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<PCシナリオノベル(シングル)>


第一話 最終列車
◆闇雨
暗闇の中、シトシトと地面を濡らす雨を恨めしそうに眺めながら、大塚 忍は溜息をついた。

今日は本当にツイていない。

この雨で出かけるのにバイクは使えず、乗り込んだ車はなぜかオーバーヒートで修理屋送り。仕方なく列車での移動を始めたが、こういう日は何もかもが裏目に出るようで散々手間取った挙句、結局こんな時間になってやっとの帰途だ。
時計を見ればもう12時を回っている。ホームのインフォメーションでは次の列車が最終列車であるらしい。
「帰れるだけマシか・・・」
出切るだけ前向きに考えようとそんなことを考えていると、暗闇の向こうから仄かな明りが近づいてくる。
ホームに列車の到着が知らされるアナウンスが流れた。
雨の暗闇の中から列車がホームに滑り込んでくる。
大塚は何となく俯き気味に足元を眺めたまま、ドアが開くのを待った。
シューーッと空気調整音と共にドアが開かれて、列車の中に足を踏み入れて・・・

そして、その光景に硬直した。

後ろで静かに扉が閉じる。
今度は空気調整の音は聞こえてこなかった。
耳の中は大塚自身の激しく脈打つ鼓動の音で一杯だったからだ。
「なんだ・・・これは・・・」
そう呟いた口の中が異常に乾燥している。
それと反対に体中からは冷や汗が噴出すのを感じている。
鼻をつくような酸いた臭いが嗜好を麻痺させている。
鼓動の音がうるさい。
目の前の光景が信じられない・・・
「人間・・・」

列車の中は想像を絶するような世界だった。

壁と言う壁一面に撫で付けられた真紅の中に所々人間の名残を残した肉片が飛び散り、足元はぬめる血潮で満たされていた。
「・・・っ!」
大塚はこみ上げてくる吐き気をぐっと堪える。
生理的に体中がこの現状を認めまいと抵抗しているようだ。
そして、抵抗に逆らう体を逆撫でるような声が聞こえてきた。

「新しい餌が来たわよ。継比奈。」
「あれも殺すの?壱比奈・・・」

大塚が慌てて声のほうを振り返ると、そこには二人の幼い少女が立っていた。

◆白と黒
「キミたちは・・・」
どうしたんだ?と問いたかったが、大塚は途中で口をつぐんだ。
この異常な光景の中でも、更に異常な光景だった。
血まみれの肉片の飛び散る中で、幼い少女たちはこちらを見てくすくす笑っている。
真っ白い髪に返り血を浴びて所々紅に染まった白いワンピース姿の少女と、その隣りに影のように寄り添う黒尽くめの黒髪の少女。
しかし、二人の顔はまるでクローニングされたかのようにそっくりだった。
(双子・・・)
真っ白い少女と真っ黒い少女の双子。
あまりにも現実離れしたその光景に、大塚は悪寒を感じる。
「こんな所でどうしたの・・・?怪我・・・してるのか?」
大塚はこっちを見ている少女に思い切って声をかけた。
この少女たちがこの惨状の恐怖に怯えて動けない状態なのだと思いたかった。
どこかに怪我をしてこの列車から降りれないのだと信じたかった。
「怪我ぁ?」
しかし、真っ白な少女・・・壱比奈は嘲笑的な目で大塚を見る。
「怪我をするのはあんたの方よ!」
「なっ・・・」
少女の言葉に大塚は強張る。
「怪我で済めばいいわね。でもきっと死んじゃうと思うわ。」
真っ黒な少女・・・継比奈がクスクスと無邪気に笑う。
二人の少女の瞳に色濃い殺意の光が宿る。
「面白いから、殺しちゃえ!」
そして、壱比奈の声が戦いの幕を切って落とした。

◆異界からの牙
壱比奈の言葉と同時に、風のように吹き付けてくる殺気に大塚は身構えた。
「闇統べる異界より邪気召喚!」
「死統べる異界より餓鬼召喚!」
二人は声を重ねるようにそれぞれの使役を召喚する。
足元から炎が湧き上がるように青白い光が現れ、それらがゆっくりと双子の周りを旋回し始める・・・
(ヤバイ・・・)
大塚は直感的にそれを感じた。
さっと車内を見回しても身を隠す場所はない。
(何とか、第一波をしのいで隣りの車両へでも逃げなければ・・・)
慎重に身構えたまま、大塚はじりじりと後退する。
そして、同時に手のひらと腕に念を集中する。
双子が発するであろう攻撃にぶつけて払うためだ。
それだってどこまで通用するかはわからない・・・しかし、やるしかない。
「死んじゃえ・・・おねぇちゃん!」
すうっと継比奈が大塚の方を指差すと、旋回していた青白い光は尾を引きながら弾となって襲い掛かってきた!
「ハッ!」
大塚は殴りつけるように火の玉を横薙ぎに払う!
念を込めた腕にぶち当たるたびに、火の玉はギィッ!キィッ!と悲鳴をあげた。
(生きものっ!?)
その声に驚いたが、行動を躊躇うわけには行かない。
大塚は火の玉が途切れると一目散に隣りの車両へとつながるドアに飛びついた!

