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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:木の精霊
------<オープニング>--------------------------------------
『おおおぉぉぉぉぉ!』
 断末魔が響き渡り、そして消えていく。
 武彦が依頼主の関係の人間に憑いた悪霊を、新生・結界策で成仏させた瞬間だった。
「お見事ですよ! 草間さん!」
 望月権蔵も、これで依頼主から多額の報酬を得られるということで、鼻が高かった。
「恐らく、この木が霊を呼び寄せているな。結界を張っておこう。望月、手伝ってくれ」
「分かりました」
 武彦と望月は、依頼人宅の木の周囲に策を立て、結界策を巻き付けて結界符を貼り付けていく。
 大方の作業を終えた二人は、依頼人から400万もの報酬を受け、立ち去るのだった。
 それから何日か経って、先日の依頼主から電話があった。
 その内容とは、結界が毎日のように破られている、というものだった。
「毎日結界が、か。おかしいな、あの結界は普通の人間の力じゃ、外からも内からも破れないハズなんだが……」
「草間さん、調査にいきますか?」
 望月が問う。
「ああ、そうするか」
と、そこへ呼び鈴が鳴った。
「望月。お客さんだ、そのデカイ図体を別の場所へどけてくれ」

◎再会、そして……
 武彦は玄関へでて扉を開けた。
 するとそこには、ストレートの髪に大きく澄んだ瞳を持った、少女がこちらを見て立っていた。
「草間さん、こんにちは。お久しぶりです」
「ん? あ、君は……。ああ、思い出したよ、確か美桜さん、神崎美桜(かんざき・みお)さんだったね」
「あ、覚えててくれたんですね! 嬉しいです!」
 美桜は両手を口にあてて、信じられないという感じだった。
 北海道に渡航しての事件以来だから、その時間の長さが分かろうというものだ。
「どうしたんだ? またいきなりだな」
「あの、また興信所のお手伝いをしたくて来ました。邪魔はしません、お願いできますか?」
「うむ〜、そうだなぁ。とりあえず入ってくれ。一匹ゴン太マグロがいるがね」
「え? マグロさん?」
 武彦に促され、美桜は興信所の中へと入った。
 すると二つ向かい合ったソファの片方に、例のゴン太マグロが居た。
「こんにちは」
と美桜が望月に挨拶すると、彼は飛び起きて何事かと辺りを見回す。
 するとそこには、可愛い女の子美桜が立っていた。
「おお、こんにちは。いや、はじめまして、ですかねぇ。私は望月権蔵といいます」
「あは、そうですね。はじめまして、私は神崎美桜といいます。よろしくどうぞ。うふふ」
 武彦がコーヒーを持ってきた。自分の分と美桜の分。望月はコーヒーは先ほど飲んだばかりなので、持ってはこなかった。
「草間さん、あなた美桜さんに何か言いませんでしたか?」
「ん? なんで?」
「美桜さん、私を見てこうして笑ってますよ」
「ああ、そういえば言ったな。ゴン太マグロが一匹居るって」
「な、なんてこと言うんですかぁ!」
 怒るのも無理はない。しかし、まるでそっくりなので、武彦と美桜はクスクスと笑い合った。
「もう、知りませんよ。先に依頼主の所に行っています。さっさと来て下さいね!」
「わるいなぁ。俺達ももう少しで行くことにする。依頼主に伝えておいてくれ」
「分かりました! では!」
 よほどゴン太マグロという言葉が気に食わなかったらしい望月は、怒るように出て行ってしまった。
「笑いすぎましたか?」
「ははは、あんなことでプンスカ怒ってばかりいる男じゃないさ。それよりこれから結界の調査をして来ようと思うんだが、美桜さんも行くかい?」
「はい! もちろん同行させて下さい! お願いします!」
 するとそこへ、電話が入った。
「ちょっと待ってくれ、電話だ。もしもし、草間興信所ですが」
『草間さんですか? 俺です、都築亮一(つづき・りょういち)です』
「おお、亮一くんか! ひさしぶりだなぁ。今はどうしてるんだ? また高野山から下りてきたかい?」
『ええ、まあそんなところですね。それより、美桜はそちらに行ってますか?』
「ああ、来ているが。変わるかい?」
