コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


奪われし時間の謎
●オープニング【0】
「近頃、妙な死体が発見されているのは知ってるわね?」
 いつものようにアトラス編集長の碇麗香が切り出した。
 その話なら知っている。早朝、公園や路上で老人の死体が見つかっているあれだ。それも何件も。発見場所は新宿を中心にしていた。
 別に殺人や事故ではない。外傷もないのだから。検死した所、死因はいずれも老衰であったとの話だし。
 しかしそこに疑問が生じる。老衰で死亡するような老人が、街中をふらつけるのかと。
 誰かが運んできたという考えもあるにはある。けれども、この事件にはさらに妙な所があった。
 老人の着ていた衣服は若者のそれで、所持していた身分証も若者の物だったのだ。そして身分証に記されている若者は例外なく行方不明で――。
「どう、この事件には何か隠されていると思わないかしら」
 まあ素直に考えるなら……だとは思うが。
「これらの事件に何か原因があるのなら、それを調べてレポートとしてまとめ上げてほしいの。やってくれるわよね?」
 にっこりと微笑む麗香。嫌とは言わせない笑顔である。
 調べるだけならやりましょう。何も事件を解決させろと言われているのではないのだから。

●いい場所【2A】
「ああ、あいつに最後に会ったのは……1ヶ月ちょい前かな」
 下町にある古びた安アパートの、とある部屋。その玄関先で、若い男女が会話を交わしていた。青年の方は今時の大学生といった風貌か。
「1ヶ月前ね。そう言い切れるのは何故?」
 黒い髪の女――風見璃音が目を細め青年に尋ねた。
「俺、あいつに金貸してて。返してもらったのが、先月だったんで覚えてるんだ。たく、懐の苦しい奴に借りるなってんだ」
 青年がぶつぶつと愚痴を漏らした。
 璃音は事件の調査のため、行方不明になった若者たちの関係者に聞き込みを行っている最中だった。友人等に行方不明になる前後のことを聞けば、何か共通点が見えてくるかもしれないと考えての行動だ。
「他に何か変わったことは? 誰かに狙われていたとか」
「刑事さんにも同じこと聞かれたよ。けど俺がそんなこと知る訳ないだろ? 知ってたら、とっくに話してるぜ」
 うんざりといった表情の青年。よほどしつこく尋ねられたのだろう。
「本当に何も変わったことはなかったのね?」
 璃音はやや語気を強めて念を押した。そして青年の目をじっと見ている。
「……分かったよ。もう1度思い出してやるよ」
 璃音に気圧されたのか、青年は腕組みをして考え始めた。
「あ、そういえば……」
「何?」
「金返してもらった時、よく金の都合つけたなと思って俺聞いたんだよ。そうしたら『いい場所を見つけたんだ』なんて言ってたな」
「いい場所を見つけた……」
 青年の言葉を繰り返す璃音。いったいそれはどういう意味なのか。
「場所は聞いた?」
「そりゃあ、聞いたさ。あいつ少しやつれてたけど、時給高いバイトでも見つけたのかと思ったし。けどあいつ、全然教えなくてさ。俺に金返してもまだ財布に万札入ってたもんな……」
 青年の話から推測するに、どうやら行方不明になった若者は『いい場所』を見つけ、金回りがよくなっていたらしい。
(でも場所が分からないと)
 それなりの収穫ではあったが、肝心の場所が分からないのが痛い。けれどもまだ聞き込みを始めたばかりである。璃音はこの先に期待することにした。

