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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


■ 最後の願い ■


■ オープニング・少女の手紙

 はじめておたよりします。
 こんなこと、誰に相談すればいいのかわからなかったので、こちらに手紙を出しました。
 中学2年生になるわたしの弟が、最近おかしいんです。
 最初、学校の帰りが遅くなって、それで、どうしたのって聞いたら、「好きな人ができた」って、恥ずかしそうにこたえて、それで、なんだかわたしまで嬉しくなって、冷やかしたり茶化したりしてたんです。
 でも……なんだか日がたつにつれて、弟の顔がどんどんやつれ出して、食欲もほとんどなくなってきてるみたいで……
 本人に尋ねても、心配いらないとしか言わないんです。それもとっても嬉しそうに……
 さすがに心配になって、ある日、弟の後をつけてみたんです。
 そうしたら、弟は近所の神社に出かけて、そこにある御神木の大銀杏の前に立って、ずっと見上げてるんです。ずっと、ずっと……日が暮れるまで。
 もちろん、その間、女の人になんて会ってません。それは間違いないです。
 ……一体、これって、どういう事なんでしょう?
 弟は、ほぼ毎日、同じように誰もいない大銀杏の元に通っています。晴れの日も、雨の日も、とにかく毎日です。
 この事は、まだ親にも言っていません。
 話したら、弟がどこかの病院にでも入院させられてしまいそうで……
 でも、絶対そんなのじゃないと思うんです。
 上手く言えないけれど、弟は本当に誰かに恋をしているとしか思えない……そうとしか見えないんです。
 でも、一体誰に……
 わたし、もうどうしていいのかわからないんです。
 お願いです、どうか弟を助けてください。


■ オープニング2・月間アトラス編集部

 ──と、いうような読者投稿が今日届いたのよ。
 草間の所じゃなくてウチに相談してくるんだから、なかなか見所があるじゃない。気に入ったわ。
 え、なんですって? この子が草間興信所の事を単に知らないだけじゃないかって?
 ……ふっ、三下君、君今週ずっと便所掃除決定ね。
 さて、それはともかく、早速この子を近所の喫茶店にでも呼び出すから、誰か行って頂戴。
 もちろんただ話をするだけじゃなく、きちんと解決してあげるのよ。
 こういう困った少女のお願いとか、恋愛沙汰の相談なんて、いかにも日本人が飛びつきそうな極上ネタじゃないの。記事にすれば、売上倍増間違いなしよ!
 さあ、わかったら気合入れて行くのよ! 一段落するまで帰ってこなくて結構!
 解決できなかったら、向こう一ヶ月間は三下君と一緒に便所掃除だからね!


