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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


研究所〜背徳〜

<オープニング>

「この頃新型のドラッグが出回っているの、知ってるか?」
 草間武彦は唐突にこう切り出してきた。
「まだ指定されていない麻薬だから法では規制されてないんだが、今ものすごい勢いで出回っているそうだ」
「都内を中心にしてなのですが、覚醒剤などはるかに上回る量出回っているようです」
 草間の後に続いてそう話すのは眼鏡の男。神経質そうな眼鏡をかけた男。
「こちらが依頼人の・・・」
「警視庁の寒川と申します」
 慇懃に寒川は頭を下げる。
「この麻薬なのですが、覚醒剤の倍ほど早く効き非常に効果が高いのが特徴です。すぐに気分が高揚し天国に行った気持ちになれるとか。しかもすごいのが副作用が無いことです」
「普通のヤクって言うのは、心と体もボロボロになっちまうだろ。だけどこのドラッグはその問題がないんだとよ」
 それが本当だとしたら大したドラッグだ。だが、果たしてそんなに都合のいいドラッグがあるのだろうか。寒川も草間も同じような気持ちを抱いているような顔つきだ。同然だろう。うまい話ほど裏があるのだから。
「現状これの調査中なんですが、これの調査を手伝っていただきたいんです。実際にこのドラッグを手に入れていただき、常習者の現状を幾人か調べていただければ結構です」
「だとよ。どうする?ちょっと危険な依頼になるかも知れんが、誰か受けてくれる奴はいないか?」

(ライターより)

 難易度 普通

 締め切り予定日 3/6 9:00

 キメラシリーズ第3弾です。
 東京を静かに蝕む麻薬の調査が今回の主任務となります。売人と上手く接触しドラッグを手に入れられることと、麻薬常習者を探し現状どのような状況になっているかを聞き出すことが今回の内容です。
 場所は新宿歌舞伎町。
 なぜこれがキメラに関係するのか。本当に副作用は無いのか。それにこれを生成したのは何者なのか。それは依頼を受けた貴方だけが知ることとなります。
 ちなみに新型ドラッグの名前はヘブンスといいます。安価で、一回分500円程度で販売されているとの情報が上がってきています。
 それでは、草間の言葉にもありましたが少々危険な依頼ですので慎重にご参加ください。

<信じられないコト>

「そんな都合のいい麻薬が存在するのでしょうか?」
 和服姿の女性が首を傾げた。黒髪、黒い瞳、品位のある落ち着いた立ち居振舞い。大和撫子を体現したかのような楚々な女性。彼女の名は天薙撫子という。現在大学に通う現役大学生だが、家が神社であり厳しく躾られたため、麻薬のような堕落的なものには嫌悪感を抱きあえて依頼を受けた。
「さあな。だが昔から言うだろ、上手い話には裏があるって」
 興信所の主草間武彦が煙草に火をつけながら応えた。つい先ほどまでいた依頼人の事を気遣って煙草を控えていたのだ。天薙は彼の言葉に頷いた。
「何か裏があると見ていいですね」
「だが、今回の依頼はあくまで薬がどう扱われていて、どのような効果が現れているのかを調べるだけだ。間違っても売人を見つけてしばき倒そうなんて思うなよ」
 草間の言うとおり、今回は巷で出回っているというヘブンスという麻薬に関する調査である。ヘブンスは今のところ合法ドラックであり、使用したり販売しても特に規制を受けることはない。医薬品として販売しては罪になるが(厚生省に認められていないため)、末端の売人を捕まえたところで何の解決にもならない。今回はヘブンスそのものに関して調査すべきだろう。
「でも、調査場所って新宿の歌舞伎町なんですよね・・・」
 天薙が不安な表情を見せた。神社で育てられ、見た目どおりお嬢様育ちをしている彼女にとって新宿歌舞伎町、しかも真夜中に訪れるなど初めての経験である。不安にならない方がおかしい。
「誰かと一緒に行かせてもらうか?」
「できればそれが・・・」
 だが、と腕を組みながら煙草を吹かす草間。
「珪の奴をもう行っちまったし、他に残ってる奴と言えば・・・」
 草間の視線が指し示す方向に目を向けてみれば、そこに立っているのは、目にも鮮やか・・・、と言えば聞こえはいいがケバケバしい原色の赤のスーツに、これまた派手な黒字に白い薔薇が踊っているシャツを着た長身の男だった。ご丁寧にも髪は脱色している。
「あん?俺と行くのか、ねぇちゃん?」
「・・・・・・」
 その男の姿を見て天薙は言葉を失い、ぎぎぃと音を立てて草間を見つめた。天薙の言いたいことが分かった草間は男について説明する。
「こいつは都内の高校の教師をやってる・・・」
「有賀仁ってんだ。仁でいいぜ」
 有賀の説明を受けた天薙は今聞いたことが信じられなかった。かすれた声でかろうじて問う。
「高校・・・教師・・・?」
 鎮痛な面持ちで首を縦に振り肯定する草間。彼女は自分の目の前が暗転するのを感じた。
 そして・・・。
「はう・・・」
 バタリと気絶してしまうのだった。

