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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


花葬無限回廊

「死体プールのホルマリンが花びらに変わってしまったそうなのよ」
「変ですよね、気になりますよね?僕も気にな・・・・・・ッ、痛ぁいぃ〜!(泣)」
 三下は碇編集長の話に横槍を入れた形になり、天誅とばかりにハイヒールの踵で足を踏まれた。憮然とした表情をするでもなく、碇はにっこりと笑っている。
 その病院は以前から予告状じみた文章のFAXが送られていたらしい。当然、冗談であろうと病院側は思っていた。しかし、予告の日に近づくにつれ、隣接する大学の研究室内にあるホルマリン漬けが毎日一つずつ花に変わるという怪事件が起きていたのだ。
「今度は区内にある警察病院がターゲットらしいの。来々週の特集にしたいから手伝ってくれない?」
 ホッチキスで右端を止めた紙束を手で捻りながら碇は言った。
「三下君は全く!役に立たないから・・・・・・ゲラ刷りに間に合わなくなっちゃうわ」
「そ、そんなぁ〜・・・そこまで云わなくっても・・・」
 碇の言葉に三下の小さな瞳は潤む。
 うつむいた三下は碇の手を見て硬直した。
「・・・・・・って、ああああぁッ!!原稿が〜・・・・・・」
 あうあうと三下がうめく。
「没よ、ボ・ツ!・・・ネタ自体冴えないわ」
 これ以上ない程の優しさに満ちた微笑みを浮かべ、碇は三下にやり直しを・・・・・・厳命した。

●日常・・・の異常
「こんなもんでいいですか?」
 おずおずと書き直した原稿を三下は碇に渡した。
 やり直しを言いつけられてから、ものの十分も経っていない。
 どうやら、元原稿をコピーしておいたらしい。
「何かこう・・・三下君の文章って面白くないのよねぇ・・・」
 月刊アトラス編集長、碇・麗子は没原稿をまるで親父のパンツを抓むような仕草で持ち、プラプラとさせた。
「そんな・・・・・・」
 いかにも気の弱そうな瞳が碇を見つめた。
 改ざんされた文章は見るも無残な姿になっている。
 ひょいと、原稿を覗き込んだ雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)は、その原稿の存在に、幻滅を通り越して怒りさえ感じた。
 もう、既に面白いとかそう云う問題ではなく、その原稿の存在自体が罪としか思えないような代物だった。
 雪ノ下は握りこぶしを思いっきり振り上げたい衝動に駆られたが、かろうじて踏みとどまる。
 ミステリー研究会に所属した雪ノ下は、サークル活動中に様々な怪現象に遭遇した。それを元に小説を書き上げ、オカルト作家としてデビューしたのがこの世界に踏み込んだ直接的なきっかけだった。
 無論、この世界に身を投じたのは、それだけが理由では無い。
 三度の飯より文章が好きでなければ、この世界でやっていけはしないのだ。
 勿論、例に漏れず雪ノ下は活字中毒だったし、これでもかと云う程、文章に対して繊細だった。第一、文に気を使えないような神経では、才能以前の問題で、存在価値すらない。
 つまり、三下の原稿とはそう云った類のものだった。