■ 純喫茶ノーチラス店内・少女

 店内には、モーツアルトのピアノソナタが穏やかに流れていた。
 ここは、アトラス編集部にほど近い所にある喫茶店ノーチラス。
 深い海をイメージしたという店内は、落ち着いた青のインテリアで統一され、壁の一面には巨大な水槽が嵌め込まれて、色とりどりの熱帯魚達が舞っていた。
 人のため──というより、デリケートな魚たちに刺激を与えないようにと常にほの暗く保たれている店内は、秘密の話をするにはうってつけの場所と言えるかもしれない。
 そんな場所の、さらに一番奥の席に、今一組の男女が座っていた。
 彼らの周りには、他の客はいない。
 そして、だからこそ、2人はこの席を選んだのだった。
「美智代さん……とおっしゃいましたね」
「はい……」
 男の言葉に、女性の頭がわずかに動いた。話によると、都立の高校に通う1年生で、16歳との事だ。外見はどこにでもいるような、ごく普通の少女である。その沈鬱な表情を除けば……の話だが。
 一瞬だけ彼女は男の方に目を向けて、しかしすぐにまたうつむいてしまう。
 が、男の方はそれをあまり気にした風もなく、
「弟さんの様子がおかしいと感じ始めたのは、いつからです?」
 静かな口調で、尋ねた。
 彼の名は、灰野輝史(かいや・てるふみ)。今回の全権を碇女史から任された人物である。
 このような暗い場所でも、しっかりとした目鼻立ちが見て取れる。なかなかの美形だ。
 イギリス出身の日系クォーターで、モデルとしても通用しそうな彼ではあったが、その実、有能な霊能ボディーガードとしての顔も持っている。イギリスの実家も、古くから魔道に携わる家系であり、またそうでなければ、今回のような「事件」など、気安く首を突っ込めるものでもない。
 彼、灰野は、碇から話を聞かされた時──正確には彼女が送って来た手紙を見た瞬間から、それが自分が関るべき問題である事を察知していた。だからこそ、ここに来たのだ。
「……三週間くらい……前からです」
 小さな声で、こたえる美智代。
「弟さんが誰かに恋をしていると気づいたのも、それくらいですか?」
「あ、いえ……」
 そう尋ねると、彼女は目を細め、
「……1ヶ月……ちょっと前くらいだったと思います」
 しばし考えてから、こたえた。
「そうですか」
 それを聞いて、灰野もまた、思いを巡らせる。
 ……1ヶ月か。もし相手が”その気”だったのなら、とうに命がなくなっていてもおかしくはない。だとすると……
 彼の中には、すでにいくつかの仮定があった。
 確信には至らないが、おぼろげにその「もの」の正体が見えていたといっても過言ではない。
「あの、大丈夫なんでしょうか……?」
「はい?」
 ふいに言われて美智代を見ると、彼女がじっとこちらに目を向けていた。
 眼鏡の奥の瞳が、不安という名の色に染まり、揺れている。そんな印象だ。
「弟は、このままじゃ……このままじゃ……」
 言葉は最後まで続かず、か細く途切れる。
「……大丈夫ですよ」
 灰野は顔を微笑みの形に変え、告げた。
 そしてレシートを掴むと、静かに立ち上がる。
「行きましょう、弟さんの所に」
「え……」
「善は急げというやつです。良い事をするのなら、早いに越した事はない。そうでしょう?」
「あの……はい……」
 いきなりの彼の言葉に、美智代は戸惑っているようだったが、それでもすぐに、同じように席を立った。
 まだ聞きたい事はあったが、それよりも救ってやる事の方が先決だと、灰野は判断したのだ。
 件の弟はもちろん、その事で心を痛めている、目の前の少女の事も。


■ 鴨脚神社・緑棲む社

 2人は電車で2駅ほど移動して、その場所へと向かった。
 住宅地の中にある、小高い丘。
 そこに、鴨脚神社という、小さな社がある。
 常に神主がいるような大きなものではなく、大体直径20メートルの円形の土地に、3メートル四方程の社がひとつと、入口に鳥居がひとつ。神社らしいものといえば、あるのはそれくらいだ。
 そして、それらなどよりも遥かに存在感を示しているのが、土地の東側で威容を誇っている大銀杏であった。
 高さはおそらく30メートルを下るまい。幹の太さも、大人が2人がかりで手が回るかどうかという程だ。
 そして、その前に──
「あ……」
 前に出ようとした美智代を、灰野は手で制した。
 しめ縄が巻かれた巨木を見上げる、1人の少年の姿。
 あれが、この少女の弟なのだろう。
 今、彼はこちらに背を向けて、ただじっとその場に立っていた。
 こちらに気づいているのかいないのか、それはわからない。
 灰野もまた、大樹に目を向ける。
 美智代と喫茶店で会う前に色々と調べた所によると、この神社は今から500年程前、頻繁に起きていた川の氾濫による被害を鎮めるために、その川の土地神を祀って建てられたものなのだという。
 その時に、同時に東西南北に銀杏の苗を植えたと記録にはある。おそらくは、当時の人々が霊的な守りの意味を込めてそうしたのだと、灰野は判断していた。
 そして──それから500年。
 いつしか主客は逆転し、古木となり、1本だけ時代を経て生き残ったこの大銀杏の方が「御神木」として人々の畏敬の念を集めるようになっていた。
 治水事業や河川改修の技術が進むにつれて、洪水などがほとんど起きなくなった土地の事であるから、その変化もまた、自然な事だと言えるのかもしれない。
 もっとも、元々祀られていた川神様は、あまりいい気はしないだろうが……
 ……さて。
 軽く息を吸うと、灰野は一歩、足を踏み出した。
 ……あなたは何を望んでいるのですか? よければ話を聞きたいのですが……
 静かに、心の中で語りかける。
 相手は人ではない。言葉など不用なのだ。
 と──

 ……ザワ……

 風もないのに、巨木の幹が揺れ、音を立てた。
「か、灰野さん……」
 背後で、少女が怯えた声を出す。
「まかせて下さい、あなたは下がって」
「でも……」
「いいから、今は言う通りにして下さい」
 振り向きもせずに告げると、彼はさらに言葉を胸に浮かべる。
 ……あなたはその男の子を、どうしようというんです?

