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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


狙われたロケ
●オープニング【0】
「面白そうな依頼が来てるぞ」
 そう言って草間が資料を1束手渡した。
「『魔法少女バニライム』という特撮ドラマのプロデューサー、直々の依頼だ」
 『魔法少女バニライム』――月の魔法で正義の魔法少女バニライムに変身した少女、大月鈴(おおつき・りん)が悪と戦ってゆく物語だ。演ずるのは公開オーディションで選ばれた小学校高学年の少女、香西真夏(こうざい・まなつ)だ。
「何でも現場でここしばらく妙な事件が頻発しているらしい。機材が不調になったり、役者の持ち物がなくなったり……突然スタジオ天井のライトが落ちてきたり、とな」
 さすがにこうも続くと芸能マスコミも嗅ぎ付ける。今はまだどうにか押さえているが、このままだと表沙汰になり撮影にも支障をきたしかねない。現に影響は出始めている。
「依頼内容だが、犯人を見つけ出してほしいそうだ。主役を護りつつ、な。スタッフなりエキストラなり、現場に潜り込む手段は各々で考えてくれ、とのことだ」
 別の資料に目を通しながら草間は説明を終えた。
「でだ、当日のロケは外での格闘シーンらしい。採石場だか何だか知らんが、そこでの撮影だそうだ」
 ……特撮らしいといえばらしい場所だ。

●ロケバスの中で【1B】
「鈴花、寒くないかい?」
 世羅・フロウライトが傍らの少女、王鈴花を気遣うように尋ねた。ふるふると頭を振る鈴花。
「ううん、大丈夫。お兄ちゃんこそ……」
「僕は大丈夫だから」
 世羅はにこっと笑みを見せた。
 ここは出演者の待機するロケバスの中。最後方の座席に2人は並んで座っていた。バスの中程には、主役の真夏が座っている。すでに衣装である黒の燕尾服バニースーツ――バニライム変身時の姿だ――に身を包んで。さらに前方には、茶髪のショートカットで灰色のだぼっとしたローブ状の衣服に身を包み、分厚い眼鏡をかけた女性が座っていた。
「鈴花たち……真夏ちゃんとあのお姉さんと一緒に出るんだよね?」
「ああ、そうだよ。僕らと一緒に事件に巻き込まれた近所のお姉さん役だって」
 世羅が先程女性の言っていた言葉を思い出しながら説明した。
 今日のロケ内容は、事件に巻き込まれた3人を連れてバニライムが逃げ回り、そして戦闘に入るというものだった。スタッフの説明によると今日は戦闘シーン先行型らしく、物語の前半部分は後で撮影するとのことだった。
「……一緒に来てくれたお姉ちゃんは?」
 鈴花が窓の外を見つめた。スタッフが忙しく動き回っているのが見えるが、鈴花が言う女性の姿は見当たらない。
「サイデルって人だね。監督と何か話していたのは見かけたけど……他の仕事があるって言ってたから、多分それじゃないかな?」
「そうなんだ……」
 2人がそんな話をしていると、真夏が席を立ってそばへやってきた。
「この間はありがとう」
 真夏が笑顔で挨拶をした。頭の上には、ぴんと立ったうさ耳がついている。
「鈴花ちゃんが気付いてくれなかったら、大怪我してた所だったって皆で話してたんだよ」
「そんな……。鈴花、別に……」
 照れる鈴花。
「今日は長い時間一緒だから、よろしくね」
「こちらこそよろしく」
 世羅が手を差し出した。反射的に手を握り握手する真夏。電気が流れるがごとく、世羅の脳裏に真夏の思考が流れ込んでくる。
 不安――笑顔の裏にある真夏の気持ちを、世羅は感じて取っていた。

●大丈夫【2C】
「真夏ちゃん先頭に向こうから全員走ってくる。その背後で2度、3度爆発が起こる……」
 大きな身振り手振りを交え、『魔法少女バニライム』監督の内海良司(うつみ・りょうじ)が出演者たちに説明を行っていた。相変わらずサングラスにスキンヘッドで、見ていて頭が寒そうであった。
 内海の話に熱心に耳を傾ける4人。発破を伴うシーンだけに、気を付けないと怪我をしてしまう。
「やがて、怪人が現れるから、そうなったら真夏ちゃんは皆を逃がす。他の皆は即座にフレームアウトしてくれ。ここまで一気に撮るから、NG出さないよう気合い入れてやってくれ。10分後からリハ行くぞ!」
 説明し終わると、内海は4人から離れていった。灰色の衣服の女性が、内海の後を追った。
「大丈夫かな、鈴花……よく転んじゃうし」
 鈴花が心配そうな表情で世羅を見つめた。
「大丈夫だよ、鈴花ちゃん。その時は、私がフォローするから。ほら、お守りもあるし」
 燕尾服の前を開けてみせ、真夏が言った。中に護符のような物が縫いつけられていた。世羅も鈴花に優しい言葉をかける。
「そうだよ、鈴花。いざとなれば、僕が助けるよ」
「……ありがとう、お兄ちゃん。それに真夏ちゃん」
 鈴花がほっとした表情を見せた。

