コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


【お姫様と一緒】
◆お姫様と一緒
「依頼をお願いしたいんだけど、いいですかぁ?」
どこか間の抜けた男の声がして、草間は事務所の入り口を振り返った。
少女を連れた背の高い青年が立っている。
「あ、はい、どうぞ。こちらでお話をお伺いします。」
草間は唐突な依頼人に事務所の椅子をすすめた。
「僕はスリープウォーカーって言います。こちらはアリス。あ、もちろん本名じゃありません。」
スリープウォーカー(夢遊病者)と名乗った青年はニコニコと張り付いたような笑顔で紹介する。
アリスと言われた少女の方は対照的で、ぶすっと機嫌が悪いまま明後日の方向を見つめている。
「実は、今日お伺いしたのはこの子のボディーガードをお願いしたいのです。」
「はぁ・・・」
草間は少女の様子を観察する。
歳は12〜3歳、淡い栗色の髪を結い上げた顔は美少女という形容にふさわしい。身形もきちんと整っている、身に付けているものも品が良さそうだ。
お金持ちの令嬢といった風情がないわけではない・・・しかし・・・
「まぁ、護衛といってもちょっとこの子の相手をしてくれるだけで良いんですよ。」
「うちとしてはかまいませんが・・・なにかお嬢さんに護衛をつけなくてはならないご事情がおありなのですか?」
「あー、僕が留守をしてしまうので、ちょっと心配なだけです。」
「余計な心配よ。スリープウォーカー。」
アリスがギロッとスリープウォーカーを睨みつける。
幼いながらもなかなかの迫力だ。
「デートのお相手とお願いするより、ボディーガードの方が頼みやすいですから。」
アリスの抗議はまったく無視してスリープウォーカーは続けた。
「わがままなお姫様のお相手と思ってお気軽に考えてくださって結構ですよ。」
デートクラブじゃないんだけどな・・・と頭の中で思いつつも、草間としては断る理由はなかった。

◆受難の日
「・・・と言うわけで、依頼は女の子の護衛なんだけど・・・」
草間が目の前に立つ三人を前に居心地悪そうに切り出す。
今回依頼を担当することになったのは三人。
居丈高にやたら睨みの聞いた女性が1人。
冷静に依頼に関する書類を見るものが1人。
そして、なにやらブツブツ言ってる少年が1人。
この妖しげな三すくみ(正しくは草間対3人の竦みだが)の均衡を破る口火を切ったのは、草間にオーラもメラメラと睨みをきかせていたレイベル・ラブだった。
「護衛はいいんだけど。」
ギヌロっとレイベルがその冷ややかな眼差しで草間を射すくめる。
「あなた自分の事務所で処理した依頼の報告書を読んだことは?」
「え、あ?よ、読んでますよ。きちんと。」
「スリープウォーカーとアリス。この名前に覚えがないとは言わせないよっ!」
ばんっ!とファイルを机の上に叩きつける。
「ここにあるこのファイルの事件、容疑者の名前は全てスリープウォーカーとアリスと言う青年と少女の組み合わせ。わかってんの?」
「あー、まぁ、ほら、同姓同名ってのはどの世界にもいるもんだ。それに彼らがその報告書の人物と同一人物であると言う確証はないワケだし・・・」
「他の目撃者証言ともかなり適合していますが・・・」
草間に助け舟?をだしたのは宮小路 皇騎。
彼は手にもったポータブルタイプのPC端末にまとめた資料を読み上げて言った。
「疑わしきは罰せずの精神で行くならば、今回は様子見・・・といったところが妥当そうですね。」
「そ、そう言うことだ。レイベル。」
草間は何とかこの話題から離れようと、無理やり微笑を作ってまとめた。
「ま、私は金になるなら受けるけどね。」
レイベルは草間の話など微塵も聞かずにケロリと答えた。
草間は内心安堵のため息をつきながら、話を依頼内容のほうへ戻した。
「とにかく・・・アリス嬢を護衛するのは三日間。1人ずつ交代で・・・ということになるな。時間は朝10時に彼女が事務所に来たときから夕方までだ。行動内容はアリス嬢の自由。皆は彼女と行動を共にして彼女の護衛と言うかお相手をすることになる。」
手元の書類をまくりながら草間は一気にそこまで言い終えた。
早く終わらせたいと言う態度が見え見えだ。
「何か、質問は?」
「はいっ!」
元気良く手を上げたのは水野 想司。
「衣装の持込は可ですか!?」
「・・・何のだ?」
草間は色々と問題含みの多そうな依頼を受けなければ良かったと、少し後悔し始めていた・・・。

