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雪に咲く花・前編
◆雪に咲く花
「ねぇ、雫ちゃん。雪で出来た花って知ってる？」
お昼休み。
瀬名 雫が教室でぼんやりと携帯で掲示板のレスチェックをしていると、クラスメートの一人・朱鷺 雅が声をかけてきた。
「雪で出来た花？札幌の雪祭りみたいなヤツ？」
「あのね、ひろーい雪原の真ん中に、雪が降った後に現れるんだって。前の日には何もなかった場所に、雪で出来た花が咲くの。」
雅は雫の机の上に出しっぱなしのノートに絵を書いて説明する。
何もない雪原に、ガーベラのような花がぽつんと咲いている絵だ。
「誰かが夜中に雪原に花をさしてるんじゃないの？」
「違う〜っ！足跡がある日は咲かないの。足跡がないまっさらな雪原にしか咲かないの！」
少しおっとりした雅は、駄々をこねるように言った。
「もう、雫ちゃん、夢なさ過ぎ！乙女失格！」
「がーんっ！そこまで言う？」
乙女失格発言に、微妙なお年頃の雫はビシッと指を立てて言い返した。
「じゃあ、それが本当かどうか「雪で出来た花」を見に行こうよ！雅ちゃんが嘘ついてなかったら、今度、ドーナツ奢る。」
「ドーナツじゃイヤ〜。スペシャルイチゴパフェがいい〜。」
ちゃっかりとランクアップを要求する雅に、雫は一瞬言葉を詰まらせるが、ぐっと拳を握り締めて笑った。
「いいよっ！私も雫の不思議探偵団を連れてくもんね。雅ちゃんが負けた時もスペシャルパフェだよ！」
「いいよ〜。絶対嘘じゃないもん。」
雅はニコニコ笑いながら言った。
「じゃあ、行く人が決まったら言ってね。お父様に別荘にお泊まりに行くって言うから。」
別荘･･･と聞いて雫は眉をひそめる。
「別荘って、場所どこなの？」
「んーとね、富良野って言ってたから北海道かな？」
「北海道！？」
「あ、でも飛行機はお父様が用意してくれると思うよ。お友達と遊びに行くって言ったら良いよって言うと思う。」
雫はここまで話していて思い出した。
雅の父親は相当な資産家で、その上、娘に激甘で有名なのだった。
前に学園祭で娘がステージに立った時は、有名な写真家を雇ってロケハンを組んで撮影に来た程なのだ。
しかし、ここまで来て雫も引き返せない。
それに北海道旅行はすごく魅力的だ。
「わかった。じゃあ、メンバー決まったら言うね。絶対、雅ちゃんの嘘を暴いて見せるわっ！」
雫はそう言うと、早速、携帯で掲示板に不思議探偵団の団員を募集の書き込みをしたのであった。
◆７人の･･･。
「思ったんだけど、これから北海道行って雪って降ってるの？」
誰もが思っていても、何となく口に出せなかったことを結城 凛は躊躇いもなく口にした。
窓の外には北海道の原野。ひろく草地が広がっているが、芽吹き始めた緑こそ見えど、雪の白さは･･･微塵もない。
「ええ〜っ！雪がなくっちゃ雪の花みれないよ〜っ！」
「これはスペシャルパフェ決定かもね〜！」
ワゴン車の後部座席に座った海原 みあおと雫の２人がそれぞれ声をあげる。
「あ、でも、ついこの間、４月末なのに雪が降ったって言ってたぞ。」
運転席でハンドルを握っている大塚 忍がフォローする。
「それは･･･稚内のお話･･･ですよね？」
しかし、助手席の大矢野 さやかがさりげなく突っ込んだ。
「別荘には人工降雪装置があるから、それで雪を降らせれば大丈夫でしょ♪」
今回のツアーのスポンサー兼発案者の雅がおっとりと言った。
「それはなんか違う〜っ！雅ちゃん、乙女失格！」
雫の突っ込みに、車内の一同がうなづいた。
雫の呼びかけに答えたのは４人。
それに雫と雅の２人が加わって総勢６人の「不思議探偵団」の筈だったのだが･･･。
「なんだろう･･･」
すれ違ってゆく車を見ながら、大塚が呟いた。
「どうしました？」
大矢野がそれに気がつき訊ねる。
「いや、なんか、すれ違う車の人たちがすごい顔してこっち見てるような気がするんだけどさ･･･」
「あら･･･本当ですね･･･なにかしら？」
「賑やかだからってワケでもないだろうけど･･･気のせいかな。」
大塚はそんなことを言いながら苦笑して、再び前を向き直った。
この時、第７の参加者ががっちりと皆の乗った車にくっついていることに、誰も気がついてはいなかったのだ。
「ねぇママ･･･あれなぁに？」
