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<PCシナリオノベル(シングル)>


人魚の泪石

 あのねあのねっ。
 せーやは今、中之鳥島ってゆーところに、武彦やみんなと、遊びに来てるの。
 いろんな言い伝えのある島だから、ぜーんぜん、退屈なんてしないんだよ。
 海やお山でたくさん遊んで、美味しいものいっぱい食べて、すっごく楽しいの。
 …あ、そうだっ。
 初めて会った人には、きちんと『じこしょーかい』しなさい、って武彦に言われたから、今からするね。
 せーやのお名前は、こひなた・せいやっていうの。
 漢字で書くと、小日向星弥。
 …えへへっ、難しい字なのに、よく知ってるでしょ?
「お前は見た目は子供だけど、もう100年も生きてるんだから、そろそろ漢字ぐらい書けないとダメだ」
 って、怖い顔して武彦が言うから、いっしょーけんめい練習したんだよ。
 …それでね、せーやはホントは人間じゃないの。
 天孤の一族の、お姫様なんだよ。
 えっへん♪



 島に来て何回目かの夜にね(何日たったか忘れちゃった♪)、せーやはぐっすり寝てたんだけど、お隣で武彦が起きた気配がして、ちょっとだけ目を覚ましたの。
 武彦は、髪の毛をガシガシガシーッて掻いて、窓のほうに行っちゃった。
 武彦がカーテンを開けたから、
「武彦ぉ、どうしたの〜?」
 こしこしって目をこすりながら、せーやも起きたよ。
 だってお月様の光がまぶしくて、寝てられなかったんだもん。
 それで、その時ね・・・どこかからお歌が聞こえてきたの。
 綺麗だけど、哀しいお歌――。
 ときどきね、泣き声にも聞こえるの。
 武彦は、窓を開けて、そのお歌に耳を澄ませてるみたいなの。
 だからせーやは聞いたんだ。
「武彦ぉ、知ってる人?」
 って。
 おねーさんの歌声は、遠くから聞こえてるんだけど、よーく聞いたら近くからも聞こえてきたの。
 せーやがきょろきょろってお部屋の中を探したら、枕のトコに置いてあった石からも、おねーさんの声がしてた。
 この石、キラキラして綺麗でしょ?
 昼間に、武彦たちと海で遊んだときに見つけた、せーやの宝物なの。
「そいつな、『人魚の泪石』って言うんだとさ」
「なみだいし?」
 せーや知ってるよ。
 なみだって、悲しいときに出るものでしょ?
 どーして『なみだいし』からおねーさんの声がするのかはわかんない。
 でも、それじゃあ、人魚のおねーさんが泣いてるってことなのかな?
「ねぇ武彦、せーや、人魚さんのところに行きたいのっ」
 ちゃんとお布団たたんで、お着替えしなくちゃ。
「おい星弥、そうは言っても外は暗いし…」
「大丈夫だよ♪もし危なかったら、もうひとりのせーやが助けてくれるもん」
 お姫様のせーやは、とっても強いんだよ。
 だから大丈夫。
 人魚のおねーさん、ひとりぼっちじゃ可哀想だもん。
 早く行って、ぎゅってしてあげるんだ!



