<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【炎舞ノ抄 -抄ノ終-】私、の始末/玄を湛えて春を待つ

 そう。確かに目の前の状況として、今この場で荒れ狂っていた炎は静まった。そこについては良かったのだろうが、それ以外は色々と釈然としない。
 思っていたら、秋白の声がした。

「朱夏を殺したね」

 何かまた、ちょっと、ぎょっとするような響きを孕んだ声。…いや、内容自体もぎょっとする感じと言えばその通りだが。
 …ただまぁ、俺としては冷静な部分で…それ今の状況で言い切れるのか? と思いはする。するが、俺より状況わかってるんだろう『当事者』間で特に反論らしきものはまだ無いのでまだ特に口は挟まない――と言うか、まだ「他に意思を伝えるつもりで考えて」はいない。
 秋白は眇めた目で蓮聖を見ながら、薄く笑っている。

「失敗したかと思ったけど、ぎりぎり一矢くらいは報いれたって言えるかもしれないかな? あなたが直に自分の娘に手を下したとなればまぁ、少しは堪えるよね?」

 なんかまた、さっきの――ここに来る前、三つ巴やってた時の続きっぽい秋白の舌滑りが戻っている。
 蓮聖は動かない。秋白に言われた言葉にも特に反応しない――いや。
 言われた通りだから、何も言い返せないのか? と言う気もした。さっき、結果的に最後に朱夏に撃ち掛かる形になったのは確かに蓮聖の大薙刀だった。

「こうなるとケヴィンお兄さんにもお礼言わないとかな。ぎりぎりで切っ掛け作ってくれたって事になるし」

 …。

 秋白は、今度はこちらに振って来た。

 …いきなりそんな事を言われても困るんだが。この場面で勝手に共犯扱いされてもやっぱり色々と釈然としないし――そもそもこれで朱夏を殺した事になるのか? とも思う。そう思う俺の根拠は今そこに龍樹が居る事。…今の朱夏と同じような消え方をした事がある前例が、今そこに健在で居るんだが。
 そう伝えたら、今度は龍樹がこちらを見た。

「…それは」
「彼に訊いても答えは出るのかな? 今、一番手応えの有無がわかってる筈の人が何も言い返して来ないのはどうしてだろう」

 何か言い掛けた龍樹の言葉を遮るようにして、秋白がまた重ねて来る。
 それでも蓮聖からの――秋白の言う「一番手応えの有無がわかってる筈の人」からの反論は、来ない。
 龍樹も秋白に遮られたそのまま、新たに言葉を続けようとはしない。
 …と、言う事は、俄かに信じ難いが本当に秋白の言う通りなのか? とも思えて来る。

 と。

「違うよね」

 今度は舞の声がした。
 俺が今思った事を、すぐに否定するみたいにして。きっぱりと迷いが無い、よく通る声での当たり前みたいな反論が一気に耳に届く。

「朱夏さんは今ので殺されてなんかない」

 続けながら、これまた当たり前みたいに舞が前に出て来る。俺や慎十郎らと同じく一歩下がって状況を見ていたところから――秋白の、すぐ前にまで。

「一番わかってるのは、蓮聖様じゃない。あなただよね」
「――」
「だって、あなたの中に『戻って』る」

 そうだよね? と。
 舞は秋白をじっと見たまま問いの形で――でも確信してるみたいな言い方で言ってのけている。但し、言っている意味がこれまた良くわからない。…言われてみればさっき「今の朱夏はボクの一部」だとか何とか秋白が言ってたか? とは思うが。
 ただ、舞に迫られてはっきりそう言われた秋白は――気圧されるようにして軽く仰け反ったかと思うと、何やらあっさり諦めたみたいにふっと身体から力を抜いた。それから、あーあ、と残念そうな声を上げたかと思うと、ずるいよこんなおねーさん連れて来てるなんて、と蓮聖を見てぼやいている。

「まぁ、あなたが『わざわざソーンに連れて来た』人たちの事を大して気にもしてなかったボクが甘かったんだろうけどね。舞姫だったっけ。そんなにあっさり喝破しないでよ。…せめてもう少しくらい、自分の娘をその手で殺した気持ち味わってて欲しかったんだけど」

