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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


奪われし時間の謎
●オープニング【0】
「近頃、妙な死体が発見されているのは知ってるわね?」
 いつものようにアトラス編集長の碇麗香が切り出した。
 その話なら知っている。早朝、公園や路上で老人の死体が見つかっているあれだ。それも何件も。発見場所は新宿を中心にしていた。
 別に殺人や事故ではない。外傷もないのだから。検死した所、死因はいずれも老衰であったとの話だし。
 しかしそこに疑問が生じる。老衰で死亡するような老人が、街中をふらつけるのかと。
 誰かが運んできたという考えもあるにはある。けれども、この事件にはさらに妙な所があった。
 老人の着ていた衣服は若者のそれで、所持していた身分証も若者の物だったのだ。そして身分証に記されている若者は例外なく行方不明で――。
「どう、この事件には何か隠されていると思わないかしら」
 まあ素直に考えるなら……だとは思うが。
「これらの事件に何か原因があるのなら、それを調べてレポートとしてまとめ上げてほしいの。やってくれるわよね?」
 にっこりと微笑む麗香。嫌とは言わせない笑顔である。
 調べるだけならやりましょう。何も事件を解決させろと言われているのではないのだから。

●所用【2D】
「ホシになりそうな美女なら、女王のそばにも居るじゃねーか」
 渡橋十三はそう言って、げらげらと笑い飛ばした。
「ほれ、骨董屋の嬢ちゃんに、何でも屋の嬢ちゃ……じ、冗談だって、そんなに睨むなよ」 麗香の鋭い視線に気付き、十三は首をすくめた。
 今日の十三は編集部へやって来ていた。所用があって訪れたのだが、目的の相手はあいにく席を外しているようだった。だがそれを待つ間に、面白そうな事件の話を聞けたのだから、それはそれでよいことなのだろう。
「で、どうするの?」
 淡々と言い放つ麗香。調査を引き受けるのかどうかということだ。
「確か死体はよぉ、新宿界隈の公園でも見つかってるんだよな?」
 十三の疑問に麗香が頷いた。
「とするとあの辺か……」
 頭の中で地図を描く十三。そしておもむろにニヤリと笑みを浮かべた。
「いいぜ。引き受けてやっから、レポート用紙くれよ」
 そうは言ったものの、何の考えもなく十三が依頼を引き受ける訳はない。
(あの辺はいい小遣い稼ぎになるしな)
 ほくそ笑む十三。十三の知っている公園には、夜になると多くのカップルが訪れるのだ。そしてそれを知っている者たちがまた集まってくる訳で――。
(ちょっくら撮影道具調達してこねぇとな)
 どうやら何かよからぬことを考えているようであった。
「けど、どうして老人が若者の身分証を持ってたのかしらね」
「あん? そんなことも分かんねぇのか? その爺、恐らく身分証の若造当人だろうぜ。ガイシャは野郎ばっかなんだろ? きっとどこぞの美女に精気を吸われたスケベ野郎の成れの果てってとこだな……『魔物』って名のよぉ」
 十三が嫌らしい笑みを浮かべて言った。しかし麗香がさらっと一言こう言った。
「女性も居るわよ」
「あ?」
 十三は馬鹿みたいに口を大きく開けた。
 その後、十三は編集部に戻ってきた編集部員の三下を捕まえ、財布の中から札を数枚抜き取った。十三曰く『頼まれ物』の代金だということであったが、その『頼まれ物』が何なのかは全く答えなかった。

