が、半分潰されていた。牙が、叩き落とされていた。けれど躍りかかる勢いは殺せていなくて、秋白に――ううん、龍樹の攻撃を受け止める形に進み出ていた私に向かって、体当たりするみたいに龍樹の体が飛んで来た。体重と、乗っている勢い分の重さと衝撃。あと、纏う土色の炎の方で、少し焼かれた気は、する。
 今のケヴィンの方は、元々やろうとしていた通りの行動ができたようで、地面に転がってしまってもそのまま受け身は取れていたらしい。すぐに立ち上がって、また下がる――龍樹から、大きく間合いを取る。その時、ケヴィンが持っていた刃はU型に二股に分かれた剣先のある音叉剣だった。確か、聖獣装具。
 躍りかかる勢いのまま、私を押し倒す形になった龍樹が、少し遅れてゆっくりと立ち上がる。そうする中、纏う炎が急に減った気がした。……この段で、やっぱり、龍樹は攻撃の向かう先が私やケヴィン――多分、「秋白じゃない」と思うと、攻撃を止めているのだと確かめられた。勿論、それでも余波までは殺し切れていないのだけれど。途中で簡単に止め切れるような半端な攻撃はしていない。
 龍樹の視線が、不意に秋白から逸れた。……ちょっと意外そうな貌で、ケヴィンを見ている。でも、ケヴィンに向かって動く様子はない。
 そう認めてから、私も、ケヴィンを見た。

「……私……大丈夫、だから……」

 私なら。
 庇って、護ってもらわなくても。だから、その為なんだったら、攻撃、しなくていい。

 そう続けたら、ケヴィンは難しそうな顔をした。ううん、表情自体は変わらなかったのかもしれない。
 ただ。

「…」

 ちゃんと口に出して言われたわけじゃないんだけど、何だか、「面倒だから止めてもいいが、それで済む状況下じゃないんじゃないか」って、ケヴィンから訊き返された気がした。
 そう、なのかもしれないけど。でも。
 どう伝えたらいいかを悩む。

 と。

 その間に、龍樹がまた、動きを見せていた。はっとする。私とケヴィンの僅かなやりとりの間に、龍樹はまた、秋白を狙って地を蹴っていた。一度取り落とした刃を取ろうともせず、身一つで躍りかかる――秋白を狙うことをこそ優先する。それでも、龍樹の力なら、相手を傷付けるのは難しくないと私は身を以って知っている。纏う炎の方の動きや量は、さっきまでより一見少なくて。どうやら、手にだけ集められていて。私も、だから、気付くのに一拍遅れたみたいで。手に集まった炎は、どす黒いくらいに、濃くて荒々しい色合いと勢いになっていて、そこに強い力が凝っているって、わかって。その力が振るわれる先に今度こそ秋白が居て。私は、今度は、自分の体が間に合わないこともわかって。
 だめ、と思った。
 攻撃が激突した時、龍樹が手に集めていた炎が、叩き付けられて爆発するみたいになって。
 凄い光で、瞬間的に、何も、見えなくて。
 幾らか視覚が戻ったと思ったら――龍樹の前に、蓮聖が居た。
 力が集まって凝っていた龍樹のその手を、片手で乱暴に掴むみたいにして直接受け止めていた。受け止めた蓮聖の手が、赤黒く――焼けて燻ってるようになってるのも見えた。秋白は、居なかった――少し離れたところに、とん、と軽く着地するのが見えた。当然みたいに無傷で。躱してた、みたいで。
 秋白の、声がした。

「やっとその気になれた? 遅いよ。言われてから今になって動くなんて本当に卑怯者だよね。今の弟子の姿も。千獣おねーさんの姿も。それからケヴィンお兄さんの姿も。はっきり目の当たりにしないと実感できないってことなのかな。ま、しょうがないか。それが他人の事を想像する事もできないあなたなんだろうから」