「…ああ。充分味わわせて貰ったさ」

 応えたのは、今度こそ蓮聖の声だった。
 やっとまともに反応する気になってくれたらしく、片手にぶら下げたままだった大薙刀を何処へともなく仕舞った――と言うより消したかと思うと、秋白の――舞とか俺たちの居る側へと漸く向き直っている。蓮聖のその手許では、何故か大薙刀と同じ色の数珠を己の手首に通しているのが見えた。…今はそんな場合ではないだろうと漠然と思ってはいたが、あの大薙刀とその数珠はひょっとして同じものなのかと少し気になった。
 と、蓮聖がちらりとこちらを見る。…どうやら今のこちらの考えもまた読まれたらしい。俺を見て、ほんの少しだけ、笑ったような気がした。…何となく、張り詰めていた何かが解けたみたいな態度にも感じた。
 それを見て、秋白の方から、へぇ、と声がした。

「何が充分? まだまだ全然足りてないと思うけど」
「そうだな。お前にしてみればそうかもしれない。…秋白。私は、どうしたらお前に報いる事が出来る」
「言うに事欠いて今更それ? もう全部遅いって知って――」
「違う」
「何が」
「お前はそもそも『私の代わり』にされてはいない」
「…は? 何言って…」
「――…龍樹も。秋白を殺しても何も変わりはしない。それどころか朱夏をもう一度死なせる事になるだけだと――もう察しているだろう?」
「…。…舞姫の言った通り…そういう事、なのですか」
「ああ。気付くのが遅れた。朱夏はそこに居る。…秋白。お前が繋ぎ止めてくれていたのだな」
「…。…そんな言われ方されてもね。繋ぎ止めたって何? ボクは横から奪っただけだよ」
「それでも。お前が取り込まねば霧散していた魂だ」
「…。…知らないよ、そんな事」
「本当に?」
「…」

 秋白は黙り込む。蓮聖の短い念押しを受けてのその反応――ふいっ、と顔を背けてもいた。が、どうも態度からして否定し切れていない気がした。そう思ったら――何かいきなり睨まれた。…こちらの考えが伝わっていたらしい。
 それらの様子を見ていたかと思うと、蓮聖は当たり前みたいにその場に屈んで、片膝を着いた。それから秋白に向かって深く頭を下げている。…ちょっとびっくりした。
 秋白も同じくびっくりしていたようで、軽く目を瞠っている。

「…何やってんの」
「これで済むとは思っていないが、謝らせてくれ。これまで辛い目に遭わせたな。すまない事をした。そして我が娘を繋ぎ止めてくれた事、礼を言わせてくれ」

 いきなりそう来るとは思わなかったんだろう。秋白は次の言葉に困った感じで、自分に頭を下げる蓮聖を黙って見下ろしていた。さっきまでの様子からするとここぞとばかりに罵り倒しそうなものなのに、そうもしてない。
 ただ、暫くそんな蓮聖を見下ろしていて――秋白は漸く、次の言葉を発した。

「…そんな事より、さっきのあれ、どういう事」

 受けて、蓮聖は頭を上げる。…秋白の問い。何処に掛かるか――そもそも私の代わりにされてない、とか何とか蓮聖が言ってたあれだろうかと思う。蓮聖もすぐに気付いたようで、これから話すとでも言うように秋白に小さく頷いて見せた。それから着いていた膝を上げて再び立ち上がると、今度は俺含め周囲の皆を見渡して――少し長くなりますが、聞いて頂けますか、と前置く事をする。



 要するに、事ここに至って、やっとこさ暴れるのを取り止めて話し合う方向に持ち込めた事になるらしい。少なくともこの一連の事態の一番の原因らしい蓮聖が、秋白と龍樹の暴れる動機自体を否定した…って事なんだと思う。その時点で蓮聖が話さなきゃ納得行かんだろう事が出て来た訳で――秋白と龍樹の方でも、ひとまず話を聞こうと言う態勢になっている。

