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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


天使の歌声
●オープニング【0】
 FMラジオのチューニングをしていると、時折ラジオ局の使用している周波数以外で反応を示すことがある。それはその周波数を使用する電波がどこからか発せられているから起こる現象である。
 ある日のこと、ゴーストネットの掲示板にこんな書き込みがあった。
『あれは天使の歌声だ!!』
 その書き込みによると、投稿の主は晴海の某ホテルに宿泊した際に、携帯ラジオで深夜のFM放送を聞こうとした時に、偶然その歌声を耳にしたそうだ。
 それは女性の透き通るような声で、投稿の主は目当ての番組を聞くことも忘れ、すっかり聞き入ってしまったとのことだった。そしていつの間にやら眠ってしまい、気付いた時にはもうラジオから歌声は聞こえてこなかったそうだ。
 残念ながらその書き込みにはメールアドレスもなく、投稿の主に連絡を取ることはできなかった。ゆえに本当かどうかは分からない。
 しかしFMの電波だ。出力が強力でなければ、そう遠い場所から電波が発せられているということはないはずだ。この書き込みが真実だとしたら、誰が何のためにそれを行ったというのだろうか。
 ……調べてみようかな?

●レコード会社にて【1B】
 都内某レコード会社。その会議室で、とある女性が社員らしき男と向かい合っていた。
 さらさらとした金髪に、どこか奥深さを感じさせる銀色の瞳。肌は白く、左腕にブレスレットが光っていた。
「わざわざ訪れていただかなくとも……こちらから伺いましたのに」
 男は申し訳なさそうに言った。それを聞いて女性、ラフィエル・クローソーはしずかに微笑んだ。
「いいえ。近くまで参りましたし、それにお聞きしたいこともありましたから」
 世界を股にかけるソプラノ歌手であるラフィエルは、自身の歌声を収めたCDを出すのに、このレコード会社と契約をしていた。そのつてを使って、件の噂について情報を得ようというのだ。
 ラフィエルは男に噂のことと、事実ならばぜひ会ってみたいとの旨を説明した。
「天使の歌声ですか……少しお待ちいただけますか。ちょっと当たってきますんで」
 男はそう言うと席を立ち、会議室を出ていった。そして待つこと35分――男が書類を数枚手に戻ってきた。
「社内の各部署に問い合わせてみたんですが、そういう噂があることを知ってた者は1人だけでしたね。ただ……」
「ただ?」
「その彼も、晴海で何やらラジオから歌声が聞こえたという噂を耳にしただけで、電波の発信源を知っている訳ではないみたいですね」
「そうですか……」
 落胆するラフィエル。やはり実際に晴海に赴く必要があるのだろうか。

●聞こえるのは【3D】
 真夜中の東京――その上空をラフィエルは飛んでいた。向かうは晴海方面だ。
 ラフィエルの背中には純白の翼があった。天使の証しである純白の翼だ。普段は隠しているそれを、今夜は使用している。気紛れ……ではない、必然だと感じて。
 耳を澄ませつつ飛んでゆくラフィエル。今の所は騒音以外何も聞こえてはこない。
(もうすぐ晴海ですわ)
 晴海が近くなってきたその時、ラフィエルの耳に……いや、脳にある言葉が響き渡ってきた。
(これは……能楽?)
 聞こえてきたのは能楽だった。これが天使の歌声なのかと思ったが、何か違う気がする。もしかすると別口なのかもしれない。第一、これは歌声とは別の物だ。
 晴海がさらに近付いてくる。すると今度はラフィエルの耳に、女性の物と思われる歌声が聞こえてきた。
「これ……!」
 驚きを隠せないラフィエル。それは懐かしく、聞き覚えのあり、そして――自らの歌声に相通ずる物であった。
「まさか私と同じく……?」
 歌声の主に対し、ラフィエルはある仮説を立てる。そしてラフィエルは歌声の主を視界に捉えた。
 前方に、白く大きな翼を広げて楽し気に歌っている小柄な少女の姿があったのだ。天使――そう言ってしまって構わないだろう。
 ラフィエルは少女の歌声に呼応するかのように、自らも歌い出した。

●天使たちの饗宴【4C】
 十桐朔羅は歌うのを止め、黙って上空を見ていた。少女は楽しそうに歌い続けている。そんな少女のそばに、純白の翼を広げた女性――ラフィエル・クローソーがやってきた。少女の歌声に合わせ、はもってゆくラフィエル。歌声に奥行きが加わった。先程までが2次元であれば、今は3次元だろう。
 天使たちの歌声が響き渡る晴海埠頭。そこへシュマ・ロメリアが駆け込んできた。
「まさかまた聞けるなんて……」
 上空を見上げシュマがつぶやいた。その瞳がうっすらと濡れていたのは気のせいだろうか。
 5分、いや10分くらいは歌声が続いただろうか。やがて天使たちは歌い終えると、静かにゆっくりと地上へ降りてきた。