●怪しい人【3A】
「どう……お兄ちゃん」
 小声で世羅に話しかける鈴花。世羅はゆっくりと首を横に振った。
「芳しくないね。全部とまではいかないけれど、近くに居たスタッフには触れてきたんだけど……」
 世羅は能力を使ってスタッフの思考を読んできたが、たいした情報を得ることはできなかった。
「鈴花も……サイトで調べてきたことと違っててびっくり……」
 周囲を見回す鈴花。ロケ地が採石場ということで、『事故は起こりやすい』『何かの衝撃で石が転がってくるかもしれない』等の一般的な情報は手に入っていた。しかしこの現場、見晴らしがよくて上の方に隠れるような物陰もなく、言い方は変だが上手く開けている土地なのだ。つまり、誰かが上から石を投げ落とすという可能性はかなり低いと考えられる。
「あ、ちょっとあの人に触ってくるよ。鈴花はここでじっとしているんだよ」
 世羅がそう言って鈴花のそばを離れた。その間に鈴花も自らの能力――透視を使うことにした。
(……怪しい人……)
 ゆっくりと周囲の人間を見つめてゆく鈴花。能力を使うとやたら疲れてしまうが、そんなことは言っていられない。
 やがて鈴花の視線がある一点でぴたりと止まった。
「ひっ……!」
 鈴花は思わず短い叫びを上げた。視線の遠く先には、発破用の機材がある。その前に1人の男性スタッフが居た。
 男からは煙りにも似た、黒いオーラが立ち上っていた――。

●予定外【4B】
「はい本番! よーい、スタート!」
 拡声機を通じて内海の声が現場に響いた。すでにリハーサルを終え、本番が始まった。
 走り出す真夏。世羅たちもその後を追うように走ってゆく。
「お兄ちゃん……」
 走りながら鈴花が世羅の顔を見上げた。白い肌が青白くなっていた。
「大丈夫。大丈夫だから。『強い味方』も居るんだから、鈴花」
 小声で鈴花を励ましつつ、世羅は鈴花の手をしっかと握りしめた。
 灰色の衣服の女性は最初世羅たちに並ぶように走っていたが、少しずつ真夏と世羅たちの間に入るように移動していった。
 逃げる4人の後方で最初の爆発が起こる。爆音と共に立ち上る煙。予定通りだ。次は今爆発した場所より3メートル前方で爆発が起こることになっていた。が――。
 再び爆発が起こった。だがそれは、3メートル所の話ではなくさらに前方、真夏たちにより近い場所で爆発が起こっていた。予定とは違う。
 4人の目に、ざわついているスタッフたちの様子が飛び込んでいた。しかしカットの声がかからない以上、演技を続けるしかない。
 そして4人から遠く離れた場所に、怪人が姿を現した。何やら昆虫を模したような衣装であった。
「出たな、怪人クモーナ! バニライムが月の力を借り、成敗してやる!」
 そう叫び怪人の方へ向かってゆく真夏。その瞬間、鈴花の身体がビクンと反応した。
「駄目っ! そっちは……!」
 鈴花が叫んだが真夏の耳には届いていない様子。真夏と怪人の距離は少しずつ狭まっていった――。

