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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


プールに潜みし罠
●オープニング【0】
 天川高校『情報研究会』――ここには放課後になると生徒に限らず、様々な人間の出入りがある。これには比較的オープンな校風の影響もあるが、OBの繋がりによる物も少なからずあるらしい。
「ねえねえ、知ってる? 鈴丘温水プールで妙な事故が起きてるんだって」
 何となく訪れてみたその日、『情報研究会』会長の鏡綾女が目を輝かせて言った。確かそこは鈴丘新聞社が出資して作ったプールだと聞いているが……。
「泳いでいると、突然足を引っ張られて溺れさせられそうになった人が多く居るらしいの。でも、その時近くには誰も居なかったんだって!」
 そんなことが4月だけで10件以上も起きたそうだ。
「4月はあたしもお姉ちゃんと遊びに行ったけど、変わった所はなかったと思うよ。あ、でもちょっと塩素が目に染みたかも……3月はそんなことなかったのに変だよね?」
 腕組みをし、自らの考えを述べる綾女。それに続けて、鈴丘温水プールでは原因を調査してくれる人材を募集していると教えてくれた。
 調査は営業時間が終わってから、つまり夜中になるらしい。調査にかこつけて、プールで泳いでみるのもいいかも……?

●楽しい(?)デート♪【1B】
(ふっふっふー……今日は邪魔者も居らんし、思いっきり楽しむでー♪)
 鈴丘温水プールの女子更衣室前で、南宮寺天音は不敵な笑みを浮かべながらガッツポーズをしていた。
(この日のために厳選したセクシービキニで有紀はんを悩殺や!)
 どこで手に入れてきたんだと詳しく聞いてみたい程、天音の着ていた水着は大胆なカットが施されていた。……目当ての相手以外も悩殺されそうな気がするのは気のせいだろうか。
「お待たせしました〜」
 と、そこへのんびりとした声がする。天音が振り返ると、そこにはフリルのついた可愛らしい水着に身を包んだ海堂有紀の姿があった。可愛らしい水着だが、出る部分はしっかり出ている。
「ううん、全然待ってへんで。それ、可愛いなー♪」
「そうですか〜。でも、無料で入れるなんて驚きですね〜」
 にこにこ笑顔の有紀は、天音に『ただでプールに入れる』と誘われてやってきたのだ。
「まあ……色々とあるんやけど」
 少し言葉を濁しながら、天音は有紀の腕に自分の腕を絡めた。
(ほんまは夜中だけやのに、調査にかこつけて昼にも強引にただで入れてもろたもんなあ……)
 鼻の頭を掻く天音。もちろんそういう裏事情は、有紀には全く話していない。
 2人は腕を組んだままプールサイドへ行くと、軽く準備体操をしてからプールの中へ入った。温水プールなので、水が冷たいということもなく泳ぎやすい。
「それそれ〜!」
「うわっ! ほんならこっちも反撃やーっ!」
 プールの中ではしゃぐ2人。少し泳いでから、互いに水をばしゃばしゃと掛け合う。心底楽しそうであった。
 そして――そんな楽しい時間は破られる。
「誰か溺れたぞー!」
 ざわつく場内。溺れたと思しき筋肉質な男性が、数人の男性の手によりプールサイドへ揚げられた。プールから上がり、様子を見に行く2人。発見が早かったため、男性は少し水を飲んだだけで済んだようだった。
「……誰かが俺の足を……足を引っ張ったんだ……引っ張ったんだ……」
「けど、そばには誰も居なかったんだぞ!」
 うわ言のようにつぶやく男性に、別の男性がそう言っていた。

