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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


奪われし時間の謎
●オープニング【0】
「近頃、妙な死体が発見されているのは知ってるわね?」
 いつものようにアトラス編集長の碇麗香が切り出した。
 その話なら知っている。早朝、公園や路上で老人の死体が見つかっているあれだ。それも何件も。発見場所は新宿を中心にしていた。
 別に殺人や事故ではない。外傷もないのだから。検死した所、死因はいずれも老衰であったとの話だし。
 しかしそこに疑問が生じる。老衰で死亡するような老人が、街中をふらつけるのかと。
 誰かが運んできたという考えもあるにはある。けれども、この事件にはさらに妙な所があった。
 老人の着ていた衣服は若者のそれで、所持していた身分証も若者の物だったのだ。そして身分証に記されている若者は例外なく行方不明で――。
「どう、この事件には何か隠されていると思わないかしら」
 まあ素直に考えるなら……だとは思うが。
「これらの事件に何か原因があるのなら、それを調べてレポートとしてまとめ上げてほしいの。やってくれるわよね?」
 にっこりと微笑む麗香。嫌とは言わせない笑顔である。
 調べるだけならやりましょう。何も事件を解決させろと言われているのではないのだから。

●メインディッシュを求めて【2C】
 昼下がりの新宿中央公園。白雪珠緒は最近の陽気に誘われ……もとい、事件の調査のため、この場を訪れていた。ここでも老人の死体は発見されていたのだ。
 周囲を見回す珠緒。昼休みは過ぎたとはいえ、この陽気に誘われた者がちらほら見られた。
(んー……あっち行こ)
 珠緒は人気のある場所を避け移動した。
「にゃー」
 人が居ない場所を見つけると、珠緒は一声鳴いた。どこに隠れていたのか、その声に誘われて多くの猫たちが珠緒の前に姿を現した。
「うにゃー」
「みゃー」
 猫たちが珠緒の鳴き声に呼応するかのように鳴いた。
(さっそく聞いてみるにゃ☆)
 珠緒は身を屈めると、猫たちに質問を始めた。珠緒曰く『ネコネコ情報網』の活用である。
「にゃにゃ、にゃんにゃ?」
「にゃー、にゃー」
「みゃみゃんみゃ、みゅう?」
「うにゃあ……にゃん!」
「にゃん!? うみぃ……みゅう」
「なーご、にゃごにゃご」
 猫たちとのやり取りを端から見ていると、珠緒の表情がくるくる変わって面白いのだが、それを見ているのは猫たちだけであった。
(結構詳しく話してくれたにゃ……)
 珠緒が猫たちに尋ねたのは『若い男が老人になる所を見たことがないか』ということだった。それに対する猫たちの答えは『見た』であった。
 珠緒がその時の様子を突っ込んで聞くと、猫たちはこう答えた。『夜明け前、駅向こうから1人で怯えたように走ってきて、夜明けと共にたちまち老人へと変わり、その場に倒れ込んだ』と。
 猫たちの話を信じるならば、若者が老人になる際には、そばに誰も居なかったということになる。
(うーん、呪い?)
 誰かが直接行動に出たのではないとすると、何らかの呪術を使用した可能性がある。では誰がその呪術を使用したのだろうか?
(ふふ、珠緒さまには敵の正体はすっかりお見通しにゃ! これは淫魔の仕業にゃっ!!)
 どこからそう推理したのか、珠緒は敵を淫魔と決め付けた。確かにそうは思えなくもないが。
「待ってろ淫魔、あたしのメインディッシュ!」
 ……それでいいのか、本当に?

