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<PCシナリオノベル(シングル)>


地下迷宮組曲〜ある晴れた昼下がり〜
◆Emergency call
心地よい波音のBGMに、鮮やかな太陽の輝き。
ホテルの前に広がるプライベートビーチで優雅な昼下がりを楽しんでいた依神 隼瀬は、ボーイが届けてくれた少しスパイシーなカクテルで喉を潤した。
「ん〜、これぞ夏の醍醐味。」
隼瀬は夏を堪能していた。
そう、隼瀬の持つ携帯電話が着信を告げるその直前まで・・・

軽快なメロディーが隼瀬のまどろみを破る。
「誰だ?」
少し不機嫌に隼瀬はサイドテーブルに置かれた携帯に手をのばす。
着信表示は・・・黒野 楓。
何のようだ?と訝しげな表情で携帯にでる。
「Hello・・・」
『×△●□×≦♂Ψ♯▽×◎×△●□×≦♂!!!!!!!』
隼瀬の声が電話の向うの宇宙人の襲撃かと思わんばかりの絶叫にかき消される。
キーンと耳鳴りが頭を貫く。
頭から痺れを抜こうと頭を振るう隼瀬の耳に、何とか日本語らしい言葉が聞こえてきた。
『あ、依神か?俺!』
「・・・何のようだ?」
隼瀬は絶頂に不機嫌な声で言う。
『今、ちょっとヤバイ事になっててさ、ちょっと助けてもらいたいんだけど・・・』
『ワニーーーーーーッ!ワニワニワニワニワニワニワニワニーーーーーーーーッ!』
黒野の声はどこか聞き覚えのある男の得体の知れない叫びにかき消された。
「・・・みのさん?」
『説明してるヒマねぇんだ!早く島の地下道・・・』
『ワニーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!』
三下の謎の絶叫を残して通信は途絶えた。
「・・・何故、俺にかける?」
しばらく途切れた携帯電話を睨んでいた隼瀬だったが、ため息を一つ吐くと寝心地の良いビーチベッドから体を起こした。

◆迷宮の入り口
「島の地下道って言ってたな。」
黒いツナギのサバイバルスーツに着替えた隼瀬は海岸沿いにある大きな洞窟の入り口に立っていた。
この島には至る所に洞窟があり、地下でつながって巨大な地下迷宮を構成している。
夕べ会ったときに聞いた話を聞き間違えていなければ、黒野は今日この地下洞窟の探索と地図作成をしているはずだ。
「しかし、助けろって・・・」
三下の奇怪な叫び声はいつものことだが、黒野の助けを求める声は尋常ではなかった。
何かあったのは間違いないだろう。
ナイフやザイル固形燃料などの一通りのサバイバルグッズ、念のために胸のホルスターにはワルサーP99、ヒップバックホルスターにはV61スコーピオンSGMを装備している。
頭には最新型の音波式暗視ゴーグルと言う念の入れようだ。
「まったく、今度は何やったんだよ、みのさん・・・」
隼瀬は嫌な予感を胸いっぱいに膨らませながら洞窟内へと足を踏み入れた。

洞窟の中にはひんやりとした空気が立ち込めている。
蒸し暑い南国の空気の外の世界とは別世界のようだ。
時折滴り落ちる雫の音だけが異様に大きく聞こえる・・・
「あぁ・・・なんか嫌な予感がするよ・・・」
嫌な緊迫感が隼瀬を包んでいる。
隼瀬は慎重に暗がりを暗視ゴーグルを頼りに進んでいた。
「ん?」
カツン・・・と何か足にかたいモノが当たった。
石とも違う何か軽い感じのものだ。
隼瀬がかがんでそれを手にとる。
「みのさんの・・・メガネ・・・」
レンズは割れているが、見覚えがあるメガネだった。
「これは・・・」
落としたメガネを拾うヒマもなく移動しなくちゃならないと言うことか・・・
隼瀬の不安が更に高まった。
その時。
聞き覚えのある声が洞窟に響き渡った。

◆暗闇の再会
「よう、ハニ〜?こんな場所で会うなんて奇遇だなぁ、ええ?」
暗闇の地下洞窟に響き渡る不敵な笑い声。
隼瀬が声のほうを振り返ると暗闇にふらりと立ち上がるシルエット。
「お、お前はっ!」
「運命って奴を感じないか?ハニ〜?」
キュピーーーンッ!と影の目が赤く光る!
化け物かお前はっ!と突っ込みたくなるのを隼瀬はぐっと飲み込んだ。
それはまったく突っ込みにならないからだ。
正真正銘の化け物、紫剣 流の前では・・・

(な、何であいつ死んでないんだ!?やっつけたはずなのに!?)
隼瀬は暗闇を全速力で疾走しながら、ついこの間の出来事を思い出す。
三下の持っていたレーザーディスクを巡って必死の攻防戦を繰り広げたあの夜を。
「待てよ、逃げるなよハニ〜!」
わははははっと高らかな笑い声と共に紫剣が追いかけてくる。
今逃げているのは漆黒の闇が取り囲む地下迷宮だが、真夏の太陽の下、白い砂浜でも走っていたらまるでバカップルだ。
「待てるかっ!」
隼瀬はそう言い放ちながら横なぎにV61をぶっ放す。
軽快な音とともに紫剣の胴体に命中するが、紫剣はまるで影響なく追いかけてくる。
「え?え?」
暗視ゴーグルを通常モードに切り替えてライトをつけるとちらりと振り返る。
光に映し出された紫剣は胸のあたりをべっとりと赤く濡らしている。
「どうして!?」
隼瀬は一瞬パニックに陥る。
「無敵か!?あいつは!」
再びV61をフルオートで紫剣に向ける。
タタタタタタタタタタッ!
軽快な破裂音と共に撃ち放される弾は、紫剣の体に次々と紅の花を咲かすが・・・
「あぁあああっ!?」
隼瀬は自分の絶対的なミスに気がつく。
「ペイント弾じゃん!?コレェッ!!」
V61に込められていた弾はサバイバルゲームなどで使われる当たるとインクの飛び散るペイント弾だった。
「うわぁぁぁあああっ!いつの間にぃぃぃぃっ!」
「待てよ、ハニ〜ッ!!」
隼瀬と紫剣の声は地底深くまで、長く尾を引いて響き渡った。