「シィッ！だめ、みちゃダメよ！」
そんな会話をして、女の子が母親に手をひかれて引き離されてゆく。
その光景の向うには、不思議探偵団の車。
大きめのワゴン車のその天井には･･･七色に光る羽とフリフリふわふわのバレーのチュチュのような衣装を身に纏った妖精さんが張り付いていた。
それは相当必死な様子で、しがみついたその腕には力瘤が浮いている。
「ヌハハハハッ！雪国といえば雪の妖精！可憐な雪の妖精は、軽やかにキミたちと共にあるのだっ！！」
何故か頭にはスキーのゴーグルをつけた自称雪の妖精こと海塚 要は、高らかにそう笑うと風圧に飛ばされそうになるのを必死に堪えて天井にしがみついた。
こうして第７の参加者を天井に乗せたまま、不思議探偵団一行は雅の父親が所有する富良野の別荘へと向うのだった。
◆呼ばれて飛び出て！
「うっわ〜･･･」
別荘に到着し車から降りると、一同は別荘を眺めて言葉を失った。
「これって、別荘って言うレベルなの？」
思わず呟く雫の言葉に、うんうんと他の皆もうなずく。
「いらっしゃいませ、お嬢様。お友達の皆さん。お部屋の準備が出来ておりますから、どうぞ中へお入りください。」
別荘の中から出てきた正装の男性が、丁寧に皆に頭を下げる。
目の前に聳え立つ建物は、別荘などと言うレベルではなかった。
リゾートホテル。それも高級な。
広いエントランスに入ると、ロビーの片隅ではピアノの生演奏が流れていて、足元の絨毯は今まで誰も踏んだことがないのではないかと思うくらいフカフカのピカピカだ。
「お荷物はお車にあるだけで全てですか？」
呆気にとられていると、更に何人かの人が集まってきて、車の中の荷物を運び出す。
「あ、そうです。すみません。」
大矢野と結城が慌てて手伝おうとすると、お任せくださいとやんわりと断られてしまった。
その物腰の柔らかさも半端なホテルのものではない。
それこそ、ＴＶの高級リゾート特集の番組とかで紹介されてしまうような･･･そんな感じだった。
「では、お荷物は皆さんのお部屋の方へ･･･」
「むきゅう。」
運びますねと言う前に、男性が大きなトランクを抱えると変な音がした。
「何の音？」
大矢野も結城もわけがわからずあたりを見回す。
運転に疲れ果てた大塚が、目を座らせてブツブツ言いながら写真を撮りまくっているる以外に人影はない。
他のメンバーはもうロビーの中へ入ってしまったようだ。
「おかしいですね･･･」
そう言って、もう一度トランクを抱えあげる。
「むきゅ〜･･･」
「！！」
どうやら怪しげな音？はそのトランクの中から聞こえる。
大矢野は慌ててそのトランクを開ける。思えば、それは自分のトランクだったのだが･･･今回の旅行にもってきた記憶がないものだった。
ロックを外すと、トランクは始めるように勢い良く開いた。
中からなんと女の子が飛び出してきたのだ。
女の子は奇術の密室大脱出ではないが、トランクから飛び出すと華麗にポーズを決めた。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜････ふにゃ〜」
「きゃーっ！八重ちゃん！」
へなへなとしゃがみ込んでしまった女の子を、大矢野が慌てて抱き上げる。
「知ってる子？」
結城がいきなり出てきた女の子と大矢野を交互に見つめながら言った。
「はい。八重ちゃんって言って･･･大切な方の妹さんなんです。」
「それがどうして、トランクから･･･？」
大塚も不思議そうな顔で覗き込む。
「故にーちゃがこっそり付いて行けって言うから、トランクに入ってたんでーす。でも･･･」
露樹 八重はお腹を押さえて力なく言った。
「お腹空いちゃったでーす･･･」
３人は空腹に立ち上がれない八重の姿に、苦笑まじりで微笑む。
「では、何かすぐに食べられるように手配いたしましょう。」
男性も微笑むとそう言って、荷物を持ってロビーの中へと入っていった。
こうして、不思議探偵団は総勢８名となったのだった。
◆作戦会議？
「でも、雪もないのにどうやって雪に咲く花を探すの？」
雫の言葉に、探偵団員たちは言葉を失う。
とりあえず、荷物を各部屋に収め、リビングだという広い部屋に一同は集まった。
そこで、これから「雪に咲く花」探しに取り掛かるための作戦会議を開いたのだが･･･辺りには僅かに残雪が残ってはいたが、ひろい草原を埋めるほどの雪はもうない。
