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<PCシナリオノベル(シングル)>


MAD・RELEASE −遭遇−
◆途絶えた声
送られてきたメールに誘われて、廃ビルへ行くと生きて帰れなくなる。

そんな噂がネットで囁かれるようになったのはつい最近のことだった。
都市伝説的でありがちだと思われた噂だったが、それは爆発的にネット上に広がり、知らぬものがないほどになるにはそう時間はかからなかった。
そして、噂は信憑性を増す「事件」を伝え始めた。

更科 佐京はたまたま接続していたインターネットのリアルライブチャンネルでそれを聞いた。

『俺達これから噂の廃ビルに突入デース!』
おどけたノイズ混じりの声が廃ビルを実況している。
男たちが実況しているのは、ある日送られてきた差出人不明のメールにあった廃ビルだと言う。
メールにはただ一言「天国にてお待ちしております。」と書かれていた。
これは噂の廃ビルのことだと直感した男たちは、ネット中継するためにそのメールに添付されたマップの場所へとやってきたのだ。
『マジで廃ビルですねぇ〜。場所は・・・』
場所を聞くと佐京の今いる場所から近いようだ。
物好きも多いと作業の傍ら聞き流していたのだが・・・ビル内部に入ってから状況が急転した。
『あれ?人がいます!声をかけてみまショウ!お〜い!』
ガサガサと男が奥へ走ってゆく音と、何かが倒れるような音・・・
『うわぁっ!た、たすけてっ!・・・バケモノっ!モルモットは・・・嫌だ・・・うわぁぁああ!』
そして突然の悲鳴の後、中継はぷっつりと途絶える。
佐京は慌ててブラウザーの更新を押すが、それ以降音声が流れてくることはなかった。
何があったのかと、情報を得るために検索しようとキーボードを叩こうとした時。

メールの到着が知らされた。

「なんだ・・・?」
メーラーを起動し、受信確認をする。
メールのタイトルは「招待状」差出人はunknown・・・不明だ。
佐京は念のためウイルスチャックをかけたが特に問題はなく、そこにはただ一言「天国でお待ちしています。」とだけ書かれていた。
佐京はモニターを眺めたまましばらく無言で考え込んだが、やがてPCをシャットダウンすると立ち上がった。
「・・・「招待状」と言うよりは「挑戦状」だな。」
そして、夜の闇よりもさらに黒いコートを手にとると自室を後にしたのだった。

◆The concrete jungle.
「ここか・・・」
暗がりの中、見上げるとそこには5階建てくらいのビルが立っている。
都市部からさほど離れていない場所に立つそのビルは、かつてはにぎやかなネオンに彩られ、人々の出入りもあったものなのだろう。
しかし、今はそこを賑わわせていただろう看板はすべて外され、窓ガラスは割られ、歪められたシャッターの隙間が真っ暗な口をあけている。
このビル近隣に立ち並ぶビルもすべて廃ビルだ。この辺り一帯が見捨てられた土地なのかもしれない。
裏口と思われる場所には鍵がかかっており、多分、さっきの男たちもこのシャッターの隙間から中へと入ったのだろう。
佐京も同じようにその隙間から建物の中へと入ることにした。

中へ入ると意外とそこは明るく、割れた窓から街灯の光が差し込んでいる。
程なく暗闇に目も慣れ、広く何もない空間を見回す。
吹き抜けのフロアだったのか、2階部分がなく、はるか高い天井がぼんやりと見える。
足元には中継をしていた男のものだろうか、積もった埃に足跡がいくつか残っている。
男のものだと思われる大きなものから、子供のもののような小さなものまで・・・
何人の人間がこのビルに紛れ込んだのか。
そしてその行方は・・・?
床に目を落としたまま考え込んでいると、ふと部屋の奥に人の気配を感じる。
視線を上げると暗闇の奥に1人の少女が立っている。
彼女もこの廃ビルに招かれてやってきたのだろうか?
「・・・」
佐京はどうしたのか?と声をかけようとしてやめた。
少女は暗がりから黙ってこっちを見ている。
肌寒いこの夜に薄手のノースリーブのワンピースに、足は裸足だった。
(様子がおかしい・・・)
佐京は持参した木刀の柄をぐっと握り締める。
緊張が張り詰め、それが頂点に達しようとした時。
少女は動いた。