――こういう輩が多いから、日本語が廃れていくんだよな。編集者がこれじゃぁ、ロクな小説が生まれやしないよ・・・・・・

 雪ノ下は鮮やかな緑色に染め上げた髪を手櫛で梳いた。
「三下君の原稿が終わるのを待ってたらきりが無いわ」
「編集長ぉ〜、もう一度チャンスを下さいい〜」
「冗談じゃない!!無能な編集者に仕事を渡してお詫びのページを掲載するぐらいなら、徹夜明けの作家に依頼するわよッ!」
「うわぁ〜ん!」
「雪ノ下くん、やってくれるわよね!」
「あぁ・・・任せてくれよ。次の仕事は入ってないし・・・この事件をネタに『都内怪談』の原稿を書いちまえばいいんじゃないのか」
 暫し、碇は考え込んでいたが、雪ノ下の意見に賛同した。
 『都内怪談』とは月刊アトラスでは愛読者の多い連載小説である。
 それは雪ノ下の担当している小説だった。
 他の原稿依頼が溜まっていて、休載の予定になるはずだったが、三下がこんな状態では仕方が無い。
 碇は三下を睨みつけた後、雪ノ下の方にはニッコリと微笑む。
「じゃぁ、頼んだわよ・・・不本意だけど、担当編集者は三下くんね」
「そんなぁ・・・・・・」
 碇の云い様に、三下は涙ぐむ。
「本ッ当に、不本意だわよ!!仕方ないわ・・・・・・うちの編集部に暇な人材なんて『三下くんぐらいしか』いないんだから」
「酷いぃ〜〜〜ッ(泣)」
 フンッと碇は言い捨て、デスクに戻ろうとしところを人にぶつかられて立ち止まった。
「ごめんなさ・・・・・・あら、レイベルさん」
「やぁ、編集長殿・・・先日の依頼の件なんだが・・・」
 もう、成描と云う年だろう黒猫を抱え、金髪の美女がいった。
 ミステリアスな碧色の瞳を縁取る長い睫毛が瞬く。抜けるような白い肌は彼女が日の射さぬ地域で育ったであろうことを物語る。
 外見は20代前半ぐらいだが、ぞんざいな物言いと、彼女が醸し出す不思議な雰囲気が彼女の正確な年齢を曖昧なものにしていた。
 彼女は名をレイベル・ラブといい、1600年頃の欧州寒村生まれの女性である。享年15歳だが、法王庁認定奇跡112Dの「復活」を機に、死とは無縁の肉体となった。
 現在は住所不定の・・・いわゆる闇医者である。
 扱う技術はいにしえの祈祷術、魔法、錬金術、及び漢方含む最新医療との混合物など多岐に渡る。腕前の程は確かだが、染み付いて離れない貧乏体質のせいか、結果的に技術レベルは町医者並みだった。
 どうやら、碇の話が終わるのを待っていたらしい。
 碇はデスクに戻ると、引出しを開けて云った。
「えぇ・・・その件だったら、まず、こちらの請求書とを見て頂戴ね。そうそう、こちらは先方に払い込んだ違約金分の領収書だから大切に保管してね・・・と、それから・・・・・・」
「結局、私に払われる報酬はいくらなんだ?」
 レイベルの声を聞いて、碇はA4サイズの紙に書かれた内容を感情の感じられない声で読み上げた。
「本来支払われる報酬金は120億6千7百万円。途中で依頼が継続できなかったことに対しての違約金は半額の・・・まぁ、60億円かしら。その内、破損した『清朝代の青磁の壷』と『モネのスケッチ画』と『ガレの手紙』と美術館の展示室の修理代と消費税を引いて・・・・・・」
 長々と説明を聞き、レイベルはうんざりとした顔をした。
 もう如何でもいいと言った風情である。
 話の内容を軽く聞き流していた雪ノ下だったが、金額の異常さに目を剥いた。
「・・・な、何かやったのか?」
「聞いての通りだ・・・御同業・・・・・・それで、碇女史。いくらくれるんだ?」
 レイベルは雪ノ下に向かって答えると、無表情に碇を見やって云った。
「今回の報酬は残金1239円よ」
 ・・・と、ニッコリ笑って云った。
 普段笑わないだけ、この笑顔が何より恐ろしい。
「・・・・・・わかった、今日の夕飯が食べれるだけマシだな」
「私もそう思うわ」
「まったくだ・・・」
 そう云うと、レイベルは碇から1239円と領収書と収入明細書の入った封筒を受け取る。
「今日もお前の家にご厄介にならねばならないらしいよ・・・」
 猫に向かってひとりごちるレイベルの声は哀愁さえ感じれた。
「今日も彼の家に泊まるの?」
「私には行くところが思いつかないからな・・・お前も行くか?」
 黒猫に向かってレイベルは云った。
『んにゃぁぉ〜〜〜・・・・・・』
 プルリと小さな頭を振ると、黒猫は一声だけ鳴いた。
 行かないとでも云いたげな仕草だ。
「あら・・・猫ちゃんにフラレちゃったわねぇ」
 碇の一言にレイベルは溜息を吐いた。

 その姿を見て、同情した三下はつい言ってしまった。
 云わなければよかった一言だった。
 これから病院で待ち受ける恐怖のほうがまだマシだと思えるほど、云ってはならない一言だったのに。
 僭越にもレイベルに同情し(お前がそれを言う立場に無い!)、碇を揶揄しようとは三下(ごとき)の風上にも置けぬ所業である。
 そんな自分の愚かしさは、口を滑らしてからでなければ気が付かないものだ。
「藪医者・・・はッ!ち・・・違」
「何だと・・・」
「あッ!・・・やぶへびって云おうと・・・」
「なんですって?」
 碇が三下を睨んだ。
「どういうことかしら・・・説明してごらんなさい」
「は・・・はぇ・・・ヒィッ!・・・お、お助け・・・・・・」
 頭を抱えて三下は座り込む。
 それを見下げるようにレイベルは言った。
 感情のこもらない声は、さながら、鉄の鞭のようだ。棘を伴ってしなやかに弧を描き、三下の心に突き刺さる。
「三下よ・・・依頼中にコンクリートの塊やら、柱がお前の頭の上に落ちてこないといいな・・・」
「ひ・・・ひぃぃ〜〜ッ!」
「碇殿・・・私も一緒に行っていいか?」
「えぇ・・・もちろんよ。・・・三下クン、頑張りなさい」
 そう云って、碇はうっすらと微笑む。
 レイベルはそれを受け、
「了解した・・・三下よ、『共に』・・・頑張ろう・・・」
 ニタリと笑った。
「た・・・たすけて・・・・・・」
「勿論、何かあったら助けてやろう・・・しかし、不意の『怪我』やら不幸な『事故』には、いくら私とて出来ることは決まっている。私は死なないが・・・・・・三下クン・・・君はどうかな??」
「い・・・嫌ぁ〜〜ッ!・・・死ぬう、今度こそ死ぬぅ!!」
「怪我ならいくらでも治してやろう」
「どっちも嫌ぁ!」
 三人のやりとりに、雪ノ下はメモにペンを走らせていた。依頼となったら原稿がついて廻る雪ノ下にとって、時間は厳守すべきものだ。
 仕事モードに入った雪ノ下に、三下の悲痛な叫び声は聞こえていなかった。