<潜入調査>

 新宿の町にはたくさんの若い少年少女たちがたむろしている。彼らの中には、夜、数人で集まり、路上に座り込んでとりとめもない話を一晩中したりする連中がいる。数人で集まる事からチーマーなどと呼ばれたりする彼らは、家にいても楽しくなく、かといって何か打ち込むものがあるわけでもない。日々を「なんとなく」という惰性で過ごし生き甲斐を見出すことのできない子供たち。この日本に覆う閉塞感を体現したかのような存在である。だが、何とも恐ろしいのはそれを注意する大人がいないということである。親たちは子供が深夜家にいなくても心配しないのだろうか。警察などが補導に乗り出すこともあるが、それはごくわずかな限られた範囲でしかない。彼らの中には、安易な気持ちで薬物などに手をだす者が後を絶たない。外国人や暴力団などの売人は彼らを格好の餌食として薬物を販売する。高層ビルが立ち並び、深夜は様様な店のネオンが光る眠らない街新宿。不夜城として名高いこの街の闇の一部分がここに現れている。
 そんな夜の街中を一人の少年が歩いていた。この町に似つかわしい現代風のカジュアルな服装をした少年。その髪は赤茶色に染めれられている。彼は適当なチーマーの連中を見つけると親しげに語りかけた。
「いやー、オレ金欠なんすけど、安くて良質なヤクが最近ここで手に入るって聞いてさー。知らない?」
「はぁ?なんだよそれ?」
「知らねー」
 大抵はそんな答えで、目的の薬物に関する情報は無かった。だが、持ち前の明るさと人懐っこさで徐々に彼らに受け入れられていった少年は、それを実際に使ったことがあるという少女に出会うことができた。
「アタシ、使ったことあるよ」
「どんな感じなんすかねー。やっぱ、すっげぇ、イイカンジなんすか?」
「う〜ん、今までやってきた中ではそこそこかな。けっこう早めに効くんだけど、持って一時間くらいかないい気分が続くのは・・・。なんていうかやる気が出てくるのよね。すごく元気になるみたいな感じで・・・。500円にしちゃ結構楽しめるかなってカンジ。それにご飯を食べなくても平気になるのも捨てがたいかな」
 そう言ってカラカラと笑う少女。どうやらあたりのようだ。彼女は何度も薬物に手を出しているようで、剥き出しの腕にはうっすらと注射の後か残っている。顔色も濃い化粧でごまかしているもののあまりよくはないようだ。手足などかなり痩せて棒きれのようである。
「ところで、何歳なんすか?俺18なんだけど」
「え〜18なの〜?とてもそうは見えないな〜。アタシは13だよ」
 香織と名乗った少女はそう陽気に答えた。13で深夜にこんなところをうろついていて親は心配しないのだろうか。少年がこんなことをしたら保護者兼師匠の容赦のない鉄拳制裁が待っている。明らかに異常ではあるが、今は調査が先決である。
「俺、金欠なんすけど、それやってみたいなー。売ってる人教えてくれない?」
「いいよ。お兄さん友達幾らでも連れてきていいって言ってたし。ねぇ、君はなんていうの?名前教えてよ」
「俺?俺は九夏珪。珪でいいよ」
 若き陰陽師はそう答え人懐っこい笑みを浮かべるのだった。
 その光景を物陰からひっそりと見つめている男がいた。長身の、まだ青年と言っていい顔つきのその男は九夏の行動を見つめながらため息をついた。
「また随分と派手な髪にして・・・。珪殿にあんな趣味はありましたかね?」
 仕事の帰りに立ち寄った歌舞伎町で、偶然珪の姿を見かけた彼は、普段の珪を見ていてこんな似つかわしくない場所にどうしているのだろうと訝しみ様子を見ていたのだ。珪は彼にとって知り合いの愛弟子にあたる。
 彼の後を追っているうちに彼が最近歌舞伎町を中心に出回っている新種の薬物について調べていることを知った彼は釈然としないものを感じていた。
(珪殿が麻薬・・・。それにあの髪・・・。どうも似つかわしくありません。もしかしたらアレについて調べているのかもしれませんね)
 彼の言うアレとはヘブンスの事である。副作用の無い、都合の「良すぎる」麻薬。どうにも引っかかるものを感じていたが、もしかすると裏があるのかもしれない。それなのにあのような無防備な調べ方をしていては火傷をしかねないだろう。麻薬を取り扱う組織というのはかなり用意周到な連中が多い。
「…彼に何かあると薫様が悲しみますし」
 主のためにも彼が心配な男は、一枚の符を取り出すと地に放った。すると符を瞬時に鼠へと姿を変えた。それは陰陽師の間でよく用いられる式神の呪と呼ばれるものである。呪符に魔力を込め、擬似的な生命体を生み出す術。男は自らが生み出した鼠に命を下す。
「いいですか、あの少年の後をつけてください。何かあったらすぐに知らせるように。行きなさい」
 鼠は勢いよく走り出した。後は式神が伝えてくれる情報を元に行動すれば良いだけだ。
「さて、何事もなければ良いのですが・・・」
 そうつぶやく男の顔には九夏を憂う表情が浮かんでいた。陰陽師雨宮隼人。それが男の名だった。