「!」
少女は目を見張るような跳躍力で地を蹴り、ふわりと舞い上がった。
佐京との距離が10メートル以上あったにもかかわらず一瞬で狭まる。
そして少女は空中で腕を振り上げると佐京に向けて振り下ろした!
「ぐっ・・・!」
佐京の目を狙った一撃を、咄嗟に腕でかばう。
腕に鋭い衝撃を感じ、佐京は横に飛びのいて体勢を立て直す。今度は木刀も構えた。
(今の一撃・・・コートがなかったら腕をもっていかれていたな・・・)
まだ、腕に鈍い痛みを感じながら思う。
佐京のコートは防刃加工がされている。その加工がなかったら腕は切り落とされていた。
少女の指先にある爪は刃物と同じ感触を持っている。
(何ものなんだ・・・)
少女は少し離れたところに着地し、くるりと佐京を振り返る。
うつろな瞳・・・少し苦痛に歪んだ顔・・・
「う・・・くぅ・・・」
少女は顔を歪めて頭を抱え込む。
「?」
「あ・・あぁ・・・」
苦痛に声をあげて少女は床に座り込んだ。
佐京はじっと様子をうかがう。
演技とは思えないが・・・何が起こるかはわからない。
「あぁぁぁあああああああっ!」
少女は絶叫した。
そして再びふらりと立ち上がる。
佐京のほうへ、ゆっくりと・・・その瞳に狂気を宿して。

◆狂気
佐京は木刀を構える。
組み合うようなことになれば佐京のほうが不利になる。
なんとかして、間合いを保ち一気にけりをつけたい。
少女は再び佐京のほうへと跳躍する。
右京はそれに反応して、少女は刀の間合いに入った瞬間に木刀でそれを打つ。
木刀は見事に少女のわき腹に入り、少女は吹っ飛ばされた。

しかし!

少女はそのまま壁にたたきつけられるどことか、猫のようにクルンと体勢を建て直し、壁を蹴って佐京に襲い掛かる。
「ちっ!」
佐京も体を捻るようにして渾身の力を込めて少女を打ち据える。
しかし、その手ごたえは重く鈍い。
少女は床に着地すると、素早く佐京へと向き直る。
(こんな少女が何故・・・?)
どう見ても華奢な少女がこんな力を持っていることがおかしい。
木刀で打った時の手ごたえも重く硬い鍛えられた筋肉のそれだった。
こんなに幼い・・・14〜5歳の少女でこの筋力は異常だ・・・。
しかし、少女の体の要所は盛り上がり硬い筋肉を示している。
(薬・・・か?)
人間の持つ筋力を一気に開放し、超人を作り上げる薬の理論を聞いたことがある。
人工的に火事場の馬鹿力状態を作り出すのだ。
だが、その薬が実用されているという話は聞いたことがない。
それに、実用されたとしてもクリアできない問題点がある。
(どうなんだ・・・?)
しかし、佐京が考えるヒマもなく少女は襲い掛かってきた。
低い姿勢で突進してくる少女を、佐京は寸前でかわす。
少女は佐京を行過ぎたが、足でぐっと踏みとどまるとその反動を利用して佐京の懐を狙う。
まるで佐京が苦手とするところを的確に狙ってきているようだ。
けれど佐京も劣ってはいない。
己の身の丈より長い太刀を軽々と扱い、それに込められた力は非常に重い。
少女が再び襲い掛かってくるのを遠慮なく打ち据える。
佐京の考えていることが正しければ、異常発達した筋肉が少女の体を被っている為に打撃にはすこぶる強いはずだ。
しかし、その体にも弱点はある・・・
佐京は冷静に少女の攻撃をかわしながら、チャンスを狙いつづけた。

そして、勝負は一瞬で決まった。

少女が佐京に襲い掛からんと再び跳躍し、その爪を振るうために腕を振り上げた瞬間。
佐京は木刀の突きを少女の胸、心臓の真上に正確に叩き込んだ。
「ガッ・・・」
少女の唇から苦鳴の声が漏れて、少女は力なく床に落下した。
少女はぐったりと動かない。
少女の体を支えていた筋肉が如何に強かろうと、それに取り巻かれる骨や内蔵の強度が上がるわけではない。
薬で強化した場合のこる弱点とはそれだった。
インスタントの超人には耐久性がないのだ。

◆謎は静寂の中に・・・
佐京が床に倒れた少女の首筋に手を当てると脈がかすかに感じ取れた。
心臓に強い衝撃を受けたために気絶したのだろう。
しかし、あの突きを入れられても死ななかったのは、強化された筋力のお陰としか言いようがない。
佐京は少女をこのままにしておくことも出来ず、携帯電話で救急車を要請する。
しばらくすると救急車のサイレンが遠くに聞こえてきた。
「しかし・・・」
この少女以外に行方不明になった人たちはどうなってしまったのか?
それに、この少女を超人に仕立て上げた者はどこにいあるのか?
何の目的でこんなことをしているのか・・・
「もっと奥へ進めということか?」
佐京はポツリと呟くとビルの奥へと足を向ける。
救急車が到着してその騒ぎに巻き込まれるのも面倒だ。
そして、謎も解けてはいない・・・

佐京はゆっくりと廃ビルの奥の暗がりの中へと足を踏み入れていったのだった。

The End ?