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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


Pieces
<オープニング>
『……ねえ、どうして?』
言葉は響き渡った。
まるでやまびこの様に繰り返し繰り返し、不思議な音量で。
『何で、人は……』
ひとりでは生きられないの?

少女は何度も言葉を繰り返す。
何故?と。
風景に同化するような透明な姿のまま、問いに答える人も見つからないままに。

*と、言うわけでこの少女の幽霊の質問に答えてあげてください、と
言うのが依頼内容になります。
少女の歳は12歳ほど。
生きているのか死んでるのかは謎ですが…この後の展開についてはPCさんに
よって変わるかと思われます。

<闇色の夢>
それはニュース番組で流れるにはあまりにありふれた事件だった。
母親が自分の娘を道連れに無理心中を図ったと。
ある人は眉をひそめ、ある人はかわいそうに…と呟きながら
行過ぎる、その様な……事件。
だが、母親に刃を向けられた少女は───。
運良く、とは言い難いかもしれないが生きていた。
漆黒の闇夜を歩けず、かといって生への明るい道へ向かえずに、ただ
一つの疑問のみで中間の世界に漂いながら…少女は問う。
『何故…人は……』
ヒトリデハイキラレナイノ?
……誰カ、答エテ。


<ゴーストネット>
「…ふむ」
バー「ケイオス・シーカー」休憩室でネットを開きいつもの様に巡回している時
妙な記事…と言うのではないがある一件が目にとまり九尾・桐伯は
いつもは柔らかく微笑を浮かべている口元を考え込むようにひきしめた。
どうやら、また妙なことが起こっている様だ。
とあるマンション内の公園で『何故?』と、問う幽霊が居るらしく、
それはいつも同じようなことを問い掛けるらしい。
問いの内容は『何故人は一人では生きられない?』と言うような物らしいが
答えてあげられたものは無く、見えた途端に逃げ出してしまい、その場所は
このような件の所為か幽霊スポットとして有名になり今は誰も来ないと言う。
それに困った管理人が、ここに書き込んだものらしいが……。
(どうしましょうかね……?)
カクテルを造ることは出来てもお酒その物を作る事は出来ない。
世の中は様々な技術を持った人が色々と補い合って動いているものなんだと
…伝えられるだろうか?
問い掛ける少女に。
満足行く答えは与えられないかもしれない、それでも……。
(やれるだけ、やってみましょう……誰かが伝えるべきなのだから)
九尾は問題である場所へ下見に行くことに決め、バー「ケイオス・シーカー」入り口に
『本日休業』のプレートを下げると着替えるべく自室へと向かった。


<サザナミ>
『ごめんね……』
何度も謝る声に少女は頭を振る。
お願い、止めて、と言えずにただ嫌だと告げるように頭を振るが……。
母親の手はそれよりもっと母親自身に忠実だった。
娘を何度もナイフで切りつけ、ぐったりした娘を見、漸く手を止め頭を撫でる。
何度も何度も優しく。
『……許してね……』
それが少女が聞きうる母親の最後の声。
今はもう居ない、母親の懐かしい優しい声だった。


<公園にて-夜->
「…ここですね………」
九尾が公園に入ると、どういうわけか四人ほどの先客が居た。
どの人物も誰かを待っているようでもあり、そうでもない。
何処か腑に落ちない物を感じながら、マンションの持つ公園としてはかなり広いだろう
敷地内を九尾は緩やかに歩き出した。
夜目にも艶を放つ黒髪が外灯によって照らされ、それを見つけたかのように
少女は九尾の傍に寄った。
前回と言い今回と言い、子供に好かれてしまっているな…と思いながら
九尾は優しげな笑みを返すと、少女も戸惑いながら、だろう、ぎこちないながらも
精一杯の笑みを返した。
『今日は…人が一杯いるね……』
「そうですね、今まで誰も来なかったのでしょう?」
『うん…色々と私に言ってくれる人も居たよ…』
「ええ。貴女でしょう?問い掛ける少女、というのは」
『……うん。お兄ちゃんも答えて?どうして人は一人では生きられないの?』
「人は何故一人では生きられないか・・・宗教だとそれが原罪と言う事が有りますね。
少なくとも生きる為に他の命を犠牲にしなければならないですから。
だからそう言った存在に感謝をと言う事でしょう。
人間に対しての事ならば、それでも当たり前の事ですね。
私はカクテルを造ることは出来てもお酒その物を作る事は出来ません。
世の中は様々な技術を持った人が色々と補い合って動いているものなんです。
だから貴女にもやれる事が在ります、それを捜して行くのも生きるいう事です。
酷な事ですが生れ落ちた時点で我々生き物は数多の犠牲の上に立っているのですから、
生きる義務も在ると私は思います。」
『生きる…義務?』
「ええ、生まれたからには生きなければなりません。
生という籤を引いた者の義務がそれです…喩え何者であっても、貴女以外に
貴女を生かすことなど出来はしないように、殺されることもあってはいけない……。
少なくとも私はそう思います」
『そう……』
その時だった、公園の向こう側から四人ほど、走る姿が見えたのは。
九尾と幽霊少女は目を丸くしながらその集団をじっと見渡した。