<社会勉強?>

 新宿歌舞伎町二丁目。ゲイバーやおかまバーが乱立する歌舞伎町の中でも特に傾いている場所。
 有賀に連れられてここを訪れた天薙は、バーや風俗店のかしましいネオンの光や、引き込みの店員などに声をかけられるなど、初めてだらけの世界を目にして面食らっていた。
「ここ・・・どこなんですか?」
「どこって・・・歌舞伎町だが?」
「いや・・・そういう意味ではなくて・・・」
 不夜城新宿のもう一つの顔。実社会からつまはじきされた彼らが唯一偏見の目で見られずに受け入れられる場所。天薙には理解できない世界である。
「どうしてこんなところに来たんですか?麻薬の調査なのに・・・」
「だから来たんだよ。まぁ、俺に任せとけって」
 そう言って彼が案内したのは、一際派手な看板を掲げるゲイバーであった。黄色いネオンが輝く看板には大きな赤い文字で「エルドラド」と書かれていた。
「あらぁ、誰かと思えば仁ちゃんじゃない〜。どうしたの、久しぶりね」
 彼らを出迎えたのは、2M近くの慎重を誇る筋骨隆々の巨漢であった。ド派手なピンク色のドレスを着て、金髪のかつらを被り、真っ白な白粉に真紅のルージュ。天薙は彼を見て完全に目が点になっていた。
「よう。相変わらずごつい格好してんじゃねぇかママ」
「もういやねぇ、私みたいのは豊満な体つきっていうのよ。それよりその子誰?見かけない顔だけど新顔さん?」
 バーのママは有賀の傍らで呆然と立っている天薙を見て問うた。
「ああ、こいつは天薙って言うんだ。一応言っとくがノーマルだぜ」
「あらそうなの。それは残念ねぇ」
 綺麗な顔してるからうちに勤めて貰えればよかったのに。心底残念そうに言うママに、いささか圧倒されながら天薙はお辞儀をして挨拶した。
「は、初めまして。天薙撫子と申します。そ、そのこういうところは初めてで・・・」
「そうね、普通の人は確かにこんなところにはあまりこないわ。さ、座って」
 二人を席に案内しながら、ママはポケットから煙草を取り出して火をつけた。煙を吸うその顔は憂いを帯びている。
「あ、あの私失礼な事を・・・!」
「違う違う。別にそういうわけじゃないのよ。ただ、この街には社会に受け入れられない人間が集まっている。普通じゃないというレッテルは貼られてしまってまともな生活をおくれない人もいるわ。別に犯罪を犯したわけでもないのにね。」
 そう言ってママは苦笑した。
 現在の日本では性についてたくさんの問題を抱えている。特にゲイやレズなどに関しては、先天的なものであるというのに、人間失格的な扱いをしている人間が多数いる。実社会では変人扱いされて私生活に支障をきたし、就職したりするために自分がゲイやレズである事を隠して思い悩んでいる人々の数は現在も増えつづけているという。
「貴女も私の事、変だと思うでしょ?」
「い、いえ、そんなことは・・・」
「無いって言える?」
 天薙は言葉に詰まる。心の奥底で異質なものと見ていたのに違いはない。
「いいの、いいの。気にしないで。本当のことだから。それに仁ちゃんもね、ほんとは・・・」
「ママ!」
 ガタン、と音を立ててグラスがテーブルに置かれる音が店に響いた。
「そのことは言わない約束だろ」
「そうだったわね。悪かったわ」
 普段はいつもにやけていて軽そうな男と見ていた有賀が今は真剣な顔でグラスに残った水を見つめている。こんなに激昂するとはママが言いかけた事は彼にとって他人知られたくないことなのだろうか。
「有賀さん・・・?」
「わりぃ。ついカッとなっちまって。だけど人には誰にでも知られたくない秘密ってもんがあるだろ」
 と言っていつものにやけ面に戻る有賀。折角精悍な顔つきをしているのにと天薙は少し残念に思った。
「ところでママ。今日きたのはこんな話をするためじゃねぇ。この頃、流行の・・・え〜となんつったっけ・・・」
「ヘブンスです」
 天薙が助け舟を出す。
「そうそう、そのヘブンスを使っている奴がいねぇかと思ってきたんだがどうよ?」
「ヘブンスねぇ。ウチの客でラリってる奴はあんまりいないんだよね。先生のあんたがヤルつもりかい?やめときなよ」
「俺がやるんじゃねぇよ。気になるから調べてんだ。俺の生徒が手ぇだしたらヤバイからな」
「なるほど。そういうことか。ちょっと待ってて・・・確か健ちゃんがラッシュとかやってたはず・・・」
 彼女はゲイの知り合いに携帯電話を繋げると大声で話し始めた。
「ああ、健ちゃん。いつもどおりイッてる?イッてるの。そりゃ良かった。ねぇあんたさぁ、ヘブンスって知ってる?この頃ここらで流行ってるアレ。え、今ヤッてる?ほんと!?」
 どうやらあたりだったようだ。二人は顔を見合わせた。