◆不可思議の国のアリス
「おはようございます。」
宮小路は予定されていた時刻より15分早く事務所に訪れた。
事務所には草間が1人タバコを燻らせている。
「今日の当番はキミか。」
「ええ、なんだか昨日はすごい騒ぎだったようですね。」
水野 想司が一日護衛についていた件は報告書で目を通している。
「まぁ・・・相手も相手だったからな。」
そう言うと草間は苦く笑う。
「キミならあそこまで馬鹿騒ぎにはならないだろう・・・」
「努力します。」
そう言って宮小路が微笑んだ時、いきなり頭上から声が響いた。
「おはようございます。」
草間と宮小路が天井を見やると、そこには直径3メートルほどの水鏡が出来ており、その水面の揺らめきの中からにゅっと足が突き出した。
「失礼。」
水鏡が吐き出した男は少女を抱えたまま優雅に着地すると、二人に挨拶した。
「今日もよろしくお願いいたします。」
「あ、はぁ・・・」
「はい・・・」
草間と宮小路はスリープウォーカーを呆然と見ていた。
「あなたの格好が汚くてびっくりしてるわよ。」
アリスはくすくすと笑いながらスリープウォーカーの腕から降りた。
「ああ、返り血をちょっと浴びちゃいましたね。」
どう見ても、今にもしずくが滴りそうなほど血に濡れたシャツを着た男は暢気に笑った。
「じゃあ、僕は着替えに帰りますのでこれで。アリス、またね。」
そう言って、呆然としている二人を後に再び天井の水鏡へと飲み込まれていった。
「まったく、私まで服が汚れちゃったわ。」
アリスは不機嫌にそう言うと、宮小路の前に立ち命令口調で言った。
「とりあえず、買い物に行くわよ。来なさい。」
目の前の非常識な光景が滑稽に思えるほど、ある意味清々しくわがままなお姫様ぶりに宮小路は苦笑いして答えた。
「では、SHOPへご案内いたしましょう。お姫様。」

◆正体?
宮小路は外商取引のあるデパートの子供服売り場へ行こうとしたが、アリスの「そんな服着れるわけないでしょ!」の一言に一蹴され、彼女が行きたいという店に付き合うこととなった。
そしてアリスが向かった店はフランスの有名な高級ブランドショップだった。
宮小路がこんなところに彼女の着るような服があるのかといぶかしんでいると、アリスは慣れた様子で扉をくぐった。
「いらっしゃいませ。」
そして、予想に反してマヌカンが親しげな態度でアリスに頭を下げる。
「ご注文いただいておりましたドレスが出来上がっておりますわ。」
「ありがとう。服を汚してしまったの、着て帰るわ。」
「かしこまりました。」
そう言ってマヌカンは他のマヌカンに合図すると、奥からブランドのシンボルが箔押しされたケースをもって来させた。
「どちらをお召しになられます?」
全部で14の箱全てを開き、マヌカンはドレスを取り出す。
どれも店頭に飾られているような品ではない。
もっともアリスのサイズの服を用意するような店でもない。
完全なオートクチュールだ。
「芸術的衝動を服飾というスタイルで実験したいと思った時、その贅沢な素材と高度な裁断、縫製技術をもつオートクチュールのアトリエこそが、その実現を可能にしてくれる場だ。とかのモードの帝王は言ったそうだけど、私は私の着たい服を着るために頼んでいるだけよ。」
黙って並べられる服を見つめていた宮小路にアリスは言った。
「あそこに吊るされた安物の服に袖を通す気にはならないわ。」
彼女は安物といったがあそこに並んでるシャツ一枚でも10万単位の代物だ。仕上がりだって子供服・・・いや、一般婦人服の比ではない。
しかし、このお姫様にはそれを嫌味に感じさせない優雅さがあることに気が付いた。
最上級品であろうシルクのワンピースに着替えたアリスは、マヌカンに汚れた服の処分を命じ、残りの服は後で取りに来させると告げた。支払いはカード。
そんな様子を眺めていて、宮小路はいったいこの少女の正体は何ものなのかと思案する。
従妹の天薙撫子が出会ったという少女もアリス。
草間興信所のレポートで読んだあの大量虐殺犯だと思われる犯人の片割れの少女もアリス。
そして、目の前で貴婦人然と振舞う少女もアリス・・・
アリスはなれた手つきでサインすると、宮小路を振り返ってにやっと笑った。
「お金持ちは自分ばかりではないわよ。宮小路財閥御曹司様。」

