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<PCシナリオノベル(シングル)>


不幸狂詩曲〜そして伝説へ☆〜
◆真夏の悪夢・・・再び
日差しの眩しい浜辺で過ぎ行く夏を感じながら、やっと巡ってきた静かな休日。
色々あったけれど、休暇の残りは静かで優雅でブリリアントな時間を過ごすのだ。
隣りで女の子が通りかかる度に「うわっ♪あっちの女の子見てみろよ!すげぇビキニ。いや〜、真夏の浜辺最高♪」などと騒ぎ立てる黒野 楓はキッパリ無視して、依神 隼瀬は残りの休暇を楽しんでいた。
思い返せば色々あった。いや、在り過ぎた。
何故、真夏のバカンスを楽しみに訪れた南の島で、殺人鬼に追いかけられたり、殺人鬼から逃げ回ったり、殺人鬼と対決したりしなくてはならないのか。
夜中にふと目が覚めて、部屋の暗がりを見るたびに「はーい、ハニー?」とあの男の声が聞こえるのではないかとドキドキするほど色々な事がありすぎた。
しかし、それももう過ぎたこと。
あとはここで静かで優雅でブリリアントでエクセレンツな休暇を楽しむだけだ。

「おい、携帯なってるぜ。」
隼瀬は黒野にそう言われてサイドテーブルに置いた携帯がなっていることに気がついた。
マナーモードにしていたらしく、ぶるぶる震える携帯を手にとる。
着信は・・・見覚えのない番号だった。
ちょっと躊躇ったが、万が一仕事の絡みでもあったら大変なのでとりあえず出ることにした。
『はーい、ハニー?』
ブツッ!ツーツーツーツー・・・
隼瀬は相手が一声発した瞬間に通話を切った。
どっといやな汗が噴出すのを感じる。
黒野がそんな隼瀬を変な顔で見ている。
「なんだ?誰からだったんだ?電話・・・」
「あ?いや?なんていうか、ワンギリ!そうワンギリだよ!いやになるよなぁ・・・最近は携帯もイタ電が多くて・・・」
隼瀬が裏声で黒野にそう説明していると、手の中の電話が再び震えだした。
「おい、また電話だぜ?」
「わ、わかってるよっ!」
隼瀬は恐る恐る着信を見る。
すると、今度は「みのさん」こと月刊アトラスの三下からだった。
ほっと安堵の溜息をついて、隼瀬は電話を耳に当てた。
「もしもし?みのさん・・・」
『依神さーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!』
電話の向うの三下は電話機から離れている黒野にまで聞こえるような絶叫で隼瀬の名を叫んだ。
「みのさん・・・声デカ過ぎ・・・」
『つれない態度はダメだぜ?ハニー?』
「!?」
聞き覚えのある声に、隼瀬は再び電話を持ったまま硬直する。
「お前は・・・」
『ハニー、俺はな・・・考えたんだよ?毎回毎回。俺の邪魔をしてくるお前のことをな・・・』
そんなことは考えんでもいいっ!ぼけっ!と隼瀬は心の中で突っ込む。
『そして、俺は結論を出した。ズバリ。お前は俺を愛しているんだ。』
どういう脳味噌してたらそう言う結果が出るんだ!ばかっ!と更に突っ込む。
『二人のラブライフは最近ちょっとマンネリだ。いつも俺からじゃつまらないだろう?そこでだ。今度はハニーの方から俺を追いかけてくるんだ・・・どうだい?楽しそうだろ?』
あんたの頭の中は浜辺のバカップルと同じ構造なのかっ!たこっ!と更に更に突っ込む。
『それから、照れて誘いを断るのはNGだぜ?ハニー?その時はお友達のメガネの彼と楽しんじゃうからなぁ?』
「なんだとっ!みのさんをどうするつもりだっ!?」
『それはそのときのお楽しみさぁ・・・じゃぁ、待ってるぞ、ハニー・・・』
そして、電話はぷっつりと途絶えた。
「誰から電話だったんだ?」
様子を見ていた黒野が更に訝しげな顔でたずねた。
「あの殺人鬼だよ・・・この間の洞窟の・・・」
「げ?あいつ?生きてたのか・・・」
隼瀬の言葉に黒のも顔色を変える。
「みのさんが奴にさらわれた・・・助けなきゃ・・・」
「なんだって?」
そんなやり取りをしているうちに、今度は携帯にメールが入った。
見るとアドレスはSHITSURUGIになっている。
そのメールには三下を捕らえている場所の指示が書かれていた。
「みのさん・・・今行くからな・・・」
隼瀬は携帯を握り締めて言う。
相手が相手だ。装備を怠るわけにも行かない。
慌ててホテルへと戻ろうとする隼瀬の後を黒野が追ってきた。
「待て、俺も行くよ!」
黒野は隼瀬に追いつくと言った。
「しかし、依神・・・殺人鬼と携帯番号交換とは・・・もしかしてそう言う趣味?」
ドゲシッ!!!!
隼瀬の裏拳が見事に顔面にHITし、黒野は遥か後ろへと吹っ飛ばされたのだった。

