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<PCシナリオノベル(シングル)>


見えない襲撃者

 暑い日差しが照りつけていた。
 定期船から下り、葛妃曜は両手を顔の前に翳した。
 避暑地にも良い場所だと聞いていたが、日差しを遮るものが一つもないこの小さな港はやはり暑い。熱を蓄えているのか、もうじき夕暮れだというのに容赦なく暑い。
 だが、この日差しも旅行先だと思えば楽しいものだ。
 乗組員から渡されたスポーツバッグを肩に引っかけ、曜は地図を広げた。ファクシミリで送られてきたその地図は手書きで、港から目的地までの道順が簡単に書かれている。
 クラスメートの須和文子の別荘だ。夏休みに入る直前に、滞在しないかと誘われたのである。
 その期間、取り立てて予定も無かった曜は二つ返事で中ノ鳥島行きを決めた。
 森の中に延びる細い坂を上った先に、須和別荘はあるようだ。港からは少し離れているが、大きな島ではない。徒歩で十分行ける距離だと踏んで、曜は歩き出した。
 
 森の中に一歩踏み入ると、驚くほど涼しかった。
 日陰と日向では大分温度が違うらしい。細くうねる坂を上っていくと、白いログハウスが見えてきた。
 豪奢な造りの洋館で、別荘にするには勿体ないくらい金を掛けてあるように見える。
 家の回りには高い木塀が巡らされている。門に付けられたインターフォンを押し、名を名乗る。
 返事が無かった。
「あれ?」
 曜はインターフォンをこつんこつんと叩いてみる。ざらざらとした雑音が微かに聞こえるところを見ると、どうやら内側で誰かが応答しているようなのだが。
「文子さんに呼ばれてきた、葛妃なんだけど」
 大声を出してみる。
 反応はなく、ざらざらと雑音が聞こえてくるだけだ。
 ブツッ。
 小さな音を立て、インターフォンが沈黙した。
「なんなんだよ、おい」
 曜は首を傾げ、それからインターフォンを軽く小突いた。
 須和さんがいないから、確認出来ないとか? 俺もしかして、日付間違えたとか?
 スポーツバッグを門の前に放り出し、曜はポケットから先ほどの地図を引っ張り出した。
 今日の日付が、確かに書かれている。
「八月×日、別荘でお待ちしてます。必ず来てね、待ってます。 須和文子」
 地図の下に、華奢で綺麗な字でそうメッセージも添えられている。
 曜はそれをたたみ、スポーツバッグのサイドポケットに押し込んだ。
「あーーーーーやこさーーーーーーーーん、いないのかよー?」
 門の向こうに向かって大声を張り上げてみる。
 洋館の方は、シンと静まりかえっている。鳥の声すらしない。
「ちぇっ。なんだよ。帰っちゃうぞ」
 曜は唇を尖らせる。
「どうかしましたか?」
 落ち着いた声が掛けられたのは、その時だった。
 
