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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


冬美原、最初の事件
●オープニング【0】
 界鏡線・冬美原駅。改札を抜け、東口へ出てくると『ROSY−8』というデパートがある。
 名前が示すようにそれは8階建てのデパートだった。駅前にデパートという構図は、どこの駅前でもあまり変わりはないようだ。
 近くには何やらサテライトスタジオがあり、ガラス越しに公開放送の様子が見えている。細身の女性パーソナリティがゲストを迎えてあれこれと話していた。
 とりあえず公開放送の様子でも見てみようかと思った矢先――事件は起きた。
「おい誰だ! 屋上のフェンスを乗り越えようとしているのは!」
 通行人の1人がそれを見つけて指差した。見ると、制服姿の少女がデパートの屋上フェンスを乗り越えようとしている所だった。
 少女はフェンスを乗り越えると、少し地上を覗き込んでからフェンスにしがみついた。野次馬が次第に集まってくる。
「あれ、うちの高校の制服じゃない?」
 野次馬の1人が言った。背中にバッグを背負った同じ制服姿の少女だった。
 やがて騒ぎを聞きつけたのか、機材を手に女性パーソナリティとスタッフが飛び出してくる。
 このまま飛び降りられると何だか寝覚めが悪い。
 ……そういえば、あの娘はどうしてこんな行動を?

●デートの途中【−1】
(あうう……有紀はんとの楽しいデートのはずが……)
 高校生の少女、南宮寺天音はがっくりと肩を落としながら歩道を歩いていた。隣ではスタイルのよい同じく高校生くらいの綺麗な少女が、にこにこ笑顔で歩いていた。
「天音さん、どうかしましたか〜?」
 そんな天音の心中など知ることもなく、海堂有紀が尋ねた。
「ううん、何でもあらへん。ただ……」
 天音は振り返ると、後ろを歩く銀髪の少年をぎろっと睨んだ。
(あんたが居るからやっ!!)
 天音の視線ははっきりとそう言っていた。少年、養老南はくすくすと笑いながら天音に言った。
「天音ちゃんがボクにご飯おごる約束を反故にするからいけないんだよ」
 天音はルームメイトにして恋人の有紀とデートのためにここ冬美原に来ていたのだが、どうしたことかそれを南に嗅ぎ付けられて……今のこの状態である。
「仲がいいですよね〜」
 有紀が笑顔で言った。
「素敵な関係なんだなあ」
 そんなことを言う南に対し、天音は力なく笑った。
 自殺騒ぎは、そんな最中に起きたのだった――。

●動く理由【1D】
「はん? 何やまた……けったいなことしよんなあ」
 野次馬に紛れ、天音は目を細めて屋上の少女を見ていた。少女はフェンスを握ったまま、1度地上を見下ろしすぐに元に戻った。
「全く人間なんてものは、効率の悪いことをするんだね」
 不思議そうに少女を見つめたまま、南がつぶやいた。それはどこか1歩引いたような物言いだった。
(うーん、関わってもしゃあないしなー)
 溜息を吐く天音。自殺騒動なんて物は関わって損こそすれども、得することはそう有り得ない。まず利を考える天音にとって、目の前の光景はそのまま素通りしてもよい対象だった。だがしかし。
「天音さん、何とかしてあげましょうよ〜」
 有紀が天音の服の袖を引っ張り、そんなことを言った。天音がちらりと有紀を見た。黒い瞳でじっと天音を見つめている。
(う〜、そんな目されると弱い〜)
 天音は少し迷ったが、結局は有紀の言葉に頷いた。まあ、いい所を見せようと多少思ったとか思わないとか……それはさておき。
 3人はデパートへ入るとエレベータで最上階へ向かい、非常階段を使って屋上へ出た。そこでは1人の男性が少女と睨み合いを続けている真っ最中だった。

