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<PCシナリオノベル(シングル)>


【馬鹿が褌でやってくる】
◆真夏の暑い一日
青い空、青い海、白い砂浜、そして色取り取りの水着に身を包んだ乙女達・・・
都会の雑踏を離れ、静かなこの島で編集長から毟り取った夏休みを謳歌しにやってきた、怪奇雑誌のルポライター・大塚 忍は真夏の日光に目を細める。
「静かだ・・・」
真夏の海というとギャーギャー泣き喚く子供と何処からわいて出てきたのかも知れぬアベックたちに埋め尽くされた阿鼻叫喚の地獄だと思っていたが、ここはそんなイモ洗い海岸とは違い優雅な静寂に包まれている。
(いい夏休みになりそうだ・・・)
大塚はそう思い、静かな浜辺で少し休憩しようかと辺りを見回した。
「ん?」
浜辺の向う、大塚から少し離れた場所でなにやら人だかりが出来ているのが見えた。
何をやっているのだろう?大塚のルポライター根性が疼く。
「こんな時でも仕事が忘れられないとは・・・」
大塚は苦笑いしてから、騒ぎの方へと足を向けて歩き出した。

◆阿鼻叫喚の浜辺
「ぎぃゃぁぁぁあああっ!!」
パンツを引き裂くような男の悲鳴が人ごみの向うで炸裂する。
「この声は・・・?」
どこかで聞き覚えのある男の声に、大塚は人ごみを掻き分けた。
押し合いへし合いの人ごみの中を抜けると、何故か砂浜に男たちがねっころがっている。
しかも皆一様に褌を締めた股間をおさえ悶絶しているではないか。
その中に見知った顔の草間武彦も混ざっている。
「な、何だこれはっ!?」
大塚は倒れた草間のもとに駆け寄る。
「おいっ、どうしたんだ?草間・・・っ?」
「ふ・・・んど・・・」
「ふんど?」
草間は謎の言葉を残し、大塚の腕の中で気を失った。
大塚が呆然と男たちの屍を見ていると、暑っ苦しい気配と共に男がやって来た。
「オイ、お前。」
男は大塚の前に立ちふさがると不遜な態度で声をかけてきた。
「日本男児に必要なものは何だ?答えろ。」
「はぁ?日本男児?」
大塚は見上げるようなマッチョな坊主の男を前に怯むことなく言い返した。
「人にモノをたずねる前は、まず自分から名を名乗れ!お母さんに教わらなかったのかっ?」
「む。」
一瞬、火花の散るような視線がお互い間で交わされたが、お母さんの一言で坊主は態度を軟化させた。
「うむ・・・儂は大和漢児。日々、日本男児の真の姿を探求し、広く布教しているものだ。」
そう言って、日に焼けて黒光りした頭を首にかけたタオルでぺろりと拭く。
しかしこの男、何を考えているのか日に焼けて黒光りするマッチョな体を誇示するように、身につけているのは六尺褌一本という超タイトな出で立ちだ。
奇怪なものに慣れているとは言え婦女子の大塚は少々眼のやり場に困ってしまった。
「では、今度はお主が答える番だな。日本男児に必要なものは何だ?答えろ。」
大和の言葉に大塚は目をそらしながら答えた。
「あー、なんだろう・・・強さとか男らしさじゃないのか?」
「そうだっ!!」
男らしさ・・・と言った瞬間、ここぞとばかりに大和が声を張り上げる。
「日本男児の真髄は男らしさにあるのだっ!男なら男らしくせんかぁーーーっっ!!!!」
「うわっ!」
大和の叫び声に慄いた一瞬の隙をつかれて、大塚は何かに体を引っ張られ砂浜にひっくり返った。
「男らしさ、すなわちそれは褌!!男ならそんななよなよした格好ではなく褌を締めんかっ!!!」
大塚は一瞬状況の把握が出来なかったが、周りのギャラリーの嬌声にはっと我にかえる。
気がつけば、Tシャツ短パンにウインドブレーカーというシンプルなスタイルだったはずが、更にシンプルな格好に変貌を遂げて居た。

六尺褌一本の超タイトなスタイルに・・・

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大塚はあまりの出来事に声を失い、すぐ側にいた女の巻いていたパレオを引ったくって自分に巻きつけた。
そこに更に坊主の怒号が追い討ちをかける。
「ばかもーーーーんっっ!!!!そんなアバラの浮くような軟弱な体をしとるから褌が似合わんのだ!軟弱モノめぇっっ!!!!」
怒鳴りつけた大和の声が余韻を響かせる前に、大塚の怒号とパンチが大和の顔面めがけて炸裂した。

「俺は女だぁぁぁぁぁああっ!」

◆死闘・中の鳥島の戦い
大塚の霊力を込めた拳の一撃は見事なまでに大和の顔面にHITした。
「むむぅ・・・」
しかし、大和は通常の男なら砂浜の向うにぶっ飛んでも不思議ではないその衝撃に耐え、唸り声をわずかに漏らしただけにとどまった。
「その拳はなかなか見所のある男っぷりだ・・・しかし、そのアバラの浮く・・・」
「女だって言ってるだろうがぁぁっっ!!!」
今度はその足に霊力を込め、渾身の蹴りを繰り出す。
見事その蹴りは大和の腹にHITしたが、異常に鍛えられ割れた腹筋に阻まれてしまった。
「ううむ、惜しい。その蹴りもよい男っぷり。何故お前は褌を締めておらんかったのだっ!」
「人の話を聞けぇっ!この糞坊主っっ!!!」
大塚は次々と拳と蹴りを繰り出し、必死に大和を打ち倒すべく渾身の力を込めるが、一向に大和にダメージを与えられない。
大和はその度に感心の声を漏らすが、大塚の話は微塵も耳に届きはしなかった。