●誘う女性【5B】
 新宿界隈の某公園。辺りはすっかり暗くなっていた。
(へへ、気が早いカップルがいやがった)
 十三は公園の茂みに身を潜めていた。その手には最新型のハンディビデオカメラを持っている。
 ここで十三が何をしているのかというと、言わずもがなである。少なくとも真っ当なことではないのは明らかだ。
 それでも十三に言わせるとこういうことになる。
(調査の一環でやってんだから、何ら問題はねぇよな。単にビデオは資料、そういうこった。いやぁ、こんな真似やりたかねぇよなあ)
 犯人はきっと男を――時折は女も――誘惑し、精気を吸い取っているに違いない。最初に立てたその仮説の下で行動しているのだ。だから不本意ではあるが、こうしてカップルを観察しているのである……ということらしい、一応。
(おっと、後でダビングしておかねぇとな)
 まあ……少々行動に疑わしい所はあるが、それは横に置いておこう。
 十三は目の前のカップルの観察を一通り終えると、音を立てぬように別の茂みへと移動していった。何度もこのような経験があるのか、妙に慣れた動きであった。
(どれどれ、今度のカップルは……っと)
 ビデオカメラを覗き込む十三。画面に深いスリットが映し出されていた。スリットから覗いているのは、もちろん足である。
(おおっ!)
 十三はすぐさまズームを調整した。少し画面が引き気味になる。見た所、チャイナドレスのスリットのようだった。
(こりゃ他の場所も見てみねぇとな)
 そっとビデオカメラを動かす十三。足から上半身へとスライドしてゆく。紅いチャイナドレスの上からでも分かる程の、スタイルのよさであった。
(顔だ、顔いっちまえ!)
 十三はビデオカメラをなおも動かした。画面に映し出されたのは、銀髪ショートヘアの女性であった。一言で言って、美人である。
(こりゃなかなか……)
 十三の顔が思わずニヤついていた。ビデオをどうするか算段しているのだろう。だが、ここであることに十三は気付いた。
(ん? そういや野郎の姿がねぇな……)
 考えてみれば、先程から男の姿は全く映っていない。とすると、この女性は1人でここに居ることになる。いったい1人で何をしているというのか。
 十三がそんな疑問を抱いた時、画面の中の女性はくすりと笑みを浮かべた。
(!)
 驚く十三。まさかビデオカメラの存在がばれたのか?
「そこに居るんでしょう?」
 画面の中の女性が喋った。十三は無言でじっと身を潜めていた。
「そんなことをしていても、得られる糧は微々たる物でしょうに」
(んなこと、放っておけよ!)
 核心を突かれ、十三は心の中でつぶやいた。
「お金が欲しいのであれば、私についておいでなさい。運がよければ……」
 女性が再び笑みを浮かべた。そしておもむろに立ち上がると、茂みを掻き分けて十三の前に姿を現した。
「さあ、どうなさいます?」
 右手を十三に差し出し、静かに尋ねる女性。十三はしばし思案し、結局女性の申し出に乗ることに決めた。
(虎穴に入らずんば虎児を得ず……だ)
 何が出てくるか見極めてやろう、十三はそう考えていた。