◆今、そこにある狂気
島のほぼ中央に位置する昼でもひんやりとした薄闇を抱くあやかしの森。
そして、その森の奥深くにある古びた洋館・・・
空を仰げばいつの間にか重く雲が垂れ込め、先ほどまでの真夏の気分を拭い去ってしまった。
「うわ〜・・・如何にもって感じの場所だなぁ・・・」
洋館の入り口に立ち、建物を仰ぐと黒野がポツリと呟いた。
なんだか、屋敷全体が怪しい効果線を背負って建っているようだ。
「・・・ふ、ふふ・・・」
「?」
黒野が声に振り返ると、そこには屋敷より更に渦巻くおどろ線を背負った隼瀬が愛用の銃を握り締めて笑っている。
「ふふふふふふふふふふ・・・今度こそ・・・今度こそ確実にカタをつけてやる・・・」
そしてガバッと天を振り仰ぐと、声高に叫ぶように宣言した!
「今度こそっ!ギッタギタのグッタグタになるまでっ!跡形もなく浄化してくれるわぁぁっ!!!」
すでにノリは人外魔境かB級ホラーの勢いで、隼瀬はドカァンッと洋館のドアを蹴破った!
「出てこぉいっ!変態殺人鬼!紫剣 流っっ!!!」

洋館の中はしん・・・と水を打ったように静まり返っている。
明かりはなく、窓から差し込む光だけが所々館の中を照らし出している。
耳を澄ますが物音は聞こえない・・・
「ここに居るのは間違いなのか?」
黒野が内部の様子を見回して言う。
人の住んでいるような気配はない。どちらかというと廃屋のようだ。
「居る。奴は必ず居る。」
隼瀬は今までの戦いで紫剣の好むパターンを知っている。
こういうホラーな場所が奴は大好きなはずだ。
二人は用心深く屋敷の中へ足を踏み入れる。
一歩・・・二歩・・・
玄関ホールの真中まできたところで、お約束のように背後で扉が閉まった。
「うわっ!」
黒野は急いで扉のところに戻るが閉じた扉はびくともしない。
「お、お約束過ぎる・・・」
隼瀬はそんな黒野を見てふっと笑う。
「次あたり、2階から女の悲鳴って所か?」
そう言った途端。

「ぎゃぁぁぁぁあああああああっ!いやあぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!」

「・・・」
屋敷中に響き渡った悲鳴に二人は顔を見合わせる。
「みのさんだっ!」
「三下だっ!」
そう言うと、二人はもうダッシュで目の前にある階段を二階へと駆け上がる。
聞こえてきた悲鳴は間違いなく攫われた三下のものだった。

「何捕まってんだよ、みのさん・・・もう・・・」
隼瀬はそうこぼしながらも、銃を構え、用心深く二階の通路へと出る。
通路には人気がなく、何故か突き当たりのドア以外は全て「使用不可」の張り紙がされている。
「どういうところなんだ・・・ここは・・・」
その様子を見て黒野も銃を構えたまま呟く。
なんだかB級ホラーに得体の知れないコメディが混ぜこぜになったような感じだ。

「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁああああっ!!やめてぇぇぇぇぇぇえええっっ!!!!」

