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<PCシナリオノベル(シングル)>


殺人鬼〜ひとかけらの勇気第二幕〜
◆太陽の下で。
「まったく、みのさんもこの暑いのに海釣りとは物好きだなぁ・・・」
依神 隼瀬は照りつける真夏の太陽を眩しそうに仰ぎながら、海岸の岩場への道を歩いていた。
連日のトラブルにもめげず、毎日を必死で生きている「みのさん」こと三下 忠雄が今日は海釣りに興じていると聞いて訪ねて行くところだった。
「もしかして食料が尽きちゃったのか?」
そう言って隼瀬はくくくっと意地悪く笑うが、その手にネットに入ったスイカが下がっている。
何だかんだ言っても、三下を心配して居るには違いないのだ。

「こっちの方の岩場だって言ってたんだけどなぁ・・・」
隼瀬は延々と続く岩場の影を縫うように歩いてゆく。
その時。
微かだが波音に混ざって悲鳴のような声が聞こえた。
「!」
隼瀬はその声が聞こえた方に踵を返す。
大きな岩場の向こう側にだらりと白い足が伸びているのが見える。
誰か人間が倒れているようだ。
「大丈夫かっ!」
隼瀬は大急ぎで磐を回り込むと声をかけた。

ところが・・・

「み、みのさん・・・」
「依神さん・・・」
互いの名を呼び合い、見詰め合う二人。
そして真っ赤な顔をして立っている三下が抱きしめているのはなんと半裸の女性だった。
「みーのーさーんーっ!」
「ご、誤解だよっ!誤解誤解誤解誤解誤解誤解誤解〜っ!わわわわわーーーっ!!!」
パコーンッ!と良い音を立てて、三下の頭部でスイカが炸裂する!
きゅ〜っ声をあげて昏倒する三下の腕から隼瀬は女の子を掻っ攫った。
「おい、キミ!大丈夫かっ?」
隼瀬は女の子に声をかける。
ぐっしょりと濡れて気を失っていた女の子は、隼瀬の声に目を開いた。
「・・・ここは・・・」
「気がついた?」
女の子は隼瀬の顔を見て・・・倒れた三下の顔を見て・・・そして自分も格好を見た。
「きゃあぁぁあああっ!」
スパーンッ!と女の子の平手が隼瀬の頬に炸裂した。

◆傷
やっと気持ちが落ち着いた女の子・香月さつきを彼女の宿泊している宿へ送り届けると、あたりは夕闇が仄かに空を染めはじめていた。

三下の行動は誤解であったと納得した隼瀬であったが、香月の左腕の怪我と海岸に倒れていた事情を聞くために宿へとあがりこんだ。
もちろん三下も一緒だ。
「怪我・・・どう?」
簡単な手当てだけして白く包帯を巻いた手をさすっている香月は、隼瀬のほうをゆっくりと見ると首を振った。
「わかりません。まったく感触がなくて・・・こうしていても手が無くなってしまったみたい・・・」
「病院行かなくても平気なんですかね?」
三下も隼瀬の後ろから覗き込んで心配そうにたずねる。
浜辺ですっかり変色してしまっている傷を見たとき、病院へ行こうという隼瀬と三下に対し、香月は病院へ行っても無駄だと思います・・・と言って拒否した。
「多分、病院で治る傷じゃないです・・・」
香月は白い包帯の上から腕を撫でる。
腕以外にも何だか銃創のようなかすり傷が腕を削っていたが、こちらは出血に比べて傷は酷くないようだ。
「どうしてそんな酷い傷を負ったの?」
「刀で・・・切られたんです・・・」
深く項垂れて言う。
「怖い・・・あの男が刀で・・・私・・・どうしたら・・・」
隼瀬は泣き崩れる香月にそっとハンカチを差し出す。
そして、彼女の言葉にある人物が隼瀬の脳裏に思い浮かぶ。
「刀・・・男・・・」
見ると三下も真っ青に青ざめている。どうやら隼瀬と同じことを考えていたようだ。
「ま、まさかねぇ・・・ははは・・・」
「どうだろ。わかんないな。あの男のことだから・・・」
隼瀬は深くため息をついたが、あの男・・・紫剣 流が絡んでいるならばため息だけでは済まされまい。
「その男に心当たりは?」
「わかりません・・・どうしてこんなことになっちゃったのか・・・」
香月はこぼれる涙をハンカチでぬぐいながら首をふる。
「気がついたらあの男がいて・・・いきなり真っ黒な刀で切られたんです。私のことを殺人鬼だって言って・・・」
「殺人鬼!?」
三下がその言葉にギョッとした顔をする。
「違います!私そんなんじゃありません!」
「そうだよ、殺人鬼だって言うなら、そう言った「奴」の方がよっぽど殺人鬼だ・・・」
隼瀬はそう呟いてゾクリとする。
また紫剣と対峙することになる・・・そう考えるとぞっとする。
終わりの無い悪夢のようだ。何度でも立ち上がってくる得体の知れないものを相手にしているようだ。
しかし・・・
隼瀬は泣いている少女を見る。
この少女をほうっては置けない。あの男の恐ろしさを知っているからこそ見捨てることは出来ない。
「大丈夫。俺たちも側に居るから・・・」
そう言って香月の肩に触れる。
香月はビクっと体を震わせたが、隼瀬のほうに顔をあげ笑顔を作ってみせた。
それは酷くはかない笑顔だった。