●奇妙な共通点【3】
 璃音が関係者宅を渡り歩いているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。
(奇妙ね)
 公園の街灯の下、ベンチに腰掛けて、璃音は聞き込みで得てきた情報を整理していた。すると行方不明になった若者たちに、奇妙な共通点が浮かんできたのだ。
(お金に困っていたり欲しがったりしていたのに、行方不明になる直前には、お金の回りが変によかった。そして、少々やつれたように見えていた……か)
 どこへ聞き込みに行っても、決まってこのことは話されていた。後は『近頃新宿へよく足を運んでいた』なんて情報もあちこちであった。
(確か、死体は新宿中心に発見されてたはずね)
 新宿中心に発見された老人の死体。そして行方不明になった若者の多くが新宿へ足を運んでいた。そこから導かれる推論は1つ。
(やっぱり新宿に、原因となる場所があるのかもしれないわね)
 璃音はそう考えた。けれども――肝心要のその場所の詳細は全くつかめていなかった。
「……行ってみるしかないわね」
 璃音は大きく溜息を吐くと、前髪を掻き揚げた。行き先はもちろん新宿だ。
「向こうに着く頃には、もうすっかり『魔』の蠢き出す時間ね」
 立ち上がり、璃音はぽつりつぶやいた。新宿で何が待っているのか……楽しみな所である。

●導く女性【4B】
 眠らない街・新宿。その中でも歌舞伎町は別格だった。何しろ華やかさと如何わしさの同居する街なのだから。
(何があってもおかしくない場所ね)
 璃音は周囲を注意深く観察しつつ、区役所通りを歩いていた。途中で店の呼び込みや、どこぞのスカウトマン等に呼び止められたが、璃音はそれらを無視して歩き続けた。
(ん?)
 ふと璃音は足を止めた。そしてゆっくりと振り返る。だがそこには行き交う人々の姿があるだけだった。
(気のせいみたい)
 璃音は妙な気配を感じて立ち止まったのだが、今はその気配は消えていた。
 それでも用心するにこしたことはなく、璃音は少し歩くとすっと脇道へ入った。脇道から脇道へと、何かを振り切るかのように歩いてゆく璃音。
(もう大丈夫だわ)
 間もなく職安通りへ出るといった場所、そこで璃音はそう思った。けれどもそれは間違いだったことに気付かされた。璃音の目の前に、1人の女性が立ちはだかったのだ。
「誰っ!」
 璃音は反射的に身構えた。それに対して紺色のスーツを身にまとった金髪の女性は、両手を上げて璃音に敵意のないことを示した。
「何かを探しているようね。何かの場所と、それから……そう、あなたにとって必要な『何か』を」
 静かに言う女性。璃音は心臓を鷲掴みにされたような感覚を味わった。
(何を……知っているというの)
 目の前の女性は、璃音が『何か』を探し求めていることを知っているようであった。
「おいでなさい。あなたの探し求める物が、そこにあるかは分からないけれど」
 そう言って、璃音に背を向け歩き出す女性。璃音は慌ててその後を追った。