●強い味方は隠れた敵【5B】
「そっち行っちゃ駄目ーっ!!」
 激しく頭を振って叫ぶ鈴花。真夏のそばへ駈けてゆこうとするが、世羅の手がそれを阻止していた。
「鈴花、駄目だ! 巻き込まれるぞ!」
「でもっ、でもお兄ちゃん……っ!」
 真夏を護りたい鈴花の想いと、真夏以上に鈴花を護りたい世羅の想いがぶつかっていた。
「鈴花、ご覧よ!」
 世羅が真夏の方を指差し叫んだ。振り向く鈴花。何と灰色の衣服の女性が、真夏の前方へ素早く回り込み立ちはだかったのだ。
「……ほら、『強い味方』の登場だよ」
 笑みを浮かべて言う世羅。鈴花にはそれが何を意味するのか分からなかった。
 灰色の衣服の女性が真夏を強く突き飛ばした。
「きゃあぁっ!」
 悲鳴を上げ地面に叩き付けられる真夏。それに合わせてなのか、遠くで連続して爆発が起きた。だが真夏はすぐに体勢を立て直し、女性を睨み付けた。
「何をするのっ!」
 演技を続ける真夏。すると女性がくっくっと笑い始めた。
「お遊びはここまでだよ、バニライム」
 女性がニヤリと笑い、かけていた分厚い眼鏡を遠くへ投げ捨てた。
「あっ……!」
 女性の顔を見て、驚きの表情を浮かべる鈴花。
「そうだよ、あの人が『強い味方』さ」
 世羅がそっと囁いた。2人、いや真夏を含めた3人の前に、サイデル・ウェルヴァの顔があった。
「怪人と戯れる前に、このあたしが相手さ」
 両手の指をさっと目元に走らせるサイデル。指先につけていた塗料で、朱と蒼の線が走った。
「さあ……亡者のダンスでも楽しもうじゃないか!」
 サイデルが灰色の衣服を鬘と共に一気に脱ぎ捨てた。中から現れたのは、身体にぴたっとフィットした黒革の露出度高めの衣装だった。女王様の雰囲気も混ざったそれは、いかにも『特撮の女幹部』に相応しい物であった。
「バニライム、ここで成敗されるのはあんたの方だよ!!」
 びしっと真夏を指差し、ポーズを決めるサイデル。その背後で今までで最大の爆発が起こった。絵としては美味しすぎる物だった。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
「えやぁぁぁぁぁっ!」
 カットがかからない以上、ぶつかり合ってゆく女優2人。打ち合わせのない即興ではあったが、互いにアクションを繰り広げていった――。

●誰かじゃなく【6】
「お手柄だったな」
 事件の翌々日の草間興信所。草間が一同を前に労いの言葉をかけていた。
「にしても、何でああいうことを……」
 斎悠也が呆れた顔でサイデル・ウェルヴァを見つめた。エキストラとして紛れて、土壇場で敵幹部として登場したことだ。
「『敵を欺くにはまず味方から』と言うだろう? きな臭い噂のあるドラマにゃ、そのくらい必要さ」
 そう言って、サイデルは皆に『魔法少女バニライム』に関する噂をいくつか聞かせた。某大物俳優夫婦の娘がオーディション受けてかなりの裏金を積んでた噂、会場へ来る途中で事故死した娘が居るとか居ないという噂等々。
「真夏ちゃん……そんな世界で頑張ってるんだね……」
 鈴花がぽつりとつぶやいた。
「まあ、あの娘も女優としては立派だから大丈夫だと思うけどねえ。即興であたしのアクションに合わせてきたくらいだからね」
 鈴花を気遣ったのかどうか分からないが、サイデルが言った。
「草間さん、犯人は何て?」
 世羅が草間に尋ねた。
「バニライムが面白くないからやったんだそうだ。だが供述に曖昧な点が多いらしく、本当かどうか分からんがな。それにだ、この間のストーカーの件あるだろう?」
「ああ、あったねえ。あたしが居た時だ」
 サイデルが頷いた。
「何故かこれに関しては、きっぱりと否認しているらしい」
「はあ? なら、他に誰か居るって訳かい?」
「かもしれん」
 草間が溜息を吐いた。
「誰かじゃなく……」
 秋津遼のつぶやきに、皆の視線が集中した。
「……『何か』だったりしてね」

【狙われたロケ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業】
【 0142 / 王・鈴花(うぉん・りんふぁ) / 女 / 9 / 小学生(留学生)。たまに占い師 】
【 0140 / 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと) / 男 / 14 / 留学生 】
【 0024 / サイデル・ウェルヴァ(さいでる・うぇるう゛ぁ) / 女 / 24 / 女優 】
【 0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや) / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 0258 / 秋津・遼(あきつ・りょう) / 女 / 20前後? / 何でも屋 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全14場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の依頼は『小さな女優』『エキストラ、求む』に続く『バニライム』シリーズの第3回でした。今回の事件の犯人は無事逮捕されましたが、何やらまだすっきりしない様子。という訳で、このシリーズは後1回続きます。
・今回は大きくスタッフ側と出演者側の視点に分かれています。人数的にちょうどいいバランスだったのではないかと思いました。
・王鈴花さん、3度目のご参加ありがとうございます。透視したのは正解でした。鈴花さんへの文章では分かりにくいかもしれませんが、結果的に役立っていますから。よかったら他の方の文章にも目を通してみてくださいね。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。