<売人接触>

「麻薬かぁ、今迄無縁だったからなぁ」
 香織に教えてもらったとおりに、九夏は歌舞伎町の裏路地を歩いていた。どうにも麻薬といわれてもピンとこない。使うといい気分になれるけど体がぼろぼろになる薬程度のことしか思いつかないのだ。どんなものか興味が無いと言っては嘘になる。もっとも使う気はないが・・・(保護者に殺されるためである)。
「え、え〜と、あの人でいいのかなぁ」
 彼の視界に入ってきたのは、ホストくずれのような男だった。
「すいませ〜ん。香織さんにここに来ればヘブンスが買えるって聞いたんすけど〜」
「お、香織ちゃんの知り合いか。話は聞いているぜ。で、幾つ欲しいんだ?」
「使ってみないと分からないからまずは一つでいいっす」
ちょっと待ってなよと、その男がポケットから取り出したのは黒い粉は詰まった小さなビニール袋だった。
「はいよ。これがヘブンスだ。使い方は簡単。アルミに包んで熱するんだ。そうするといい香りがする煙が出てくるからこれを思いっきり吸う。そうすると天国にまっしぐらってわけさ」
「ふ〜ん。なるほどねぇ」
 黒い粉をしげしげと眺めながら九夏は代金の500円を支払った。
「気に入ったらいつでもここに来な。わけてやるよ」
「どうもっす。じゃ、これで」
 ペコリと頭を下げた九夏は、その場を離れると一つ前の路地に隠れた。そして、こっそりと売人の男を様子を伺う。
「後はあいつを見張ってれば大元の奴に会えるかも・・・」
 うまくいけば薬を提供している連中と接触してくれるかもしれない。そう考えていた九夏は突然肩をぽんぽんと叩かれた。
「う、うわぁ・・・!!!」
「しっ。静かに。私ですよ」
 いきなり肩を叩かれた上に、手で口を塞がれた彼の目に入って来たのはなじみのある顔だった。
「隼人さん・・・」
 そう、雨宮であった。九夏の後をつけここまでやってきたのだ。
「まったく何をしているのかと思えば・・・。その真っ赤な頭に、手にもっているものはなんです?」
「いや、これは、その・・・」
 隼人に問われ、九夏は答えに窮した。確かに調査で行っているとはいえ端から見れば不良化して麻薬に手を出したとしか見られない。どういい訳するべきだろうか。九夏が必死に考えを張り巡らせていると、雨宮がクスクスと笑いだした。
「冗談ですよ。巷で噂のヘブンスの調査でしょう?」
「なんで隼人さんが知ってんの?」
「私を侮ってもらっては困りますよ。これでも色々と調査しているのですからね。君がやっていることなんてお見通しですよ。それより、随分と荒っぽい調査をしていますね。標的に感づかれたらどうするんですか」