 ザワザワ……

 ……あなたは長い間ここで年を重ねてきたようだ、だが、少なくとも俺の調べた所では、悪い噂も何もない。なのに何故、今になってこんな事を?

 ザワザワザワ……

 ……理由が、あるのでしょう?

 ザワザワ──!!

 灰野の言葉に反応して、それまでで一番大きく木が揺れた。
 無数の葉が、空中へと舞い上がる。
 と、それらのうちの何枚かがピタリと静止したと見えた、次の瞬間。
 ──シュン!!
 空気を裂いて、一斉に灰野へと降り注いだ!
「っ!」
 横に飛ぶ灰野。数瞬遅れて、さっきまで自分が立っていた場所に、固い音が連続で響く。
 見ると──それは何の変哲もない銀杏の葉だった。
 ただし、地面はおろか、何枚かはそれよりも遥かに硬い石畳の表面に、半ばまでめりこんでいる。
 まともに受ければ、身体をズタズタにされて、それでおしまいだろう。
「灰野さんっ!!」
 血相を変えて、美智代が駆け寄ってくる。
「危ないから来ないで!」
 とは言ったが、彼女の足は止まらなかった。
「……これ……一体どういう事なんですか?」
「いや、それは……」
 一瞬躊躇したが、まっすぐに見つめられ、すぐにごまかすのを諦める。
 彼女には、やはり知る権利があるだろう。
「あなたの弟さんが惹かれているのは、あの銀杏の木ですよ」
 はっきりと、言った。
「……え?」
「経緯はわかりませんが、まず間違いないでしょうね」
「でも、どうして木なんかに……」
「それは……」
 と言いかけ、今度こそ言いよどんだ。
 難しい質問である。
 正確には木そのものではなく、その木に宿る「もの」であろうが、それを説明すれば長くなるし、またそんな時間など、今はない。
 なんと言うべきか、迷っているうち、
「……わかりました」
 妙に落ち着いた声で、彼女が頷く。
「はい? なにがですか?」
「とにかく、悪いのはあの銀杏の木なんですね」
「いえ、あの、何も悪いと決まったわけではなくて……」
 と、灰野は言ったのだが、
「ちょっとあなた! 弟に何をする気!! いくら御神木でも、やっていい事と悪い事があるでしょう!!」
 それまでとは打って変わって、大きな声で美智代が叫ぶ。
「……あの……」
 その変わりように、さすがの灰野も戸惑いを隠せない。
「ゆるさないんだからっ!!」
 さらにもう一声叫ぶと、いきなり大木の方へと駆け出した!
「あ、ちょ、ちょっと!!」
 無謀としか思えない行動に、焦る灰野。
 普段の彼ならば冷静さを失わない所だが、この時ばかりは反応が一瞬遅れた。
 幹が震え、葉が舞う。先程と同じように。
 そして今度は、凶刃と化した葉が、一斉に美智代の元へ!
「くっ!?」
 それを見た灰野は、手近に落ちていた小枝を拾い、力を込めた。
 見る間に枝はその輪郭から、淡い光を放ち始める。
 現実世界(マテリアルプレーン)にある物質を幽界(アストラルプレーン)の物質へと変換させ「魔剣化」させる。
 それが、灰野の持つ魔道技術のひとつであった。
 これにより、彼はたとえそれが割り箸1本であっても、「向こう側」の住人にとってはエクスカリバーに勝るとも劣らない武器にする事ができる。
「はっ!」
 気合と共に、「魔剣」を投げる灰野。
 それは迫り来る葉の数枚を弾き飛ばしたが……それだけだった。
 いかんせん、数が多すぎる。
 残った数十枚の葉は、一直線に美智代へと迫り──