●夜喰い人と花闇の護り手
「予告状のようなFAXが送られていたらしいと聞きましたが・・・」
「すみません・・・私、これから会議なので」
「あッ・・・」
 雪ノ下が看護婦に質問をしようと声を掛けるたびに、看護婦達は怯えるような表情を見せて去ってゆく。
 明らかに事件について避けているようだった。
「これじゃ、埒があかないですね・・・」
 怪奇現象に遭遇する前から三下は青い顔をし、潤んだ瞳で雪ノ下を見た。
「ど・・・どうしよう・・・」
「仕方ない、院長に直接聞いてみるしかないな」
 そう云うとレイベルは院長室を指差す。
「でも・・・」
「ここの看護婦は現に起きている事件に目を背けている」
「俺もそう思うよ」
 レイベルの言葉に雪ノ下は頷いた。
「裏で何かあると考えていいだろう。私は院長に話を聞いておくから、あなたは三下と大学の方に行ってくれ」
「分かった・・・じゃぁ、またな」
「あぁ・・・健闘を祈る」
「了解」
 雪ノ下の言葉を聞くと、レイベルは躊躇せずに院長室に入っていった。

 雪ノ下は三下を伴い、キャンパスの方へと足を向けた。
 冬らしからぬ暖かな陽射しに雪ノ下は目を細める。
 こうしていると事件があった病院だなんて思えない。
 冬休みに入って静かになった大学内には人影は無く、何処となくうら寂しい感じがする。
 話を聞こうと事務所に顔を出したが、休憩中なのか事務員がいない。
 とはいえ、守衛もいないというのはおかしかった。大学には貴重な資料がごまんとある。
 その中には持ち出し禁止のものもあるはずだ。
 なのにここには誰もいない。
 雪ノ下は校内の異様さに気が付いてはいたが、そのどこがおかしいのかと問われれば、答えようが無かった。
 ただ、寒く・・・・・・暗い。
 昼間ではあったが、蛍光灯は全て消されていた。
 経費削減といっても限度があるだろうに。
―― おかしい・・・な・・・
 休みだから、暇を持て余してサボっているんだろう、そう雪ノ下は思った。しかし、それは本当だろうか?
 自分の大学ではどうだったか思い出そうとした。
―― 確か・・・中々呼んでも出来てくれなかったような・・・
 一人納得してふと湧いた疑問に蓋をしようとした。
 ・・・と同時に、何かが心に引っかかって、雪ノ下の意識を引きとめる。
 休みに大学に行った時、事務員はなかなか出てきてくれはしなかったが、出て来なかった事は無い。
 しかし、今は如何だ?
 誰も来はしなかったではないか。
―― やっぱり、ここはおかしい・・・
 小さな疑問が確信に変わる頃、雪ノ下は背後に奇妙な威圧感を感じて振り返った。