●水着姿の8人【3】
 夜の鈴丘温水プール。もう2時間もすれば日付が変わる。そんな時間に、水着姿の8名の男女がプールサイドに集まっていた。
「結構興味ある人って居るんだー」
 綾女が皆の顔をきょろきょろと見回す。
「居るものだな。ああ……向こうの3人はこの間会ったか」
 宮小路皇騎は少し離れた場所へ立っている3人組+1に視線を向けていた。
「何であんたがここにおんねん……」
 セクシービキニに身を包んでいる南宮寺天音が不機嫌そうにつぶやいた。
「だって天音ちゃんがボクにおごる約束を反故にするからいけないんだよぉ?」
 くすくすくすと小悪魔のような笑みを浮かべる少年、養老南。天音はぎろりと南を睨み付けた。
(たく、そうかと思たら、他に邪魔者は居るし……)
 溜息を吐く天音。彼女を悩ませる原因はもう1つあった。
「わ〜い、有紀ちゃんと一緒の仕事♪」
 スクール水着に身を包んだ霧山葉月が、嬉しそうに海堂有紀の腕をつかんでいた。
「一緒ですね〜」
 屈託のない笑顔で答える有紀。こちらはフリルのついた可愛らしい水着である。
(ううっ……うちは負けへんでっ!)
 この自らに不利な状況の中、妙な闘志を燃やす天音であった。
「……何だかな」
 不思議な空気が漂っているのを感じ取り、皇騎が苦笑した。
「鏡会長、どうでしょう?」
 その声に振り返る綾女。見ると、白い水着に身を包み、パーカーを羽織った銀枝つばきの姿があった。その足元には様々な道具が並んでいる。
「防水型懐中電灯、浮き輪、ハイポ、エトセトラエトセトラ」
 準備万端なつばき。浮き輪もロープの付いた普通のドーナツ型の物と、イルカ型の物の2種類があった。ちなみにハイポとは塩素中和剤の名前である。
「どうしたんですか、これ?」
 スクール水着に身を包んだ天川高校1年の少女、倉実一樹が大量のハイポを指差し尋ねた。
「熱帯魚店で買ってきたの」
 胸を張りさらりと答えるつばき。胸を張ると、元々立派な胸元がより立派に見える。なお、後で葉月もハイポを用意していたことが分かり、その量はさらに増えた。
「それにしても寒いですよね。やだな……」
 そう言って腕をさする一樹。他の者はそうでもないようだが、一樹1人だけ空気を冷たく感じていた。
「さてと……情報交換しておいた方がよさそうだな」
 皇騎のその一声で、調査前の情報交換が始まった。

●情報交換【4】
「逆流した理由、誰も知らないの?」
 葉月が皆に尋ねた。3月上旬に破損した排水パイプの工事が行われている。その原因は逆流。しかし何故逆流したのか、全くもって不明のままだった。
「逆流を起こした原因が分かれば、自ずと事件の真相も見えてくるのだろうがな」
 原因について皇騎もネット上で調べてみたが、これといった情報は手に入らなかった。
「そうゆーたら、今日もまた1人溺れとったで。筋肉質な男の人や。発見した人の話やと、近くには誰も居らへんかったようやけど……」
 天音が今日目の前で見た話をする。こくこく頷く有紀。
「他にも大勢居られるんですよね〜」
「何や知らんけど、5月に入ってペース上がっとるらしいで。溺れるまではいかんでも、足を引っ張られたとかで……」
 天音は、毎日のようにここに来ているという客から聞き込んだ話を披露した。
「幽霊ですか……? あ、いえ、幽霊なんて居ないですけど。ええ、居ませんとも」
 恐る恐る尋ねながらも幽霊の存在を否定する一樹。よく見れば、首からお守りを下げている。で、手首には数珠。……言葉に説得力がないような。
「あ、そうだ。プールの水は別に異常はないそうです。科学部の先輩の分析ですけど……」
「幽霊でも何でも、ボクの魅力でめろめろなのさね」
 妖しく微笑む南。そして唇をぺろりと舐める。冗談なのか、それとも本気なのか……恐らく本気なのだろう。
「逆流を起こし、工事があったのは3月上旬。溺れかける人が続出したのは4月から。で、塩素が目に染みるようになったのも4月からなんだよねー」
 思案顔の綾女。皇騎がその話に補足する。
「ここの職員に聞いてみると、塩素剤の散布状況は変わってないらしい。だが、4月から塩素剤を変えたそうだ」
「4ばっかだよねぇ。悦びの4、死の4……ボクは悦びの方がいいんだけどぉ〜」
 南がくすくすと笑う。
「水中に何かが居る……?」
 プールに視線を向け、葉月が言った。
「塩素がきつくなって、それで……かな?」
「かもしれないけれど、それだけに固執しない方がいいと思うわ。断定が一番危険だから」
 皆の話を黙って聞いていたつばきが言った。
「塩素とは関係ないが、謎の生物を退治するのに、塩を使うB級映画があったな……」
 皇騎がぽつりつぶやく。ネット上で事件の手がかりを探している最中、何故かこの映画の話が検索に引っかかったのだ。
「何にしても、1度泳いでみよ。しばらく泳いでみて、それで何もなかったらまた相談だよね」
 綾女の言葉に皆が頷いた。