●連れられし先は【6】
「こりゃ何だ……?」
 渡橋十三は銀髪の女性に連れてこられた先で、驚きの声を上げた。
「どう見てもカジノね」
 金髪の女性に連れてこられた風見璃音が冷静に言った。明るく広い室内には、片隅にバーカウンターがあり、中央にはカードゲーム用のテーブルが3卓置かれていた。
「けどカジノにしては、如何わしさが皆無だね。もうちょっと薄暗いイメージがあったんだけどな〜」
 きょろきょろと周囲を見回す瀧川七星。
「何で誰も居ないんだろ……」
 七星の隣に居た白雪珠緒が不思議そうにつぶやいた。今この場に居るのは4人だけ。七星と珠緒を連れてきた黒髪の女性や、他の2人を連れてきた各々の女性の姿はここにない。奥の部屋へ引っ込んだままだった。
「お待たせしました」
 ガチャッと奥の部屋のドアが開き、3人の女性が姿を現した。白いドレスを着た黒髪の女性を先頭に、紅いドレスの銀髪の女性、青いドレスの金髪の女性が後に続いた。どうやら奥の部屋で着替えを行っていたらしい。
「ご紹介が遅れましたね。私の名はヴェルディア。彼女の名はウルディア、その隣がスクディアと申します」
 ウルディアと呼ばれた銀髪女性と、スクディアと呼ばれた金髪女性が小さく頭を下げた。
「ようこそ、『時のカジノ』へ」
 ヴェルディアが4人に向き直り頭を下げた。
「はぁ? 『時のカジノ』だぁ?」
 十三が素頓狂な声を上げた。
「ええ、そうです。ここは時をチップに、カードゲームに興じる場所……。勝ちし者には相応の金運を、負けし者には時の剥奪を与える場所なのです」
「そうか、これで分かったよ。近頃見つかった老人の死体は……ここで大負けした奴らって訳か」
 七星の言葉に、ヴェルディアはこくりと頷いた。
「そして大負けする前にそこそこ勝っていたから、お金を持っていたのね」
 璃音が聞き込んできた情報を思い出しつつ言った。ヴェルディアはまたしてもこくりと頷いた。
「お前たちの悪事は、全てまるっとお見通しにゃっ! 人に仇なした以上は、あたしの敵。おとなしく食べられ……じゃない、狩られるがいいにゃっ!」
 びしっとヴェルディアたちを指差し、珠緒が言った。
「誰だ、お前?」
 すかさず七星の突っ込みが入った。そこに十三が口を挟んだ。
「嬢ちゃん、そいつぁちょっと無理ってもんだぜ」
「え?」
「話聞いてるとだな……引き際の見極めに失敗して、自滅した線が濃厚だ。なあ、そんな所だろ?」
 十三の問いかけにヴェルディアが口を開いた。
「私たちは強制も不正も一切しておりません。全ては自らの判断の誤りと、運なのです」
「レートは?」
 璃音がヴェルディアに尋ねた。
「1週間分が100円相当です」
「……うろ覚えだけど、お金賭けちゃいけないんじゃなかった?」
 自信なさげに言う珠緒。
「話はよく聞いてろよ。言ってたろ、勝てば相応の『金運』をって。直接じゃなく、何らかの形でお金が巡ってくるようになってるんだろうな。よく考えてあるよ」
 七星がそう言って頭を掻いた。何ともよく出来たシステムである。
「賭けに使用した時間は2度と戻ってこないのかしら」
 璃音がさらに尋ねた。ヴェルディアは首を横に振った。
「時が奪われし瞬間……翌々日の夜明けまででしたら、戻すことは可能です」
(なるほどね。失った時を取り戻そうとして、さらに時を失ってしまうこともある訳ね)
 ヴェルディアの説明を聞いて納得する璃音。しかし考えてみれば怖いシステムだ。即時に時が奪われる訳ではないのだから、それまでに何とかしようとして泥沼にはまりやすいのだ。そして多くの場合、それは失敗に終わる。
「求めよ、されば与えられん。私たちは、求めし者たちへ門を開いているのです。この『時のカジノ』の門を。今夜はそのままお帰りなさいませ。けれどもこれだけは言えます」
 ヴェルディアは言葉をそこで切って、4人の顔を見回した。
「いつの日にかまた、あなたがたはこの場を訪れることでしょう。その日が近いか遠いか……それは分かりかねますが」
 それからヴェルディアは璃音に視線を向けた。
「そしてあなた。探し求める者は、そう遠くない日に出会うことでしょう」
 にっこり微笑み、ヴェルディアは璃音に告げた。

【奪われし時間の謎 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0074 / 風見・璃音(かざみ・りおん)
              / 女 / 20前後? / フリーター 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・最初に気になっておられる方も居るかと思いますので、料金のお話を少し。今回のように受付人数を絞る際、高原は今回のような料金設定にするかと思います。今まで通りの受付人数や、シリーズ物の場合には以前のままになるかと思います。
・今回の事件、レポートにまとめあげるのは難しいかと思います。が、それでも何とかまとめあげていますので、どうぞご安心を。
・今回の判定基準ですが、一定ラインの情報を得た、もしくは一定ラインの欲望を抱いていれば自ずと導かれるようになっていました。
・3人の女性の正体については……ばればれかもしれませんね。ヒントは含めてあるので、推測してみてください。え、ヴェルディアの最後の言葉ですか? さて、どういう意味でしょう。
・今回プレイングを読んでいて少し気になったので触れておきますが、オープニングに『若者』とは書きましたが『若い男』とは書いていませんでしたのでくれぐれもご注意を。
・渡橋十三さん、8度目のご参加ありがとうございます。今回もプレイング楽しく読ませていただきました。老人が若者本人であるのは大正解でした。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。