『いえ、今はいいです。それよりお仕事の方はどうですか?』
「これから結界の調査さ。ああ、そうだ、君にも来て貰えると助かるんだが。場所を言おう」
『はい、お願いします……』
 武彦は、詳しい住所とその現場を指示し、そこへ早急に向かって合流するよう促した。
『わかりました、すぐに向かいます』
「ああ、君になら原因が分かると思ったんでね。宜しく頼むよ」
『任せて下さい。それと新生・結界策の調子はどうですか?』
「バッチリだよ。改良してくれて本当に助かっている。ありがとう」
『それは良かったです。じゃあ、またあとで』
 受話器を置く武彦。その間に美桜は、あるものを見つめていた。
 新しい武器、新生・結界策だ。
「あの、これ亮一兄さんが改良したって聞いたんですけど……」
「うん、そうだよ。改・結界策は高野山で何らかの手違いがあってね。強力にはなったが、術者の体力を激しく消耗する欠陥品だった。それを亮一くんは、自らの力でもって、再び新しくしてくれたのさ」
「そうなんですか……。亮一兄さん、私には自分の作ったものも見せてくれないんです。だから、これを見て、亮一兄さんの暖かさがふっと伝わってきて……」
 どうやら亮一は、敬愛する妹分には自分の作った危険なものは見せない主義らしい。
 それも愛情というものだろう。何しろこういった神秘的分野には、危険なものも多数存在する。
 美桜の言うことも分かるが、亮一の気持ちも分かってやって欲しいと思う武彦だった。
「さ、それじゃあ、現場へ行こうとしよう。もちろん、万が一のために、新生・結界策も持って行くがね」
「その結界策が使われる自体にならなければ良いんですけど……」
「尤もだ。さ、行こうか」
 武彦と美桜は、早速新生・結界策を持って、興信所を出た。

◎結界破りの正体
 一足先に来ていた望月は、粗方の調査方針を依頼主に話したようで、それからは帰ったようだ。
 依頼主も結界が毎日破れて、霊や悪霊が出てきはしまいかと、日夜心配していたらしく、すこし心労の色が出ていた。
「おっと、先に着いたのは俺達だったか。亮一くんは上手くやってこられるかな……」
「え? あの、さっきの電話、亮一兄さんからのだったんですか?」
「ああ、そうだ。変わろうかと言ったんだけど、亮一くんが今は良いと言ってね」
「そうですか……。うん、でもここで合流できるなら、文句ありません」
 そう言っているうちに、そこに飛び込んできたのは亮一だった。
 サラサラの髪の美青年。お馴染みのコート着用で登場だ。
「あ、亮一兄さん!」
「やあ、美桜。元気にしていたかい? 草間さんもお元気そうでなによりです」
「まあ、何とかやっているよ。それに、これも絶好調でね。本当に助かってる」
と、武彦は新生・結界策を見せた。亮一も満足そうに微笑んでいる。
「さて、結界の調査なんだが、これがすこしばかり厄介だ。木が相手だからな」
「木、ですか……」
 亮一は少しばかり、眉をひそめた。
 木にはあらゆる霊や悪霊、そして妖怪の類がその中に潜り込んでいる。大きな年季を経た木こそ、その危険性はグッと上がる。
 そして今回の木も、その年季を経た木なのだ。
「そうだ。草間さん、美桜。これを一応付けておいて下さい」
「ん? これは? 式神か?」
「ええ。金剛童子というものです。ないよりマシだと思いますので」
「亮一兄さん、ありがとう」
「礼には及ばないさ。とりあえず、その場所へ行ってみましょう」
 三人は依頼人の家の裏手にある、大きな木に遭遇した。
 年輪で木の年齢は計れるが、まず幹の太さからいって、樹齢五十年というところだろう。
 亮一は、辺りに張り巡らせてある結界を見て、心底感心していた。
「さすがですね、草間さん。一点の曇りもない結界ですよ。しかし、これを破ってくるとは、よほど強い霊か、妖怪の類か、ですね」
「亮一兄さん、私、この木に聞いてみます。どうしてこんな事がおこっているのか、少しでもわかれば」
「ふう、そうくると思ったよ。但し少しの間だけだぞ。木の波動が干渉を起こしてくるかもしれないからな」
 これでも美桜は、特殊な能力を持っている。人の心を読んだり、動物や草木の言葉を聞いたりすることができる。しかも治癒能力まで持っており、単に力のない女の子ではなかった。
「どうしてこんなことになっているのか、教えてください……」