「５月までは降雪機もございますのでスキーなどを楽しむことは出来ますが、雪が降ることはなかなか難しいですね。」
この別荘の管理人だという執事の高村が少し申し訳なさそうに言う。
「そのお花って、雪六花のことじゃないよね？」
用意されたお菓子をつまみながら、海原が言った。
「雪六花？」
聞きなれぬ言葉に雅が首をかしげる。
「うん。あのね、雪の結晶をルーペで見ると６枚の花びらを持つお花みたいに見えるから、昔の人は六花って言ったんだよ。」
「そのお話は聞いたことがあるわ。北海道辺りでは有名なお話よね。お菓子屋さんの名前になっているくらいだから。」
結城の言葉に、皆が同じ店を思い出し、ああ！とうなずく。
言われてみれば、雪の結晶は花に似ている。
「でも、それだとガーベラみたいって言うのはちょっと違うでーす･･･よね？」
お菓子をお腹いっぱい食べて人心地ついた八重も話しに加わる。
「その花はガーベラみたいなお花なのでーすか？雅さん？」
「うん。私が見たのはインターネットでだったんだけど･･･これよ。」
雅はそう言うとプリントアウトされた紙を机に広げた。
そこには「雪に咲く花」と題された雪原にぽつんと咲いている白い花の写真とその花の説明のようなものが書かれている。
「ちょっと待って、その写真！」
何か気が付いたのか、大塚はプリントアウトされた紙を掴むと、まじまじと写真を眺めた。
「この花って･･･本物なのか？」
「え？もしかして合成とか？」
大矢野が真剣な大塚の顔に不安そうに問い返す。
ここまで来てデマだったニセモノだったではあんまりすぎる。
「いや、多分、合成じゃない。でも、この花は普通の花じゃない。」
「どういうこと？」
海原と八重、結城も興味深そうに大塚の言葉を待つ。
「もし、この花がここに存在したとしたら、その大きさは５メートル以上になる･･･」
「５メートル！？」
意外な言葉に一同は目を丸くして驚いた。
「ほらこれと比べるといいよ。」
大塚は自分が持っていたガイドブックの草原を移した写真とその花の写真を並べる。
「このガイドブックの写真に写ってるのは多分同じようなアングルで撮られているんだけど、ここに映ってる観光客と、こっちの花を比べてみなよ。」
雪原の地平線に見える木々の大きさと、ガイドブックの写真の地平線に見える木々の大きさは同じだ。ということは、場所は違えどアングルは同じ。
「このお花って接写ではなく、普通に写したってこと？」
結城も写真を見比べて納得する。
「世界で一番大きいとされている花はラフレシアだけれど･･･それより更に大きいと言うことになるわ。」
「なんだか、乙女って言うより怪奇モノじゃない？雅ちゃん？」
雫も写真を眺めながら、ニヤニヤと笑う。
「それは怪奇少女の雫ちゃんに言われたくなーい！」
「怪奇少女じゃないもん！」
「でも、雫ちゃんのＢＢＳはお化けの話ばっかりじゃない！」
「お化けじゃなくて、ミステリーだもん！」
「はいはい、おねーさんたち大人気ないよ〜。」
海原が大人っぽい表情で止めに入る。
自分たちより年下の海原の仲裁に、雫も雅も「むー」と唸りながらだが、とりあえずその場をおさめた。
「百聞は一見に如かずって言うことだし、やっぱり探しに行ってみるのが一番じゃないかな？」
「そうね。とりあえずお散歩も兼ねて外を見に行って見ましょうか？」
海原の言葉に大矢野も賛成する。
大矢野だけではない。せっかく富良野まで来たのだから･･･と他の皆もそれに同意する。
「じゃあ、雫チームと雅チームで調査開始だね！」
雫はそう言うと紙を広げた。
そこには数本の線が引かれている。
「公平かつ厳選なチーム分けでしょ！」
公平かつ厳選なチーム分けの結果。
雫チームには海原、大塚。
雅チームには大矢野、八重、結城。
と、決まったのだった。
◆神隠しの草原
「五月って言っても、ここはまだ寒いね〜っ！」
海原が着込んだダウンジャケットの衿を合わせて言った。
東京の５月と北海道の５月ではまだまだ季節の差がある。
「この寒さなら、まだ雪が降っても不思議じゃないな。」
大塚もジャケットのポケットに手を入れたまま呟いた。
雪が残る草原を吹きぬける風は、いまだ切り裂くような冷たさを持っている。
