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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


編集長の謎

 ぼくは月刊アトラスの社員。三下忠雄。
 最近、少し気になっていることがある。

 この頃、碇編集長がおかしい。
 いつもけだるそうに窓の外を眺めているし、どんなに忙しくても定時にはさっさと帰ってしまう。最近は時々無断欠勤までする始末だ。
 そして……ぼくは先日見てしまった。
 編集長が妙に色白の男と仲良く歌舞伎町へ消えていく姿を。
 ま、まさか……夜のお仕事を……!?
 違う! ぼくの編集長はそんなふしだらな女性じゃない!
 ぼくは見た! 編集長の首筋にバラの模様をした妙な痣が付けられているのを!
 きっと編集長は誰かに操られているんだ! きっとそうだ!

 誰か……誰か彼女を助けてやってくれ!

「じゃあ、自分でやれば?」

…………いや、それはちょっと……ね。

●異変の前兆
「……」
「編集長。ゲラ刷り上がりました」
「有難う……そこに置いといて……」
 ぼんやりと外を眺めながら碇麗香は呟いた。その姿に三下忠雄は眉をひそめる。
「編集長! 一体どうしたんですか!? いつもみたいにボクをどついて下さいよ!」 元気のない編集長なんて編集長じゃないですよ!」
「……うるさいわね……頭に響くからもう少し静かにしてくれない?」
 頭を抱えてよろよろと席を立つ麗香の腕を忠雄はあわてて掴んだ。
「編集長! ……最近、本当におかしいですよ……?」
「放っておいて。あんたなんかに心配させる筋合いはないわ」
 腕を振払い、扉の向こうへと消える麗香を忠雄はただ、呆然と見つめていた。

●頼もしい仲間
 月刊アトラスに程近いファーストフード店は忠雄の行きつけの場所だ。
 オープンテラスの隅に腰掛け、忠雄は深いため息をついた。
「はあ……」
「三下さん、元気ないっスね」
 山盛りのポテトを乗せたトレイを手に、湖影・龍之助(こかげ りゅうのすけ)は不安げな瞳で忠雄を見つめる。
「ん……ちょっと、ね……」
 忠雄は憂いのある瞳で微笑みかける。その表情に、龍之助はがばりと忠雄を抱きしめた。
「……なっ!」
「三下さん! 元気を出して下さい! 心配事なら俺にも話して下さいよ! 水臭いじゃないっスよ!」
「そこ、何してる」
 スパンと乾いた音がテラス内に鳴り響いた。
「春日! 三下さんに何をする!」
「何となくこっちの方が叩きやすかったもんで」
 トレイを片手にあっけらかんと神薙・春日(かんなぎ はるか)は告げた。
「あああ……何か久しぶりに叩かれた気がするー……」
 視線をぐるぐると回し、ぐったりと龍之助の腕に崩れ落ちる忠雄を龍之助はあわてて抱きとめる。
「しっかりするっスー!」
 がくがくと肩を揺らす龍之助を春日はトレイでぽかりと叩いた。
「あほ。それじゃあ逆効果だろうが」
「あ……」
 龍之助の腕の中で忠雄はうわ言のように何かを呟き始める。
「編集長……だめです……いっちゃ、だめ……」
「三下、さん?」
「……本当はあまり使いたくないんだがな」
 春日は瞳を閉じ、そっと忠雄の額に手を乗せた。
「何かと思えば……なる程な」
 にやりと笑みをもらすと春日はそっと忠雄の耳元で囁いた。
「三下、おまえが編集長を助けてやるんだ。彼女を助けられるのはお前しかいない……そうだろう?」
「春日! 三下さんに変なことを吹き込むな!」
「吹き込んでなんかいないさ。まあ、折角だし俺も手伝ってやるとするか」
 トレイをテーブルに乗せ、春日はひらりとフェンスを飛び越えた。
「じゃあちょっと行ってくる」
「ど、どこへ!?」
「おまえは三下の心配でもしていろ。何か分かったら、教えてやるからさ」
 軽く片目をつむり、春日は雑踏の中へ消えていった。
「そんなこと言われても……」
 龍之助は自分の腕の中で気を失う忠雄に視線を移す。
「ま、いいか」
 三下の額を撫で、龍之助は満悦な笑みを浮かべるのだった。

