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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


研究所〜キメラ〜

<オープニング>

「鳳研究所をご存知ですか?」
「製薬の研究なんかを行っている大手薬品会社お抱えの?」
「流石は探偵事務所の方。よくご存知ですね」
仕立てのいい、外国産のスーツを着こなした男が感心したようにうなづいた。
「で、ウチに何の調査依頼を?言っておきますけどウチは産業スパイみたいなことは請負ませんからね」
「所長・・・」
お茶を運んできた秘書が、草間の無礼な言い方を注意する。
「いえ、おかまいなく。そのようなことをお願いしにきたのではありません。実はとある方からのご依頼でこの研究所で行われている研究を調べてきてほしいのです」
「それは産業スパイと一緒でしょう」
「研究所の中で何が行われているかだけを調べてきていただければ結構です。研究結果などを盗み出していただく必要はございません」
男は机の上にアタッシュケースを置き、開けた。中には札束がぎっしり入っている。一千万は下らないだろう。
「いかがでしょう?前金でこれだけ。成功された場合この3倍の金額をお支払いします」
「それだけやばい依頼・・・ということですかね?」
「私の口からは何とも。とにかく前向きに検討していただきたいと思います。それでは今日はこの辺で。明日お返事をお伺いに参ります」
男が去ると、依頼を受けに興信所を訪れていた貴方たちに向かって草間が問い掛ける。
「ってことなんだがどうする?報酬は破格だが・・・」

<依頼受注>

「うっわーすげえ、初めて見たなぁ、こんな大金」
デスクの上に置かれたアタッシュケースの中身を見て、栗毛色の髪の毛の少年が声を上げた。大きく、元気一杯に輝く瞳が特徴的な長身の少年である。陰陽師である九夏珪であった。
少年の素直な言葉に草間が苦笑する。
「確かにウチの依頼じゃこんな高額の依頼は受けられないからな」
「よくこんな依頼受けるなぁ、明らかに怪しいじゃん」
確かに研究所の調査依頼にこれほどの高額の報酬とは明らかにおかしい。何か裏があると見るべきだろう。
「もしかして、この依頼の本当の理由を知りたいから?」
そう尋ねたのは、細い華奢な体つきをした女性だった。黒い瞳に黒い髪。一般的な日本人の容姿のように見えるが、どことなく異国の雰囲気を漂わす妙齢の女性。それもそのはず、彼女は香港からの留学生なのだから。彼女、杜こだまは都内の大学に通いながら、親戚の仕事である風水の手伝いをしている。
だが、それだけではやりくりが厳しいのでたまに興信所に訪れ依頼を受けたりしている。
「それもあるし、やっぱりこの金額は魅力的だろう」
「私は怪しいとしか思えないけど・・・」
杜はこの依頼に乗り気ではないようだ。だが、九夏は、
「肝心な研究結果が不要って所がまた怪しさ倍増だね」
と興味津々の様子で鞄からノートパソコンを取り出し、携帯電話と接続する。
「九夏は受けると。杜はどうする。止めとくか?」
「私は・・・」
草間の言葉に悩み口篭もる杜。
そこへ。
「受けちゃえよ。ボクも手伝うからさ」
入り口からかけられた声に杜が振り返った。
「心」
心と呼ばれた小柄な少年は、九夏と同じようにノートパソコンを取り出しながら杜の隣のソファーに腰掛けた。九夏よりも幼い、まだ中学生でも通じるような容貌。
だが、何よりも特徴的なのはその翠の瞳である。エメラルドを削りだし、そのまま瞳にしたような輝き。一般の黒い瞳では見られない美しさがある。杜の知り合いである雪村心である。試験休みでふらふら町を歩いていたら、興信所に入っていく杜を見つけ後をついて来たのである。
「迷惑掛けないでよ?遊びと違うんだから・・・。」
「大丈夫さ。そんな奴に任せないで、情報収集はボクにやらせなよ」
いきなり現れた自分より年少と思われる男にそんな奴呼ばわりされて、流石の九夏もムッとして言葉を返した。
「随分自身があるじゃんか。そんな薄っぺらいパソで企業のデータなんか調べられんのかよ」
九夏の言葉どおり、雪村が使用しているノートパソコンはかなり薄い造りになっている。
「これは藤通の最新型さ。旧来のノートパソコンの倍の容量を誇るんだ。君みたいなロートルで馬鹿でかいノートパソコンとはわけが違うよ」
雪村は実家が資産家だけに高性能の最新型ノートパソコンを持っている。それを自慢げに見せる彼に九夏はふんと鼻を鳴らした。
「新型だからいいってもんじゃない。俺のは確かに普通のノートパソコンの3倍の重さだけど、容量はデスクトップ型と同等なんだぜ。それにお前ハッキングなんかできるのかよ」
「当然だろ。一般企業の機密情報が盗めなくてどうするんだよ」
「へぇ〜。ほんとかね。どうせ盗むだけで終わりでウィルスなんて構築できないいんだろ。」
「ウィスルくらい簡単さ。なんならこの研究所でどっちがどれだけ早く、有益な情報が得られるか勝負するかい。もっとも勝敗は見えているけどね」
「やるかよ」
「やるか」
二人は見えない火花を散らすと、猛烈な勢いでキーボードを打ち始めた。二人のキーをたたく音が興信所に響き渡る。
「ち、ちょっと!なに子供みたいなことやってるのよ。こういうときは協力して・・・!」
静止する杜の言葉などどこ吹く風。二人は既に「こいつにだけは絶対負けん!」という顔で一心不乱にタイピングしている。
「ほっとけ」
子供の喧嘩を繰り広げる二人を呆れ顔で眺めながら、草間は煙草をふかすのだった。