「ううう〜、これじゃパフェじゃなくて鍋焼きうどんとかにすればよかった〜っ！」
雫は寒さにたまらず足踏みをしている。
散歩･･･と言って出てきたが、日も沈みかけており、そうみるものはない。
薄暗い残雪の中を３人は背を丸めるようにして歩きつづけた。
「でも、本当に５メートルもある花ってあるのかなぁ？」
雫は残雪が広範囲に残っている場所を見つけると駆け寄って調べたが、花どころか平らな部分すらない。
「雪が降った後に咲くって言うところに何か意味があるんじゃないかな？」
大塚はカメラを構え、ファインダーを覗きながら言った。
写真と同じ場所を探るために、構図を確かめているのだ。
「ねぇ、お兄さん！私の写真も撮って！」
海原が草原の真ん中から大塚に向って叫ぶ。
「学校の皆に富良野行ったって見せるの！」
「いいよ、じゃあ、雫ちゃんも並んで。撮ってあげるよ。」
お兄さん発言に少し苦笑しながら、大塚はカメラを構えた。
ファインダーの中に２人がおさまる。
「じゃあ、撮るよ。チー･･･」
ズ。そういおうとした瞬間、変異は突如起きた。
「！」
いきなり吹いた突風に、雫は足をすくわれた。
「キャ･･･」
バランスを崩し転びそうになった時、咄嗟に隣りに立っていた海原の手を握った。
「雫ちゃ･･･」
自分より背の高い雫だったが、海原もそれを支えようと手をしっかりと握り締める。
そして２人は引き込まれるような落下感と同時に、意識を失ったのであった。
◆花の恋人
「･･･しず･･く･･･」
雫は誰かに体を揺すられて意識を取り戻した。
重たい瞼を無理やり開くとそこには見覚えのある少女が心配そうにこちらを見ていた。
「良かった！雫も無事だった！」
雫が瞳を開けるのを確認すると海原は安堵の溜息をついた。
「ここ･･･は？」
雫はまだぼんやりとする頭を振りながら体を起こした。
痛みはないが･･･ひどくだるい。
「わかんない。みあおも気がついたらここに居たの。」
あたりは青い光で満ちている。
床も壁も一面が氷で出来ていて･･･まるでクレバスの中に落ちてしまったようだ。
「ええ〜っ！富良野の草原に居たよね？私たち･･･」
やっと自分の置かれた場所を掴んだらしい雫が驚きの声をあげる。
草原からいきなり雪のクレバスの中。
あの草原にこんな場所があったとは考えられない。
一体どうしてしまったのか？
『気が付いたね･･･』
「きゃ！」
不意に声がして、海原と雫はお互いしがみつく。
そして、恐る恐る振り返ると、少年を抱きかかえた青年が青い光に照らされて立っていた。
腕に抱かれた少年は気を失っているのか、ぐったりと動かない。
「そ、想司クン！？」
雫はその少年を見るなり、更に驚きの声をあげた。
「知ってるの？」
「うん、お友達の水野 想司クンだよ･･･でも、どうしてここに･･･？」
『この子も知り合いなんだね。』
青年はそう言うと、ゆっくりと想司を下に降ろした。
ここはクレバスのように全てが凍りついているのに、何故か冷たくないのだった。
「ここは何処ですか？貴方は･･･誰？」
雫が、何か知っていそうな青年にたずねた。
「それに･･･どうして想司クンが･･･」
雫の質問に青年は優しく微笑んで返した。
『心配は要らない。危険が去ったら、地上に返してあげるよ。』
「危険？」
海原はまったく何がなんだかわからない。
草原で写真を撮っていたのに、いきなりクレバスの中で、わけのわからない青年の登場と、雫の友達だと言う気絶した少年。
「みあおは何かしちゃいけないことをしちゃった？」
心配そうにたずねる海原の頭を、青年はそっと撫でる。
『君たちは悪くないよ。ボクの恋人が･･･ちょっとヤキモチを焼いているんだ。』
「お兄さんの恋人？」
『うん。怖い思いさせてごめんね。』
青年がそう言ったとき、気を失っていた想司がかすかに声をあげてその瞳を開いた。
「想司くん！」
『気がついたかい？』
想司は瞳を開いてもきょとんとしている。
「･･･大丈夫？」
いつもの弾けた想司を知る雫は、その様子にただならぬものを感じた。
「雫ちゃん･･･」
想司は雫を見てにこっと笑った。
いつもの弾けた笑顔ではない。どこか寂しげな･･･苦しげな･･･そんな微笑だ。
「これを･･･」
そう言って想司が上着の前を開くと、鮮やかな色の花が零れ落ちる。
「お花･･･あげるよ･･･」
「想司くん･･･」