 坂をゆっくりと、一人の青年が登ってくる。曜と同じくらいだから、高校生だろう。赤い袖のないジャケットに、ブラックジーンズという出で立ちだ。背はそこそこ。
 雑に切った黒髪は、男性にしては少し長めで柔らかそうだった。全く癖がない。
「あんた、この別荘の人?」
 曜は親指を立て、背後の須和別荘を指さす。
 青年は首を振った。
「全然関係ないんだ。ちょっと登ってみただけで。どうかしました?」
「俺はこの別荘に友達に呼ばれて来たんだけど、挨拶しても門は開かないしウンともスンとも言わないんだ。中ノ鳥島じゃ、こういうヤな遊びが流行ってるのか?」
「僕も来たばかりだから」
 青年は首を振る。
 曜と並んで、須和別荘を見上げた。
 青年から、不思議な匂いがした。動物のような、野生の匂いが。
「ね、あんたペットとか飼ってる?」
 嗅ぎ慣れない匂いに、曜は首を傾げる。犬でも猫でもない。だが、猫のようでもある。しかし猫よりも、もっと。
 まさかな。
 曜はぷるぷると首を振り、その思いを打ち消した。ほんの少しだけ、家族の匂いに似ている。まさか、そんなことがあるはずがない。
「ペットは飼ってないけど、獣臭いかな」
「少しな」
「気を付けるよ」
 青年はその指摘が当然だったかのように、素直に頷いてみせる。
 曜は眉を顰めた。
「それより、この屋敷はお友達の別荘なんだろう?」
「そうだけど」
「鉄サビみたいな臭いがする気がするんだけど」
 青年は門を指さす。
 曜は門に飛びついた。臭いを嗅ぐ。
 曜の鼻はいい。人間の姿の時でも、人よりはずっと敏感なのだ。
 だが――
「わかんない」
 曜は門を見上げた。錠前を踏んづければ、この姿のままでも乗り越えられそうだ。
「よっ!」
 錠前に手を掛ける。足を乗せる。もう少し。
 青年が曜の片足の下に手を差し出した。
「ありがと」
 一跳びで門を飛び越える。
 微かな血の臭いが、庭に漂っていた。
 本当に微かな臭いだ。曜だからこそ血だと判るが、普通の人間では臭いがしていることも判らないだろう。
「須和さん!」
 曜は玄関まで走った。
 ドアがほんの少しだけ空いている。
 門は閉ざされているのに、玄関だけ…?
 曜はドアを開いた。
 血の臭いがする。
 
 赤い血が、エントランスの床に広がっていた。
 フローリングの床に、血がぶちまけられている。床中に飛び散った血は、ぐるりと円を描いているようにも見える。
 何処かで見たことのあるような気がする。
「須和さん!」
 土足のまま上がり込む。エントランスは広く、中央には幅のある階段が延びている。
 烏の鳴き声が遠く聞こえてくる。屋敷の中は静まりかえっていて、人の気配がない。
「須和さん!」
 曜は血だまりのすぐそばまで足を進めた。
 大きな音を立て、背後で玄関が閉まった。
 室内が重苦しい闇に包まれる。
「危ない!」
 先ほどの青年の声が響く。
 曜は青年の上に抱きかかえられ、床を転がった。風を切る鋭い音が連続して曜を追ってくる。
 何か、鋭いものが飛んできている……!?
 階段のすぐ下まで転がり、二人は起きあがった。
「なんなんだよ、これ。あんたがドア閉めたのか?」
 曜は手探りで階段を上りながら、そう問いかける。すぐ横で青年の声が聞こえた。
「玄関に入ったらドアが閉まったんだ。閉めるどころか、開けられもしなかったよ」
 ふぅ、と微かなため息が腕にかかる。
「ここは、あなたのお友達の別荘じゃないの?」
「そうだよ」
 曜は階段を上りきり、ゆっくりと立ち上がった。
 
×

「葛妃さん、ちょっとよろしい?」
 須和文子に呼び止められ、曜は教室を振り返った。
 夏休み前の期末考査最終日である。明日からはテスト休み。冷房がきいているとはいえやはり少し暑く感じる教室の中には、すでに文子しかいないようだった。
「ああ、なに?」
 曜は文子の方へ向き直った。
 須和文子は学年で一番のと言われるほどの美少女である。少し癖のある長い髪は真っ黒で艶やかだ。黒目がちの大きな瞳に、肌の色は真っ白。日に焼けると水ぶくれが出来るのだと言って、七月に入ってからも長袖を着ているくらいなのだ。
 規定よりも長くしてあるスカートがよく似合う。不思議な雰囲気を纏ったとびきりの美少女だった。
 曜とはろくに口をきいたこともない。
「八月の上旬ごろなのだけれど、空いていたらわたくしの別荘にいらっしゃらない? わたくし、葛妃さんのお友達になりたくて」
 少し赤くなりながら、文子はそう言った。
 断る理由は特に無かった。丁度、予定が空いている。
「細かな地図はファクシミリで送りますわ。それではごきげんよう。わたくし、終業式には出ないで中ノ鳥島へ行ってしまうから」
 文子はそう言って、行きの旅券を曜に握らせた。
 彼女の手は、ひんやりと冷たかった。
 