<研究所>

鳳研究所。東京の郊外に存在するその研究所は大手製薬会社である山手製薬直轄の研究所である。主に製薬の開発を行っているが、遺伝子工学にもいち早く目をつけDNA研究でも成果を上げている研究所である。
杜は雪村と九夏の二人を伴い、この研究所を訪れていた。二人がネットから仕入れた情報から、現在研究所では新製品の保湿クリームのテスターを募集していることが判明したので、テスターとして研究所に訪れて見ることにしたのだ。
「株価はそこそこ安定してるね、ここ」
この不景気でも鳳研究所のバックにある山手製薬の株価は安定して伸びている。だが、別に新薬は開発したわけでもなしになぜ株が上がるのが疑問な点がある。雪村はそう付け加えた。
「どこだかバックアップしてるみたいだぜ〜」
九夏は鳳研究所のバンクをハッキングして調べていたが、山手からの投資とは別に、毎回違う場所から数千万単位の金が入金されていることを掴んだ。その額を総計すると年10億を超える。たかが一研究所に投資する額としては異常な金額である。
「一体誰がバックアップしてるのかしら?」
「それがわからないんすよ。巧みにダミー会社に支払わせてるようでどこが大元なのか・・・」
「それでハッキングしたなんて、笑わせるね」
雪村に鼻で笑われて九夏が言い返す。
「なんだよ。お前だってここの場所とか株価しか調べてないじゃん」
「外部からの接続で無理にセキュティーを解除しようとしたらこっちの存在がバレてしまうだろう。そんな事もわからないのかい?」
「わかっているに決まっているだろう!」
「どうだか」
「いい加減にしなさい!」
エンドレスになりかけた二人の喧嘩を杜が一喝して止めた。
「「ふん!」」
二人は鼻を鳴らして顔を背ける。杜はそんな二人を見てこれから先が思いやられ頭を抱えるのだった。
「今回はわが社の新商品である保湿クリームのテスターにご参加いただけるとのことでありがとうございます。ではまずこのクリームですが・・・」
山手製薬から派遣されている女性社員が、杜を相手にクリームの説明をしている。テスターは誓約書の関係などから20歳以上でないと受ける事ができない。
暇になった九夏は来客用に開放されたPCルームで、研究所と山手製薬に関しての社内案内を閲覧し、雪村は研究所の職員に研究所内を案内してもらうことにした。研究所はかなり広く、薬品開発部、試験部、DNA実験室、薬品庫など様様な場所がある。その中で雪村の目に止まったのは何の表札も置かれていない1Fの薬品庫隣にある大きな扉だった。
「ここは何の部屋なんですか?」
「ここは倉庫です。特にご覧になっても面白いものなどないでしょうから違うところをご案内しますよ」
職員は素っ気無い態度で次の場所に雪村を案内するが、雪村は彼の心を聞き逃してはいなかった。
(おっと危ない。ここを気づかれたら一大事だもんな。ガキめ、余計な事を聞くんじゃねぇよ)。
読心術の能力をもつ彼は、人が何を思っているかが手にとるように分かる。この大きな扉の奥には何かがあるらしい。雪村は職員の後ろ姿を見ながらニヤリと笑うのだった。

