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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


神薙神社祭【皐月】
●オープニング【0】
 神薙北神社と神薙南神社。この2つの神社は旧冬美原城を守るように南北に配置されている。
 その2つの神社では毎月のように祭り――神事が執り行われている。恐らくこの土地の平穏を祈るために行われ続けてきたのだろう。
「これより、今月の奉納試合の受付を開始いたします」
 祭りの行われていた境内では、ハンドマイクを手にした巫女さんたちが奉納試合の参加者を募っていた。その近くには試合内容に関する説明の書かれた看板が立てられている。
 何気なくそれを見て驚いた。じゃ……じゃんけん? 奉納試合がじゃんけんですか?
「昔は相撲や剣術大会も行われたのですが、子供から大人まで幅広く参加できるようにと、危険性のないじゃんけんに変わったんですよ」
 こちらの様子に気付いてか、巫女さんの1人が親切にもそう説明してくれた。
「1回戦は1対1による勝負です。そして勝ち残られた方、負け残られた方、各々のグループの中より優勝者と裏優勝者を決定するのです」
 なるほど。つまり必ず2回勝負することになるようだ。
「優勝者か裏優勝者になりますと、賞品が贈られますよ」
 え、賞品が出るの――?

●Dr.ヘルネス登場【1F】
 夕陽が間もなく水平線に沈もうとしていた海岸で、1人の老紳士と5人の若者たちが対峙している。鼻の下に立派な髭をたくわえた老紳士は黒いマントを羽織り、銀色のステッキを手にしていた。
「またしても貴様の仕業だったのか、Dr.ヘルネス!!」
 5人の若者のうちで中央に居た、黒いTシャツ姿の青年がびしっと老紳士――Dr.ヘルネスを指差した。
「ふふふ……敵ながらたいした奴らだ。これほど早く、我らの企みに気付くとはな」
 Dr.ヘルネスが不敵な笑みを浮かべた。
「へっ! てめえらの意のままに動く人間を作ろう企みなんざ、俺たちが許さねえ!!」
 5人の若者のうち、たくましい体格の青年がDr.ヘルネスにそう言い放った。
「そうよ! そんな企みのために、こんな綺麗な海を汚そうだなんて……!」
 若者の中の紅一点である女性は大きく頭を振った。
「はっはっは、何とも愚かな奴らだ! 我らはお前たちと同じことをしているに過ぎんのだよ……」
 ステッキを若者たちに向けるDr.ヘルネス。
「お前たちは今までどれだけの海を汚してきた? 海を意のままにしようとしたのではないのか、んー?」
 Dr.ヘルネスの言葉に反論できない若者たち。だがそれでも、黒いTシャツ姿の青年が何とか反論した。
「……確かにその通りかもしれない。しかし! だからといって、貴様たちの企みを放っておく訳にはいかない!!」
「ふはは、愚かだ! 何とも愚かな奴らだ……わしが手を下すまでもない。さあ姿を現すがいい、改造人間ベモーナよ!!」
 Dr.ヘルネスはそう叫ぶと、手にしていたステッキを勢いよく砂浜に突き刺した――。

●現代特撮事情【1G】
「はい、カット!」
 男の大きな声が聞こえてきた。途端に、若者たちの表情が和らいだ。
「いやー、疲れるよなー。今日は後何シーン残ってたんだっけ?」
「ごめーん、メイク見てくれるー?」
「マネージャー、何か飲み物ない? 俺、喉乾いてさあ」
 散らばってゆく若者たち。その後をDr.ヘルネス――特撮の悪役専門の俳優である赤井三郎は歩いていった。
「5分休憩したら、今日最後のシーン撮るからな」
 白髪で恰幅のよい男が、若者たちや行き交うスタッフにそう声をかけた。どうやら男は監督らしい。
「いやあ、お疲れさん。相変わらずいい演技するねえ」
 監督――飯田橋修二(いいだばし・しゅうじ)は肩にぽんと手を置いて三郎を労った。
「いいえ、あたしにはこういう役の演技しかできませんからね」
「謙遜するない。赤井さんが敵役やってくれてるから、この作品も引き締まるってもんだ」
「そう言っていただけるとどうも」
 三郎は静かに頭を下げた。
「近頃は『魔法少女バニライム』って奴に押され気味でなあ。だが、彼らとあんたのおかげで、うちの『科学特捜レイダーン』もまずまずの人気が取れてんだ。ま、主役の気質は昔に比べると変わっちまったがな」
 苦笑する飯田橋。長年この世界で過ごしてきたからこそ分かることであった。
「ああ、どうだい? 今日終わったら、神薙北神社だったか、そこの祭りを見た後で、一杯飲もうって話なんだが……ああ、分かってるとも、あんたは一滴も飲めないってな。どうだい、食事だけでもしに来ないか?」
 と、飯田橋が三郎を誘ってみたが、三郎は首を横に振った。
「すみませんが、あたしはホテルで早く眠らせてもらいます」
「そうかい。ま、お互い寄る年波には勝てないってこったな。はっはっは!!」
 豪快に笑う飯田橋。三郎は薄い笑みを浮かべた。

