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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・電脳都市>


失楽園の誘惑・調査編

◆楽園の疑惑
影は再び忍び寄る。
美しく明るい顔と、念入りに計画された裏の顔を持つEDEN。
その二つを分けるのは何なのだろうか・・・?

「最近のEDEN警察の横暴ぶりは目に余るものがある。管理者として一言申し上げたい。」
キルカはEDEN内自治担当官を前に声を荒げていた。
ここは、電脳都市EDENの統括管理研究施設<エデン・コントロール>内にある治安部。
俗に『EDEN警察』と呼ばれるEDEN治安警備センター<Heven's Knight>の統括本部だ。
キルカの目の前にいる男こそが、その全権を握ると言っても過言ではない治安部部長・阿久津 京介だった。
「EDEN開発の中枢を担う、キルカ博士がわざわざそんなことを言いにいらっしゃったのか?」
阿久津は煙草に火をつけながら言った。
「我々は、EDEN内で必要だと思われる行動をとっているだけだ。」
「必要?」
キルカが皮肉げに眉をつりあげる。
「先日のNPCの無断確保の件は、俺も報告を受けている。NPCの管轄は俺のところのはずだ。これが越権でなくて何と言うつもりだ?」
「NPCはNPCでも違法NPCだったと報告を受けている。違法アクセス者や許可の出ていないオブジェクトやNPCは我々のデリート対象だ。」
「あれは違法NPCではない。我々が実験体として登録している。」
「それは、あの事件の後から・・・でしょう?」
阿久津はにやりと笑って、煙草の煙を吐き出した。
年の頃は40前くらいだろうか、その精悍な風貌は、やり手で名を轟かせているのもうなずかせる。
「とにかく、勝手に事を起こさないでもらいたい。EDENの総括はこっちの範疇だと言うことを忘れないでくれ!」
キルカはそう言うと怒りに震えながら部屋を後にする。
その後姿を見送って、阿久津は煙草を灰皿で潰し消すと、インターホンのスイッチを押した。
「『レディ』を私の部屋まで遣してくれ。」
レディと言う名の人物は過去に一度だけ記録に登場する。
EDEN内をパニックに陥れようとしたテロリストグループの一人の名だ。
何故、治安部のトップがその名を口にするのか?


「店長、ちょっといいっすか?」
珍しく神妙な顔で篠原が高村に声をかけてきた。
「なんだ?給料の前借とゲーム買うからって早退は許さんぞ。」
高村は手にしたスポーツ新聞から顔もあげずに言った。
篠原は露骨に嫌な顔をすると、反論した。
「そんな店長みたいなことは言いません。この間の仕込みのときに、また下らないパーツ買ってたのも見逃してるじゃないですか。」
「うっ・・・いや、あれは今度店に出そうと思ってだな・・・」
高村は慌てて座り治り、篠原の鋭い目線にぺこぺこと頭を下げながら言った。
しかし、篠原はふっと笑って一蹴した。
「まあ、言い訳はいいです。それより、ちょっと気になる話を聞いたんですよ。」
「気になる話?」
「ええ・・・EDENの事といっても、電脳都市の方じゃなくて、研究施設の方の話なんですけどね。最近、どうも不穏な動きがあるようで・・・」
「不穏な動き?」
真顔で話す篠原に、高村も真顔になる。
色々とガセも仕入れてくる篠原だったが、こう言うときは案外当たっていることが多い。
噂屋・・・というか、情報屋としても高村が篠原を信頼している所以だ。
「内部分裂が進んでるらしいんですよ。それで、どうも研究室・・・キルカのいる部署の失脚を狙って何か動きが出てくるようで・・・」
キルカは上得意である以前に、この二人にとって大切な友人だ。
そのキルカが内部分裂の諍いに巻き込まれているというのだ。
「失脚を狙うようなことってのは・・・?」
「EDEN内で致命的な事件が起これば、研究施設の所為になりますよ。例えば、プログラム上の欠陥から来る事故とか・・・」
「しかし、そんなことは可能なのか?あのプログラムシステムに介入するのは内部の人間でも並大抵な事じゃないぞ?」
「わざわざ、プログラムに介入しなくても、EDEN内で何らかの事故を起こして、それを欠陥だったと調査結果を出すことは、内部の人間なら可能です。」
「欠陥事故のデッチ上げか・・・」
篠原の話を聞いて、高村はしばし考え込む。
「こりゃあ、皆に連絡して、ちょっと様子を見たほうがいいかもしれねぇなぁ・・・」
そう言って、高村は手帳を取り出し電話を始めた。
心当たり数件に電話そすると、EDEN内での探索を頼んだ。