●説得中・1【3A】
「ん……いい男の人」
 クールな雰囲気の漂う茶髪の男性、稲葉大智の眼鏡をかけた横顔を見て養老南がつぶやいた。その言葉には南宮寺天音も海堂有紀も同意した。しかし、どこかで見たような顔なのは気のせいだろうか?
「そこで何してる」
 大智が3人に気付き声をかけてきた。
「ひょっとして彼女の同級生か?」
 同じ年頃なので大智はそう思ったのだろう。だが天音が首を横に振った。
「ちゃうちゃう! うちらはただ、説得に来ただけや! どうやらアンさんの方が先客やったみたいやけどなあ」
 そうこうするうちに、3人が大智のそばへやってきた。
「どうしてそんなことをしようと思ったんですか〜?」
 のんびりとした口調で、心配そうな表情を浮かべている有紀が少女に尋ねた。
「1つしかない命を粗末にしようとは、どういうつもりだ?」
 同じく大智が少女へ問いかけた。その目は鋭く少女を睨み付けていた。
「だって……だって、私は1人ぼっちなんだもの!」
 不意に少女が叫んだ。
「高校に入ってもやっぱり……」
 目を伏せ、大きく頭を振る少女。この様子ではどうやら、高校入学間もないようだ。

●説得中・2【4】
 屋上では、最初に駆け付けた稲葉大智を筆頭に、南宮寺天音、海堂有紀、養老南の4人が少女と対峙していた。
 そこへ新たに説得へやって来た2人が加わった。宮小路皇騎とジュジュ・ミュージーの2人である。
「オウ! 千客万来ネー」
 笑って、オーバーリアクションをとるジュジュ。すでに4人も居たとは思わなかったのだろう。
「アンさんらも説得に?」
「その通りです」
 天音の問いかけに皇騎が答えた。そして周囲を見回してから少女に視線を向ける皇騎。特に変わった様子は見られない。
「いい加減、止めたらどうだい。藤井明子(ふじい・あきこ)さん」
 皇騎が少女の名前を呼んだ。驚いた表情で皇騎を見る明子。他の5人の視線も皇騎に集まっていた。
「天川高校1−A、入学後2週間で登校拒否……さあ、どこまで話そうか?」
 調べた情報を口にし、皇騎は明子の反応を待った。
「……どうしてそんなことまで……」
 驚きを隠せない明子。皇騎は下を指差した。
「同じ高校の娘が教えてくれたよ」
 そこへピンときた天音が口を挟んだ。
「あーっ、分かった! アンさん、ひょっとして高校で友だちできてへんのとちゃうか?」
「!」
 目を見開き、明子が天音に視線を向けた。
「図星、か」
 溜息を吐き、大智がつぶやいた。これで先程明子が言った『1人ぼっち』の意味が通じる。
「アホやなあ……アンさんはまだ若いんや。人生これからなんやから、友だちなんぞいくらでもできるやろ? ほれ、そんなとこおらんとこっちゃおいで」
 持ち前の口八丁手八丁で明子の説得を試みる天音。気付かれぬよう、じりじりと前へ進んでいた。だが――。
「っ! 来ないで!」
 天音の行動に気付いた明子が叫んだ。
「それ以上近付いたら、飛び降りてやるんだからっ!!」

●タイミング【5】
「……ならばやってみろ。一度下を見てもなお飛び降りる勇気があるのなら」
 明子の言葉に、大智が冷静に切り返した。明子は何も答えない。よく見ると、足が震えていた。
(やはりな)
 明子に飛び降りる勇気はない。今の様子を見て、大智はそう判断した。となれば、衝動的に飛び降りさせることなく、隙を見て救出するだけである。
 大智がそのタイミングを計っていると、南がずいと進み出て明子に語りかけた。
「飛び降りちゃうと……酷い死体の出来上がりさ」
 小悪魔のような笑みを浮かべる南。皇騎が何を言い出すのだと言わんばかりの表情で南を見た。一方天音は呆れた表情を浮かべていた。
「ほら明子ちゃん……ボクの目をよぉく見て?」
 可愛らしい口調で語りかける南。明子がじっと南を見つめている。
「ほら、ボクの元においで……ボクと楽しい遊びをしようよ」
 南が笑みを浮かべたまま語りかける。次第に明子の瞳が虚ろになってくる。
 とその時、屋上にあるスピーカーから館内放送が流れてきた。
「お知らせします。迷子の……」
 その瞬間、明子がフェンスを両手でがしっと握り締めた。
(よし!)
 今がそのタイミングとばかり、駆け出す大智。明子が動く様子はない。大智は素早くフェンスを乗り越えると、明子の身体を確保した。
「おい、手伝ってくれ!」
 その大智の声に皇騎が手伝いに向かった。そして、無事に明子は救助された。