 妖美がそこに存在った。
 その言葉の鮮鋭なイメージが見事に具現化したような。
 類稀なあやかしの『美』だった。
「誰ぞ?」
 それは云った。
「暖かな匂いがする・・・」
 ・・・とも云った。
 続く廊下の先に小さな二つの光が灯る。鈍い金色の光を放つそれが、ニイッと細められた。
 目だ。しかも邪悪な。
 雪ノ下は見入った。
 そう滅多にお目に掛かれるモンじゃないと心の何処かで理解(わ)かっているからこそ、惹かれる自分がいた。
 見てはいけない。
 見つめ返してはいけない。
 ましてや・・・・・・惹かれることは『禁域』
―― 俺って、やっぱり『魔女』の息子だったんだな・・・
 雪ノ下は己の中に『魔』を感じて自嘲った。
 『霊感』と呼ばれるそれは、魔女である母から受け継いだ『遺産』であり、己が属する世界を証明する唯一のものでもあった。
 天使を見れば『光』を感じ、あやかしを見れば『闇』があることを痛感させられる。
「お前は暖かそうだ・・・・・・」
 そう云ったあやかしは闇のヴェールを文字通り『剥ぐ』と、雪ノ下に歩み寄る。
 艶かしい裸体を薄布で隠し、柔らかそうな双丘を強調するように細い帯を絞めていた。はだけた裾からは足が覗いている。
 長い黒髪がはらりと肩に落ち、揺れる。
 その妖艶さに雪ノ下は眩暈を感じた。
 濡れた唇が「おいでおいで」と自分を誘う。
 誘われ、共に堕落ちて、喰われてみたいと思う自分に、男であることを自覚させられた。
 三下はすでに魂を抜かれたように立ち尽くしている。
「お前は『魔』だろうに・・・何故、そんな人間(もの)とおるのかや?」
「人間ってしがらみも結構いいモンでね・・・それに、俺ってそんなに強い魔でもないしね」
「出来損ないというわけかの?」
「貶めて喰らうことしか考えられないようなあんたに、半人前扱いされたくないな。さっきからビンビン受信(き)てるぜ・・・形(なり)は良くても中身は最悪だ」
「なに?」
「図星だったみたいだな」
「お前は喰わない・・・・・・細切れにしてくれるッ!」
「おばさんのヒステリーはこの世の罪悪だよ!」
 云って、雪ノ下は跳躍した。
 体勢を整える間もなく攻撃されたが、翻弄されつつも気を巡らせる。
練功した気を掌に集め、それに向かって解き放つ。
「鬼哭破裏拳っ!!」
「フッ・・・甘いのう、坊や」
 あやかしはするりと身をかわすと、瞬時に逃げそこなった三下の襟を掴み、雪ノ下の方へ放った。
 巨大な気の塊が三下に向かって炸裂する。
「ぐぎゃああああ〜〜〜〜〜ッ!!」
「おわッ、三下さん!」
「痛いよぉ〜〜〜〜ッ!酷いよーっ!」
 血まみれになりながら床に転がり、泣き喚く三下を睥睨すると、あやかしは三下の顔を足蹴にする。
「ぐわっ!」
「いい声だ・・・もっと聞かせておくれ」
 あやかしは喜悦に歪んだ面を三下に向けて云った。石榴のように裂けた三下の腕を、更に力を込めて踏みにじる。
「ひい〜〜〜〜ぃッ!」
「おおっ、良い声じゃ♪お前は愛い奴じゃのう・・・・・・痛ぶり甲斐があるというものじゃ。どれ、我が直々に調教(しこ)んでやろうか・・・♪」
 満足げに笑いながら爪の先を傷に這わす。
 雪ノ下は「こいつ、碇編集長と張るな」と思ったが、口にはしなかった。
 あやかしは何か思いついたような表情をすると、三下の顎を掴んだ。
「こやつは戴いて行くとしよう・・・これから酒宴での。お前と遊んでいる暇は無い。半妖よ・・・仲間に入りたくば、我を探すがよいぞ。さぁ、三下とやら・・・・・・お前を花で飾って埋葬してやるからのvv」
「嫌だぁ〜〜〜ッ!」
「ほほほッ・・・燃えるのぉvv・・・では、さらばじゃ半妖よ・・・」
 そう云うと、あやかしは三下を捕まえ、煙のように掻き消えた。
「俺は妖魔じゃ無いッ!」
 半妖と勝手に決め付けられ、雪ノ下は吼えたが、虚しく虚空に響いただけだった。

―― 一方、院長室では・・・・・・

 収拾のつかないやり取りに、レイベルは苛付いていた。
 外出中の院長を待つ間、看護婦達にレイベルはFAXの件を質問してみた。しかし、看護婦たちは知らぬ存ぜぬと繰り返したのだ。彼女らに何かを取り繕うような無関心な態度を感じていぶかしんだ。
 彼女らの態度に業を煮やしたレイベルは、依頼内容を確認すべく、院長室に居座り、帰りを待つ。
 しばらくして、戻ってきた院長に依頼の確認だけしたいと申し立てたが、月刊アトラス編集部に宛てた依頼自体が何なのか分からないと院長は云った。
 依頼者は院長だ。
 当の院長が「何のことだかわからない」と繰り返すばかりでは、確認も出来ないし、解決すら見込めない。
 アトラスからの依頼でこんな事は一度も無かった。
 碇編集長に限ってそんないい加減なことはあるはずが無い。
「自分たちが依頼したんだろうにッ!ホルマリン液が花に変わるのをどうにかしてくれと云ってきたのはそっちだろうに!」
「私は知らないと云っている・・・誰かの悪戯だろう」
「正式な依頼だったぞ」
「知らんものは知らん。ホルマリンが花なんぞに変わるものか・・・帰ってくれ!!」
 取り付く島も無い。
 仕方なくレイベルは、『何が起こっても知らないぞ』と言い捨てて、院長室を出た。
 病院の廊下を歩き、大学の方へ向かう。
 こんな奴等に構っている暇は無い。
 何かあってからでは遅いというのに、ここの連中は一体何を考えているのやら。
 レイベルは爪を噛んだ。
 これは犯人の仕業ではないか?ふいに擡げた疑惑は、レイベルの中でほぼ確信へと変わる。
 もし、自分の思ったとおりだったとしたら、雪ノ下たちが危ない。レイベルは迷わず雪ノ下と合流することを選択した。
 大学と病院は渡り廊下で繋がっている。ここからは建物の端と端ほど離れていた。レイベルは行き違いにならなければいいなと思ったが、ここで待っていてもイライラが募るだけだ。
 自分の精神的健康の為に雪ノ下と会うことを優先した。