「事故が起こるかもしれねぇ、途方もねえ話だが、ちょっくらEDENの中を見回っちゃくれねぇか?」

◆潜入!楽園の裏側
「内部分裂?」
ジャンク屋<SPAM>の狭い店内に顔を出した、御崎 月斗は出されたジュースを飲みながら眉をひそめた。
「まあ、あそこも慈善事業じゃないからな。利権が絡んだ企業である以上、あっても不思議じゃないといえばないんだが・・・」
高村はレジの中の椅子にそっくり返り、煙草をくわえて言う。
口にくわえた煙草に火はつけない。考え事をする時の癖なのかもしれない。
「EDEN自体は数社の企業の複合事業だったはずだが、研究施設は確か筑波の大学と海外の大学、それとメインスポンサーの企業の共同事業じゃなかったかな?」
大塚 忍は企業の広報から発表されている情報をプリントアウトした物を眺めながら言った。
月斗と大塚は、篠原からの連絡を受けて、<SPAM>へとやってきたのだ。
他にも宮小路が情報集めに動いているらしい。
「そんなに内部紛争が起こるような状態じゃないと思うんだけどなぁ・・・」
資料で提出されている物を見る限りでは、派閥争いなどが生まれるような状態ではないようだ。
「でも、人間的な対立って言うのは考えられないか?キルカと何処かの研究者が、大学の教授籍を争ってるとか?」
月斗が疑問を口にする。
この疑問は紛争が起こるとしたら一番ありえる理由だった。
大学内での派閥争いは、企業内部より生々しく激しい場合がある。
「原因は色々考えられそうだな。」
高村はそう言って、火のついていない煙草を灰皿に押し付けた。
「とりあえず、どうしてこんな事になっちまったのかってことの調査と、人為的に起こされる可能性のある事故の防止だ。俺のほうでも心当たりは当たっちゃみるが・・・二人とも気をつけてくれよな。」
二人・・・月斗と大塚は高村の言葉にうなずく。
「とりあえず、俺は現実世界の施設の方を調査してみるよ。俺には式があるから、実際に入り込まなくても様子は見れるからな。」
月斗はそう言うと懐をぽんと叩いた。
人間に対するセキュリティは万全でも、法術に対するセキュリティなど心がけている企業などほとんどない。前に研究施設へ行った時に、術に対して無防備なのは確認済みだった。
「俺も、心当たりに当たってみる。EDENの裏の顔にも多少心当たりがあるから・・・」
大塚は立ち上がって言った。
こう言うときこそ、ルポライターとしての腕の見せ所。アンダーグラウンドな情報の入手方法は幾らでもある。
「じゃあ、また、後で。何かわかったらすぐに報告してくれ。」
高村の声に見送られて、月斗と大塚は<SPAM>を出た。