◆宵闇
窓辺に立ち、障子戸を開くと、チリリ・・・と虫の音が響く。
空には蒼月が輝き、宵闇を青く染めている。目の前には竹やぶが静寂を抱き、遠くで微かに波の音がしていた。

「来ますかねぇ・・・?」
窓辺で外の様子を探っている隼瀬に、心配そうに三下がたずねる。
三下は準備のいいことに全ての荷物を身につけて、すぐにも逃げていけるようにしている。
(みのさんも日ごろの生活からいろいろ学んでいるんだな・・・)
隼瀬は青ざめてオドオドしている中にも何とか生きてゆこうとしている三下を見て微笑んで言った。
「慌てたって始まらないよ。来る時は来るし、来ない時は来ない。来たら・・・」
「来たら?」
「戦うだけだ。」
そんなぁ・・・と呟いて三下はがっくりと首を項垂れる。
「それより、絶対俺の側から離れたらダメだよ。奴は怪しい奴だけど・・・実力はあるんだ。」
隼瀬は香月を見て念を押すように言った。
「バラバラになったら絶対一人ずつやられる。それを防ぐためにもいっしょに行動してたほうがいいんだ。」
「わかりました・・・」
香月はこっくりと肯く。
香月を守ると申し出た隼瀬と三下に、そんな迷惑はかけられないと最初は拒否した彼女だったが、隼瀬の説得にしぶしぶ頷いたのだった。
「ご迷惑・・・おかけします。」
「大丈夫、迷惑じゃないよ!ね?依神さん?」
自分もお世話になるつもりの三下は、隼瀬の顔色をうかがう。
隼瀬は真剣な顔で窓の外を見ていた。
「・・・どうしたの?」
「しっ!」
唇に指を当て「静かに・・・」と三下のおしゃべりを制すると、隼瀬は静かに障子戸をしめた。
「虫の声が止んだ。来る。」
「え?」
「早く部屋から出て・・・ここに固まってたら危険だ。」

◆風赴くままに
他の人間を巻き込まないようにと、三人は宿を抜け出し、竹やぶの中を走る。
紫剣が持つ武器は日本刀だ。竹が生い茂った竹やぶの中では刀は振るいきれない。
(イチかバチかの賭けだ・・・)
隼瀬は走りながら思う。
倒しても倒しても紫剣は蘇える。
(・・・来てるな。)
先刻から隼瀬は背中に気配を感じつづけている。
殺気のような・・・黒い笑いのような。本気を出して走れば隼瀬たちを捕まえるのは容易いのに、そうはせずにじわじわと追い込むのを楽しんでいる。
(嫌な奴・・・)
本当に終わらない悪夢のようだ。

「ど、何処まで行けば良いんですかぁっ?」
三下がへたばる寸前の声で怒鳴るように言う。
「もう少し走れ!海まで出るんだ!」
隼瀬は隣りを走っている香月の様子を見ながら言った。
剣道をたしなむと言う彼女は、不自由な左腕を抱えていても息も切らさずについて来ている。
「もうちょっとだから頑張って・・・!」
隼瀬が声をかけると香月はチラッとこっちを見てうなづいた。

実は隼瀬はこの香月にも不安なものを感じていた。

何故、彼女は紫剣に狙われているのか?
紫剣が彼女に言ったと言う「殺人鬼」と言う言葉も気になる。
それに、さっき香月の肩に触れたときに、ピリッとしたものを感じた。
隼瀬の探偵としての勘かもしれない。
もしくは隼瀬の中に遠く流れている巫女の血の所為だろうか?
(彼女の中に何かある・・・。)
それが何かまではわからないけれども、何かがある。
剣道が好きなだけのただの高校生だと言う彼女に何があると言うのか・・・?