「キャッ!」
 突如聞こえた悲鳴にレイベルは驚いた。
 足元でおかっぱ頭の女の子が膝を抱えて蹲っている。
 レイベルは突き当たりの廊下を右に曲がろうとし、小さな女の子とぶつかったらしかった。
「す、すまない・・・ん?」
 女の子がじっとこっちを覗き込んでいることに気が付いたレイベルは首を傾げた。
「どうした?」
「お姉ちゃん・・・お医者さん?」
「え・・・?まぁ、そう云われればそうだが」
 レイベルは女の子に白衣を掴まれ、自分の服を見た。どうやら、この白衣を見て医者だと思ったらしい。その勘もそう外れてはいなかったが。
 自分はここの病院の医者ではないが、医者であることには間違いない。「あのね・・・美紅(みく)ちゃんねー。きのう、お花のびんづめ見たの〜♪」
「何?」
 少女の言葉にレイベルは驚愕した。
 やはり、事件はあったのだ。では何故、病院側はひた隠しにしたのだろう。マスコミ報道にあっているわけではないだろうに。しかも、依頼までしておきながら「知らない」などと云わねばならない理由は・・・・・・操られているからに違いない。
「ねぇ、先生・・・」
「どうした?」
「何で、お花のびんづめかくしちゃったの?キレイなかざりだったのにぃ・・・・・・」
 美紅は口を尖らせて云う。
 レイベルは少女の様子に驚きを隠せなかった。それもそうだ。死んだ人間や動物の組織が入った瓶詰めを綺麗な飾りと称するのは普通の感覚ではない。
 呆気にとられ、暫し見つめた。
「どうしたのー、先生」
「き・・・綺麗?・・・あなたはあれを綺麗だと!?」
「うん。だって・・・マリィヴェールがそう云ったモン」
「は?・・・だ、誰?」
「マリィヴェールはね、美紅のお友達なのvv『くさいえき』に漬かってて、かわいそうだって言ってたの。そうしたら、つぎの日にお花が入っててね・・・・それ見て、マリィヴェールが『キレイ』って言って喜んでたのよ♪」
 レイベルは少女の言葉に何とも云えない、深く気だるい酩酊感を覚えた。ホルマリンを『くさいえき』とは!
 友人が綺麗と云ったら、自分も綺麗だと思う。この子供の静かな狂気に薄ら寒いものを感じ、レイベルは溜息を吐く。
「あッ!マリィヴェールだぁvv」
 少女の声にレイベルは振り返った。友人の姿を見つけたのか、美紅は思いっきりよく手を振った。
 ナースセンターの前に黒服の少女が立っている。長い銀髪の巻き毛をリボンで結び、肩で揺れていた。整った顔立ちに碧の瞳が印象的だ。豪奢なベルベットとレースの黒ドレスが人目を引く。
 何より、少女が手にした人間の『腕が入った花の瓶詰め』がレイベルの目を捉えて離さない。
 少女の表情は無表情を通り越して、冷徹としか思えない眼差しを湛えている。形のいい唇は薄ら笑いさえ浮かべていた。
 レイベルは眉をひそめた。
 銀髪の少女の細い指が口元を突付く。愛らしい唇は、毒そのものといった言葉を吐いた。
「・・・・・・貧乏医者」
「な、何っ!」
「お前のことよ、レイベル・ラブ。邪魔な小蝿共が来たと思ったら、住所不特定の貧乏闇医者サマがいるじゃないの・・・」
 あーあと、溜息を吐いてマリィヴェールは云った。
「私はあなたを知らない・・・あなたは誰だ?」
「私?・・・マリィヴェール・ベルゼビュート=ハーヴェント。皆にはダッチェス・オブ・ダークサイドとも呼ばれてるわ」
「知らないな」
「あらそう・・・東京なんて片田舎に来ることなんてなかったもの」
「何処の誰だか知らないが、ここは遊び場じゃない。子供は帰って宿題でもするといい」
「金策に追われるお医者サマに言われる筋合いは無くってよ・・・それに私、外科医なの」
「あなたのような外科医がいるのはこの世の汚点だな・・・・・・お嬢さん」
「2475歳よ」
「ゲッ!」
 レイベルは目を剥いた。