×

「うわあああっ?」
 青年の悲鳴が響く。曜は青年を振り返った。
 トラップに引っかかったのか、青年は網に包まれて空中に吊り下げられている。
「何してんだよ」
 曜はため息をつく。何を思って付いてきたのか、これではとんだ足手まといだ。
 暗闇が曜の尻尾と耳を隠してくれるため、運動能力は格段に上げられる。助けるのは容易だった。
「ちょっと待ってろよ」
 曜は網の下に歩いていった。
 びん。
 つま先が、細い糸のようなものに触れる。
 闇の中に何かがきらめいた。
 先端を尖らせた鉄の矢が、空中から放たれる!
 曜は跳躍し、五本の矢を叩き落とす。しかし、着地寸前に足元からもう一本が放たれる。
 狙われているのは――頭。
 曜は両腕で顔を庇う。
 獣の吼え声が響いた。
 床に着地し、曜は顔を上げる。
 金色の虎が、矢を口にくわえていた。
 青年の身体を包んでいた網が、虎の身体にへばりついている。ぶるりと身体をふるわせて網を振り解き、虎は矢を吐き出した。
 虎の姿が、ゆっくりと青年の姿に戻る。
「やっぱり人間の姿だと動きにくいんだな。怪我はない?」
「ない、けど……あんた、今」
 曜はぽかんと口を開け、青年を指さす。
「僕は虎郎(ころう)。あなたと同じ、虎人だよ」
 青年は自分の胸をとんとんと叩いた。
「耳と尻尾だけ出すなんて、可愛いね。やり方を教えて欲しいな」
 曜はハッとして耳と尻尾を押さえた。
 
 虎郎と名乗った青年は、自分の主人に付き従ってこの中ノ鳥島へやって来ていたのだという。自由時間にふらりと港を歩いていたら、虎の気配を纏った美少女が連絡船から下りてきた。日本で自分の同族らしい者に出会ったのは初めてで、虎郎は興味を持って少女を追いかけてみた。
 それが、曜だったというわけだ。
 虎郎は日本生まれ大陸育ちの虎人で、今は日本に一時帰国しているのだという。
 