●買収【4A】
「にゃっ!?」
 白雪珠緒はばったりと出くわした相手の顔を見て驚いた。
「タマ……お前、どうしてここに?」
 驚いているのは珠緒ばかりではない。そうつぶやいた瀧川七星も同様だった。
「あ。えっと……にゃは☆」
 笑って誤魔化そうとする珠緒だったが、七星が呆れたような視線を向けていた。
「その様子じゃ、また何かの事件に首突っ込んでるな」
 苦笑する七星。
「で、何調べてんだ」
「んー……若者が老人になった事件」
「えっ、お前もっ? そうか、だからここに……」
 そう言って七星が周囲を見回した。ここは夜の新宿・歌舞伎町。七星は調査のため訪れたのだが、どうやら珠緒も同じだったようだ。
「今回の敵はあたしの獲物にゃ。七星といえども、邪魔は許さないにゃっ」
 珠緒が固い決意を口にした。
「ふーん、そういうこと言うのか。せっかく猫缶の新製品買ってきたのにな」
 七星はがさごそと鞄から猫缶を取り出し、珠緒に見せつけた。
「にゃっ!」
 珠緒が目を輝かせた。
「情報持ってるんだろ。いい子だから、交換しような。後で生クリームも用意するからな♪」
「う、うん、いいにゃ。情報あげるにゃ……」
 猫缶と生クリームの誘惑に負け、珠緒は固い決意を心の片隅へうっちゃった。遠くの魔物より、近くの猫缶ということか。

●姿見せし女性【5A】
「淫魔にゃ!」
「玉手箱だって」
 珠緒と七星は近くの喫茶店に入り、互いの持つ情報の交換をしていた。そこで何故か言い争いが起こっていた。
「乙姫様が玉手箱を手渡したんだよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「ちょっと調べてみたんだよ。そしたら目立ってないものの、全国的に似たような事件が起きてるようなんだ」
 七星が独自の調査網で調べた結果、今回のケースに似た事件が件数は少ないものの起こっていたことが分かったのだ。
「淫魔が全国行脚してるのはちょっと考えにくいな。それに非現実的だけど、話としては俺はそっちの方が面白いし〜」
 七星がしれっと言い放った。
「じゃあ、淫魔の乙姫が玉手箱の呪いをかけたでファイナルアンサーにゃ」
「……タマ。そんなのどこで覚えたんだ?」
「七星知らないの? あの番組の司会者は、猫たちの間で評判なんだよ☆」
 呆れる七星に、珠緒が笑顔で答えた。
 ともあれ情報を交換し終え、喫茶店を出る2人。さてこれからどうしようという時、1人の女性が2人に近付いてきた。
「何かをお探しですか?」
 2人に話しかけてくる女性。黒く長い髪を持ち、白いスーツに身を包んでいた。
「えっ?」
 一瞬、戸惑う珠緒。
「顔に書いてありますよ。そうですね……『竜宮城』はどこなのか、と」
 女性は七星の顔を指差して言った。
「……何者だよ」
 女性の言葉に動ずることなく、七星が尋ねた。
「『乙姫』とでも申しておきましょうか」
 女性はにっこりと微笑むと、2人に背を向け歩き出した。2人は慌ててその後を追った。