●異変【5】
 全員が泳ぐこともないだろうということで、役割分担がなされた。泳ぐのは天音、有紀、葉月、綾女の4人。残りの4人はプールサイドから様子を見ることになった。もちろん異変が起これば、助けに行くことになるのだが。
 葉月と綾女はプールの外周部を泳ぎ、天音と有紀はプールの中央部を泳ぐ。普通に泳いでいるだけじゃなくて、水を掛け合ったりして楽しんでいたりする4人。
 そして10分が経過した――。
「……何もあらへんなあ……」
 少し泳ぎ疲れたのか、天音がぽつりとそう漏らした。他の3人にも声をかけてみるが、3人も似たような物だった。
 そこで4人は1度プールから上がろうとした。その時、有紀の身体がガクンと沈んだ。まるで誰かに足を引っ張られたかのように。
「きゃあっ!」
 悲鳴を上げる有紀。一番近くに居た天音がすぐさま有紀のそばへ泳いでゆく。
「有紀はん!」
 天音が有紀の身体を後ろから抱え上げた。有紀が軽く咳き込む。少し水は飲んだみたいだが、心配はなさそうだ。天音はやってきた葉月と南に一旦有紀を任せた。その瞬間――今度は天音の身体がガクンと沈んだ。
「しも……!」
 水中へ沈んでしまう天音。一樹が慌ててロープの付いたドーナツ型浮き輪を投げ入れた。葉月がそれを受け取り、有紀に持たせる。そして南と共に天音の身体を必死に引っ張り上げた。

●化け物退治【6】
「何かが居るんですよー! 早く逃げましょうよーっ!」
 ロープを必死で手繰り寄せながら、一樹が叫んだ。目には涙が浮かんでいる。
 つばきが大量のハイポを抱えたまま、皇騎に駆け寄った。
「すみません、試してみたいことがあるので、フォローお願いします!」
 そう言うが早いか、つばきは抱えていた大量のハイポをプールへ投げ入れた。その間に全員がプールから上がる。
 ハイポを投げ入れてから10数秒後――プールの中央部が急激に盛り上がった。
「オオオオオオオーーーーーーーーーン!」
 形容し難い叫びと共に『それ』は姿を現した。無色透明の『それ』はプールいっぱいにその姿を膨らませる。例えるならアメーバが近いのだろうか。けれども『それ』がアメーバなんかではないことは明白だった。
 『それ』はしばし身をくねらせると、葉月の姿を見つけ襲いかかってきた。迎え撃とうと身構える葉月。
「何者かは知らんが……これでも喰らうがいい!!」
 まさに『それ』が葉月の目前に来た瞬間、皇騎が用意していた大量の塩素剤をバケツごとプールに投げ入れた。少なくとも、普段使われる分量の倍だ。
「グオオオオオーーーーーーーーン!!」
 葉月の目前から、さっと身を翻す『それ』。皇騎はさらに塩素剤を投げ入れた。『それ』は激しくのたうちまわる。その姿は次第に小さくなってゆく。
 やがて――プールに静寂が戻った。そこにはもう『それ』の姿は見当たらなかった。