こうして二人は、EDENに関わる陰謀に、一歩踏み込んだのであった。

◆日のあたる地下街
<SPAM>を出た後に、とある人物との面会の約束を取り付けた大塚は、施設近くのドーナツ屋「ミセス・ドーナッツ」のカウンターにいた。
明るい店内には昼休みの時刻は過ぎているのに、サラリーマンらしき人影も見られる。
大塚はカウンターに座って、店内を眺めながらコーヒーを口にした。
「あのぉ、あなたが大塚さんですかぁ?」
「あ、そうだけど・・・」
しばらくして店内に姿を現した少女に、大塚は声をかけられた。
歳は12〜3歳くらい。あどけない顔の少女は、少しのんびりした感じで一枚の名刺を差し出した。
「あたしぃ、『デルタ』ですぅ。」
少女の差し出した名刺には、可愛い花柄の中心に「デルタ」と書かれている。
「き、キミがデルタ?」
デルタは、大塚が情報収集に時折訪れているアングラサイトで活動しているクラッカーだった。
EDENへのハッキングも機材があれば不可能ではないと豪語するデルタは、実際に幾つも事件を起こしている問題人物でもあった。
企業サーバーへの違法侵入やWEBサイトの書き換え、データの引き抜きや破壊、デルタは自分の能力を誇示するために、あらゆるネットワーク犯罪をこなし、またそれを自慢に報告していた。
裏の世界の住人だからこそ、裏の情報を知っている。
そう考えた大塚は、知人のツテをたどって、絶対にデルタ自身の情報を公開しないことを条件に面会へとこぎつけたのだが・・・こんな少女とは夢にも思わなかった。
デルタは大塚の隣に座ると、アイスココアにクリームたっぷりのドーナツを頬張っている。
「驚いたな・・・」
大塚は正直にデルタが少女であったことへの驚きを口にした。
デルタはふふふと笑うと、にっこり笑って言った。
「大塚さんのお友達の「イズミちゃん」と一緒ですよぅ。ネット上での性別なんで信じる方がダメですぅ。」
「イズミちゃんって・・・知ってるのか?」
「大塚さんのことは何でも知ってますよぅ。次の締め切りが何日なのかとかぁ、原稿料が振り込まれる口座の番号も知ってますぅ。」
ニコニコ笑いながら、まるで今日学校であったことを話すようにデルタは言った。
「だからぁ、私のことを他の人に話したら、大塚さんの情報使ってワルイコトいっぱいしちゃういますよぅ。」
大塚はその言葉にゾッとする。
デルタの言葉はただの脅しではない。
口座番号まで知られていれば、それ以外の個人情報も筒抜けなのだろう。
戸籍の書き換え、勝手な融資の申請、編集部への連絡、警察の手配リストに勝手な罪状をでっち上げて記載することもできる。
デジタルデータを利用している限り、デルタに改竄できないデータなどないのだ。
「大丈夫。それは絶対口外しないよ。今日は取材とかじゃなくて、個人的に聞きたい話があったんだ。」
大塚がそう言うと、デルタはちらっと大塚を見る。
「お話ですかぁ?」
「ああ、EDENのことをちょっと聞かせてもらいたくて。」
EDEN、そう口にした途端、ニコニコしていた少女の顔が真顔に戻る。
「大塚さん、EDENに関係してるんですか?」
なにやら口調まで静かなものになった。
こうなると、クラッカー・デルタと印象が重なる。
「ちょっと訳ありでEDENの内部調査をしているんだ。キミは前にEDENへの侵入は可能だといっていたけれど、誰にでもできるようなことじゃないよね?」
「当たり前でしょう。そう簡単にできることじゃないわ。ハッキングの腕も必要だけど、まず機材がないのよ。」
デルタはそう言うと、コップを置いた。
「アクセスターミナルには特殊なチップが使用されていて、そのチップは完全に門外不出の品。どんなジャンクショップにも出回らない。過去に、アクセスターミナルを盗み出してチップを取り出した奴がいたけど、解析することはできなかったわ。アレを解析してコピーするには、物凄い施設が必要なの。」
「じゃあ、そのチップがない限り、違法侵入は無理だってこと?」
「無理ね。そして、そのチップを入手するのも外部の人間には無理。」
「内部の人間には可能なのか?」
「可能だけけど、それも相当上部の人間だけよ。あのチップ自体にはチップから切り離せないようにセンサーが組み込まれていて、それ単体で持ち出されてもEDENシステムに位置情報を報告してしまうの。だから、本当に開発の上部にいる人間か、それを持ち出す権限を持つ者だけね。」
「その人物に心当たりはないか?」
デルタは大塚の目を見つめたまましばらく黙っていたが、不意に目を反らすと言った。
「仲間を売れって言うの?」
「仲間なのか・・・?」
大塚は言葉を詰まらせる。
その人物がデルタの仲間であった場合、彼女はその情報を漏らさないだろう。
手がかりの途絶えることを思うと、大塚は困惑した。
仲間の情報であっても、デルタから無理やり聞き出すべきかどうか・・・?
しかし、その問題はあっけなく解決した。
「嘘よ。」
「え?」
「仲間なんかじゃないわ。あたしはこう見えても一匹狼なの。」
そう言いながら、デルタは手帳の間からカードを取り出すと大塚に渡した。
「研究開発室研究員・・・坂口 裕悟?」
「そいつね、お金の使い込みしてるのよ。エデン・コントロールの中で弱みがあるのはそいつくらい。」
「でも、使い込みだろう?」
「ばっかねぇ、そいつをそのことで脅せばチップくらい持ち出すわよ。だって、そいつセキュリティ部門の主任なんだもん。」
「あ・・・」
大塚もやっと事情を飲み込んだ。
この男をあたれば、次の手がかりが見つかるかもしれない。
「ありがとう、助かったよ。」
大塚はデルタに礼を言うと店を飛び出していった。
デルタはその姿を見送りながら、ボソリと呟いた。
「あんなにカッコいい人なのに女なんだから、現実世界って残酷だわぁ。」
そう言うと、デルタはダスターにゴミを突っ込み、店を後にしたのだった。