●連れられし先は【6】
「こりゃ何だ……?」
 渡橋十三は銀髪の女性に連れてこられた先で、驚きの声を上げた。
「どう見てもカジノね」
 金髪の女性に連れてこられた風見璃音が冷静に言った。明るく広い室内には、片隅にバーカウンターがあり、中央にはカードゲーム用のテーブルが3卓置かれていた。
「けどカジノにしては、如何わしさが皆無だね。もうちょっと薄暗いイメージがあったんだけどな〜」
 きょろきょろと周囲を見回す瀧川七星。
「何で誰も居ないんだろ……」
 七星の隣に居た白雪珠緒が不思議そうにつぶやいた。今この場に居るのは4人だけ。七星と珠緒を連れてきた黒髪の女性や、他の2人を連れてきた各々の女性の姿はここにない。奥の部屋へ引っ込んだままだった。
「お待たせしました」
 ガチャッと奥の部屋のドアが開き、3人の女性が姿を現した。白いドレスを着た黒髪の女性を先頭に、紅いドレスの銀髪の女性、青いドレスの金髪の女性が後に続いた。どうやら奥の部屋で着替えを行っていたらしい。
「ご紹介が遅れましたね。私の名はヴェルディア。彼女の名はウルディア、その隣がスクディアと申します」
 ウルディアと呼ばれた銀髪女性と、スクディアと呼ばれた金髪女性が小さく頭を下げた。
「ようこそ、『時のカジノ』へ」
 ヴェルディアが4人に向き直り頭を下げた。
「はぁ? 『時のカジノ』だぁ?」
 十三が素頓狂な声を上げた。
「ええ、そうです。ここは時をチップに、カードゲームに興じる場所……。勝ちし者には相応の金運を、負けし者には時の剥奪を与える場所なのです」
「そうか、これで分かったよ。近頃見つかった老人の死体は……ここで大負けした奴らって訳か」
 七星の言葉に、ヴェルディアはこくりと頷いた。
「そして大負けする前にそこそこ勝っていたから、お金を持っていたのね」
 璃音が聞き込んできた情報を思い出しつつ言った。ヴェルディアはまたしてもこくりと頷いた。
「お前たちの悪事は、全てまるっとお見通しにゃっ! 人に仇なした以上は、あたしの敵。おとなしく食べられ……じゃない、狩られるがいいにゃっ!」
 びしっとヴェルディアたちを指差し、珠緒が言った。
「誰だ、お前?」
 すかさず七星の突っ込みが入った。そこに十三が口を挟んだ。
「嬢ちゃん、そいつぁちょっと無理ってもんだぜ」
「え?」
「話聞いてるとだな……引き際の見極めに失敗して、自滅した線が濃厚だ。なあ、そんな所だろ?」
 十三の問いかけにヴェルディアが口を開いた。
「私たちは強制も不正も一切しておりません。全ては自らの判断の誤りと、運なのです」
「レートは?」
 璃音がヴェルディアに尋ねた。
「1週間分が100円相当です」
「……うろ覚えだけど、お金賭けちゃいけないんじゃなかった?」
 自信なさげに言う珠緒。
「話はよく聞いてろよ。言ってたろ、勝てば相応の『金運』をって。直接じゃなく、何らかの形でお金が巡ってくるようになってるんだろうな。よく考えてあるよ」
 七星がそう言って頭を掻いた。何ともよく出来たシステムである。
「賭けに使用した時間は2度と戻ってこないのかしら」
 璃音がさらに尋ねた。ヴェルディアは首を横に振った。
「時が奪われし瞬間……翌々日の夜明けまででしたら、戻すことは可能です」
(なるほどね。失った時を取り戻そうとして、さらに時を失ってしまうこともある訳ね)
 ヴェルディアの説明を聞いて納得する璃音。しかし考えてみれば怖いシステムだ。即時に時が奪われる訳ではないのだから、それまでに何とかしようとして泥沼にはまりやすいのだ。そして多くの場合、それは失敗に終わる。
「求めよ、されば与えられん。私たちは、求めし者たちへ門を開いているのです。この『時のカジノ』の門を。今夜はそのままお帰りなさいませ。けれどもこれだけは言えます」
 ヴェルディアは言葉をそこで切って、4人の顔を見回した。
「いつの日にかまた、あなたがたはこの場を訪れることでしょう。その日が近いか遠いか……それは分かりかねますが」
 それからヴェルディアは璃音に視線を向けた。
「そしてあなた。探し求める者は、そう遠くない日に出会うことでしょう」
 にっこり微笑み、ヴェルディアは璃音に告げた。

【奪われし時間の謎 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0074 / 風見・璃音(かざみ・りおん)
              / 女 / 20前後? / フリーター 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・最初に気になっておられる方も居るかと思いますので、料金のお話を少し。今回のように受付人数を絞る際、高原は今回のような料金設定にするかと思います。今まで通りの受付人数や、シリーズ物の場合には以前のままになるかと思います。
・今回の事件、レポートにまとめあげるのは難しいかと思います。が、それでも何とかまとめあげていますので、どうぞご安心を。
・今回の判定基準ですが、一定ラインの情報を得た、もしくは一定ラインの欲望を抱いていれば自ずと導かれるようになっていました。
・3人の女性の正体については……ばればれかもしれませんね。ヒントは含めてあるので、推測してみてください。え、ヴェルディアの最後の言葉ですか? さて、どういう意味でしょう。
・今回プレイングを読んでいて少し気になったので触れておきますが、オープニングに『若者』とは書きましたが『若い男』とは書いていませんでしたのでくれぐれもご注意を。
・白雪珠緒さん、6度目のご参加ありがとうございます。プレイング楽しく読ませていただきました。残念ながら今回も食べられませんでしたが、着目点は悪くなかったと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。