 またまた答えに窮する九夏。雨宮がまったくといいながら取り出したのは呪符だった。
「式神があるでしょう。これで追跡させれば済むことです」
「いや、俺もこれからそれをしようと・・・」
「それをする前に、あれだけ目立っては敵に術者がいたりでもしたら気付かれていたかもしれませんよ。まったく。それより今鼠で追跡させています。・・・おや、動きがあったみたいですね。さて、どんなく黒幕がいるのやら」
 雨宮の目に式神の見ている映像が映し出される。

 先ほどの売人の前に白衣を着た男が現われた。その手には大きなトランクが握られている。
「売れ行きはどうですか?」
「結構いいですよ。安いのと効き目が早いのが人気の秘訣といったところですかね」
 売人の言葉に満足げに頷くと、男は手にしたトランクを渡した。
「では、これが今週の分です。それと頼んでおいたものは・・・」
「ええ、ここに」
 遠目ではっきりとは見えなかったが、トランクを受取った売人の手からファイルか何かが白衣の男に手渡された。
「ご苦労様です。ではこれからもよろしく」
「毎度どうも。ただでこんな薬をいつも譲ってもらってすいませんね」
「いえいえ、こちらも研究のためですから」
 売人がへらへらお愛想笑いして礼を言う。売人が立ち去ると白衣の男は懐から携帯電話を取り出し電話をかけた。しばらくすると黒塗りのベンツが通りから入って来た。そしてドアが開かれ姿を表したのは・・・。
「教授、お疲れ様です」
「データは手に入ったか?」
「はい、こちらに」
 恭しく手渡されたファイルを受取ると、教授と呼ばれた者はその中身を読み始めた。白衣を纏った長身の女性。短くまとめられた漆黒の髪にオニキスの瞳。眼鏡をかけた白皙の顔は、美しく整っているがどこか冷たく無機質的な感じがする。眼鏡をかけた瞳は鋭利な輝きを秘め、ファイルに書かれている文章を素早く読み取っていく。
「なるほど、期待どおりの成果が出ているようだな」
「はい。もう少し調査をしてみないと結論は出せませんが、今のところはこれで良いかと」
「よし、引き続き調査を続行する。そろそろ実戦でトライアルする時期が近づいているな。より細かなデータが得られるよう、複数の売人に手配しろ」
「はい」
 教授はふと視線をそらすと、此方の方を向いた。物陰の、人間の目ではまず見つけられるはずのない場所に潜む此方に。
「どうなさいましたか、教授?」
 白衣の男が怪訝な顔して問うと、教授は口元に冷笑を浮かべて答えた。
「いや、鼠がいたようなのでな。気のせいだったようだ。よし、研究所に戻るぞ」
「はっ」
 教授と白衣の男はベンツに乗り込むといずこかへ去っていくのだった。