●女王の出勤
 午後7時。、夕暮れも終わりに近いこの時間帯に歌舞伎町は夜の姿を見せ始める。
 まばゆいばかりのネオンが煌めき、少しけだるい生暖かな空気が辺りを支配する。
 藤咲・愛(ふじさき あい)は薄いカーディガンを肩にかけながら街を優雅に闊歩(かっぽ)した。目的地は勿論、彼女の職場であるSMクラブ「DRAGO」だ。
 新宿コマ劇場を通り抜けようとした時、不意に呼び止められて愛はちらりと声のする方を見つめた。
「すみません……お一人ですか?」
 やけに白い肌が目につく、端正な顔だちの男は穏やかな笑顔で彼女に微笑みかけた。
「ごめんなさい。用事があるの」
 さらりと立ち去ろうとしたが、愛はその歩みを止めて振りかえり呟いた。
「あんた、もしかして……」
 相変わらず穏やかな笑みのままの男を流し目で見つめ、愛は口の端をゆるませた。
「お暇なら私の店に来ない? たっぷりとサービスしてあげるわよ」

●印(しるし)の意味するもの
「結局、麗香さんは今日も休みか。」
 チェックの入っていないゲラ刷りに目を通しながら、宮小路・皇騎(みやこうじ こうき)は呆れた様子で呟いた。
「これで連続4日目。さすがにおかしすぎる……」
 忠雄は頭を抱えて低く唸る。あまり寝ていないのか目の下にくっきりとくまが出来ており、疲労の色がにじみ出ていた。
「大丈夫っス! きっと何か用事があって来れないだけっスよ!」
 いつものから元気で龍之助は何とか忠雄を励まそうと声を張り上げた。もっとも、それが逆効果だとは本人は全く気付いていない。
「……用事って何の用事だよ……」
 耳を塞ぎながら、忠雄は困惑そうな顔をさせる。
「……とにかく用事っスよ!」
「……」
「あ、そういえば三下さん。面白いものを見つけたんですが」
 そういって皇騎は鞄から一枚のフロッピーディスクを取り出した。慣れた手つきでドライブに差し込み、キーを叩き込む。
「……これです」
 画面上には一枚の写真が映し出されていた。首筋に赤いバラのようなあざのついている女性の遺体。忠雄は小さく声をあげて、その画面を食い入るように見つめた。
「これは一ヵ月前に発見された女子高校生の遺体です。死因は極度の疲労と貧血による過労死…;だそうです。健康管理が不十分だったと言えばそれまでですが、どうやら死ぬ間際の数週間程前から、少しおかしな行動を取っていたようです」
「……それって、まさか」
 忠雄のつぶやきに皇騎はこくりと頷く。
「麗香さんと同じく、妙な男性と過ごしていたそうです。ただ、彼女の場合……放任主義の家庭であったせいか、学校への登校をはじめ、どういった行動を取っていたかまでは分かりませんでした」
「それなら分かってるぜ」
 不意に背後から春日の声が響いた。皆の注目を浴びながら、春日はゆったりとした足取りで歩み寄る。
「そのバラ模様、ただのあざじゃない。獲物の印……だそうだ」
 画面上に映るバラのあざを一べつし、春日はぽつりと呟く。
「どうやら編集長は、極上の魂しか喰わない偏屈な悪霊に狙われたようだぜ。いつも上の空なのは、恐らく精神を支配されているか……少しづつ心を吸い取られているからだろうな」
「……え!?」
 その時。辺りの緊張を一気にくずす軽快な電子音が鳴り響いた。
「あ。俺っス」
 龍之助はそそくさと携帯をつなげる。
「……うん。本当!?……分かった。今から行くよ」
「姉さんからか?」
「ああ、三下さんの言っていた男、DRAGOって店に今いるらしいって」
「それじゃ、私は用事があるので」
 皇騎は素早くフロッピーを取り出すと、かたりと席を立つ。
「また何かあったら連絡する。では」
「ああ、よろしく頼むよ」
 僅かに笑みを浮かべ、皇騎はひらりと身をひるがえして扉の向こうへと姿を消した。
「三下さん。俺達も急ぎましょう! 今ならまだ間に合うっスよ!」
「あ、ああ……そうだな」
 机をばたばたと片付け、三人は急いで編集室を後にした。
 誰も居ないがらんとした室内に、蛍光灯の明かりだけが照らされている。一瞬点滅したかと思うと蛍光灯は一斉に消え、薄暗い闇が編集室を飲み込んでいく。消し忘れたディスプレイには一面の青い画像が映し出されていた。画面の輝きはゆっくりと光を弱め、やがて闇へと溶け込んでいった。