 Refused by death・・・死に拒絶された者。

 この少女は自分と同じ不死者であった。
 死を超越し、なお闇に君臨する女公爵は残忍な笑みを浮かべた。
「2000年前は楽しかったわvv・・・ロンギヌスの槍を作ったのは、私。使わせたのも、ワ・タ・シ♪」
「今度は何をするつもりかな?」
「そうねぇ・・・どこかの大陸でも沈めましょうか」
「どうしてそこまで残忍になれる」
「面白いからよ・・・・・・」
「このぉ!!」
 レイベルは傍にあったストレッチャ―を投げつけたのをきっかけに、傍にあった物をすべて投げつけた。
 マリィヴェールはひらりとかわすと一歩後退する。
「待てッ!」
「マリィヴェールに何すんのよぅ!」
 美紅はレイベルの白衣を掴むと阻止しに掛かった。
「離さないか!」
「やぁ〜〜〜だ!・・・逃げて、マリィヴェール!!」
 悪魔を友達と思っている美紅は、レイベルに負けじと頑張った。
「ありがとう、美紅・・・そのお医者さんは邪魔者なの。私と『イイコト』したかったら、捕まえていて頂戴ね・・・」
 淫靡な笑みを浮かべたマリィヴェールは、美紅に云った。
「なッ・・・何!?まさか・・・・・・っ!」
 マリィヴェールの言葉に何某かを連想したレイベルは、ギョッとして言い放った。
「ご想像にお任せいたしますわぁ♪」
「変態かッ?」
「趣味と実益を兼ねてますのよ・・・を〜〜〜〜っほほほッvv」
 マリィヴェールの哄笑が病院の廊下に響く。これだけ騒いでいるというのに、誰一人ナースセンターから出て来る者は居なかった。すでにこの病院はマリィヴェールに支配されているのは確かだろう。
 ピュンッと虚空を裂く音が聞こえたかと思うと、マリィヴェールの爪が30センチほどに伸びた
「では・・・抹消(し)んでもらいましょうか・・・」
 上げた腕が無造作に下ろされる。・・・と、同時にレイベルの体が何かによって切り裂かれた。鋭利なそれは腹部の肉を割っただけでなく、骨をも砕いた。無論、レイベルにしがみ付いていた美紅の身体は二つに裂かれ、とうに絶命している。
 美紅を抱きしめ、自らの痛みにも気付かぬまま、レイベルは美紅の身体見つめた。
「なんてことを!」
「私、動かない身体の方が好きなの・・・それに子供って五月蝿くって嫌だわ」
 レイベルを見やり、抜け抜けとマリィヴェールは云った。
 じわりと血が滲み、裂けた腹部が熱く疼いた。ドクンと鼓動が耳の奥で鳴り響く。ふいに痛みを感じ、レイベルはうめいた。
「ぐッ・・・じ、自分を友達だと・・・いった・・・・・・相手をどうして・・・!」
 不死とはいえ、痛みは感じるし、血も流す。激痛を堪え、血を吐きながらレイベルはマリィヴェールを糾弾した。
「だって、死体のほうが私は愛せるんだものvv・・・それに、彼女だって友達の私に愛されるほうがいいでしょう?だから、死体にしたまでよ」
 さも嬉しそうにマリィヴェールは云った。それは気に入った玩具か愛玩動物を手に入れた子供の笑顔のようだった。
「さぁ・・・最後はお前よ・・・」
 ちろりと覗いた舌は異様に真紅く、それが何処までも淫靡だった。長い爪を舐める。
 喜悦に歪む顔も仕草もおぞましく感じた。

●魔戦開始 
「マリィヴェール殿・・・まだかや?」
 ・・・と、彼女を包む虚空に、ふと、鬼火が灯った。 白い面が闇から生まれ、女の形をなす。滑らかな肌を有する腕には、知った男が掴まれていた。
「レイベルさぁ〜〜〜ん!」
 情けなくも亀甲縛りという格好に縛られた三下が女に掴まれ泣き喚いていた。
「あ・・・三下・・・!!」
「助けてぇ・・・」
「ほう、そなた。こやつの知り合いかの?」
 女はニッコリと微笑む。
「三下を離さないか!」
「嫌じゃ」
「何!」
「こやつは我の玩具じゃからのvv」
 優雅な仕草で手を口に当て、笑う。
「お前は場所も考えずに、余計なことを喋ってッ!・・・お遊びはこの不死者(おんな)を抹消してからにしなさいよ!!」
 ほほっと笑った女にマリィヴェールは怒鳴った。
「おや、そうかえ?」
「馬鹿ね!そんなお粗末な男の身体なんて後よ、後ッ!」
「仕方なし・・・マリィヴェール殿がそういうのなら・・・・・・まずは、こやつから始末じゃ!!」
 振り返った女は誰も居ぬはずの空間に向かって、三下を投げた。まるで果物を放るような仕草にレイベルは驚愕する。いかな上背の無い三下の身体でも、60キロ以上はあるはずだ。それを造作も無く投げ捨てる女の腕力は普通ではない。
 投げられた三下は何かに弾かれたように反対側の壁に叩きつけられ、床に転がった。あまりの激痛のせいか、三下は声も上げずに身悶える。
 投げた先には一人の男が立っていた。雪ノ下・正風である。
「てンめェ〜〜〜ッ!俺から逃げようたって甘いンだよッ!!」
「おや、野蛮じゃのう・・・」
 気迫を込めた恫喝にたじろぎもせず、女は云った。
「我の名は『夜喰い人』の亜夜霞(あやか)じゃ・・・墓まで持って行くがいい」
 そう言い、亜夜霞は襟を開く。はだけた胸は真中がぱっくりと開き、底知れぬ闇が息づいていた。
「お・・・お前!」
 雪ノ下はうめいた。ふいに、この妖怪の知識が閃く。亜夜霞の繰り出す攻撃をかわしながら、雪ノ下は記憶を辿る。闇を切り裂く黎明の星のように、意識下の情報が導かれた。
「こ・・・これはッ!」
 思わず雪ノ下は目を見開いた。
 脳裏に自分が『知らない』はずの知識が呼び起こされた。灯りの下、古書を紐解く母親の姿がフラッシュバックしてゆく。
―― 母さん?・・・・・・
 血に宿る母親の記憶が霊感となって蘇る。雪ノ下の身体が記憶に反応したかのように動き、亜夜霞の背後に回り込んだ。
 その次にどうしたらいいのか、雪ノ下には分かっていた。
「フッ・・・無駄じゃ」
「はたしてそうかな?」
 渾身の気迫を右手に託し、亜夜霞の背に叩き込む。この記憶が本物なら『夜喰い人』の急所は右胸の真裏・・・
「グッ・・・ウウウガァァァッ!!」
 亜夜霞の喉から苦悶の叫びが迸った。裂けた胸の暗闇は徐々に亜夜霞を飲み込んでいく。闇がじゅるりと音を立て、顎に掛ける様は、さながら獲物を飲み込む獣のようであった。
「ふう・・・任務完了」
 雪ノ下は肩をすくめると、コキコキと鳴らした。
「役立たずが・・・」
 マリィヴェールは口汚くのししった。
「次はあんただよ」
 雪ノ下は少女に向かって笑いかけた。いくら外見が幼くても容赦なぞするつもりはない。
「待て、雪ノ下。私が・・・倒す・・・下がっていてくれ・・・」
 レイベルは起き上がって云った。
「大丈夫か?」
「足元ふらふらじゃないのよ・・・大丈夫ぅ?」
 マリィヴェールは揶揄すると、けたたましく哄笑する。それを無視し、レイベルは向き直った。
「勝算が無くては、もともと依頼など受けはしない」
「ただ単に、お前は身の程を知らないだけよ」
「折角、滅多に逢えない不死者同士がこうして逢いまみえたというのに・・・残念だ」
「私はどうでもいいわ・・・さぁ、行くわよッ!」
 マリィヴェールは云いざま、長い爪で空を裂いた。切り裂かれた空間は一万分の一ミクロンという次元の隙間に歪みを作る。それらが刃となってレイベルに襲い掛かった。
「クッ・・・」
「だから云ったじゃないの・・・」
 マリィヴェールは満足そうに微笑むと、レイベルの血が滴った爪を舐めた。嚥下する白い喉が卑猥に動く。
 その光景を眺めやると、レイベルはマリィヴェールに向かって意味ありげに笑った。
 その意味が知れず、マリィヴェールがいぶかしんだが、その瞬間、猛獣の如き苦悶の咆哮を放った。花漬けの腕を入れた瓶が手から滑り落ち、床の上で砕け散った。
「う・・・があああああぁぁぁぁぁッ!!」
 髪を振り乱し、マリィヴェールはのけぞった。
「引っかかったな・・・」
「くッ・・・な・・・何を・・・」
「私の身体は特別なんだ・・・法王庁認定奇跡112Dの『復活』の噂ぐらいはご存知だろう・・・『聖母の衣を偽る蝿の女公爵』(ダッチェス・マリィヴェール・ベルゼビュート=ハーヴェント)嬢?」
「・・・お前があの『復活』を受けた者だったのッ!」
「ご名答だ・・・マリィヴェール嬢。しかし、わかったからと云って、あなたの苦痛が永遠に消えるというものでもない。存在全てが『悪魔』と成り果てたあなたにとって、私の『奇跡』(血)の味は苦しかろう」
「お・・・おのれぇ!」
「まっやく・・・復讐に燃える人間ほど恐ろしいものはないな・・・」
 ひとりごちるとレイベルは詠唱を始めた。