<ウィルス>

3人はそれぞれの調査を終え、興信所に戻っていた。杜がテスターとしてもらってきたクリームには特に異常な点は見られなかった。単なる保湿クリームらしい。雪村も施設を見て回ったが、怪しい個所として例の大きな扉の奥を見つけたものの、警備員が多数いるため内部を調査をすることはできなかった。特に手がかりとなるものは見つからなかった。そう思い落胆している二人を尻目に九夏は得意満面ノートパソコンを取り出した。
「へへ、俺ちょっと悪戯しちゃった♪」
彼は器用マウスを操作し、鳳研究所の職員用のHPを開く。
「ここのアドレスを調べたんだけどさ、異様にセキュリティーが厳しくてさもぐりこめなかったんだ」
「それじゃ、ボクたちと変わらないじゃないか」
口を尖らす雪村に、しかし九夏の余裕の笑みは消えない。
「人の話は最後まで聞けよ。だからさ、連中のボックスにメールを送りつけてやったんだよ。ウィルス入りのな」
「ウィルスを!」
「丁度俺たちが帰ってくるころにドッカンするように仕掛けたんだけどどうなってるかな〜」
九夏は口笛を口ずさみながら、パスワード解析ソフトを使用する。どうやら内部でウィルスが繁殖しているらしく、パスワード解析にはものの5分もかからなかった。ウィルスの効果は抜群のようだ。
「どうやらこれでOKのようだな」
HPに管理人としてログインした九夏は、内部のデータのコピーを始めた。いまならばセキュリティーも働かず、データを盗める。20分ほどで全てのデータのダウンロードが完了した。
「よっしゃ、これでOKだな」
コピーデータが入ったCD−ROMを取り出し、九夏はニヤリと笑うのだった。
一応内容を見てみたが、複雑な方程式や専門的な用語の羅列に誰もどのような内容か判別することはできなかった。

翌日、依頼完了の報告を聞き駆けつけた依頼人は、CD−ROMの内容を見ると落胆して首を振った。
「残念ですが、この依頼は失敗のようです」
「なんですって!?」
杜が驚きの声を上げる。このデータの中にあの研究所で行われていることが書かれているのではないのか。
「実はこれらのデータは私どもも手に入れていたのです。貴方たちにお願いしたかったのは、その目で研究所で行われていることを見てくること。このデータどおりに事が行われているか
どうかを・・・。ですから詳しいデータは無用と言ったのです」
そういうと、依頼人はCD−ROMを彼らに返すのだった。
果たしてあの研究所ではなにが行われていたのか?それを突き止めることができなかった以上、今回の依頼は失敗だろう。
三人はやりきれない思いを残して依頼を完了するのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0030/杜・こだま/女/21/風水師(アルバイト)
0303/雪村・心/男/15/高校生
0183/九夏・珪/男/18/高校生(陰陽師)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
研究所〜キメラ〜はいかがだったでしょうか?
今回の依頼内容は内部の機密データの回収ではなく、内部で実際になにが行われているかを調べるものでした。よって遺憾ながら今回の依頼は失敗となります。

キメラシリーズはこれからも続きますので、リベンジをはかりたい方はご参加なさるのも良いかもしれません。お疲れ様でした。