●戯れ
「さあ、教えなさい。あんたが彼女をたぶらかしていた理由を」
 ムチをバチンと振り下ろし、愛は首筋にはわせるようにムチの柄でゆっくりと撫でてやる。
「私の命令が聞こえないのかしら? それとも言いたくないの……?」
 先程声をかけて来た勢いはどこへやら。男は一言も告げず、ただ黙って愛のされるがままになっていた。くすりと笑みを浮かべ、愛は男の瞳をジッと見つめる。
 インターホンのベルが鳴り響き、愛は小さく舌打ちをついて受話器を取った。
「何? いまお相手の最中なんだけど……え? 客? これ以上相手は出来ないわよ……ああ、あの子達。分かったわ。今行く」
 ガチャリと受話器を置き、愛は優しく微笑みかけた。
「ごめんなさい。ちょっと待っててね」
 ガウンを羽織り、愛はひらひらと手を振りながら部屋から出ていった。
 龍之介と忠雄を連れて再び部屋に戻ると、男の姿はすでになく、ちぎれた荒縄が床に転がっているだった。

●警告
 感覚を研ぎすませ、周囲の気配を察しながら皇騎は歌舞伎町の街並を歩いていた。見目麗しい外見のせいか、何人かが振り返り、熱い視線を皇騎に向けているのが肌で感じ取れる。
「これじゃあ捜査にならないな……」
 皇騎は小さくため息をつき、持ってきていた帽子を深く被った。
 しばらく歩き続け、新宿コマ劇場の片隅にぽつんと佇む影に目が止まる。
「あれは……」
 間違いない。彼だ。皇騎は人ごみをかき分けて歩み寄ると静かに話し掛けた。
「ちょっと、いいかな」
 影ゆらりとうごめき、皇騎に近寄って来た。
「単刀直入に伺おう。麗香さんを知ってる……な。彼女をどうするつもりだ?」
「あれは極上の獲物だ。わざわざあちらから喰われに来てくれた。どうしようと……私の自由ではないのか?」
「……」
 皇騎はけわしい表情で影を睨み付ける。
「もう一度聞く。彼女をどうするつもりだ」
「さて……どうしようか」
 影は喉の奥を鳴らすような声をあげて笑う。
「……返答によってはこの場で成敗する」
 いつの間にか皇騎の手には刀が握られていた。僅かに揺らめき、影は感心の声をもらす。
「このような往来でそんなものを振り回して不利になるのはそちらではないのか?」
「この町の住民は自分に忙しい。私達のことなど気に止めてすらいないだろうよ。それに、こちらは強力な助っ人がいるんでね」
「別に助っ人するつもりはないのだが、あいつのためになるなら……人肌脱いでやるか」
 いつの間にか来ていた春日が柱の影から姿を現わす。
「ま、あまり抵抗はしない方がお互いのためかもしれんな…」
 にやりと春日は影に声を掛けた。
「さあ、麗香さんを元に戻してもらおうか……!」

●解放されし美女
「それじゃあ、お先に」
 まだ帰宅するには早い時刻であったが、愛は仕事を切り上げて帰途へつくことにした。軽やかに地上への階段を駆け上がる彼女の後ろを、龍之助と忠雄が子犬のようについてきている。
 階段の最上部、地上への入り口付近に女性が腰を下ろしていた。その姿に忠雄は小さく声をあげる。
「編集長!」
 忠雄の姿を見かけると虚ろな笑みを浮かべ、麗香はその腕の中に崩れ落ちた。
「編集長! しっかりして下さい!」
 愛は首筋に手を当て、僅かに笑みをもらして告げた。
「大丈夫。気を失っているだけよ。それに……ほら」
 首筋にもはやバラのあざは見当たらない。その様子に忠雄はほっと胸をなで下ろす。
「とにかく、ここじゃなんでしょ。お店の方に運んでおく?」
 こくりと頷き、麗香を抱き上げて忠雄は愛の案内の後を続く。
 何となく取り残された気分になりつつも、龍之助はあわてて二人の後を追いかけていった。