 木に手を触れる美桜。その途端、何かが彼女を驚かせた。
「この木に、得体の知れない生き物がいます! 木さんが知らせてくれました!」
「何だって?! これはどういう事なんだ?」
 武彦は半分パニックになるものの、すぐさま冷静になって考え始めた。
 木の中に居るなら、どうにもなるまい。いかに亮一といえど、内部的な攻撃は、周囲を脅かすものとして退魔師の術は使えず仕舞いだ。
 そんな時である。
 ポテっと、手の平大の物体が一つ、美桜の頭に乗っかった。
「え? きゃあああ!」
 その物体には、愛嬌たっぷりの二つの目があり、大きな口があった。
 まるで漫画にでも出てきそうな、物体、いや生命体だ。
「まさか……。美桜、慌てるな、真言を唱えてみる」
「は、はい……」
「オン・アラミタ・テイ・ゼイ・カラ・ウン!」
 その真言は阿弥陀如来のものだった。するとどうだ、その生命体は、真言を唱え始める。次いで木の中から、結界を破って同じ生命体が、占めて五体出てきたのだ。
「やはりか。美桜、草間さん、これは守護神ですよ。これが宿っていたお陰で、毎日のように木から出入りして結界を破っていたんですよ」
 亮一が説明した。
 そして、この守護神が阿弥陀如来の眷属(けんぞく)に当たる生命体であることも分かったのである。
「なんだ、そうだったのか。それにしても人騒がせな守護神だな」
「しょうがありませんね。これも眷属の為せる業ですし。この守護神が居る限り、この木には霊や悪霊はこれ以上この木に入って来られません」
 武彦も亮一の説明を聞いて一安心だ。今回はこれで仕事は完了だろう。
「ねえ、草間さん、亮一兄さん。守護神さん頭からどけてよ〜」
「重かったらどかせるよ。でも軽かったらそのまま守護神の恩恵を受けた方が良い。それとも格好悪いから辞めようか?」
「ぶう、亮一兄さんの意地悪!」
「ははは。それにしても可愛いよ、美桜さん。守護神とあらば、大事に可愛がってあげた方がいいだろうね」
 こうして一騒動を終わらせた三人は、依頼主に原因を告げ、最初は気味悪がっていたが守護神が木に居ると言うことを聞いて、安心した様子だった。
 いずれにしても、今回はタダ働き。アフターケアということで、気前の良い御仁であれば幾らか出してくれるのだが、家が家だけに報酬の400万で打ち止めということになった。

「コーヒーの一杯でも淹れるよ。ゆっくりしていってくれ。そうそう事件もないことだしな」
「ありがとうございます。少しだけ休んでいきますよ」
「私も。えっと、この子の名前、何にしようかなっておもうんですけど、草間さん、亮一兄さん、どうおもいます?」
 美桜は美桜で、この守護神の名前を考えていたようだ。ただ、その名前に見合うものが見あたらないと言うところらしい。
「そうだな、アムリタはどうだ? 阿弥陀如来には、甘露王如来という別名もあるんだ。その甘露をサンスクリット語でアムリタと言う。どうだ?」
 亮一が説明すると、美桜は大きく頷いた。
「うん! そうする。きゃはは、君の名前はアムリタだよ〜」
 美桜が守護神アムリタを手に抱いて、暢気そうなその顔を見つめる。
 こうして三人は、久しぶりの再会に湧き立ったのだった。

                          FIN
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0413 神崎・美桜(かんざき・みお) 女 17歳 高校生
0622 都築・亮一(つづき・りょういち) 男 24歳 退魔師
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■         ライター通信          ■
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○都築さん3回目、神崎さん2回目の登場ですね。ありがとうございます。
○今回も小説で書いてみました。私の文体はこれで決まった感があります。
○因みに出てきた守護神(アムリタ)は、阿弥陀如来の眷属という設定に
なっていますが、フィクションですので。あらかじめご了承下さい。
○それでは、また出会えることを祈って。失礼致します。
                  夢 羅 武 市 より