 そして、蓮聖の話が始まった訳なんだが――ここまで来たら最後まで付き合ってやると言う気にはなっていたんだが、内容を聞くにつれ面倒臭さがまた増して来た。噛み砕いて理解するのが面倒臭い話だった上に、そうやって理解しても今はさておき後々右から左に抜けていきそうな話の気がして。…まぁ元々、若干傍観者的な立ち位置だったとは思うし。細々関わっちゃいるが、肝のところにはあまり関わってないと思う。…実際にさっきの守護聖獣っぽい幻聴?にも全き傍観者とか言われたし。
 つまり結局、俺にしてみれば最後まで付き合ったのは…ただの意地だった気がしないでもない。俺は意外と、こういう面倒臭くなるとわかっている事にも意地になって付き合ったりもするらしい。…新しい発見である。

 曰く、蓮聖は元々蓮聖たちの故郷世界の「仕組みの一部」で…何だかんだとよくわからん言い回しをされたが、俺なりに噛み砕くと要するに「世界そのもののリセットスイッチ」みたいなものだと説明された。その為に人の形を取ってるけど本当は人間じゃないんだとも。で、人間じゃないのに人の形を取ってる理由は、そのリセットスイッチは「肉の人として死ぬ事」で入るとかで、何だそれとは思った。が、そういうものなんだと説明されたら、ああそうですかと受け止めるしかない。まぁ、取り敢えず難儀な話だなぁとは思う。
 また、リセットスイッチとして死んでもいちいちリセット後の世界に「次のリセットスイッチ」としてまた居る事になるとかで、そうなるとリセット前の世界の事をすっぱり忘れてしまうとも言っていた。…その辺りについては色々後腐れなくて楽そうだなとかちらっと思ったが、その役目自体が「よくわからん理由で死ぬ事」となると、別に羨ましくも何とも無い。

 で、それがまず話の大前提で、蓮聖がそのリセットスイッチの役目から逃げた、のが要するにこの一連の騒ぎの大元になるらしい。…その理由は、惚れた相手と娘が出来てまともに人間らしく生きたくなったから。まぁ確かに、まともに生きるならそんな役目が嫌になるのは当たり前だろうと思う。それがあの三つ巴の時に言ってた「人として生きたい」発言の意味か、とわかった。
 ただそうすると、故郷世界にとってはその仕組みの代わりをこなす奴が必要になって来るとかで、その代わりとして選ばれたのが秋白…だったらしい。少なくとも秋白はそう思っていて、そんな役目から逃げ出して自分に押し付けた前任者こと蓮聖に対して意趣返しがてら嫌がらせを仕掛けてた――仕掛けようとしていた、と言う事らしい。…まぁ確かに、いきなりそんな訳のわからないとばっちりを受けたなら仕返しがてらそうしたくなるのもわからなくも無い。とは言え俺が自分に引き寄せて考えるなら、面倒臭いが先に立ちもするが――ひとまずそれで秋白は生命についてどうのこうのと話していたのか、とは何となくわかった。
 蓮聖曰く、秋白は本当は、「代わり」として選ばれてもいなかったらしい。世界に選んだ振りをされたとか勘違いさせられたとか思い込まされたとかまたややっこしい言い方をしてはいたが、結論から言うと秋白は「仕組みの一部」じゃないと言い切れるのだとか。要約すると、今の蓮聖に役目の記憶がある事と同時に、今の秋白に役目を得る前の記憶がある事自体がその証拠、みたいな言い方をしてもいた。本当に代替わりをしているのならその記憶自体無くなっている筈だとか。
 …その時点で秋白の暴れる動機が消える。と、話を聞く限り俺なんかは思うんだが、秋白が「代わりにされた」と思い込むのも何だかんだで仕方が無かった事になるらしく、辛い目に遭わせたのは間違いないからとか何とかで…それで蓮聖は秋白に何言われても気が引けてるみたいな変な態度を取り続けてたって事になるらしい。