●取り戻された関係
「ん……」
 重いまぶたを開け、麗香は頭を抱えながら身を起こした。
「ここは……」
 見慣れぬ室内を見回し、ふと視界に入った見慣れた姿に小さく笑みをもらす。ベッドに寄り掛かってうたた寝をしている忠雄の額を麗香は指ではじいた。
「……っ!」
「ようやく起きたみたいね」
「……あ……」
 言葉を失い、忠雄はぽろぽろと涙を流して麗香に抱きついた。
「ちょっと! こ、こら!」
「良かった……ご無事で本当に……」
「無事……?」
 状況が読み込めず、麗香は眉をひそめる。ガチャリと扉が開き、氷水を盆に乗せた愛が入って来た。二人の姿にくすりと笑みをもらす。
「お邪魔、だったかしら?」
「御心配なく」
 むりやり忠雄を引き剥がし、麗香は氷水を受け取った。
「何か忘れてるような……そうだ! あの男!」
「男?」
「連続殺人魔よ。たしか……足取りまでとれたんだけど……」
「編集長。その男に命を狙われていたんですよ。全く無茶も程々にして下さい」
「狙われていた? 何の話よ」
 不思議そうに首をかしげる麗香を、あっけに取られた様子で春日は呟くように言った。
「もしかして、今までのこと覚えていないのか?」
「ま、覚えていないならそれでいいじゃない。編集長は無事に戻って来たんだし」
 愛はしっとりとした笑顔でそう呟いた。
「……それもそうだな」
 皇騎が身を起こしかけた瞬間、麗香の叫び声が室内に響き渡った。
「大変! もうこんな時間! 三下、急ぐわよ!」
「は、はいっ……!」
 ばたばたと出ていく二人を眺め、春日は目を細めて呟いた。
「やっぱあの二人はああでなくちゃ、な」

☆お誘い
「三下さん、遊びに来たっスよ」
 ひょいと扉から顔を野坂瀬田龍之助を麗香はじろりと睨み付けた。
「ちょっと、ここは遊びに来る場所じゃないわよ」
「まあまあ。ほら、お土産持ってきたっスから勘弁して下さいっス」
 持っていたケーキの箱を机に置き、龍之助は無邪気な笑顔で言った。
「仕方ないわね。ちょっとだけよ」
 さすがの麗香もこの笑顔にはかなわないのか、苦笑いを浮かべて一息吐いた。
「何か色々入ってるなー……お、チーズケーキみっけ」
 忠雄はケーキを掴み上げるとそのままかじりつく。
「ん。美味いよ、これ」
「そうっスか! 気に入ってくれて嬉しいっス!」
「編集長も一つ如何ですか? さっぱりして美味いですよ」
「そうね。折角だし、ちょっと休憩にしましょうか」
 書類をまとめ、麗香は珈琲をいれに給湯室まで向かった。
「そうだ三下さん。映画観に行きませんか? いいのが今やってるんスよ」
「いいね、丁度手が空いたとこなんだ。休憩したら行こうか」
 三下はにっこりと微笑んで穏やかに答えた。
「やった! 休憩後なんて待てないっスよ! 今から行きましょう!」
「お、おい……!ケーキ……!」
 麗香が戻って来た時にはすでに二人の姿はなく、大量のケーキが詰められた箱だけがぽつんと机に残っているだけだった。
「……ちょっと。これ、全部私が食べろってことなの……?」
 肩を下ろし、麗香は苦笑気味に呟いた。

おわり
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名   /性別/年齢/ 職業 】
 0218 / 湖影・龍之助/ 男/17/高校生
 0461 / 宮小路・皇騎/ 男/20/大学生
                    (財閥御曹司・陰陽師)
 0830 / 藤咲・愛  / 女/26/歌舞伎町の女王
 0867 / 神薙・春日 / 男/17/高校生・予見者
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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。編集長の謎をお届け致します。
 正直に言います。今回、激しく楽しかったです(笑)ええ、理由は多分はっきり分かるかと。大好きなネタですよ……ふふふ(何)
 何とか無事に編集長は元に戻りました。これも皆様もおかげです。でも、完全に倒したわけではないので、犯人はまたどこかで悪さをしているかもしれませんね。

湖影様:こんにちは。確か、以前は妹さんでお会い致しましたよね。三下ラブ……いいんですか、あんなやつで!(失礼な)もっとこう…他に!(何よ)……幸せになれる日を心よりお祈りしています(笑)
それではまた不思議な物語でお会いしましょう。
ー谷口舞ー

只今、暑中見舞いを配布中です。よろしければどうぞお受け取り下さい。
http://atelierdolly.cool.ne.jp/play/greeting/2002-summer.html