●原因は【7】
「う……ううーん……」
 呻きながら目を覚ます天音。ぼやけていた視界が次第にはっきりしてゆく。
「気が付きましたか〜?」
 有紀が心配そうに天音の顔を覗き込んでいた。その瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
「うう……嫌な夢見てもうた……」
 天音はゆっくりと上体を起こすと、南の姿を探した。南は残念そうな、それでいてどこか楽しそうな表情で天音を見ていた。
「よかったです、気が付いて〜」
 有紀がぎゅうっと天音に抱きつく。
「有紀ちゃん、懸命に人工呼吸してたんだよ」
 葉月が、天音が気を失っていた間のことを説明した。
「えっ、そやの!?」
 驚く天音。有紀はこくんと頷いた。
(うわ……何でこういうことは覚えてのうて、あいつに人工呼吸される夢見なあかんのや……)
 天音がガクンと肩を落とした。幸せなのか、それとも不幸せなのか……。
(残念、先越されちゃったねぇ〜。でもいいや、今夜はあの人といっぱい遊んであげるんだしぃ……)
 くすくすくす、妖しく笑う南。これからの夜のことを考えると、自然と笑いが込み上げてしまう。
「逆流の原因って、あの生き物が入り込んできたからかなあ」
 プールの方を振り返り、葉月が言った。水面は揺らぐことなく穏やかであった。
「うーん、そうじゃないかなー。でないと、説明ができないし」
 頷く綾女。納得の行く説明をしようとすると、そうとしか言い様がないのだ。それでも『それ』の正体等の細かい謎は残ってしまうのだが。
「それにしても、私の言いたいことがよく分かりましたよね」
 感心したようにつばきが皇騎に言った。ハイポを投げ入れた後での、塩素剤投入のことだ。
「そっちこそたいした物だ。一旦塩素を中和してあの生き物を活性化させておいてから、一気に叩こうというのだからな」
「まあ何となく。勘……でしょうね。塩素が苦手なら、ただ塩素を多くするよりは、反動をつけてみた方がいいかと思って」
 くすりと微笑むつばき。事実その考えは成功した。
「幽霊じゃなくてよかった……」
 一樹が安堵の表情を浮かべていた。

【プールに潜みし罠 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 15、6? / 高校生/男娼 】
【 0629 / 霧山・葉月(きりやま・はづき)
                   / 女 / 13 / 中学生 】
【 0019 / 銀枝・つばき(ぎんえだ・つばき)
         / 女 / 10代〜30代? / ディレッタント 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全10場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました。冬美原で2つ目の事件をお届けします。このように、世の中には得体の知れない事件もある訳ですね。『それ』の正体ですか? さて、何なんでしょうねえ……。
・ともあれ、鈴丘温水プールには2度と『それ』が現れることはありません。新たな『それ』がどこからかやってこない限りは。
・今回皆さんには報酬以外に水着(アイテム)が贈られています。アイテムは使用すると多くの場合はプラスに働きます。ですが希にマイナスに働く場合もありますので。
・南宮寺天音さん、2度目のご参加ありがとうございます。カード拝見しましたが、かっこいいですね。囮役ご苦労様でした。ちなみに人工呼吸の相手はダイスで選びました。ゆえにあのようになっています。
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
名称:鈴丘温水プール特製水着(女性用)
アイテム番号:01
効果時間:着用時永続
外見説明:紺色で紅い縦ストライプが右胸を通るように1本入った競泳用水着。鈴丘温水プールのマーク入り。
詳細説明:市販の物と異なる素材を使用した、身体にフィットする水着。泳ぎやすく、水中でも動きやすい。非売品。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。