隼瀬は割り切れない何かを感じながら竹やぶの中を走り抜けていった。

◆流れる血
「鬼ごっこは終わりだぜ。ハニー。」
海まで後少し、もうじき視界が開けると言うところで紫剣は現れた。
目の前を立ちふさがれた三下は驚きで腰を抜かす。
それを見て紫剣はにやりと笑った。
「よう、また会ったな?これは運命の赤い糸なのかぁ?」
「お、お前みたいな奴が相手なんてイヤだぁっ!」
「くっくっくっ・・・つれねぇなぁ、そう言うなよ、ハニー。でもなぁ、今日は俺もアンタが目的じゃねぇんだ・・・」
喉の奥で笑いながら紫剣は三下から離れ、隼瀬と香月のほうへ歩いてくる。
ゆっくりと・・・しかし、一分の隙も油断も無い足取りで。
「そのお嬢ちゃんを渡してもらおうか、ハニー?」
紫剣は右手に刀をだらりと握ったまま、左手を差し伸べて言った。
「何が目的だ?」
隼瀬は香月を庇うように一歩前に出ると、紫剣に対峙する。
「目的?」
紫剣は肩眉をあげて歪な笑みを浮かべた。
「目的なんざないなぁ。チョットばっかりそのお嬢ちゃんが苦しんでくれりゃぁいいんだ。」
「なんだと・・・」
隼瀬の手はヒップホルスターの拳銃P−99を握っている。
この島に来てから続く災難に対処するために拳銃はいるも持ち歩いていた。
弾も弾頭に霊力を込めた水晶を入れた破魔弾になっている。
そのグリップを握る手がじんわりと汗ばむ。
「おっと、そんな怖い顔して睨むなよ、ハニー。そんな顔しなくてもハニーともちゃんと遊んでやるぜっ!」
紫剣は何の前振りも無く、まるで旗でも振るようにクルンッと刀を振った。

「!」
ざざざざざざ・・・
紫剣の周囲の竹が何の抵抗も見せずに切り倒される。
切られた竹は一斉に隼瀬と香月に向けて倒れこんできた!
あっという間に二人の視界を被い尽くすが、隼瀬もそう易々とは引っかからない。
香月突き飛ばすようにしていっしょに地面に伏せる。
間一髪!頭上を刀が過ぎっていくのが見えた。
「ここにいて!」
竹が倒れこんで陰になっているところに香月を伏せさせると、隼瀬はすかさず体をひるがえし、再び襲ってくるだろう刃を待った。
チラッと月明かりに輝くものが見えた。
ひゅぅんっ!
切先が暗闇の中から突き出される!
「いまだ!」
隼瀬はその切先の向う目掛けて拳銃を発射する。
一発!二発!
暗闇で先は見えないが、刀を持つ手がここにある以上、体は必ずその先にある。
三発目が激しい咆哮と共に撃ち出されると、繰り出される切先は動きを止めた。
ぐらり・・・
切先が揺らぐと同時に、どうっと何かが地面に倒れる音がした。
「やったか・・・?」
隼瀬は拳銃を構えたまま、ゆっくりと刀が落ちている場所へ近づく・・・
「残念。」
「!」
ふいに耳元で声が響き、隼瀬は弾かれるようにその場所から吹っ飛んだ。
肩に鋭い灼熱感が走る。
「ぐっ・・・ぁ・・・」
そこを押さえると手がぬるっと滑った。血で濡れている。
「あらら、外れたか。残念だったな、ハニー。まともに食らえば一発で楽になったものを。」
にやにやと笑いながら紫剣が月明かりの中に現れる。
手に刀は持っていない。しかし、指をピストルのようにして笑いながら構えている。
「俺の「死」は刃物ばっかりじゃないんだぜ。」
紫剣の「死」は飛び道具にもなるのか!
余裕の足取りで紫剣は隼瀬のほうへ歩いてくる。
(次は・・・必ずあたる・・・。)
肩の傷がズクン・・・と疼いた。

