コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<PCシナリオノベル(シングル)>


【ひとかけらの勇気】
◆昏き森の中
キィィ・・・ン・・・
森の中に乾いた高い音が響き渡る。
無音の暗闇におびえていた三下には、天の助けのような物音だった。
誰でもいい、この音を出している人のところへ行きたい。
とにかく誰かに会いたい。
それが地獄への一歩とは知らず、テントの中からその音の主を捜し求めて森の暗闇の中へと踏み入る。
キィィ・・・ン・・・
なにやら金属が打ち合うような高い・・・しかし強い音だ。
「何の音なんだろ・・・」
そして、その音に魅入られるように踏み入ったそこは・・・地獄絵図真っ只中だった。

「ひっ・・・!」
三下は引きつるように息を飲みそのまま硬直する。
あたりは血に染まり、夜目にも鮮やかな紅と眩暈がするほどの死臭が立ち込めていた。
キィィイインッ!
暗い影同士が構えた白刃がぶつかり合うたびに、その音は鳴り響く。
月の光の中、血の紅と刀の白い光が幻想的にすら見えた。
キィィインッ!!
額に傷のある男一人が圧倒的な強さをもって、周りの影をなぎ倒して行く。
その男が構える白刃は優雅な弧を描き、影の腹を肩を首をなぎ血潮を散らす。
「最後の一人だっ!」
男が宣言したとおり、男の一振りが見事に最後の影の首を跳ねた。
「!」
悲鳴にもならぬうめきだけを残し、あたりは静寂に戻った。
「うわわぁわぁ・・・」
逃げなくては・・・そう思うのとは裏腹に、三下は恐怖のあまりその場に座り込んでしまった。
ガサゴソともがいた音が大きく響く。
その音に男が振り向いた。
大きな月を背にしてたつ男の瞳が輝いて見えた。
「ハニ〜?そいつを返してくれないかぁ?」
不敵な笑みを浮かべ、男が三下へと一歩近づく。
「それは俺のだぜ・・・」
三下は何のことかわからずもがく。しかし、腰が抜けてしまったどうしようもない。
男がまた一歩近づく。
「わ、わ、わ、わ・・・」
じたばたする三下の手に何か硬いものが触れた。
「さざ、大人しくそいつを渡すんだ。」
男の手が三下へと迫る・・・

「Freeze!」
鋭い叫びが緊迫を切り裂く。
「動くなよ、兄さん!こいつが火を吹くぜ!」
暗闇から三下の目の前に影が躍り出る。
小型のマシンガンM11イングラムを構えた依神 隼瀬だった。
黒く鈍く光る銃口はぴったりと男に向けられている。
「みのさん、こいつは俺が押さえてる!早く逃げろ!」
隼瀬は背中の三下に怒鳴る。
声と一緒に三下がワタワタと逃げる気配が聞こえた。
「みのさんに手を出したら俺が許さん!行け!」
隼瀬は男に向かって吠える。
男は隼瀬を見てにやりと笑うと踵を返した。
悠長な足取りで森の奥へと消える男を見送ると、隼瀬はほっと息をついた。

◆お化けの葛篭
「いったい何やってたのさぁ、みのさん。」
隼瀬は途中森のテントの中でガタガタ震えている三下を回収してホテルの自分の部屋へと戻った。
備え付けのミニバーから缶ビールを取り出し、一本を三下に渡し、一本は自分で口をつけた。
「何って・・・ただキャンプしてただけだよぅ・・・」
やっと震えのおさまった三下は半べそで言う。
ビールの効果は震えを止めただけのようだ。
「ん?なにそれ?」
隼瀬は三下がビール缶と一緒に握り締めているモノに気がつく。
「あ、これ・・・さっきのあの場所で拾ったんだ。」
逃げようともがいている時に手に触ったものを握り締めてもってきてしまったらしい。
「あいつが返せって言ってたのはそれかぁ・・・」
三下からそれを受け取る。
それは小さなレーザーディスクだった。
「何がはいってるんだ?」
隼瀬は机の上に広げていたノートPCにそのディスクを放り込む。
カタカタとキーを叩いてディスクの中身を表示させる。
「ん、なんかプロテクトかかってるな・・・」
そう言いながらも何とかディスクの中身を吸い出すことに成功した。
「これは・・・」
「中身はなんだったの?」
モニターを見て固まっている隼瀬の横から三下も覗き込む。
「こ、これは・・・」
人の理性を崩壊し死に至らしめる秘術「呪鎖結界」
ディスクに入っていたのはその設計図だった。
巫女の血の流れを継ぐ隼瀬にはこの恐ろしさが瞬時に理解された。
そう言うことに疎い三下でもこれの重大さはわかる。
実物を知らずとも、噂だけは誰もが知っているほど有名な・・・恐ろしい術だ。
「こんなものが・・・」
隼瀬はそう呟いたまま言葉を失った。
この術はこの島に由来する退魔組織に秘守されていると聞いたことがある。
多分、あの男と戦い敗れたあの連中はこれを守ろうとした退魔組織の連中だったのだろう。
そして、あの恐ろしい殺人者はそれを奪いに来た略奪者・・・