●連れられし先は【6】
「こりゃ何だ……?」
 渡橋十三は銀髪の女性に連れてこられた先で、驚きの声を上げた。
「どう見てもカジノね」
 金髪の女性に連れてこられた風見璃音が冷静に言った。明るく広い室内には、片隅にバーカウンターがあり、中央にはカードゲーム用のテーブルが3卓置かれていた。
「けどカジノにしては、如何わしさが皆無だね。もうちょっと薄暗いイメージがあったんだけどな〜」
 きょろきょろと周囲を見回す瀧川七星。
「何で誰も居ないんだろ……」
 七星の隣に居た白雪珠緒が不思議そうにつぶやいた。今この場に居るのは4人だけ。七星と珠緒を連れてきた黒髪の女性や、他の2人を連れてきた各々の女性の姿はここにない。奥の部屋へ引っ込んだままだった。
「お待たせしました」
 ガチャッと奥の部屋のドアが開き、3人の女性が姿を現した。白いドレスを着た黒髪の女性を先頭に、紅いドレスの銀髪の女性、青いドレスの金髪の女性が後に続いた。どうやら奥の部屋で着替えを行っていたらしい。
「ご紹介が遅れましたね。私の名はヴェルディア。彼女の名はウルディア、その隣がスクディアと申します」
 ウルディアと呼ばれた銀髪女性と、スクディアと呼ばれた金髪女性が小さく頭を下げた。
「ようこそ、『時のカジノ』へ」
 ヴェルディアが4人に向き直り頭を下げた。
「はぁ? 『時のカジノ』だぁ?」
 十三が素頓狂な声を上げた。
「ええ、そうです。ここは時をチップに、カードゲームに興じる場所……。勝ちし者には相応の金運を、負けし者には時の剥奪を与える場所なのです」
「そうか、これで分かったよ。近頃見つかった老人の死体は……ここで大負けした奴らって訳か」
 七星の言葉に、ヴェルディアはこくりと頷いた。
「そして大負けする前にそこそこ勝っていたから、お金を持っていたのね」
 璃音が聞き込んできた情報を思い出しつつ言った。ヴェルディアはまたしてもこくりと頷いた。
「お前たちの悪事は、全てまるっとお見通しにゃっ! 人に仇なした以上は、あたしの敵。おとなしく食べられ……じゃない、狩られるがいいにゃっ!」
 びしっとヴェルディアたちを指差し、珠緒が言った。
「誰だ、お前?」
 すかさず七星の突っ込みが入った。そこに十三が口を挟んだ。
「嬢ちゃん、そいつぁちょっと無理ってもんだぜ」
「え?」
「話聞いてるとだな……引き際の見極めに失敗して、自滅した線が濃厚だ。なあ、そんな所だろ?」
 十三の問いかけにヴェルディアが口を開いた。
「私たちは強制も不正も一切しておりません。全ては自らの判断の誤りと、運なのです」
「レートは?」
 璃音がヴェルディアに尋ねた。
「1週間分が100円相当です」
「……うろ覚えだけど、お金賭けちゃいけないんじゃなかった?」
 自信なさげに言う珠緒。
「話はよく聞いてろよ。言ってたろ、勝てば相応の『金運』をって。直接じゃなく、何らかの形でお金が巡ってくるようになってるんだろうな。よく考えてあるよ」
 七星がそう言って頭を掻いた。何ともよく出来たシステムである。
「賭けに使用した時間は2度と戻ってこないのかしら」
 璃音がさらに尋ねた。ヴェルディアは首を横に振った。
「時が奪われし瞬間……翌々日の夜明けまででしたら、戻すことは可能です」
(なるほどね。失った時を取り戻そうとして、さらに時を失ってしまうこともある訳ね)
 ヴェルディアの説明を聞いて納得する璃音。しかし考えてみれば怖いシステムだ。即時に時が奪われる訳ではないのだから、それまでに何とかしようとして泥沼にはまりやすいのだ。そして多くの場合、それは失敗に終わる。
「求めよ、されば与えられん。私たちは、求めし者たちへ門を開いているのです。この『時のカジノ』の門を。今夜はそのままお帰りなさいませ。けれどもこれだけは言えます」
 ヴェルディアは言葉をそこで切って、4人の顔を見回した。
「いつの日にかまた、あなたがたはこの場を訪れることでしょう。その日が近いか遠いか……それは分かりかねますが」
 それからヴェルディアは璃音に視線を向けた。
「そしてあなた。探し求める者は、そう遠くない日に出会うことでしょう」
 にっこり微笑み、ヴェルディアは璃音に告げた。

【奪われし時間の謎 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0074 / 風見・璃音(かざみ・りおん)
              / 女 / 20前後? / フリーター 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・最初に気になっておられる方も居るかと思いますので、料金のお話を少し。今回のように受付人数を絞る際、高原は今回のような料金設定にするかと思います。今まで通りの受付人数や、シリーズ物の場合には以前のままになるかと思います。
・今回の事件、レポートにまとめあげるのは難しいかと思います。が、それでも何とかまとめあげていますので、どうぞご安心を。
・今回の判定基準ですが、一定ラインの情報を得た、もしくは一定ラインの欲望を抱いていれば自ずと導かれるようになっていました。
・3人の女性の正体については……ばればれかもしれませんね。ヒントは含めてあるので、推測してみてください。え、ヴェルディアの最後の言葉ですか? さて、どういう意味でしょう。
・今回プレイングを読んでいて少し気になったので触れておきますが、オープニングに『若者』とは書きましたが『若い男』とは書いていませんでしたのでくれぐれもご注意を。
・風見璃音さん、聞き込みを行ったのはよかったと思います。情報収集という面では、一番よかったプレイングだと思いました。黒狼の情報は得られませんでしたが、展望は明るそうです。頑張ってください。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。