 その声の時点で、龍樹は蓮聖に掴まれていた手を乱暴に振り払う――ような仕草を見せた。それで、実際に蓮聖の手を振り払うと言うより、龍樹自身の手が土色の炎と化して、蓮聖の手から擦り抜けている。
 擦り抜けたところで、元の手に戻り――更には、元通りに刃を握る形にまでなっていて。
 改めて切っ先を、蓮聖に向けている。

「退いて下さい」
「…龍樹」
「朱夏だけではなく貴方まで失う訳には行かない」
「――ッ」
「御二方も。退いては頂けませんか」

 龍樹は、私とケヴィンにもそう振ってくる。
 でも。

「退けない。……貴方にも、刃を、振るう、理由が、ある。だから、攻撃、するのは、止めない、けど、受け止めるのは、私」
「困ります。どうしてもと言うなら、乗り越えるしかないのでしょうが…貴方を殺し切るのは、きっと恐らく難しい」
「うん。……私は……倒れる気、ない」
「仕方ありませんね。まぁ、これまでの己が所業を思えば今更ですけれど。…ですが。私も甘んじて理に屈する訳には参りませんので。…ここで秋白を除けなければ、『風間蓮聖』を守れない」
「ッ――莫迦を言うな!」
 大きな、怒鳴る声がした。
 蓮聖の、一喝。
 これまで、声を荒げることなんてなかった人だったから、少し驚く。龍樹の言い分を聞いて、思わず出た、みたいな、そんな感じの声だった。……さっき、「失う訳には行かない」って龍樹の言葉を聞いて、蓮聖が息を呑んでいた気がした。すぐに何も返せないくらい、衝撃を受けていたみたいだった。
 一喝の後も、そうじゃない、そうじゃないんだと。すごく、苦悩している、みたいで。
 何だろう、と思う。

 そんな蓮聖の姿を認めて、ほら、と囁くみたいな、秋白の声がした。

「あなたが『そこ』に居なければ、こうはならなかったはずなのに――あなたはあなたが生きようとして、どれだけ他人の人生を狂わせたか自覚はあるのかな。全部、あなたのせいなのに」

 …。

 ケヴィンが何だか変な貌をしている気がする。私は、前に、秋白から聞いた話を思い出す――例え話みたいな感じだったのに、蓮聖に対しても、何だか、その時の例え話そのままみたいな、言い方で。
 じゃあ。

「……蓮聖、どうして、逃げたの」

 秋白の言ってる、秋白が代わりになってるって言う、「立場」から。
 それでわかるかなって、そう聞いてみたら、蓮聖が軽く目を瞠った気がした。少し、驚いたみたいな貌。でも、それはごく僅かな間のことで、私の質問の意味も、どうして私がそんな質問をしたかもすぐにわかったみたいで。
 蓮聖は、諦めたみたいに、目を閉じた。
 そして。

「それは。人として、生きたいと思ってしまっただけですよ」

 そう、答えてくれた。



 思わず目を瞬かせた。
 蓮聖も、秋白と、言っていることが同じ。…どういうことなんだろう、と思う。

 でも。

 今は、考えるより、動く方が先で。そうしないと、間に合わなくて。秋白の言葉とか、蓮聖の言葉とか。私の質問も、関係してたかどうかまでは、よくわからない。ただ、何だか……誰かが、何かを言えば言う程、龍樹は、何も言わなくなって。その代わりに、秋白を狙うやり方が、初めより、厳しくなって来て。初めだって、本気は、本気だったんだろうけど、何だか、もっと、容赦無くなって来てる感じで。私が、龍樹の攻撃を受け止めようと割って入った時にも、龍樹は、攻撃を止めないで、そのまま斬り込んで来るようになった。纏う土色の炎も、そのままで。……私が、退かないって、言ったからだと思う。私の想いを、認めてくれたんだと思う。
 ……少し、ふらふらして来た、かもしれない。それなりに回復はしても、流し過ぎて、血が足りてないのかも。ケヴィンと蓮聖がそれぞれ、腕尽くででも龍樹を何とか止めようと動いてもいた。ひょっとすると、私のことも、庇おうとしていたのかもしれない。……私はなるべく、それらのこともし難いように、二人より先に龍樹の前に出るようにしてたんだけど、たまに足が縺れたりして、先に前に出られる回数が、どうにも減って来てしまって。
 次。と思う。
 もう止めて下さい! と叫ぶようにして蓮聖から頼まれた。だめ、と返した。……もし秋白が居なくなったら、彼の管理しているものはどうなるのか。秋白が『ちゃんと生きる』方法はないのか。この世界の何を使ってもダメなのか。ちゃんと、話せているかもよくわからなかったけど、私なりに、一所懸命、相手にわかるようにたくさんたくさん考えて、話して。