―― 地に満ちよ 赤き光 破魔の王。古えの竜(サタン)を倒せし力 宵の明星ミカエルよ 我に力を与えたまえ。

 眩しい光が発現し、視神経を焼くような閃光が眼前で破裂した。マリィヴェールは光の奔流から逃れようと身悶えたが、身体は思うように動かない。神の力の具現に悪魔如きが敵うはずも無かった。
「蝿の女公爵 マリィヴェール・ベルゼビュート=ハーヴェントよ。聖霊の御名において我が命ずる。そなたの領土 氷獄に還るがいい!!」
「お・・・おのれッ!!」
「目障りだ・・・地獄の外科医!あなたは自分を治療すべきだ」
 やれやれと云った風にレイベルは肩をすくめて見せた。
 閃光の中に蝿の女公爵の姿は掻き消え、悪魔の咆哮は遍く響き渡る神の軍勢のラッパに打ち消された。
 割れた瓶と薔薇の花弁だけが事件の名残を物語っていた。

●回廊の果て
「さすが・・・ですね・・・」
 先程から圧倒され、固唾を飲んで見つめていた雪ノ下が口火を切った。
「あぁ・・・さすがに今回は頭にきたからな。出来れば十倍、最低のところで手を打っても倍返しにはしたいと思っていた」
 憮然としてレイベルは応えた。退けても、尚、釈然としていないようだ。氷獄に還すより、この手で抹殺したいとすら思ったのだろうか。雪ノ下にはわからないが、自分だったらそうしただろう。
 ともあれ、夜喰い人の亜夜霞を倒せたのはラッキーだった。
「ゲームだったら『雪ノ下は経験値を得た。レベルが10上がった!』ってトコなんだろうなぁ〜」
 やれ・・・と云って、雪ノ下は背伸びをした。気分爽快とは云いがたい疲労感が身体の芯に残った。疲れはその日のうちに除くに限る。雪ノ下は報告書と連載小説の原稿をさっさと書いてしまいたかった。
「じゃぁ・・・さっさと帰ろうvv」
「そうしよう・・・私も今日はさすがに疲れた・・・」
 小さな溜息を吐いて、レイベルは云った。無尽蔵の生命力を持つ彼女にしては珍しい。余程、あの女公爵との対戦が堪えたらしかった。
「さぁ〜て、打ち上げでもしようぜぇ♪」
 雪ノ下が両腕を振って陽気に言った。そうと決まったら、こんなところには居られない。帰れると思うと雪ノ下は嬉しくて仕方がなかった。
 レイベルも彼の意見に賛成だった。早く風呂と寝床に入りたい。それだけが唯一の楽しみだった。打ち上げというのもいいアイディアだ。
 現場に背を向け、二人は歩き出す。脳裏に浮かぶ赤提灯が二人の心を鷲掴みにし、惹きつけていた。
 ・・・と、既に『お帰りモード』に突入していた二人を引き止める声がした。