再び、三下の絶叫が響き渡る。
「奥の部屋だな・・・」
黒野が言う通り、確かに絶叫は一番奥、突き当たりの部屋から聞こえてきた。
「・・・非常に罠臭い気がするが・・・」
「でも、行くしかないだろう。」
隼瀬は通路を歩きだす。
館に入った時から、罠があるのは百も承知だ。
通路を進んで突き当たりの扉に近づくごとに、中から怪しげな音が漏れて聞こえてくる。
ギュ〜・・・・ン・・・
キュィィィン・・・
ギャー・・・・
わははははは・・・
キュゥゥゥ・・・ン・・・
「歯医者か・・・?」
「・・・わからん・・・」
扉の前で中の様子を探るが、いっこうに様子はわからない。
・・・と言うよりは、中から探った気配を統合するととても考えたくない世界が構成されてしまうので、あえてわからない事にした。
「・・・行くか。」
かなり考えた末に決心し、隼瀬は黒野と顔を見合わせると小声でカウントを取る。
「1・・・2・・・3・・・GO!」
GO!で二人同時にドアを蹴破り、部屋の中へ突入した!

◆悪夢の中で
「Freeze!」
隼瀬は部屋の中の人影に素早く照準を合わせ、声高に叫んだ!
部屋の中は息苦しいほどの熱気に満ちて、部屋に飛び込んだ二人は息苦しさに顔をしかめた。
「良くきたなぁ、ハニー?待ちくたびれちまうところだったぜ?」
部屋の中央奥、一段高くなったところに居た紫剣 流が余裕の表情で行った。
「Shut up!みのさんはどこだっ!」
隼瀬は紫剣のペースに乗せられないように、緊張を保ったまま鋭く叫んだ!
「え、依神・・・」
しかし、隣りの黒野は早くも挫けてしまったようだ。
気の抜けた声で隼瀬の名を呼ぶ。
「三下・・・あそこだよ・・・」
「え?」
そう言われて、銃口は紫剣のほうへ向けたまま、隼瀬は横目で黒野が示す方を見る・・・

「依神さーーーん!黒野さぁぁーーん!」

三下が半泣きで二人の名を呼ぶ。
その三下を見て、隼瀬はがっくりと肩を落とした。
「D級ホラー決定だ・・・」
三下は怪しげな十字架に縛り付けられ、その回りではたいまつが何故か焚かれている。
そして、両脇を固めているのは黒い三角形の頭巾をかぶり顔を隠した筋骨隆々な怪しい男たち・・・(もちろん黒ビキニ一枚!)
「なんてハマリ役なんだ・・・みのさん・・・」
「か、改造されちゃうよ〜っ!!」
なんとも気の抜ける光景だったが、囚われている三下にはそんな余裕もなく、必死に助けを求めている。
「どうするよ?」
「どうするも何も・・・」
隼瀬も黒野もすでに精神的疲労がピークに達しそうな勢いだ。

「さぁて、遊びの時間はこのぐらいにして、そろそろ本気で行かないか?ハニー?」
がっくりと疲れた顔で三下を見ている隼瀬と黒野に向かってそう言うと、紫剣はゆらりと立ち上がった。
手には抜き身の刀をだらりと下げている。
紫剣が立ち上がった途端、部屋の温度が急激に下がったような気がする。
それだけ凄まじい邪気と殺気を紫剣は放っているのか・・・
「望むところだ。カタをつけてやるっ!」
隼瀬も再び気合を入れて銃を構える。
愛用のダブルイーグルのマガジンには破魔の水晶を弾頭に用いた弾がこめられている。
黒野の銃にも教会で祝福された純銀の弾がこめられている。
紫剣が、人間であろうと化け物であろうと万全の装備だ。