●声が聞こえる【6F】
 夜8時前の旧市街――1人の少年が薄暗い路地を歩いていた。手には布製の手提げ鞄を持っている。恐らく塾帰りなのだろう。
(ううっ、いつも通ってる道なのに、今日は何か怖いよ……)
 少年はきょろきょろと落ち着きのない様子であった。
(やっぱり、あの変なカードがあったからだよね)
 今朝少年が目覚めると、枕元に妙なカードが置かれていた。文面は『今夜、あなたを迎えにゆこう』とだけ書かれていたカードだ。
 少年は何となく親や友人に話すこともできず、今日1日を過ごしていた。そして今は夜である。
(もうちょっとで家だ……ええい、走っちゃえ!)
 駆け出す少年。だがその時、少年の耳に謎の声が聞こえてきた。
「……きたよ……」
 少年の足が止まった。空耳かと思い、少年は耳を澄ませた。
「……迎えにきたよ……」
 今度はよりはっきりと聞こえた。男性の声だ。
「だ……誰だよぉっ」
 少年が怯えた表情を見せた。周囲には誰の姿も見当たらない。
「くっくっく……誰なのか、そんなに知りたいのかい?」
 謎の声は、少年のさらに近くで聞こえてきた。
「しっ……知りたいさ! ど、どこに居るんだよぉっ!」
 少年は激しく顔を動かした。やはり誰の姿も見当たらない。
「そうか……そんなに知りたいのか……」
 謎の声は、少年の耳元で聞こえた。
「ひっ……!!」
 少年の顔が強張った。その場から逃げようとしても、足が全く動かなかった。
「赤マント参上……」
 少年のすぐ目の前に、紅いシルクハットと紅いマントを付けた男が姿を現した。残念ながら顔ははっきりと見えなかった。
「ひ、ひぃっ!!」
 さらに強張る少年の顔。赤マントは顔を少年の至近距離に近付けて、ニイッと笑った。
「くっくっく……約束通り、あなたを迎えにきたよ……」
 赤マントの手が、少年の肩にかかった。
「うっ……うわぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!」
 少年の悲鳴が、薄暗い路地に響き渡り――やがて再び静寂が訪れた。
「くっくっく……子供たちの恐怖に満ちた顔の何という素晴らしさよ……。これで月のない夜であれば、なお素晴らしいのだが……」
 その夜、赤マントは数人の子供たちをさらったという――。

●虚構と現実【7】
 朝6時過ぎ――三郎が宿泊先のホテルの喫茶コーナーへ行くと、そこにはすでに起きてきていた飯田橋の姿があった。
「よお、おはよう」
 三郎に声をかけてくる飯田橋。
「おはようございます」
 三郎は飯田橋の向かいの席に座った。
「ニュース見たかい?」
「は?」
 飯田橋に唐突に言われ、つい三郎は間抜けな返事を返してしまった。
「いいえ、あたしは起きてすぐにこちらに降りてきたもんですから」
「そうか、なら知らないよなあ」
 飯田橋は飲みかけだった珈琲をすすった。
「何か、撮影に影響するようなことでも?」
「いいや、そっちじゃない。主役が逮捕されんのは、監督人生の中で1度で十分だ」
 苦笑する飯田橋。
「ローカルニュース見てたら、妙な事件について触れててな」
「どんな事件です」
「何でも、紅いマントを羽織った男が子供たちを次々にさらっていったそうだ」
「……はあ、そうですか」
「ま、子供たちは鈴浦海岸で皆無事に保護されたそうだけどな。ほれ、昨日ロケしたとこだ」
「ああ、あそこですね」
 三郎は小さく頷いた。
「それにしてもこんな事件が起きると、特撮の悪役のインパクトが弱まるよなあ……参った、参った」
 笑いながら言う飯田橋。その様子からは、全く参ったようには感じられなかった。
「それはそうでしょう。虚構の世界でなく、現実の世界に存在する者がより怖いのは自然なことですから」
 三郎は薄く笑った。

【神薙神社祭【皐月】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 15、6? / 高校生/男娼 】
【 0634 / 赤井・三郎(あかい・さぶろ)
                 / 男 / 70 / 俳優&怪盗 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0702 / 北一・玲璃(きたいち・れいり)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全22場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、ようやくお届けすることができました。この手の依頼は、普通の依頼に比べて行動しにくいとは思いますが、恐らく今後も出てくると思いますので……。
・奉納試合の組み合わせですが、ダイスを振りランダムに決めさせていただきました。決定戦でのサイコロも、実際にダイスを振って結果を出しています。ただし、能力を使われた方の場合はまた別に判定作業を行っています。
・アイテムのことですが、冬美原では基本的にアイテムを使用できるのは入手した本人のみです。ですが、プレイング上でアイテムの譲渡や貸与が行われている場合はその限りではありません。
・赤井三郎さん、実は今回のプレイングを読んで高原少し悩みました。が、こういうプレイングもありということで、そのまま通しています。できることならば、オープニングの内容に関係するようにプレイングを書いていただけるとありがたいです。プレイングの内容自体は面白かったですよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。