◆死闘、再び
複雑に入り組んだ洞窟を全力疾走することで何とか紫剣をまいた隼瀬だったが、完全に道を見失ってしまった。
元々地の利がある場所ではなかったが、こう分からなくなると心細くもなる。
「勘弁してくれよ、俺が一体何したって言うんだ。」
紫剣の気配がないことを確認して、一息つくために腰をおろしながらぼやく。
まるでここ数日は三下の不幸が我が身に乗り移ったかのようだ。
「あれって感染するのか・・・もしかして・・・」
感染する三下の不幸・・・どんな細菌兵器より恐ろしいかもしれない・・・
そんな怖い考えに身を震わせていると、地の底から湧きあがるような絶叫が聞こえてきた。
「みのさん!?」
隼瀬は体を起こし、声のする方へ走る。
少し走ると道は下り坂になった。奇岩が立ち並ぶ足場の悪い道を這うようにして下りてゆく。
「ぎゃあぁぁぁぁあああっ!」
再び、今度ははっきりと三下の絶叫が響き渡る。
それと一緒に恐れていた声も聞こえてきた。
「おいおい、そりゃないぜ?ハニ〜?折角こうして会えたんだ仲良くしようぜぇ?」
奇岩の隙間から向うを覗くと、カンテラを掲げた黒野と三下の前に紫剣が立ちはだかっているのが見えた。
絶体絶命!三下と黒野!
「やば・・・どうするかな・・・」
何か良い手はないものかと隼瀬はあたりを見回す。
どうやら三下たちは川から中州のように顔を出した岩の上にいるようだ。
足元の下のほうを轟々と水が流れているのが見える。
天井からは鍾乳石だろうか、円錐状の岩が釣り下がっている。
「・・・イチかバチか・・・やってみるか。」
隼瀬はすっくと立ち上がると、側にあった岩の上に立ち上がった。

「そう、つれなくするなよ、ハニ〜?」
紫剣の魔の手が黒野と三下に迫る。
黒野は逃亡途中に全ての装備を使い尽くしてしまい手持ちには何もなかった。
「くっ・・・ここまでか・・・」
黒野が屈辱と覚悟に唇をかんだ時、その声は響いた!
「俺は此処だぞ!紫剣 流!」
高らかな笑い声と共に響き渡った声に三人は振り返る。
三人の頭上3メートルくらい上の岩の上に腰に手を当てたふんぞり返りポーズで立っているのは隼瀬だった。
「依神!」
「依神さん!!」
黒野と三下が女神を見上げるようなキラキラおメメで隼瀬を見上げた。
「なんだい、そっちのハニ〜も寂しくて出て来たのかぁ?」
紫剣は不敵な笑みを浮かべて隼瀬を見上げる。
「そんなところに居ないで、こっちに下りて来いよ、ハニ〜?」
「言われなくても下りてやるっ!」
そう言うと、三下たちの頭上に下がる岩にロープを投げつけ、そこを支点にブランコの要領で紫剣に向かって勢いよく飛び降りた!
「食らえっ!正義の鉄槌っ!!!」
隼瀬の履いたジャングルブーツの分厚い靴底が見事に紫剣の顔面にHITした!
「ぐはぁっ!!」
紫剣は一声うめくとバランスを崩す。
バッシャーーーーーンッ!!!
紫剣はバランスを崩したまま立直ることも出来ず、川の中へと吸い込まれる。
「し、死して屍拾うものなしぃぃぃぃいっっ!!!!」
紫剣の断末の叫びが長く尾を引いて彼方へと流されていった。

◆そして、此処より
「終わった・・・」
紫剣との死闘はこうして幕を閉じた。
思えば長い道のりだった。
何故休暇を楽しみに来たリゾート地で、百戦錬磨の自殺願望的快楽殺人者に追いかけられて森だの洞窟だのを駆けずり回らなければならないのか。
しかし、これで地上に戻ればまた真夏のサマーバカンスが待っている。
「今度はビールにしよう・・・」
真夏の太陽を思い出し、コブシを握り締める隼瀬の肩をちょんちょんと突付くものがあった。
「ん?」
「あー・・・浸ってるとこ悪いんだけど・・・」
黒野が一点を見つめたまま、隼瀬に言う。
「まだ、終わってないんじゃないかなぁ?」
隼瀬は黒野の目線の先を追う。
そこには全長4メートルはあろうかと言う真っ白な大ワニがケケケケケッと愉快な鳴き声をたてていた。
その数およそ・・・3人の周りをぐるっとひと囲み!
「ワニーーーーーーッ!ワニワニワニワニワニワニワニワニーーーーーーーーッ!」
三下の奇怪な絶叫がここに第二ラウンド開始を告げた。

依神 隼瀬のサマーバカンスはまだまだ遠いようだった。

The End.