<イキルタメノトイ>
「待って!そこの人、私にもその子と話をさせて!」
「私にもさせて欲しい」
「どうか僕にもまた話をさせてください…お願いします」
「迷える子羊を導くために私にも…どうかお願いできないでしょうか?」
「……ええ、勿論です。」
簡単な自己紹介を済ませ、九尾は微笑むと触れられない少女に『大丈夫』と告げ、少女の傍らに立った。
こうする事で安心するかどうかは解らないが、先ほどの様な戸惑いは
少女から感じられない。
(…多分、これで良かったのでしょうね…)
滝沢・百合子は安堵し先ほどからどうしても謝りたかった言葉を告げた。
「…あのね、私、さっきどうして貴女が消えたか解らなかったの……。
だから少しの間だけど調べたわ、この公園に出るわけも…考えたの。
ゴメンね…最後の言葉はあの時に言うべきじゃなかったのに……」
少女は首を振る。
言外に百合子の言わんとすることも他のメンバーにも伝わっているのか皆黙ったまま。
「…だけど解って欲しいの、皆、孤独と戦って何処かできっと誰かに救われるんだって」
百合子の言葉を継ぐように和泉・怜がその後に続く。
「…私も先ほどはすまなかった……どうも私の言葉はストレートらしく…
だがな、完璧な人間などいはしない、と私は考える。
欠けているものがあるからこそ、お互い補うべく共に生きるのではないだろうか。
お前がそこに居るのは何故だ?誰かとまだ補えるからこそ、お前はそこに居るのではないか?」
『…解らない……でも……』
何故自分は此処に居るのだろう、それこそ今まで問い掛けてばかりで気付かなかったが
少女にとって一番気になること。
何もこの場所でなくても良い筈なのに……。
怜はそれ以上、何も告げず、銀色の瞳をそっと伏せると少女の頭を撫でる仕草をした。
良くは解らないが、怜はそうした方がいいと無意識に思えたから……。
そうして次に七夜・忍がにこやかに少女の正面へとより、頬に口付け、こう告げる。
「君が今この場に居ることに最大の感謝を。
…僕はいえなかったんだ、あの子に……君に言えただけで僕は幸せだよ。
……だから、もう一度、生まれておいで」
その光景に微笑みを浮かべヴァラク・ファルカータは祝福をするかのように額へ十字架をあてた。
「人は独りでは生きられない運命なのです。貴方もこうして私の想いに触れたのですから。
もう自分の戻る場所が分かったはずです。きっと、貴方なら大丈夫ですよ。」
『本当?』
「ええ。私たちは皆、貴女の味方ですよ。…辛い事があったら私の元へいらっしゃい。
また、お話をしましょう」
漸くぎこちない笑顔ではない普通の笑顔に戻る少女を見て九尾は安心し、最後にこう呟いた。
「貴女の為に泣いている人が居る筈です、貴女は居ないと想っているかも知れませんが、
その人の為にお帰りなさい」
『帰る……?』
「そう……貴女が本来あるべき世界へ、お帰りなさい?」

一瞬の閃光。
まるで激しいフラッシュライトの様に少女の姿は消え───その後、少女の幽霊が
公園に出る、という噂はついぞ聞くことは無かった。


<Pieces>
『生まれておいで』
『大丈夫、寂しくは無いから』
『その籠から出て来い……恐れることは何も無い』
『怖い事があればいつでもいらっしゃい、話をしましょう』
『貴女は決して貴女だけじゃありませんよ』
皆の優しい声に包まれるかのように少女はとある病院で目を醒ます。
最初に少女の目に入ったのは───父親の見たことのないほど泣きじゃくった顔と
遥か遠くに見える、青い空と空へ向かい行く鳥。
目を開けば世界はこんなにも優しい彩りに満ちていたのだと少女は
起きてから漸く一粒の涙を零した。



Pieces-End-

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0332/九尾・桐伯/ 男 / 27 /バーテンダー】
【0563/七夜・忍/ 男 / 650 /悪魔より追われる罪人】
【0016/ヴァラク・ファルカータ/ 男 / 25 /神父】
【0427/和泉・怜/ 女 / 95 /陰陽師】
【0057/滝沢・百合子/ 女 / 17 /女子高校生】
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、駆け出し新米ライター秋月 奏です。
今回の「Pieces」はあるニュースを見ての事件作りでしたが
如何でしたでしょうか?
良ければメール等、お待ちしております。
そしてそして!
今回も九尾・桐伯さんにお付き合い頂けて凄く嬉しかったです♪
私の方こそ、今後とも機会があればどうか宜しくお願いいたしますね!
中々九尾さんは書き甲斐があって本当に楽しいので。
次の東京怪談は「月刊アトラス」か、「草間興信所」の
予定です……。ではでは、またいつかの日に。