 朱夏については、故郷世界で人間らしく生きてる時に何かの理由で死んだらしい。…この辺については俺も前にある程度聞いてはいる。ただ本当のところは蓮聖が役目を果たす邪魔になるって世界の理に魂ごと消されたようだと後でわかったとかで…それでソーンに居る朱夏が生きてるのか死んでるのかよくわからん言い方をずっとしていたのかとは一応察しが付いた。
 で、その肝心の朱夏についてはどうやらその「死んだ時」に、秋白が「蓮聖を苛める道具」に使おうと魂を取り込んでいた事になるらしい。…それがどうも、結果的に世界に消される直前だったっぽいとか何とか。ついでにその秋白が蓮聖の役目を受け継いだっぽい感じになってたから、朱夏は消されず見逃されたんじゃないか、とも。まぁそうは言っても朱夏としては父親をどうこうする為の道具にされたくはなかった訳で、何かの理由で秋白の支配が緩んだところを見計らって、その支配から逃れようとした結果が今の燃えてる状態だったとか。曰く、あの物理的に燃えている力は秋白の手の内に居ないと制御出来ないものだったらしい――つまり朱夏は暴走承知でやって予想通りに暴走したって事なんだろう。

 で、今朱夏のあの炎が落ち着いている理由としては――俺が聞いたあの幻聴?が関係してるらしい事がすぐに判明した。と言うか、背後霊か何かみたいに唐突に秋白の後ろに「燃えていない」朱夏が出た。その朱夏曰く、蓮聖と秋白と龍樹が敵対するだけでは無くまともに力を合わせられている様子を――言葉が届く事を見届けた事で、ほっとしたらしい。恐らくはその心の動きが理由で守護聖獣の力も上手く借りられたようで、秋白の支配から離れても何とかあの炎が制御出来るようになった、と言う事なのだとか。
 …まぁそれでも、魂の根の部分はまだ秋白にあると言う事にはなるらしい。

 龍樹の話も聞いた。蓮聖の「役目」については知らなかったようだが、何か覆し難い理由から秋白が蓮聖を脅かすものだとだけは認識していて、だからこそ秋白を排除しようと動いていた事になるらしい。…それで秋白を探していた。俺を殺し掛けた例の時は、凄く乱暴な話だが、暴走していると同時に単に色々「調査中」の状況だったのだとか。あの土色の炎の力で触れるだけで色々と周りの事はわかるらしく、要するに朱夏とここソーンで初めて顔を合わせた時点で無意識下でそうする必要を感じたとかで…その為にやっぱり暴走承知でやった、と言う事だったらしい。荒れ狂う理由を探している、と言うのはそういう事だった。

 何か洒落にならない傍迷惑なやり方が二人とも同じだなと思ったら、蓮聖からそこについての推測も来た。曰く、龍樹の魔性は元々、朱夏と同じものに成ろうとした結果生まれたものじゃないか、との事。父親が人間じゃないとなれば娘も勿論人間とは言い切れない訳で…更に言うなら蓮聖の惚れた相手と言うのが人の似姿を取る訳でも無い緋桜の精霊で、朱夏は蓮聖自身の姿を映してその精霊が生み出した存在だとか何とかまたややっこしい事を言われもした。
 …ただそれひょっとして娘と言うより惚れた相手当人って可能性も無いか? と少し思ったが、そんなところで混ぜっ返しても余計面倒臭い事になる気がしたので特に他へ伝えるつもりで考えてはいない。…と言うより、当事者間では敢えて表に出さない暗黙知な事の気もしないでも無い。それでも、朱夏の事は娘と扱う事にしたんだろう、と言う気もする。
 とにかく、そんな朱夏に深く寄り添った結果、己の存在ごと本当に変わる事が出来てしまったのがあの龍樹の魔性だろうとの話で、そんな事も有り得るのかとちょっと感心した。…少なくとも、俺はそんな面倒臭い事を考える気にもなれない。
 かと思ったら、慎十郎の方にも話が飛んだ。曰く、ちょうど「逆」に当たるとか何とか――人になった精霊を祖に持つ者だとかそんな唐突な話にもなった。…聞かされた慎十郎当人が一番驚いていたんだが、それでさっきのあの光の壁を作る力があったって事にもなるらしい。あれが証拠だとか何とか。
 …確かに「逆」が居るなら龍樹の魔性についてそういう推測が出るのも、まぁ、わからなくはない。