◆ティーパーティ
「この世界ではお金なんて自由に作り出せるわ。」
目の前に座った少女は言う。
「数字のゼロを好きなだけ増やせは、このちっぽけなカードは純金の塊と同じ価値をもつわ。もちろん、天井は知らずで。」
ショップを出てからアリスはタクシーを止めると、都内随一の高級ホテルの名を告げた。
そしてやってきたのはそのホテルのレストラン。もちろんVIP待遇の個室だ。宮小路自身も家業の関係で幾度か利用したことがあり、見知った顔のホテルマンが二人を恭しく案内した。
そしてその個室で何をしているかというと・・・ただお茶を飲んでいるだけだ。
静かで誰にも邪魔されないと理由だけで。
「君は何ものですか?」
宮小路はストレートに質問した。
向うは宮小路のデータをほぼ完全に把握していることだろう。もっともそれは記録という名前のものでしかなくて、宮小路個人の性格や資質などを指すものではないが・・・
「私は誰なのか、私はどこからきたのか、そしてどこに行くのか?そんな質問に答えられる人間は居て?」
アリスは意地悪く微笑みはぐらかす。
宮小路は自分はしたたかな人間だと思っていたが、この少女も相当なもののようだ。
「何をたくらんでいるのです?」
「別に何も。」
アリスは白いティーカップに注がれた香りの良いお茶を楽しみながら言う。
「スリープウォーカーが何か忙しいらしくて、私は留守番をしてるだけよ。」
「何故、護衛が必要だと彼は依頼してきたのですか?」
「私が退屈して暴れると厄介だからじゃない?」
そう言ってチロリと宮小路を見やる。
「あなたは質問ばかりでお茶も楽しめないの?別にとって食おうって言うんじゃないんだから、お茶ぐらい楽しんだら?」
「あ・・・」
そう言われて目の前のカップのお茶が冷めていることに気がつく。
アリスは後ろに控えたウェイターにお茶を替えるように指示する。
その場慣れた様子に宮小路は目を見張るばかりだ。
宮小路自身もこういう生活と縁がないワケではないばかりに、余計その仕草一つ一つに驚かされる。
「君には驚かされることばかりだ・・・」
「だから私の名前はアリス。不思議の国に住む少女の名前はアリスよ。」

◆謎の男
「本名を教えるつもりはないということですか・・・」
宮小路はため息混じりに言った。
あまり期待はしていなかったが、完全にはぐらかされて終わりそうだ。
「名前はね、そう簡単に人に教えるものではないんだよ。宮小路 皇騎クン。」
「!」
不意に後ろから声をかけられ、慌てて振り向くと笑顔の男が立っている。
「いつの間に・・・」
「僕の気配が嗅ぎつけられたら、君は陰陽師として宮小路家の頂点に立てるんじゃないかなぁ?」
スリープウォーカーはそう言うと、ウェイターに席を作らせ何かしら注文している。
「用事が早く終わったんでね、今日は早めに迎えに来たんだよ。」
きちんと着替えたのか、スリープウォーカーは小奇麗な格好で登場した。もっとも彼の場合はアリスのように高級品を好むわけではないようで平素な格好だったが。
しかし、どんなに綺麗な格好に着替えても彼から臭う濃厚な血の匂いは消えない。
「何をしてきたのか・・・とお尋ねしても答えてはいただけないでしょうね・・・」
「人を殺してきたんだよ。」
スリープウォーカーは宮小路の目をまっすぐに見詰めたままケロリと答える。
「僕はそう言うのが大好きだから。」
「何を・・・」
ある意味予想通りだったが、あまりにも平然と答えたので宮小路は絶句する。
アリスはその様を見てくすくすと笑った。
「私もつれて言ってって言ったのに。」
「今日のは「面白いこと」じゃないからね。」
「人が死ぬのに面白いも面白くないもないでしょう・・・」
物騒な話題に興じていると、ウェイターがワゴンを押してやって来た。
スリープウォーカーの前に熱い紅茶とさらに盛り付けたケーキを何種類も並べる。
「宮小路クンもどう?ここのケーキは結構イケるよ。」
並べられたケーキの数を見て宮小路は胸焼けがしそうだった。
この男はいったい幾つのケーキを食べるつもりなのか。
「まったく。子供みたいなんだから。」
アリスはそう言うと自分のカップに口をつけた。
子供・・・
宮小路はふと思う。
この二人はまるで子供のようだ。
欲しいものを欲しいと言い、好きなものを好きなだけ手に入れ、楽しいというだけで残酷なことも笑いながらできる。
気まぐれで絶大な力を持った子供。
そんな存在だと考えると、ぴったりと当てはまる。
「そんなに単純なものではないと思うけど、あたらずしも遠からずって所じゃないかな。」
宮小路の頭の中を覗いたかのようにケーキを食べながらスリープウォーカーが言った。
今更ながらに、得体の知れない恐ろしさを感じずに入られない宮小路だった。