雫はその花と想司を見比べて、どうしていいのかわからず言葉を失う。
そして、想司はにこっと微笑むと再び気を失った。
「なに！？なんなのこれ！？」
雫が半分パニックで想司の体を揺さぶる。
「雫！」
その手を海原がとめる。
『彼も･･･何か伝えたくてこの花を摘んできたのかもしれないね･･･』
青年が想司の周りに散らばった鮮やかな花びらを拾い上げる。
『ボクの恋人も花が大好きだったんだよ。』
「お兄さん･･･」
青年は寂しげな笑みを浮かべると、海原たちに話し始めた。
『ボクの恋人はとても美しい人でね、本当に女王様のようだった。ボクは彼女が大好きで、いつも彼女のために花を届けたんだよ。』
ところが青年の恋人は事故に合い、命は助かったがその美しい容姿を失ってしまった。
『ボクは彼女の顔に傷が残ってもかまわなかった。ボクは彼女に元気になってもらいたくて、彼女の好きだった黄色のガーベラを彼女の病室に届けた。でも、彼女はその花を見て怒った。僕が彼女を馬鹿にしているって･･･。』
恋人は怒り、そして悲しんだ。恋人すら自分を馬鹿にする。そんな世界に絶望した。
『それからすぐに･･･彼女は病院を抜け出して、自殺してしまった。』
青年の心の中ではついさっきの出来事のように、その事実が胸の中で痛む。
『それからの彼女は幸せそうな笑顔が許せなくなってしまったんだ。』
「それで･･･みあおたちを？」
きょとんとしていた顔で聞いていた海原が呟く。
『雪が降れば、彼女の怒りは消えるのだけどね。少し、我慢してもらえるかな？』
青年の言葉に、雫が目を丸くする。
「ちょっと待って！雪って！もう５月だよ！そんなの待ってられないよ！」
次に雪が降るのは何ヶ月先か･･･それに気を失った想司の様子も気になる。
もしどこか怪我があるようならば医者にもつれてゆかなくてはならない。
それに、いきなり居なくなって他のみんなも心配している。
「それは絶対困るよ！」
雫はそう言ったが、このクレバスの中からどうやって脱出するのか･･･？
２人は成す術もなく、途方にくれるのであった。
To be continued...
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1009 ／ 露樹・八重 ／ 女 ／ ９１０ ／ 時計屋主人兼マスコット
0795 ／ 大塚・忍 ／ 女 ／ ２５ ／ 怪奇雑誌のルポライター
0846 ／ 大矢野・さやか ／ 女 ／ １７ ／ 高校生
0884 ／ 結城・凛 ／ 女 ／ ２４ ／ 邪眼使い
1415 ／ 海原・みあお ／ 女 ／ １３ ／ 小学生
0424 ／ 水野・想司 ／ 男 ／ １４ ／ 吸血鬼ハンター
0795 ／ 海塚・要 ／ 男 ／ ９９９ ／ 魔王
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■ ライター通信 ■
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今日は。今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
自己管理の甘さから体調を崩してしまい、お届けが遅くなってしまいました。本当にごめんなさい。大変遅くなってしまいましたが、雪に咲く花の前編をお届けいたします。
今回は調査が主体･･･と言うことでしたが、探偵団は二つに分かれてしまいました。
分かれてしまって連絡が取れないので、情報はここで得たことが全てとなってしまいます。
次回はこの情報を元に、雫たちを探すことになります。
みあおさんは初めましてですね。これからよろしくお願いいたします。
そして、いきなり雫と一緒に本体から引き離されてしまいましたが、いまのところ身の危険は差し迫っては居ないようです。本体とは別に直接「花」に関する情報らしきものを入手しているのもみあおさんと想司くんだけになります。最終的に「雪に咲く花」の正体を探るための鍵になると思います。脱出と謎解き、頑張ってください！
それでは、またお会いしましょう。
遅くなりましたこと、重ねてお詫び申し上げます。
お疲れ様でした。
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