 虎としての能力を解き放ってみても、屋敷を包む闇を完全に見通すことは出来なかった。
 何らかの悪意か、技が働いている。
 曜は虎郎と共に別荘の住人を捜しながら、あちこちにあるトラップを確認していった。
 余興や冗談では済まないレベルの本格的な罠が、至る所に仕掛けられている。明確な殺意をもって、配置されたのは間違いなさそうだ。
 全ての部屋を見て回っても、やはり人はいない。あるのはおびただしい数の罠たちだけだ。
 曜は気になることがあって、エントランスへ戻った。飛び散った血が作り出す模様。これは。
「……閉鎖の結界、かな」
 自宅の倉の中で発見した古い本に、たしかこんな図案があったような記憶がある。どんな本かは覚えていないが、闇を生み人を閉じこめる結界だったような気がする。
 曜の説明に、虎郎がうんうんと頷いた。
「この暗闇はこの結界が素になっているっていうことかな。こうやって足で消したりしても駄目かな」
 虎郎は足をのばし、結界の角を踏み消す。
 曜は首を振った。
「そういう単純なのでもないみたいだな。俺たちが転がったときに半分くらい消しちゃってるけど、真っ暗なままなんだし」
「僕はこういうのってよく判らないんだ。あなたは詳しいんだね」
「たまたまだ。それより、あなたじゃなくて曜」
 虎郎が微笑んだ。
 青白い光が二人の間に走ったのは、その瞬間だった。
「うわあっ!」
 光に打たれ、曜は階段まで吹き飛ばされる。背中をしたたかに打った。
 身体が痺れる。
 青白い光が、びりびりと震えながらエントランス中を駆け回る。曜は背中の痛みを堪えて飛び起き、追いすがってきた光を避ける。
 エントランスを稲光が横切る。
 結界の中央から、青白い角が生える。細長い二本の角、縮れた黒髪。青白いが獰猛な顔に続いて、逞しい首、肩、腕が現れる。
 結界の中央に、青白い鬼が仁王立ちしていた。
 大きい。背丈は曜の二倍くらいだが、横幅は三倍以上ありそうだ。
 鬼がずしんと足を踏みならした。
 青白い光が鬼の足元から広がり、床を舐める。曜は階段の手すりの上に飛び上がった。
 鬼の背後で、虎郎が窓縁に掴まっているのが見える。青白い光のあちこちから、垂直に雷光が伸びる。
 びりびりと空気を震わせる。
 鬼が、曜に向かって突進してきた。
 この鬼は、結界で召還されたのか?
 太い腕が曜を襲う。曜は跳躍し、身体を捻って反対側の手すりへと飛び移る。
 電撃が空中を走る。曜の乗っていた手すりが、粉々に砕け散った。
 鬼は方向転換し、曜へと再び腕を伸ばす。尖った爪が、曜の目前を薙ぐ。
 くるりと空中で回転し、曜は鬼の頭を踏みつけて二階部分へと跳躍した。
 虎郎がすぐ横に着地する。
 鬼が階段を上ってくる。
「逃げた方がいいぞ」
「そうだね」
 曜は虎郎の腕を掴み、廊下へと駆け込んだ。
 と、廊下に人影が立ち塞がっている。先ほどの鬼よりも随分細く小柄だが、青白く輝く肌も二本の角も同じ、鬼であった。
 鬼が口をくわっと開く。ずらりと尖った牙が並んでいる。
 二人は慌てて立ち止まり、すぐ横のドアを開いて中へと飛び込んだ。
「虎人のお友達は、鬼使いなのかな」
「そんなの知るか。大体、あれが須和さんの使い魔だなんて」
 馬鹿馬鹿しい。曜は首を振った。
 ドアに鍵を掛ける。どすんどすんと、小さい方の鬼がドアを殴っている。
 曜は部屋の窓を叩いてみたが、開く気配はない。ガラスが割れる様子もない。
 渾身の力を込めた拳で殴ってみる。
 衝撃は全て、窓ガラスへと吸収されてしまった。拳に痛みすらない。
「もう夜みたいだな」
 窓の外を覗き込み、曜はため息をつく。腕時計に目を落とすと、すでに10時近い。ぎょっとして虎郎を振り返った。
「何時頃、ここへ来たか覚えてるか」
「五時丁度くらいじゃないかな。定期船が港に着くのが五時少し前だと思うから」
「もう十時だ」
 曜は虎郎の目の前で、腕時計の文字盤を見せてやる。
「壊れたのかな、さっきの電撃で」
 曜は肩をすくめる。
「でもまあ、とりあえず鬼をどうしようか」
「別荘の備品だとしたら、倒したらまずいかもしれないね」
 虎郎が真面目な顔で首を捻る。
「こんな洋館に、鬼なんてオプション付いてるわけないだろ!」
 曜は虎郎の足を思い切り踏みつけた。
 