<薬の効果>

 一方その頃、有賀と天薙はママに紹介してもらった健という人物と接触していた。合法ドラックであるマジックマッシュルームなどにしか手を出さないジャンキーとのことだが、現在はヘブンスにはまっているいるらしい。
「こいつをやるとよう、気分が良くなってなんでもやれるような気がしてくるんだ」
「はぁ・・・」
「だがよ、それだけじゃないぜ。これをヤッてると痛みを感じなくなるんだ」
 痛みを感じなくなる。この事に有賀はピクリと反応した。痛みとは感覚器官を通じて、痛いという感覚から体が危険な状態であることを伝える重要なものだ。それを感じなくさせるとは感覚器官を麻痺させるということだろうか。
 そんな事を考えている有賀の目の前で、健はサバイバルナイフを取り出した。
「ち、ちょっと・・・!」
「安心しなよ。別にこれであんたらを切るってわけじゃねぇから」
 そう言って健は、刃を自分の手で握り一気にナイフを引き抜いた。当然物凄い勢いで出血して手が血で染まる。天薙の目からすれば相当な激痛が走っているように見えるのだが、健は平然としていた。
「な。痛くねぇんだよ。痛みも疲れも感じずにしかもやる気が出てくる。おまけに安い。そこらの健康ドリンクなんて目じゃねぇよ。おまけにドラッグにつきもののやった後の幻覚なんかもおきやしねぇ最功だぜ」
 得意そうに笑う健を尻目に、有賀は恐怖に囚われていた。痛みも疲れも感じずにしかもやる気が出てくる。それは体の安全装置が解除されてしまうことを意味する。体は痛みや苦しみより体がそれ以上無理をしないように調節をしている。すなわち、この薬を使っている間はどんな大怪我をしようとも、また疲労していようと、それに気がつかず無理をしていつの間にか死んでしまっているということとておきかねないのだ。危険信号の働きを完全に麻痺させるドラックヘブンス。幻覚系の副作用以上に危険な効果を持っているかもしれない。
 
 果たしてこの薬を提供している組織の目的とは何のであろうか。薬の効果や出回っている状態はおぼろげながらつかめた。しかし、新たな不安が依頼に参加した全員の胸に残るのだった。
  
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
0070/有賀・仁/男/27/高校教諭
0183/九夏・珪/男/18/高校生(陰陽師)
0331/雨宮・薫/男/29/陰陽師

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。
 研究所〜背徳〜はお届けいたします。
 依頼内容である薬の回収と広まっている状況については完全に掴めていたので成功となります。
 おめでとうございます。
 ヘブンスを提供している組織とはどうやらキメラに関係するあの組織のようです。このドラッグを何のために提供していたのか。また何のデータを収集していたのか。依然はっきりとはしませんがこれから少しずつ真実が明るみに出てくると思いますのでご期待ください。
 この依頼に限らず、ベルゼブブの依頼にご意見、ご要望、ご不満等ございましたらお気軽にテラコンからご連絡いただければと思います。お客様のお声はなるだけ作品に反映させていただくつもりです。
 それではまた、違う依頼でお目にかかれることを祈って。

 九夏様
 
 度々のご参加有難うございます。今回は直接接触ということで、雨宮様はああ言っていますが、現物を回収できたので成功と言えるでしょう。お疲れ様でした。