 蓮聖も同じなのなら、二人とも、生きたいのなら、秋白と蓮聖の両方が、『ちゃんと生きる』方法とか、ないのか。
 私は、自分がそれぞれの立場にあると考えたら、このやり方は誰にもいい結果にならない気がしたから。
 だから、本当の事情がわかってない私じゃなくて、わかってる当の人たちに、もっとたくさん、考えて欲しくて。
 腕尽くじゃなくて。
 何か、他にやり方が見付けられないだろうかって。
 思うけど、感情を消してるみたいな龍樹は、止まらなくて。
 秋白は、そんな龍樹のこととか、今の私のことも話に出して、蓮聖を責めてて。
 蓮聖は、すごく、苦悩してるみたいで。「そうじゃない」とか「違う」とか、何処にかかることなのかいまいち要領を得ない感じで必死に言ってもいた。何だか、言いたくても言えないのかもしれないような。
 私は、こうすることを選んだけれど、それでも、結局、蓮聖や秋白、龍樹がどうするかは、わからない。

 ……何となく、ほろりと微苦笑が浮かぶ。
 やっぱり人間って、とても、とても難しい。

 思ったところで、気が遠くなりかけた。足元が覚束無くて膝から崩れ落ちるような気がした。あ、と思った。龍樹の姿が見えた。だめ、と思った。今来られたら、攻撃が受け止められないから。私の前、飛び込んでくる背中が見えた。くすんだ青い髪と、剣の鞘が背負われているのが見えて、ケヴィンが龍樹と切り結んでいるのが、わかった。数合撃ち合って、両方で飛び退るみたいにして、離れる。
 離れたケヴィンが、何か考え込んでる風にも見えた。多分、朱夏のこと…なんじゃないかなって気がした。何でそう思ったのかまでは、わからなかったけれど。
 ただ、さっき、龍樹がその名を出していた。……朱夏だけではなく貴方まで失う訳には。どういうことだろう。

 と。

 不意に、地面が揺れた気がした。え? と思った。『獄炎の魔性』の時の龍樹なら有り得るかもしれない何かの魔法的な力かと一瞬思ったけど、当の龍樹も訝しげな貌をしてたから、違う。同時に、轟音がした。反射的に、音の源だろう方を向く。私だけじゃなく、そこに居た皆も。

 ……音の源は、エルザードの方だった。

 見たら、妙な既視感がした。
 私は、別の場所で、似たようなものを見たことがある。
 仕事で、遠出をした先で。妙だと思って、すぐに、駆け付けて、その先で。

 瓦礫の山になった集落と、土色の炎の化身を見たんだったと、思う。
 でも今は、その土色の炎の化身……であるはずの人は、エルザードに居るわけじゃなくて。

 考えている間にも、それこそ、今、瓦礫が作られてるみたいな、音がした。
 火の手が、上がっていた。
 他ならない、エルザードの街で。





 …あれ、なに。



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 登場人物紹介
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■視点PC
 ■3087/千獣(せんじゅ)
 女/17歳(実年齢999歳)/獣使い

■同時描写PC
 ■3425/ケヴィン・フォレスト
 男/23歳(実年齢21歳)/賞金稼ぎ

■NPC
 ■風間・蓮聖
 ■秋白
 ■佐々木・龍樹

(名前のみ)
 ■朱夏