<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


想い合う。故にすれ違う2人

 ある昼下がりエル・クローク(3570)はカウンターに座りのんびりと時を過ごしていた。
 日の光は温かく、彼の香物店の前にある陽だまりでは白い猫が日向ぼっこをしていた。店内も外に負けず劣らず温かい空気に満たされ静寂が微睡を誘うようですらあった。

―カランカラン―
 勢いよく開けられたのか鐘がいつもより強く来客の訪れを主張した。
「いらっし……」
「こんにちは、店主さん。ねえ、この香水って、このお店のかしら」
 それを別段気にする様子もなくクロークは立ち上がり客人に出迎えの言葉をかけおわるより早く客人の少女が言葉を発した。言葉と共に差し出されたその手には以前、店で夢を見た銀髪の男性が購入した芍薬の香水瓶があった。
「ああ、確かにこれはうちの品だね」
「まあ本当?ふふ、ようやく見つけたわあ。あのね、単刀直入に伺うのだけど…おとんはここで、何を話していったのかしら」
 嬉しそうに、だが不穏な空気をまとって少女ミルカ(3457)はそう続けた。
「なにかあったのかな?」
 しかし、不穏な空気を感じていないかのようにクロークは微笑みを絶やさず、いや、眉一つ動かすことなく淡々と言葉を紡いだ。
 調子が狂ったのはミルカの方だった。感情の機微に敏感で、自分がどう接すれば、どんな言葉を使えば、どんな雰囲気を出せば相手がどう反応するのかある程度察することができるという感覚的な確信にも似たものがいつもあった。
 こうすれば、相手はこう感じる。それならこうする。
 そうやって色々な事を乗り越えてきた。が、目の前の店主からはそういったものが一切感じられない。
 困ったミルカは眉根を寄せながらも話し始めた。
 いや、話すしかなかった。
 どうしてもミルカには知りたいことがあったのだ。

 2週間ほど前に義父がこの香水をくれた。
 だが、それと同時期から様子がおかしい。態度もよそよそしく、いつもなら受け入れてくれるスキンシップをさりげなくかわされる。
 思い悩んでいる様なので、何かあったのかとさりげなく尋ねても沈黙しか返ってこない。
「香水を買った時に何かあったと思うのよう。それで探していたの」
「事情は大体わかった。守秘義務があるから詳細については言えないが、確かに君の御父上だと思われる男性が2週間ほど前にその香水を買って行った。その時に君の話を少ししていた。でも、何を話していたか聞いても君の疑問は消えないと思う。それよりも……君は御父上に何を望んでいるのかな?」
 淡々と世間話をするようにそう告げクロークはミルカに尋ねた。
 それはミルカもわかっていることだった。
 ここで何を話していたのか聞いても義父の気持ちはわからない。そんなことはわかっている。でも、それでも、このままよりはいいと思った。何もわからないで、このまま何もできないのが嫌だった。
「私は……おとんとずっと一緒にいたいわ」
 おっとりとした口調ではあるがはっきりとした意志を感じる強い言葉だった。
「だから結婚したいって言っていたのだしねえ」

「もう少し話をきいてもいいかい?」
 クロークの声になのか、店内の雰囲気なのか、勧められた椅子と温かい飲み物や甘いお菓子のせいなのか、はたまた全てになのかわからないがミルカは飲み物を手に取り、少し拗ねたように口を開いた。
「少し前からおとんが『いいひとはいないのか』って言うようになったわ」
 ミルカに『いいひと』つまり好意を寄せる異性はいなかった。義父といられればそれで……いや、それが彼女の幸せだった。
 彼女は思案し、考え、そして一つの結論を出す。
 それが、『義父と結婚する』こと。そうすれば、もうそのような事を言われることはないし、義父ともずっと一緒にいられる。そう全て解決する。
 倫理や常識、そんなものは頭になかった。あったとしても気にならなかっただろう。かなり極端な考えだとさえ思わなかった。ずっと一緒にいられる方法はそれしかないとも思った。
「おとんに『結婚したい』って言ったわ。でもおとんには伝わらないようなのよう。だから何度も言ったわ。でも……」
 2週間前、つまり香水を贈られた辺りからその話題を出すと義父は困惑するようになった。
「……嫌われたんじゃないかしら」
 ぽつりとこぼれた言葉は嘘偽りなく心の底から出た言葉だった。

 場を沈黙が制する。
 クロークの中で全てがつながった。
 この2人をどうにかしたい。と思ったが、他人の関係に口をはさむは無粋だと思いなおす。
「君の御父上ではない僕にそれはわからない。でも、君の話をしている時の御父上はそうは見えなかった。御父上は君をとても大切にしていると僕は感じたよ」
「じゃあどうしてなのかしら。店主さんの言葉が本当ならどうしておとんは……」
 表情が曇っていく。
 クロークは言うつもりはなかった言葉を口にした。
「君は結婚したい。と御父上に言ったそうだけれど、ちゃんと全てを伝えたかい?」
「全てを伝える?」 
 ミルカの表情がいぶかしげなものになり、説明を求めるように言葉がオウム返しの様に繰り返された。
 しかし、それ以上クロークは教えない。 
「ああ。……さてもう戻らなくていいのかい?」
「もうこんな時間だわ。お茶美味しかったわ」
 少しあわてたように立ち上がるとミルカは頭を下げ帰っていった。

 それを見送り、姿が見えなくなってからクロークはひとりごちる。
「長い付き合いだと言わなくてもわかることは多いかもしれない。でも全てが分かるわけじゃない。その事に自分で気が付かないと」
 一瞬、誰かが脳裏にうつったが何故うつったのかクロークにはわからなかった。
 彼が彼の心に気が付くのはまた別の機会に語られる別の話。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3570 / エル・クローク / 無性性 / 18歳(外見) / 調香師】

【3457 / ミルカ / 女性性 / 18歳 / 歌姫】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ミルカ様初めまして。
エル・クローク様はお久しぶりです。
ライターの龍川 那月と申します。

前回からの続きと言う事でミルカ様の想いと現状を軸に書かせていただきました。
ミルカ様が『全てを伝える』事が出来ます様心よりお祈りいたします

お気に召すと大変うれしく思いますが、もしご納得いただけない部分がありましたらお申し付けください。

今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
次回もお待ちしております。