 脅かすものだと思っていた秋白の方が脅かされていると蓮聖に言われてしまい、朱夏が秋白の中に居るとまで知らされてしまえば龍樹の動機もまた消える。が、それでも蓮聖が役目に戻らなければ結局根本的な解決はしないとかで、蓮聖は役目に戻ると言っていた。…それは蓮聖個人にとっては何の解決にもなってないんじゃないかと思ったが、もう、そう決めたらしい。

 そんな話を、色々された。



 決めたと言うなら、こっちがとやかく言う事じゃない。俺の方はそう思うが、他の当事者連中はあんまりそうでもない感じだった。まぁ、秋白の方としては蓮聖に振り回すだけ振り回された訳だし、龍樹の方としてはあれ程の無茶して守りたいって言ってた相手が一人で死にに行くって言ってる訳だから当たり前だとは思うが…多分、こいつは一度決めたら覆す奴じゃないだろうなとも思っている。
 それは多分、他の奴らもわかっている。

 だから、せめて思い出の一つでも作ってから行ったらどうだ? と提案した。
 思っただけで口に出した訳でも無かったんだが、皆の視線が一気にこちらに向いた。





 とは言え今の白山羊亭の惨状を放っとく訳にも行かないだろうし、ある程度の間を置く事にはなる。
 その間で、当事者連中は色々と改めて話し合いもしたらしい。
 秋白と蓮聖は少々角突き合いもしたとかしないとか。

 決まったのは、帰るのは蓮聖だけで、蓮聖以外はソーンに残る事。
 曰く、蓮聖が頼んだ事らしい。
 …要するに、自分と深く関わった者をリセットさせたくないと願ったのだとか。ここは故郷とは異世界で蓮聖の役目の理が届く場所じゃないから、それが可能だろうって事らしい。
 それが叶うなら、自分の生きた証に、希望になるから、と。
 そこまで言われて、龍樹や朱夏も呑み込んだらしい。
 秋白もその願いを呑んだのは少々意外だったが、まぁ何かそうしたい理由もあったんだろうと思う。…心当たりが無いでも無い。

 俺はと言うと、最後まで付き合うと言っても――当然、すぐに出せそうにない決断が出るまでべったり張り付いている訳では無かったので、後日、ひとまずは例の携帯火種兼灰皿?らしいケースを慎十郎に返しに行く事を優先した。アルマ通りの裏通りに研ぎやら彫金その他を請け負う店を構えていると言う話も知り、俄然興味も湧いた。…いや、可能なら奴の手許にある武器がもっと見たかったので。因みに、返しに行った当のケースについては、やるっつったろと逆に突き返された。…本当に貰っていいのか、これ?
 さておき、そこで蓮聖の持ってた青銅の数珠と大薙刀についてもついでに聞けた。やはり二つは同じものだったらしい。蓮聖の守護聖獣タロスの聖獣装具で、質量を無視して任意の道具に変形させられる代物なのだとか。…取り敢えず持ち運びに便利そうだなと思う。…後で見せて貰おうと心に決める。

 …『後で』。

 そう、一応、後で会う約束は取り付けてある。何事かと言うと、「思い出作りに何をするのか」の幹事的な役割を俺が任されてしまったような状況だったりする。…この俺がである。その時点で俺的に一番有り得ない状況になっている気がしてならないが…何故かそうなってしまっていた。
 多分、提案したあの時、何がしたいか先に頭に浮かんでしまっていたからだろう。…前に、秋白と遭遇した時にした、アレ。

 釣り。

 もし出来るのなら、もう一度魚でも釣って皆で食べたらどうかと考えた。…そしてその提案が何やらあっさり通ってしまった訳である。
 それでいいのかともちらりと思ったが、まぁ結構、いい思い出にもなるだろう。

 傍観者の俺に出来るのは、結局それくらいの事だと思うし――それで充分なのだとも、思う。


【炎舞ノ抄 〜 el-blood BorderLine. 了】



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 登場人物紹介
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 ■3425/ケヴィン・フォレスト
 男/23歳(実年齢21歳)/賞金稼ぎ

■NPC
 ■風間・蓮聖

 ■朱夏
 ■佐々木・龍樹

 ■舞
 ■夜霧・慎十郎

 ■秋白