『れ・・・レイベルさぁ〜〜〜ん・・・』
「ん?・・・雪ノ下・・・何か言ったか?」
「いいえ・・・幻聴ですか?疲れすぎですね、早く帰りましょう」
「全くだ・・・こんなに疲れたのは久しぶりだな」
『まってぇ〜〜〜〜〜』
 哀れな声が細々と聞こえた。
「おかしいな・・・また声がするぞ」
「気のせいッスよ、気・の・せ・い♪」
「そうか・・・では、帰るとしよう・・・」
『ここですぅ〜〜〜(泣)!』
 声のするほうに顔を向けると、二人はアッと声を上げた。そこには無残な姿の三下が蹲っている。
「手当てはしてくれるって・・・・・・最初にレイベルさんはいってたのにィッ!」
 泣きはらした三下の小さな赤い目が二人を睨んでいる。
「あ・・・三下?」
「嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つきィ!!」
 とうとう堪えきれなくなったのか、三下は「うわぁーっ!」とも「うえぇーん!」ともつかぬ大声で泣き、二人をなじった。

 さっさと帰る計画も、三下に出鼻を挫かれた。その哀れな姿に二人は失笑し、怒る気にもなれなかった。
 いじけて泣く三下を抱え起こすと、三人は出口に向かった。

 END 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0391 / 雪ノ下・正風 / 男  / 22歳 / オカルト作家

0606   / レイベル・ラブ /女 / 395歳 /  ストリートドクター

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■         ライター通信          ■
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   <エピローグ;明日に向かってさよなら>

「嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つきィ!!」
「もういいだろうに・・・」
 三下のいじけぶりにレイベルは呆れていった。
「ヒィック・・・なんれ・・・僕だけ・・・」
 少量の酒で酔った三下はろれつ廻わらない声でいう。
「わかったわかった・・・三下さんは不幸だねぇ〜」
 三下の言葉を接いで雪ノ下は云った。おまけに酒も注いでやる。
 ビービー泣く三下の手当てを終わらせ、三人はガード下にある『健ちゃん♪』という名のおでん屋で飲んでいた。
「もっとォ〜、待遇良くってもォ・・・イイとと思いませんかぁ〜〜〜!」
 両手を振り上げ、周囲の人が振り返るような声で三下は云った。・・・というより絶叫していた。
「うわっ・・・ちょ、ちょっと三下さん!」
 雪ノ下がわたわたと辺りを見回す。明らかに気を悪くした他の客たちに向かって、「すんません!すんません!」と頭を下げた。
「怯える三下。泣き喚く三下。不幸な三下・・・だが、連れて行ったのは笑ったりする為ではなかったのだぞ?」
「僕って、僕ってッ!!」
 うわぁ〜ん!と三下は泣き出す。雪ノ下は周囲の空気は一気に悪くなったような気がした。
「仕事でお化けに追われ、家に帰ってもお化けに追われ・・・・・・今日なんか『亀甲縛り』された挙句、怪我までしてッ!もう、もう・・・」
「もう・・・何ですか、三下さん」
 うんざりとした顔で雪ノ下はいった。
「オムコに行けないッ!!」
「あっそう・・・」
 気の無い声で雪ノ下は答えた。

 混迷する三下の明日は何処にあるのか。
 願っても叶わぬ三下の平和はこの地上には無さそうだった。

 END

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【雪ノ下・正風 様へ】

 はじめましてこんにちは、朧月幻尉です。
 今回お送りいたしました<花葬無限回廊>をお楽しみいただけましたでしょうか?
 面白かったと云っていただけるようにと、日々精進を重ねさせていただいております。もし、そのような作品であると思っていただけましたら、感無量で御座います♪
 そして、更に成果となって現れて来るよう、今後とも頑張ります。

 さて、雪ノ下さんは私と御同業のようで、わたくしはドキドキしながら書いていました。
 三下さんの原稿を覗いたシーンには、編集部での『みそっかす三下さん』を描いてみましたが、どうでしたでしょうか。
 かなりコッテリめの話となりましたが、マリィヴェールちゃんの再登場になりそうな気配がしますね・・・(汗)

 なお、ご感想、ご意見、苦情等お待ちしております。ご容赦なく送ってくださいませvv長々とお付き合いくださり、誠にありがとうございました。

P・S・・・ 赤提灯グダマキ三下さん話はおまけでございます(^^)ノ~~