大和と大塚の死闘は半日以上も続けられ、大塚は体力の限界に達し、ついに最後の一撃を繰り出す直前まで追い込まれてしまった。

「まったくもってけしからん男だ。お主のような男が褌を締めずして、一体誰が締めると言うのだ。」
「ひ、ひとの・・・話を・・・聞けって言うの・・・この・・・糞坊主・・・」
大塚はゼイゼイと肩で息をしながらも、最後の一撃の為に気を高める。
「まだやるというのか・・・見上げた男よのぅ。さすれば儂も全力を出さねばなるまい!」
そう言うと大和は怪しげな中国拳法のごとき動きで印を切り、気合を込めて術を放った。
「陰陽道大和褌男流派奥義!秘儀!男殺しっ!!!」
「うぎゃっ!」
大和の掛け声と共に、物凄い力で大和に装着させられていた褌が締まりあがる!
流石に女の大塚には効き目は半減だったが、それでも弱った体には響く。
(これが男たちが悶絶して砂浜に転がっていた理由か・・・)
変なところで真面目な大塚は状況分析を済ますと、腰が砕けそうになるのを堪えて最後の力を拳に込める。
「俺に金潰しは通用しないっ!食らえっ!怪奇雑誌ルポライター必殺の乙女の一撃っっ!!!!」
大塚の最後の霊力のありったけを込めて打ち出された拳は、紅の燐光を帯びて大和の顔面も真正面にHITする。
「天晴れなリ、日本男児・・・」
そう言って大和はがっくりと砂浜に膝をつく。
「話を聞け・・・って・・・」
大塚も力尽きて暑く焼けた砂浜に崩れ落ちた。

◆大和撫子見参!
「大丈夫ですかっ?」
どの位意識を失っていたのか、気がつくと大塚は和服の女性に介抱されていた。
「あ、俺・・・」
起き上がろうとすると体中が痛みに悲鳴をあげる。
霊力を込めた戦いは予想以上に大塚の体に負担をかけたようだ。
「じっとしていてくださいまし。無理をしてはいけませんわ。」
和服の女性は清楚な美貌を心配に歪めながら、大塚の額に冷たく濡らしたハンカチをあてる。
なんだか花のような淡い良い香りのするそのハンカチは大塚の傷を心底癒してくれるようだ。
「むむぅ。まこと惜しい男よのぅ・・・」
女性が手向けてくれていた日傘の影の向うから、大和の声が聞こえた。
夢見心地にうつらうつらしていた大塚はその気配ではっと我にかえる。
この糞坊主っ!!!
そう叫ぼうと体を起こす前に、和服美人の怒号が飛んだ。
「あなたっ!いい加減になさいましっ!!!」
すっくと立ち上がった和服美人は自分の倍はあろうかという巨漢の大和を怯まず見据える。
「褌などという恥じらいの無い格好を誰が好き好んでするものですかっ!少し頭をお冷やしなさいっ!」
「しかし、お前・・・やはり男なら褌・・・」
「だまらっしゃいっ!」
何故かおろおろと答える大和を、和服美人はぴしゃりと一撃する。
「何度言ってもわからないようでしたら、私にも考えがありますわよっ!」
和服美人は大和の真正面に立つと、クルンと日傘を閉じ構えた。
「お、お前・・・」
「大和撫子乙女流奥義!馬鹿亭主叩きっ!!」
構えた日傘はすっぱぁぁぁんっ!と大和の頭に直撃し、大和はそのまま白目をむいてドウッと浜辺に倒れた。
その様子を呆然と見ていた大塚に、和服美人はぺこりと頭を下げた。
「本当に勘弁してやって下さいまし。うちの馬鹿亭主ったら本当に加減を知らない男で・・・」
「ご、ご亭主だったんですか・・・」
「はい、私、大和 漢児の家内で大和 撫子と申します。」
撫子はそう言うとにっこりと魅惑的な笑みを浮かべた。
美女と野獣・・・
ギャラリー全ての頭にこの単語が浮かび上がるほど、むさ苦しい日焼け褌坊主には似つかわしくない清楚な美人妻だった。
「本当に、この人ったら褌のことになると見境を失ってしまして・・・」
「あ、いや、まぁ・・・気になさらずに・・・」
大塚はさっきまでの怒りも薄れ、介抱してくれたこの美人に気を使って言葉を濁した。
「今時の男性が褌なんて品の無いものを締めるわけございませんわよねぇ?」
「はぁ・・・」
何となく相槌を打った大塚の顔が、撫子の手にしたものを見て次の瞬間凍りつく。
「やはり、殿方は黒のビキニパンツですわよね。」

にっこり。

そして再び中の鳥島の美しいビーチに大塚の悲鳴が響き渡るのであった。

The End ?