×

 二人して鬼と鬼ごっこを続け、いい加減疲労もピークに達した頃。
 明かり取りの窓から、頼りない朝日が差し込んできた。
 キッチンの床に座り込んで鬼をやり過ごしていた曜は、テーブルから這い出る。
 森の中に、微かな明かりが差し込んでいた。
 鬼はトラップを利用してあちこちで足止めをしたり破壊したりしたが、徐々に小さくなりながらも何匹も出てきていた。今二人を捜している鬼は三匹。二人の腰ほどしかないが、青白い電撃の威力は変わらない。
 曜のズボンはあちこちが引き裂け、焦げている。小さな火傷も無数にあった。
「疲れたな」
 ため息をつく。
 静かな足音がエントランスから聞こえてきたのは、その時だった。
 こつんこつんという足音は、底の硬い革靴のようだった。ぺたぺたばたばたという鬼どもの足音とは違う。
 虎郎がキッチンのドアノブに手を掛けた。曜がその横に立つ。
 開いた。
 飛び出す。
 
 エントランスに残った、薄い血文字結界の上に――
 須和文子が、静かに佇んでいた。
 
×

「おはようございます、葛妃さん」
 文子はモノトーンの薄いサマードレスを着込み、長袖のボレロを羽織っている。ゆるく三つ編みされた黒髪が、すとんと背中に落ちていた。
「須和さん……」
 曜は足早に文子に近づく。
「葛妃さんなら、と思いましたの。楽しんで頂けました? わたくしの余興」
「余興?」
 曜は眉をひそめ、文子の腕を掴んだ。
「ええ。わたくし、葛妃さんとお友達になりたくて。でも、普通の人ではわたくしのお友達には出来ませんから」
 文子はふふっと笑った。
「試させて頂きました」
 そっと曜の手から逃れる。
 ボレロを脱ぎ捨てた。
 細く華奢な腕が、露わになる。
 その二の腕に――
 青白い、鬼の顔。
「!」
 曜はその二の腕を覗き込んだ。
 鬼はじろりと曜を見上げ、ケタケタと笑う。
 刺青のように見えなくもないが、これは。
「諏訪の家では、代々長女にこの鬼が受け継がれてきましたの。わたくしの言うことを聞いてくれる、可愛い鬼たち。でも、これがあってはわたくし、お友達が出来ません」
 文子が真剣な眼差しで曜を見つめた。
「葛妃さんは、とても強いって鬼たちが言いますの。怖がるんです。だから」
 文子は曜に向けて腕を差し出した。
「この鬼たちを、どうか殺してしまって下さいな。わたくしの腕ごと」

 文子は物心付いたときから、二の腕を隠して生きてきた。日焼けすると水ぶくれが出来るという言い訳は、室内にいては通用しない。文子が好意を持った少女達は、執拗に二の腕を隠す彼女を信用してくれなかった。
 文子は鬼と家族だけの生活をしていた。しかし、友達は欲しかった。恋人も欲しかった。
 腕なんて、要らない。
 今年の春、文子はそう決意した。
 新しい学年で一緒になったクラスメートの中に、鬼が非常に怖がる少女が居た。それが、曜だったのだ。
 文子は考え続け、意を決して曜に話しかけた。
 溌剌としていてボーイッシュな曜は文子の憧れであり、曜にならば腕をもぎ取られるのも苦しくないような気がしたのだという。
 
 話し終えた文子の二の腕を、曜はぴしゃりと叩いた。
「あっ、痛いっ……」
 文子が小さな声を上げる。
 鬼がささっと移動し、反対側の腕へと逃げる。
 曜はため息をついた。
「ばぁか。こんなのついてても、俺は友達になれるぜ」
 ぴたぴたと二の腕を叩く。
「須和さんは、俺がこうだったらクラスメートやめたい?」
 曜は耳と尻尾を出す。長い尻尾で、文子の太腿を突っついた。
「あら、可愛らしい」
 文子が目を輝かせる。
「こんなの関係ないんだって、思うだろ?」
 曜は肩をすくめる。
「それじゃ、今度はちゃんと泊めてくれよ。鬼ごっこしてて、眠くて眠くて」
 ふわぁと欠伸を漏らす。
 文子は一瞬ぽかんと口を開け――
「それじゃあ、本棟の方へご案内しますわ」
 と頷いた。
「ここ、葛妃さんのために造らせたセットですの。良くできてますでしょう?」