●お友だち、ですね【6】
 大智と皇騎が明子の両脇を抱えて戻ってくる。はっとして、明子が6人を顔を見回した。
「あ……あたし……?」
 どうも一瞬気を失っていたようだ。大智がぎゅっと明子の身体を抱き締めた。
「死ぬ勇気があるなら、何だって出来る! そうだろ?」
「そうだよ。少なくとも1人ぼっちなんかじゃない。ここにこうして、明子さんを心配してくれた人が居るんだから」
 優しく皇騎が言った。すると、有紀がとことこと歩いてきて、明子にこう言った。
「お友だちになってくれますか〜?」
「え……?」
 驚く明子。有紀は返事を待っていた。
「う、うん……いいけど……」
「ありがとう♪ 今日からお友だちですね〜」
 有紀がにっこりと微笑み、明子の手をぎゅっと握った。
「うっ……うう……」
 その途端、明子が大粒の涙をこぼし泣き始めた。それは歓喜の涙であった――。

●遅れてきた刑事【7】
「おーい、大丈夫かー!」
 どやどやと警官たちが屋上に姿を見せた。
「オウ! ベリィ早かったですネー」
 ようやくやってきた警察に対し、ジュジュが言い放った。皮肉を込めたジョークである。
「ああ、どうも。ご協力感謝します」
 頭に白い物の混じった中年男が、6人に敬礼した。敬礼といっても、会釈程度の敬礼なのだが。
「冬美原警察捜査課の田辺と申します。一応事情聴取があるんで、お話聞かせてもらえますかね?」
 田辺が6人にそう言い、経緯を聞き始めた。特に注意されるようなこともなく、事情聴取はあっさりと終わった。もっとも職業と連絡先はしっかりと聞かれたのだが。

●出演交渉【8D】
「妙な人……」
 南はとある女性のことを思い、ぽつりつぶやいた。別の意味で気になる女性であった。
「あ〜、もうこんな時間やんか〜」
 時計を見て天音が情けない声を上げた。飛び降り騒動で、すっかり時間を取られてしまっていた。
「あの、すみません」
 マイクを手にした細身の女性が3人に話しかけてきた。近くのサテライトスタジオで公開放送を行っていた、女性パーソナリティだ。
「私、YSBラジオの鏡巴と申します」
 そう言ってぺこりと頭を下げる巴。ついつられて3人も頭を下げる。
「お聞きしたのですが、皆さんは飛び降りようとしていた方を説得されたとか……」
「うちらだけとちゃうけどな」
 天音がきっぱりと言った。ここで嘘を言っても仕方がないし、意味もない。
「よろしければ、お話をお伺いしたいのですが……あちらのスタジオで」
 巴がサテライトスタジオの方を指差した。
「わ〜、テレビに出演できるんですね〜。カメラさんはどちらですか〜?」
 思わぬ展開に、笑顔を見せる有紀。
「有紀ちゃん、ラジオだよ」
 くすくすと笑い、南が突っ込みを入れた。
「え〜?」
 天音が嫌そうな声を上げた。スタジオに行ってしまえば、貴重なデートの時間がさらに減ることになる。天音が嫌がるのも当然だった。
「3択ゲームにも挑戦してもらおうかと思うんですが。当たれば賞金も出ますので、いかがでしょうか?」
「よっしゃ、出たる!」
 180度態度をころっと変え、天音が言った。根っからのギャンブラーには、賞金という言葉が一番効くようであった。
「何を話そうかな〜」
「ボクの魅力、話しちゃってもいいの?」
「賞金、賞金、なんぼやろな〜」
 考えることは各々だが、3人は巴に連れられサテライトスタジオへ向かった――。

【冬美原、最初の事件 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 15、6? / 高校生/男娼 】
【 0519 / 稲葉・大智(いなば・だいち)
           / 男 / 27 / モータージャーナリスト 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0585 / ジュジュ・ミュージー(ジュジュ・ミュージー)
     / 女 / 21 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。なお、今回はマイナスの場面番号も存在しています。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全19場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・界鏡線初めての依頼ということもあり、高原も気持ちを新たに書いてみました。今回参加された方も、高原は初めてお目にかかる方ばかりでしたし。今回の印象はいかがでしたでしょうか? 果たして高原はイメージ通りに描けていたでしょうか?
・冬美原で最初の事件ということもあり、そう変化球もなく物語は進みました。そういえば色々とNPCが姿を見せていますね。
・南宮寺天音さん、プレイング楽しく読ませていただきました。高原、大阪弁好きです。プレイングは悪くなかったと思いますよ。で、冬美原には場外馬券売り場等はあります。裏については現状では不明ということで。バストアップ等参考にさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。