◆お土産
「さて、今日はどうもありがとう。アリスが機嫌よくすごしてくれたのは君のおかげだよ。」
結局、20個近いケーキを全て平らげてスリープウォーカーは機嫌よく宮小路に言った。
「昔話ならここで褒美をつかわすところなんだが、君は何がいいかな。」
「いや、草間興信所の方から正当に報酬を受けているからお気遣いなく。」
宮小路は丁寧に辞退の意を告げる。
この二人の褒美・・・考えるのが少し怖いような気がした。
「そう言う謙虚なところが、また面白いね。」
くっくっと喉の奥で笑いながらスリープウォーカーは続ける。
「では、正統に昔話に基づいて「大きな葛篭」と「小さな葛篭」と行こうか。君はどっちを選ぶかい?」
大きな葛篭にはお化けが入り、小さい葛篭は金銀財宝・・・舌きりすずめのお話だ。
「それは大きい葛篭を選ばなくてはなりませんね。」
宮小路は一瞬躊躇したが素直にそう答えた。
その答えを聞いてスリープウォーカーは爆笑する。
腹を抱えて笑うスリープウォーカーを呆然と見つめる宮小路にアリスが声をかけた。
「イカれた帽子屋では話にならないわ。」
「アリスさん・・・」
「静かな休日のお礼よ。」
そう言って、アリスはさっと宮小路がジャケットにひそませていたウェアラブルPC『ウィザード』を取り出した。
スリとしての腕前も相当なものか?
そして、何の説明も必要とせずマシンを起動させ、アリス自身が持っていた腕時計タイプの小型のPCと接続すると何やら入力し始めた。
そのスピードは恐ろしく速く、何も考えずにキーボードをめちゃくちゃに打っているかのようだ。
「貴方に玉手箱を上げるわ。困った時に開くといいわよ。」
そう言ってアリスは『ウィザード』を宮小路に返した。
小さな液晶モニターを覗くと、玉手箱の絵のアイコンが作られている。
「玉手箱が使えるのは一回限り。中身はもちろん秘密よ。」
アリスは宮小路を見上げて微笑む。
その大人っぽさに宮小路は一瞬ドキッとした。
「解析しようとしても無駄だからね。それは蓋を開けたのと同じ事よ。」
「あ、ありがとう。」
何故だか宮小路はアリスに感謝を伝えた。
素直にこの恐ろしい少女からの贈り物を受け取る気になったのは何故か・・・
「では、失礼しよう。アリス。」
笑いの発作から立直ったスリープウォーカーがアリスを呼ぶ。
「さようなら。インターネットの幽霊さん。またどこかでお会いしましょ。」
アリスを腕に抱き上げたスリープウォーカーは、現れた時と同じように静かに水鏡の中へ消えていった。

「さて、何と草間さんに言って報告するかな。」
二人を見送った?宮小路は手元に残った小さな玉手箱を見つめながら呟いた。
この玉手箱からお化けが出るかどうかは、玉手箱の主にしかわからないことであった。

The End ?
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生

0606 / レイベル・ラブ / 女 / 395 / ストリートドクター
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

今日は、またまた私の依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます。
今回は謎の?少女・アリスとデートをお楽しみいただきましたが如何でしたでしょうか?
得体の知れない連中で、得られた情報もたいしたものではなかったのですが、「アリスの玉手箱」は私の依頼のときであればいつでも使えますのでどうぞお受け取りください。
内容は・・・秘密ですけれど。
それではまたどこかでお会いいたしましょう。
お疲れ様でした。