■ 精霊・滅びゆく時

「待ちなさい!!」
 あたりに響く、灰野の声。
 それと同時に、美智代の足が止まった。
 そして、もうひとつ。
 降り注ぐ葉も、本来の姿を取り戻し、ハラハラと地面に舞い落ちる。
 灰野には、こうなることがわかっていた。
 この樹には、人を傷つける事などできはしない。
 そう、確信していた。
 先程自分に向けられた葉の刃も、充分にかわせる量とスピードだったのだ。
 その気になれば、絶対に避けられない攻撃も可能だったろうに、それをしなかった。
 魔剣など使わなくてもよかったのだが……それは思わず反射的にしたことだ。
「灰野さん……」
 美智代が、こちらへと振り返る。
 薄く微笑んで、小さく頷く灰野。
 それから、前方を目で示した。
 無言で、首を元に戻した美智代は……
「……あっ」
 それを見て、声を上げていた。
 樹と少年の間に、いつのまにか1人の少女が姿を現している。
 優しげな笑みと、儚げな雰囲気……
 緑の薄衣と、同色の髪、瞳の色もまた、緑だった。
「あなたは……」
 最初に声を出したのは、美智代。
 それに対して、
「……ごめんなさい」
 と、緑の少女はこたえた。
「え……?」
 静かに、少女は語り出す。
 少年との、出会いを──


 それは、今からちょうど1ヶ月ほど前の事。
 その日、不意に降り出した雨を避けるため、少年はこの神社に雨宿りに来たのだった。
 そこで、同じようにこの樹の下で雨宿りをしていたアベックが、ナイフで樹に名前を彫り込もうとしているのを見かけて、止めたのだという。
 そんな事をしたら、樹がかわいそうだ──
 少年は、その時そう口にした。
 気分を害したアベックが去ると、樹は少年にこたえた。
 ──ありがとう。

 ……以来、少年はこの場所へと通うようになったのだった。


「それだけでは、ないですね?」
 少女の言葉が終わるのを待って、灰野が言った。
「……はい」
 あっさりと頷く、緑の少女。
 そして、
「私は……もう寿命なのです」
 静かな声が、はっきりと告げた。
「……え? 寿命って……」
 目を見開いたのは、美智代のみ。
 灰野は、その事すらもうすうす感じ取っていたのだった。
 神格化までされている「もの」が、人を側に寄せてしまう理由……
 今まで何の問題もなかった存在が、急にらしくない事を起こした原因……
 それらのパズルのピースが、最初にここに来た時に、ピタリとひとつの形に収まったのだ。
 ──この大きさにしては、存在感がなさすぎる。
 灰野は、真っ先にそう感じた。
 人間に例えるなら、末期のガン患者の生命力くらいだろうか。
 あと2ヶ月も持つまい……
 灰野は今や、そう確信していた。
「おかしなものですね……随分と長い間生きてきましたのに、やはり自分がなくなってしまう……無へと還るのが恐いのです。でも、この方といる間だけ、それを忘れる事ができました。この方の、優しさに触れている間だけ……」
「……」
「……」
 灰野も美智代も、何も言わなかった。いや、言えなかった。
 決して避けられぬ滅びへと向かうものに対してかけるべき言葉など、そうあるものではない。
「でも、それももう終りにします。いえ、最初からわかっていたのです。これは単なる私の我侭だと」
 2人の前でそう口にして、ふわりと微笑む少女。
 そして──
「……本当に、ごめんなさい……」
 最後にもう一度その言葉を告げて……少女は少年の額にそっと口付けた。
 次の瞬間、少年はくたくたとその場に崩れる。
 弟の名を叫んで、美智代が駆け寄った時には、もう少女の姿は消えていた。
 それ以降、この緑の少女に会った者は誰もいない──