 せーやと武彦は、洞窟を探して海岸を歩くことにしたの。
 武彦がね、こんな話を聞いたことがあるんだって。
「なんでも、この島には人魚がいる洞窟があるんだと」
 ふーん…そこが、歌ってるおねーさんがいるトコなんだよね。
「人魚の涙は『泪石』になるから、島の重要な収入源になるんだ」
「しゅーにゅーげん?」
「要するに、高く売れるってことだ。それで昔村人が、人魚を泣かせるために、人魚の恋人を殺してしまったらしい」
「えっ…?」
 それは、すごく悲しいことなの…。
 せーやだって、もし武彦が死んじゃったら、いっぱい泣いちゃうと思うもん。
 だから、そんなひどいことしたらダメなの!
「…星弥」
 ポンポンってせーやの頭を叩いて、武彦がちょっとだけ笑った。
 気がつかないうちに、武彦のおててをギューッてしてたみたい。
「ほら、行くぞ。『人魚さん』を慰めてやるんだろう?」
「うん♪」
 武彦とお話ししてる間に、昼間、なみだいしを拾ったあたりに着いたの。
 泣き声は、ずーっと続いてる。
 せーやは、天孤のお耳を出して、風さんの声に耳を澄ましてみることにしたの。
 狐のお耳はとっても性能が良くて、遠くの音でもハッキリ聞こえるんだよ。
 えーっとぉ…
「ねぇ、武彦ぉ…あれ、見て?」
 おねーさんの声が聞こえてきたほうを見てたら、海のお水がきらきら光ってたの。
 お月様の光を受けて、キラキラって。
「泪石、か?」
 武彦がまゆげの間にしわを寄せて、うなった。
 うん、海の上に浮いて光ってるのは、せーやの宝物とおんなじ…おねーさんのお歌が聞こえてくる石みたい。
 なみだいしは、洞窟から流れてきてるんだって。
 風さんがそう言ってるの。
「武彦、こっちだよぉ」 
 せーやは、武彦のおっきな手を握って、砂浜を走ったよ。
 だって、おねーさんが呼んでるんだもん。
 急いで行かなきゃなの!



 人魚のおねーさんの洞窟は、海の中にあったの。
 ううん、えーっと…かもふらーじゅ?
 そう、かもふらーじゅしてあって、『外からだと海の中にあるみたいに見えるけど、実はそんなに深くない』って、武彦が言ってたの。
 だからせーやは、武彦に抱っこしてもらって、おめめを閉じて、息を止めて、海の中に潜ったんだよ。
 それで気がついたら、おっきな洞窟の中にいたの。
 天井がとっても高くて、薄暗くて、ちょっとだけ怖いところ。
 濡れたTシャツを絞りながら、武彦が言った。
「歌声、ずいぶん大きくなったな」 
「うん…なみだいしも、いっぱいなのー」
 洞窟の中には、なみだいしがいっぱいあって。
 おねーさん、いっぱいいっぱい、泣いたんだね。
「きっと人魚を監禁した場所を知られたくなくて、こんなに厳重にカモフラージュしてたんだろうな」
 武彦の声は、いつもよりちょっとだけ怖い。
 歌声に導かれるままに歩いていったらね、そこにいたの。

 ――人魚のおねーさんが。

 おねーさんは、青いお顔で、地面に横たわって泣いてたの。
 ときどきしっぽの部分がピクリって動くんだけど、ぜんぜん元気がない。
「だいじょーぶっ、おねーさん?」
 せーやはおねーさんのところに走っていったよ。
 あとから武彦もついてくる。
「う…」
 おねーさんは小さく呻くと、体を起こしてせーやたちを見た。  
「だ、れ…?」
 ポロリ、とおねーさんの瞳からこぼれた涙の粒が、石に変わって地面に転がったの。
 せーやは、おねーさんの身体をぎゅって抱きしめた。
 かわいそうな、人魚のおねーさん。
 もう泣かなくてもいいんだよ。
 せーやが…せーやと武彦がきたから、大丈夫なんだもん。
「ああ、温かい…」
 カツン、カツン。
 なみだいしが転がり落ちる。
「星弥、お前…?」
 武彦が、ビックリした顔でせーやを見てた。
 ううん、せーやの腕についてる、金の腕輪を見てたの。
 いつもは、せーやの力をせーぎょするためについてる腕輪なんだけど、腕輪が光ってるの。
 その光が、だんだんおねーさんを包んでいってる。
「わたしも、あの人のところに…」 
「おねーさん…?」
 だんだん、おねーさんの体がモヤモヤになっていって。
 しばらくしたら、おねーさんは消えちゃってた。
「成仏、したのかな」
 武彦が、せーやをだっこしてくれながら、ひとりごとを言ったの。
 うん、そうだね…きっと、人魚のおねーさんは、じょーぶつしたんだよね。
 天国で、恋人さんと会えてるといいな♪



 旅館に帰って、せーやと武彦は、一緒のお布団で寝ることにしたの。
 もう目をつぶっても、悲しいお歌は聞こえてこなかったよ。
 ぎゅっと握ったなみだいしからは、優しい波の音が聞こえてきて、せーやたちは、すぐに寝ちゃったの――。

 おやすみなさい、人魚のおねーさん♪