◆疑惑
大塚がとりあえず報告のために<SPAM>へ立ち寄ると、宮小路とキルカが来ていた。
「何か、動きがあったのか?」
大塚が二人に問うと、二人は苦笑いして首を振った。
宮小路は今までのことと次第を大塚に聞かせた。
「そうか・・・俺のほうは、ちょっと気になる人物があがったんだ。」
そう言うと、大塚はもらった名刺を見せた。
「坂口・・・センターの研究員?」
キルカはそのカードを見てすぐに誰か思い当たる。
「俺のセクションじゃないが、大学の研究室から紹介で来たプログラマーだ。」
「実は広報に聞いたらそうだって言うんで、紹介状を書いた大学の方へ問い合わせたんだ。そうしたら、そんな紹介をした事実はないって・・・」
「紹介状の偽造・・・ですか?」
宮小路は渋い顔をして名刺を見つめる。
「その上、こいつ、経理の方をいじってどうも使い込んでるらしいんだ。」
「監査は何をやってるんだ・・・」
キルカも苦々しい顔で言った。
「だから、今回もし動くとしたらコイツ絡みになると思うんだ。」
「なるほど・・・」
大塚の言葉にキルカもうなずく。
「すぐに手配を・・・」
そう言って、携帯を手にした時。
御崎 月斗が戻ってきた。

「ちょうど良かった。キミの方はどうだった?」
大塚がたずねると月斗は苦い顔で、施設の中で出会ったダークネスと言う男の話をした。
「ダークネス?」
その話を聞いて驚いたのはキルカだった。
「ダークネスが何故センターに・・・?」
「知ってるのか?」
大塚は珍しく動揺しているキルカにたずねた。
「三人は前にEDENの中でハッカーに会っているよな?」
「ええ。犯行予告があってそれを阻止するために警備にあたった時に・・・確か、ライトという男でした。」
宮小路がそう言うと、大塚と月斗も思い出した。
「あの時のレポートで、ハッカーは三人いたのが確認されている。レディと呼ばれる女と白づくめの男・ライト、それに黒づくめの男・ダークネスの三人だ。」
「なんだって?」
「どうして、ハッカーなんかが施設の中に・・・?」
月斗と大塚の驚きの声に、キルカも首を振る。
「わからない・・・ただ、ハッカーはまるっきり外部の人間ではないということだ・・・」
「腐ったリンゴか・・・」
だんだん姿を現し始めた何か。
大塚が苦々しく呟くのを、キルカの声が遮った。
「坂口が事故で・・・死亡したそうだ。」
「!?」
「EDEN内での調整作業中、不慮の事故で・・・」
キルカは施設から伝えられたままを口にしたが、そんなことはキルカ自身も聞いている3人も信じてはいない。
「口封じ・・・」
呟いた宮小路の言葉に3人はうなずいた。
「どう考えても、そんなところだろう。」
皆がそれぞれに動いていることは、姿の見えぬ向こう側へも伝わっている。
そこでとりあえず、すぐにも足のつきそうな坂口と言う手がかりを消したのだ。
「なんて連中なんだ・・・そこまでするのかっ!」
たかだか派閥争いに・・・はき捨てるように言った大塚に、宮小路がやんわりと言った。
「ただの派閥争いではないかもしれません。これはもっと大きなことが裏に絡んでいると思います・・・」
キルカもその言葉にうなずく。
「俺一人だけの問題でもない。多分、EDENという存在に関わることが・・・動き始めているんだ。」

EDENという存在を狙う陰の動きは、まだ動き出したばかりなのか?
それとも深く根付き、すでにその台地を覆っているのか?

しかし、楽園を堕とさんとする魔の手の存在は、確実にそこにあるのだと感じられるのだった。

The end ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0778 / 御崎・月斗 / 男 / 12 / 陰陽師
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回は依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
電脳都市EDENに広がる疑惑の影についての情報を集めた「調査編」をお届けいたします。
現実世界とEDENの中のそれぞれで、情報となる事件が起こっております。
細かいパーツですが、つなぎ合わせて次の情報へと繋げてみてください。

大塚さんは現実世界で情報を入手してます。アングラ方面から攻めたのは結構よかったかもしれないですね。敵側?の綻びを捕らえているかもしれません。今回坂口は事故で死亡していますが・・・まだ何か残っている可能性もあります。どう転ぶかはわからないですけど、頑張ってみてください!

では、またお会いしましょう。
お疲れ様でした。