■ エピローグ・心強き者達

 ──それから1ヶ月あまりが過ぎたある日。再び灰野は神社を訪れていた。
 あの少女の言葉通り、ほどなくして大銀杏は手のつけられないほどに枯れ果て、倒れでもしたら危険だという判断を下した自治体の手により、切り倒される事となった。
 樹齢500年の御神木という事もあり、どこからか神主を呼んでそれなりの祭礼も行ったようだが、彼はそれには顔を出さなかった。
 他の者にとっては、単に木を切り倒すだけの作業かもしれないが、この件に関った者にとっては、彼女がまさに死にゆく瞬間を見せ付けられるに等しい。
 灰野は立ち会うかどうかを迷い……結局行かない方を選択したのだ。
 あの場で気を失った少年は、次に目を覚ました時、自分が銀杏の元に通っていた事を何ひとつ覚えてはいなかった。
 だから、彼もまた、見る事はなかったろう。
 最後の口付けには、そんな効果が秘められていたのだ。
 わずかの間だが、触れ合った少年の気持ちまで、消していった少女……
 その心情は、どんなものだったろうか。
 灰野には、わからなかった。
「あれ、灰野君じゃない」
 と、ふいに聞きなれた声がした。
 振り返ると、碇編集長がそこにいる。
 ちょうど鳥居をくぐって、こちらへとやってくる所だった。
「なんだ、君も来るつもりだったなら、なんで誘わなかったのよ」
「いえ、まさか編集長が来るとは思いませんでしたので」
「あら、失礼ね。いい話をもらったんだから、礼くらいきちんとしに来るわよ。当然でしょ」
「……はあ」
 曖昧に笑って、それ以上は何も言わない灰野であった。
 ちなみに今回の事件は「ドライアドと少年の恋物語」として、もう既に原稿が入稿している。
 書いたのは灰野ではないのだが……いくらなんでもそのタイトルはなかろうと思っていた。
 ドライアドというのは、ギリシア神話に出てくる木の精霊で、ときおり人間とも恋をしたりする存在だ。
 まあ、木の精霊という点だけで言えば、それほど遠いとも言えないが……どうせなら日本風に「木霊」(こだま)にすべきだろう。
 ……どちらにせよ、灰野はあまり良いとは思わなかったが。
「ふーん、この切り株がそうね。なるほど、さすがは樹齢500年、相当大きかったようね」
 並んで木のあったあたりまで来ると、碇が感心したようにそう口にする。
 一方の灰野はというと、他のものに目を向けていた。
 ……切り株の脇に、ぽつんと置かれた花束。
 見ていると、1人の少女のイメージが受かんでくる。
 弟を思うあまり、木に向かっていった無鉄砲で優しい少女の姿が。
「……うん? 灰野君、なに笑ってるのよ?」
「ああ、いえ、なんでもないです」
 指摘されて、慌てて口元を引き締める灰野だ。
 それから、自分の持ってきた花を隣に並べる。
 さらにその隣に、碇も同じようにして花束を置いた。
「えーと、確か神社って、2礼2拍手1礼……だったっけ?」
「ええ、まあ、一般的にはそうですね」
「そっか、よし」
 頷いて、すぐにそれを始める碇。
 静かな境内に、乾いた音が心地よく響き渡った。
 灰野はそこまではせず、ただじっと切り株に視線を向ける。
 礼節を表す方法は、人それぞれだろう。
「さて、じゃあ早速行きましょうか」
「はい、どこへです?」
 最後に深々と礼をすると、碇が灰野へと振り返る。
「いえね、ここだけの話だけど、またいいネタがあるのよ。で、これも是非灰野君にと思ってね」
「俺に……ですか?」
「そうよ。じゃ、編集部に戻りましょ。説明するから」
 それだけ言うと、灰野の返事も待たずにさっさと回れ右をして歩き出す。
 ……やれやれ。
 その後姿を見て、苦笑する灰野。
 編集長といい、あの美智代という少女といい、回りの女性は皆しっかりしている。
 あの緑の少女もまた然りだ。
 そして……もう1人、灰野はイギリスの実家にいる姉の事も思い浮かべたが……
「何してるのー、置いていくわよー!」
 と、碇に声をかけられ、
「はい、今行きます」
 頭を振り、小走りでその場を後にするのだった。
 ますます苦笑を深めながら──

■ END ■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0996 / 灰野・輝史 / 男 / 23 / 霊能ボディーガード】

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■         ライター通信          ■
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 どうもです。ライターのU.Cです。
 今回はちょっと切ない系で迫ってみました。いかがなものでしょうか。

 しかし、灰野様には驚かされました。
 プレイングの時点で、少年の恋する相手はもちろん、その精霊に寿命が迫っている事まで見破っておいででしたので。
 それで、依頼文を載せて2日目、まだ応募は灰野様1人という状態だったのですが、展開を見破られた以上、これはもう素直に降参するより他ないと思い、募集を閉めて灰野様の個人シナリオという形にさせて頂きました。
 灰野様のご活躍、どうぞ存分にお楽しみください。

 当方もさらにひねくり回した設定を生み出すべく、今後も精進してまいります。うぉー。

 灰野様、ご参加下さり、誠にありがとうございました。
 読んで下さった他の皆様にも、深くお礼申し上げます。

 それでは、また別の話にて。

 ではでは。