「そんなことはさせないわ!」
ふいに白い影が飛び出し、紫剣に飛び掛った!
「香月!」
「はなせっ!この女っ!」
もがく紫剣に必死にしがみつきながら、香月は隼瀬に向かって叫んだ。
「依神さん!私が押さえてます!だから・・・だから・・・私ごと殺して!」
「なっ・・・」
隼瀬は絶句する。
そんなことができようはずが無い!
「もう嫌なのよっ!父も・・・母も・・・皆こいつに殺されてしまった!殺して!こいつと一緒に私を殺してぇっ!」
香月は血を吐くような叫びをあげる。
「ダメだっ!そんなこと出来ないっ!逃げろ!香月!」
隼瀬はぶるぶる震える腕で必死に照準を合わせるが、どうしても絞りきれない。
「早く・・・もう・・・きゃぁっ!」
激しくもがく紫剣に香月は振り払われてしまった。
「香月!」
紫剣が指を構えて香月に向けるのと、隼瀬が叫んだのはほぼ同時だった。
そして・・・

ボグッ!!

くぐもった鈍い音と共に、真っ赤なものが飛び散った。

◆終幕
「わぁぁぁあああっ!やった?やったっ!?」
よろめく紫剣の後ろにワタワタしているのは三下だった。
何処から持ってきたのか三下はスイカを紫剣の頭に投げつけたのだ。
赤い汁にまみれた紫剣がゆらりと後ろを振り返る
「よくもやってくれたな、ハニー?」
「わ、わ、ダメじゃんっ!」
紫剣は自分をスイカまみれにしてくれた三下に向けて指を構えた。
「!」
その一瞬の隙を隼瀬は見逃さなかった。
震えながらも紫剣の頭に照準を合わせ、祈るような気持ちで引き金を引いた。
乾いた破裂音が響く。

一発
二発
三発・・・

弾は全て命中し、紫剣は踊るように体を振るわせ、どさっと地面に倒れた。

◆真実はそこに
「うわぁああああんっ!」
最初に声をあげたのは三下だった。
「今度こそ死ぬかと思ったよーーーっ!!」
そう言ってへたり込む。
紫剣はもう動かない。
どす黒い血溜りのなかで息絶えた紫剣は、額を打ち抜かれてもまだ笑っているようだった。
「腕が・・・」
その声に隼瀬が振り返ると、もみ合った時に解けた包帯の隙間から覗く香月の腕が元通りの色を取り戻している。
「治ってる!」
「こいつが死んだからか・・・」
隼瀬は足を伸ばして爪先で倒れた紫剣の体を小突く。
「しかし、どうして香月が教われてたのかはわからなかったな・・・」
「私には・・・わかりました。」
「え?」
「私の中にいる何かが教えてくれたんです。」
香月は静かに紫剣の遺体のところまでやってきて見下ろす。
「私は遠い昔に滅びた退魔術を極めた一族の血を引いているのです。」
「退魔術・・・」
「はい。千年に一度覚醒するその力を狙って現れたのがこの男でした。そして、その血を持つ千年目の後継者が私・・・」
隼瀬と三下はその場に座り込んだまま、香月の言葉を聞いていた。
「この男は私を追い込んでその力を覚醒させようとしたようです。」
「え?でも覚醒したらコイツをやっつけられるんじゃ・・・?」
三下はきょとんとした顔で問う。
「いいえ。私はその能力を受け入れる為の修行も何もしていないので、能力が覚醒しても暴走するだけです・・・だから、この男はその力を暴走させ、私を殺人鬼にするべく追い込んできた・・・」
「殺人鬼にするだけのために?」
「はい。」
紫剣らしいと言えば紫剣らしいのかもしれない。
己の悦楽のために躊躇いもなく人を殺す男。
香月のことは新しい大量殺人兵器くらいに考えていたのかもしれない・・・
「私・・・これから頑張って修行します。能力を受け入れられるように・・・こんなことが二度と起こらないように・・・」
香月は勇敢に自分を守るために戦った二人をみつめる。
「お二人のおかげです。お二人に・・・私は命ばかりか・・・勇気まで与えてもらいました。」
にっこりと微笑む。
今度こそ心の底から。
「やっと、終わったんだな・・・」
隼瀬はやっと溜息をついて立ち上がった。
長かった。
本当に長かった。
そして、終わりは思いがけぬ程あっけなくやって来た。
「最悪な夏休みでしたよっ。まったく。」
三下もそう言って立ち上がる。
「そうか?俺は案外・・・」
楽しかったかもしれない。そう言いかけてやめた。
何だかそんなことを言ったらまた紫剣が蘇えって来そうで。
「とりあえずまぁ、残りの休みを楽しもうぜ。こんな美人さんともお知り合いになったんだしなっ!」

そして、三人は来た道を戻り始める。
残りの夏を楽しむために。
明日へと歩んでゆくために・・・

The End.