隣りの車両に飛び込むと、思いっきりドアをスライドする。
そして、ドアの横に身を潜めるとバッグの中から護身用に持っているスタンガンを取り出した。
(効いてくれ・・・!)
大塚は祈るような気持ちでスタンガンを握り締める。
隣りの車両から近づいてくる足音が聞こえる。
ビチャ・・・グチュ・・・と濡れたものを踏みしめて近づいてくる足音と、かくれんぼの鬼が隠れている子供を見つけたときのようなクスクス笑い・・・
「おねぇちゃん・・・無駄だよ。列車のドアは鍵がかからないのよ。」
壱比奈の手がドアノブに触れる・・・
その瞬間、大塚は握っていたスタンガンのスイッチを入れドアに押し付けた!
「ぎゃぁぁぁっ!!」
ドアの向こうで獣のような絶叫と弾かれて倒れるような物音。
「壱比奈ぁっ!」
「痛い・・・痛いよ・・・継比奈ぁ・・・」
すすり泣きが聞こえる。
しかし、大塚は心をぐっと鬼にした。

「このままじゃ大した時間は稼げない・・・」
ドアに触れるたびにスタンガンで追い払うと言う行動を何回か繰り返したときに、わずかに双子の動きが止まった。
大塚はこの隙に何か良い方法はないかと頭を巡らせる。
スタンガンは所詮その場しのぎだ。
そして、車内を見回してあることに気がつく。
大塚に使える唯一の武器が目に入る・・・
大塚が逃げ込んだ車内にも散らばっている肉片・・・死んだばかりの人間の死体・・・
そこには沢山の人間の魂があった。
「・・・しかし・・・」
大塚にも死者への尊厳を思う気持ちはある。
あの双子に追い詰められ惨殺されたものたちの御霊を、再び呼び起こしていいものだろか・・・

しかし、躊躇っている暇はなかった。

今は生き残ることがすべてだ。
大塚は唇をかみ締めるとゆっくりと立ち上がった。
「ゴメン・・・こんなになって・・・こんなに苦しんだのに、また苦しめてゴメン・・・」
大塚はぎゅっと目を閉じて車両の中心まで歩いた。
そして、そこで自分の意識を解放する。
「ゴメン・・・ゴメン・・・でも、俺を助けてくれ!」
その声に答えるようにぶわぁっと風が巻き起こる。
紅の光が足元から立ち上り、大塚の周りを取り囲むように旋回した。
大塚は自分の周りを取り囲む霊たちと波長を合わせる。
美しい音楽が調べをあわせて曲を作るように、大塚の波長と霊の波長がシンクロした。

その時。

轟音と共に車両の間を仕切っていたドアが倒された。
物理的なものを無視して無理やり開かれたアルミ製のドアは奇妙な形に歪んでいる。
「痛いよ・・・おねぇちゃん・・・」
壱比奈は赤く腫れた手をおさえている。スタンガンのショックでやられたのだろう。
「私、痛いのは嫌い・・・おねぇちゃんなんか・・・嫌い・・・」
「壱比奈を傷つけた・・・私も、おねぇちゃん・・・嫌い・・・」
二人の奇妙な瞳が輝く。片目が血のように赤く、片目が絶望のように黒い瞳。
それと同時に二人の召喚した異界の牙もゾワリと動く。
車両の床から毛の生えた丸い生きものが沢山・・・沢山這い出してくる。
その一匹一匹が青白い燐光を帯びて、キッ・・・キッ・・・と歯軋りのような音を立てている。
「俺は何も恐れない。お前たちに屈しはしない・・・」
大塚は自分を取り巻く死霊たちに自分の念を送り込む。
「沢山の罪もない命を奪ったものを許しはしない・・・」
「うるさいっ!お前なんか死んじゃえっ!」
壱比奈のヒステリックな声と同時に床一面の獣が大塚に襲い掛かる!
「こんなものっ!」
大塚は自分の念を送り込んだ死者の霊を獣に襲い掛からせる。
死霊たちは大塚の声にシンクロし、また己自身の怒りを持って獣に襲い掛かった。

そして、その獣たちが怯んだ隙に、大塚の牙は双子の少女たちにも襲い掛かった!

「いやぁぁっ!!」
隙をつかれた少女たちは、大塚の牙をもろに食らった。
悲鳴をあげて血まみれの地面に倒れこむ。
大塚の力は死霊とのシンクロでいつもより強まっている。

しかし・・・

ぐぐっと、大塚の放った死霊たちが押さえ込まれる。
少女たちに襲い掛かっていた紅の火の玉たちの勢いが弱まってゆく・・・
「ゆ・・・るさ・・・な・・・」
少女の金属的な声がもれ聞こえてくる。
「こ・・・ろす・・・」
二人の少女たちはゆっくりと死霊たちを押し返してゆく・・・
「!」
大塚は驚きに目を見張った。
こんな幼い二人に、何故・・・?
その時、列車の前方に明りが見えてきた。
次の駅がやってきたのだ。
アナウンスも何もなく、車両はホームへ滑り込むと大塚の背後でドアが開かれた。
「!」
そして、大塚は死霊たちに突き飛ばされるように車両から放り出された!

◆最終列車
ホームの固いアスファルトに叩きつけられて、その痛みを堪えている間に再びドアは閉じられた。
そして、何のアナウンスもなく車両は静かにホームを出て行った。
「う・・・ぐっ・・・」
大塚は痛みに耐え体を起こすと列車の消えた方角を見た。
暗闇の向こうに赤い光が小さくなってゆく。
「助かったのか・・・」
溜息をつきながらと腕時計を見る。
「・・・」
随分長い間乗っていたような気がしたがそうではなかったようだ。
念のため、大塚は辺りをゆっくりと見回す。
「・・・」
その駅は大塚が列車に乗り込んだ最初の駅だったのだ。
そして時間も最初に大塚が時計を見たのと同じ12時過ぎ。
大塚は再び大きく溜息をつくと立ち上がった。
ジーンズのほこりを払おうとすると、手についていた血がついてしまった。
履いているスニーカーも血だらけだ。
「タクシーで帰るか・・・」
しばらく列車に乗る気にはなれない。
大塚は落ちているカバンを拾い上げると、明りのついている改札口へと歩いていった。

The End ?