「!」
「依神さんっ!」
それはいきなりやってきた。
独自の電源をつんでいるノートPC以外の電源が全て断ち切られたかのように消えた。
真っ暗な部屋の中に、かろうじてモニターの液晶画面だけがほの青く光っている。
「みのさん・・・俺から離れないで・・・」
隼瀬は小声で三下に言うとすばやくディスクを取り出し上着のポケットにしまった。
そして側に散らかしてあった同じようなデータディスクを掴んでズボンのポケットに入れる。
遠くで人の悲鳴が聞こえた。
奴が来る・・・!
「みのさん、窓から・・・」
窓から脱出しろ・・・そう言い終えぬうちにドアがバァンッと蹴り破られた。
「みのさん!逃げろ!」
隼瀬はバックホルスターから先ほどのM11を取り出し、侵入者に向けてセミオートで撃ち放す。
タタタタタタッ!と乾いた破裂音と共に男の足元に火花が散る。
しかし、男はひるまず部屋へと踏み込む。
その足取りは異様なほど落ち着き静かだった。
「ちっ!」
M11を撃ち放すと同時に三下を突き落とすようにして窓から放り出し、自分も手摺に足をかける。
「逃がさん!」
部屋の入り口にいた男はまさしく疾風の速さで隼瀬に迫ると構えていた刀を横に薙いだ。
「!」
隼瀬は咄嗟に窓枠のうえにつかまり懸垂の要領で体を逃がす。
そしてそのまま鉄棒選手のように反動をつけ窓の外へと飛び降りた。
その隼瀬の上に刀で切られた手摺の残骸がぱらぱらと降り注ぐ。
「依神さん・・・」
「逃げるんだ!みのさん!来る!」
頭上を見上げずとも男の気配はわかった。
「行け!」
男を窓から出さぬためにフルオートで部屋の中へ銃弾を撃ち込むと、隼瀬も一目散に走り出した。

◆死闘
「え、依神さん・・・どこまで・・・はし・・・」
三下は息も絶え絶えだが、恐怖に背を押されて走りつづけている。
「この先の崖まで走って!俺に考えがある!」
先を走る三下の後を後ろを警戒しながら隼瀬が続く。
ホテルから続く道を避け、わざと足場の悪い雑木林の中を崖へと向かう。
雑木林の中は足場は悪いがその分追手も足をとられるし、何と言っても見通しの悪さが姿を隠してくれる。
(でも、何処まで通用するか・・・)
隼瀬は後ろから黙って追ってくる追跡者を思い背筋を震わす。
暗闇で見たあの男の眼。
狂戦士の血に飢えた眼。
冷酷な殺人者の眼・・・
ガサガサと下生えの草を踏み分ける音が聞こえてくる。
男も間違いなく追って来ている。

「どこだ・・・」
雑木林を抜けると一気に視界が開け、目の前には海へと突出した崖がある。
男はあたりを見回す。
二人がここに逃げ込んだのは間違いがない。
岩場のどこかに隠れているのか・・・
「隠れても無駄だ・・・」
血塗れた刀を下げたまま、男がゆっくりと崖の方へと足を踏み出す。
ジャリ・・・ジャリ・・・と踏みしめる音がやたら大きく聞こえた。

その様子を三下と隼瀬は木の上から見ていた。
必死に息を殺している。
気配を悟られたら終わりだ。
(奴が崖に近づくまでは・・・)
隼瀬も祈るような気持ちで息を殺し、男を見つめている。
しかし・・・
「そこか。」
崖の突端まで後少しというところで男が振り向いた。
「隠れても無駄だ!」
男の投げた小柄がタンッと隼瀬の頬をかすめて幹に突き刺さる。
「ひっ・・・」
三下はそのまま硬直してしまったが、隼瀬はM11を片手に木から飛び降りた。
「STOP!」
着地した隼瀬はズボンのポケットからディスクを取り出しながら言う。
「少しでも動いたら、このディスクは微塵に壊れる。」
そう言って男にねらいを定めたままのM11の銃口にディスクを近づける。
「お前を殺してディスクを取るさ。」
男は不敵ににやりと笑う。
人を殺めることに微塵の禁忌も感じず、そして己の腕に絶対的な自信のあるその笑み・・・
「死剣・・・『黒影』」
男がそう言って剣を構えると、その刃に吸い込まれるように黒い影が纏わりつく。
暗闇が集結したかのような漆黒の剣は男の背に輝く月の光さえも拒絶し、鈍くその刃をもたげた。
その死を纏った刃がゆっくりと上段に構えられた瞬間。
「畜生っ!!」
隼瀬が叫び声と共にディスクを力いっぱい放り投げた。
男の後ろ・・・黒く腕を広げた夜の海へと!
「!!」
男の眼は一瞬そのディスクを追いかける!
その本当に一瞬の隙をついて隼瀬はフルオートのM11を影のど真ん中へとぶっ放した。
男はタタタタタッという破裂音にあわせてその体を震わせると、恐ろしいその刀と共にゆっくりと海の中へと吸い込まれていった。
隼瀬は男の姿が消えても引き金から力を緩めなかった。
カンッカンッ・・・と空になった銃身が音を立てるまで、隼瀬は引き金を握り締めていた。
「依神さん・・・」
硬直したままの隼瀬の背後に恐る恐る三下がやってきた。
「終わった・・・よね?」
何故かそうたずねる三下に、隼瀬は無言で頷いて返した。
「よかったぁ〜・・・」
その頷きに三下もへなへなと座り込む。

◆悪夢
こうして隼瀬と三下が守り通したディスクは本来の持ち主である退魔組織の手へと戻った。

しかし、隼瀬は時々夢を見る。

海に飲み込まれる寸前、影から姿を消す男の顔に浮かんだ笑み。
その凶器の宿った赤い眼が隼瀬の脳裏に焼き付いている。
スローモーションで再生されるようなじっとりとした悪夢。

そして、今夜もあの日と同じように月が輝いている。
隼瀬の頭上にも・・・あの崖にも・・・

悪夢はしばらく忘れられそうになかった。

The End.