●天使の理由【5A】
「確かに『天使の歌声』だな」
 表情を変えることなく朔羅が言った。本物の天使が歌っていたのだ。これを天使の歌声と言わずして何と言うか。
 少女は3人の顔をくるりと見回し、シュマを見てくすっと笑った。
「なるほど、そういう方なんですね♪」
 明るく言う少女。シュマが一瞬眉をひそめた。
「どういう方と思ったの?」
「いいえ、私の歌声を聞いて何ともない方は、そうは居ませんから。同じく天使か、それとも……」
 少女は笑顔で答えた。
「……なるほどねえ。まああたしの方も、久々に歌声を聞けて嬉しかったけれど」
 笑みを浮かべるシュマ。そしてラフィエルに視線を向ける。
「でも、まさかダブルでとは思わなかった」
「私もそうはないでしょうね、このような機会は」
 ラフィエルはそう言ってにっこり微笑んだ。
「ですが、どうしてこのような場所で歌を?」
「んっとね……もうすぐ、思いっきり歌を歌える機会がぐんと少なくなっちゃうから、その前に少しでも思いっきり歌っておこうかと思って。ここだと、人もそう居ないから大丈夫かなと思ったんだけど……」
 ラフィエルの質問に、少女は苦笑いを浮かべて答えた。
「少なくなる……とは?」
 朔羅が少女に尋ねた。意味が少し分からない。
「うーん……そのうち分かると思うな。あたしの顔を覚えていてさえくれれば」
 少女は意味深な笑みを浮かべた。
「あー、でも今日は本当に楽しかったなあ。まさか一緒に歌える相手が現れるなんて思わなかったし」
「私も楽しかったですよ」
 小さく頷くラフィエル。
「あたしも歌声は堪能したよ」
 シュマが少女にウィンクした。
「うむ、なかなか見事な物だった……」
 相変わらず無表情で朔羅が言った。
「それじゃ、あたし行くね」
 再び翼を羽ばたかせる少女。ゆっくりと空へ上がってゆく。
「またどこかで会おうね♪」
 そう言い残し、少女は東の空へ飛んでいった――。

●新人歌手は【7C】
 あれから2週間が経った。テレビではデビューしたばかりの新人歌手、Myu(みゅう)のプロモーションビデオが流れていた。白いワンピースを着た小柄な少女が、海岸を元気に走り回っている。曲としてはアイドル路線だろうか。
 しかし何気なくそれを見ていてふと気が付いた。この少女、あの夜に会った天使ではないかと。
 あの夜に言っていた少女の言葉。『そのうち分かる』とはきっとこのことだったのだろう。恐らく、こうして芸能界デビューするから思いきり歌えなくなるということか。
 それにしても、だ。まさか天使がこうしてアイドルとしてデビューするとは……何とも不思議な物である。もっともそれが許される今は平穏と言うのかもしれないが。

【天使の歌声 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0140 / 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと)
                   / 男 / 14 / 留学生 】
【 0142 / 王・鈴花(うぉん・りんふぁ)
        / 女 / 9 / 小学生(留学生)。たまに占い師 】
【 0477 / ラフィエル・クローソー(らふぃえる・くろーそー)
                 / 女 / 20前後? / 歌手 】
【 0579 / 十桐・朔羅(つづぎり・さくら)
                  / 男 / 23 / 言霊使い 】
【 0660 / シュマ・ロメリア(しゅま・ろめりあ)
                   / 女 / 25 / 修道女 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全23場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定してあります。
・お待たせしました、ストレートな依頼をお届けします。今回の舞台は晴海だった訳ですが、馴染み深い方も居られるのではありませんか? 本文中で登場したホテルも、分かる方にはすぐ分かりますよね。
・今回は歌声が聞こえてきた時点で、高原はダイスを振って判定を行っています。抵抗するための基準値は50%。それに能力等やプレイングを考慮して、値を上下させています。
・気付いておられるかもしれませんが、トラップを2つばかり仕掛けていました。それゆえに、失敗・部分的成功・成功と分かれる結果になりました。
・ラフィエル・クローソーさん、まさしくストライクな方でした。プレイングも悪くなかったんですが、設定の時点でほぼ成功でした。ゆえに基準値はもっとも下がっています。一緒に歌ってみて、いかがだったでしょうか? バストアップ等参考にさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。