「仲良くしようぜ、ハニー!」
刀を構えた紫剣が驚異的な跳躍力で隼瀬に飛び掛る!
隼瀬はそれを仰向けに倒れてやり過ごし、自分の上を飛び過ぎる紫剣に弾を打ち込む。
しかし、弾は紫剣にはあたらず、紫剣は背後の壁に足をつき、水泳のターンの要領で再び隼瀬たちに襲いくる!
「くっ!」
あまりのスピードに起き上がることは出来ず、体を捻って一撃を避けた。
刀がギュィンッ!と物凄い音を立てて床を抉った。
「はっ・・・すでに日本刀じゃねぇっ!」
黒野も紫剣のスピードに苦戦しながら、側にあったテーブルの陰に身を隠し、体勢を立て直す。
隼瀬は隠れる場所もなく腹筋で反動をつけて起き上がり、紫剣の死角へと飛び込んだ。
「ますます化け物じみて来たぜっ・・・」
しかし、あまりグズグズもしていられない。
向うには人質の三下が居る。気が変わって三下に手を出されないうちに何とか決着をつけなくては・・・。
「ハニー?隠れてばっかりじゃつまらないぜ?」
ケタケタと紫剣の笑い声が響く。紫剣は完全に面白がっている。
笑う紫剣の死角同士で、隼瀬と黒野は目配せで合図しあう。
イチかバチか・・・同時に挟み撃ちで攻撃をかける。
如何な紫剣であろうと、左右両方開いては出来まい。
そして、二人はうなづき合うと同時に紫剣の前に躍り出た!

「覚悟っ!」
「食らえっ!」

隼瀬と黒野の拳銃が同時に火を噴く。
二人の狙いは正確に紫剣の頭をぶち抜いた。
「がっ・・・」
紫剣は頭を砕かれて声にならない声をあげ、床に崩れ落ちた。
隼瀬は更に倒れた紫剣に銃弾を打ち込む。
マガジンの弾丸が尽き、カチンカチンと空の音を立てるまで銃弾を打ち込んだ。
「依神!Over killだぜ。」
黒野が隼瀬の肩を叩く。
「このぐらいでも足りないかもしれない。こいつは何度生き返ってきたことか・・・」
「気持ちはわかるが、これ以上は無駄だ。それより人質だ。」
「あぁ・・・」
隼瀬はやっと銃をホルスターに収め、十字架に縛られた三下の方を見る。
「依神さーーーん、早く助けてよ〜っ!」
紫剣との戦闘中に逃げ出したのか、怪しい黒頭巾の男たちは姿を消していた。
「みのさんも、もう捕まんないでくれよ・・・」
隼瀬はぼやきながら三下の縄を緩める。
「俺も付き合いきれないからな・・・」
「まぁ、そう言うなよ、ハニー?」
「え?」
三下の言葉にギョッとして隼瀬は三下の顔を仰ぐ。
「俺の顔に何かついてるかい?ハニー?」
そう言って笑ったものは・・・
「お前は・・・っ!」
隼瀬は紫剣の顔で笑う三下を見つめて、やっぱり生き返ったか・・・とぼんやり考えていた。

◆真夏の浜辺・・・再び
「うわぁっ!!」
隼瀬が飛び起きると、そこは真夏の太陽が降り注ぐ浜辺のビーチベッドの上だった。
「なに、寝ぼけてんだよ、依神?」
隣りに寝そべっていた黒野がニヤニヤしながらこっちを見ている。
「ゆ、夢だったのか・・・」
隼瀬は自分の手を見てぼんやりと呟いた。
周りを見回しても怪しい洋館もB級ホラーな悲鳴もない。
そこにあるのは美しいブルーの海と輝く太陽と水着の女の子たちばかりだ。
「うわー・・・いやな夢だった・・・」
そう言ってばさっとベッドに倒れこむ。
降り注ぐ日差しが冷や汗をかいて鳥肌立っていた肌に気持ちがいい。
「おいおい、大丈夫か?真っ青だぞ?」
黒野が隼瀬を見て言う。
「ああ、平気。ちょっと夢見が悪かっただけさ・・・」
隼瀬はそう言って、サイドテーブルに置いてあるビールに手をのばそうとした・・・
その時。
軽快な音を立てて携帯がなっている。
見れば、ビールの隣りに置いてある自分の携帯だ。
「おい、携帯鳴ってるぜ。」
黒野がなんだか聞き覚えのある台詞を吐いた。
「・・・」
隼瀬は黙って携帯を掴むと、思いっきり海の向うへと投げた。
バシャーン・・・
遠くで白い水しぶきが上がり、携帯電話は海の底へと沈んでいった。
「おい・・・?」
「あぁ、いいんだ。今は休暇中だからな。ゆっくり休ませてくれ・・・」
そう言ってビールをくっとあおると、隼瀬は再びビーチベッドに寝そべった。

「騒がしい休日はこりごりだよ。」

The End.