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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


不可解なスイッチ

【オープニング】
2003年、某日。桜の花の散る頃にそれは現れた。
街中に突如現れては消える『不可解なスイッチ』。雑踏の中を生活に追われながら急ぐ人々にはほとんどその存在を認識されていない。しかし、そのスイッチの持つ大きな力に、悩み多き人々がだんだんと吸い寄せられていた。危機が迫っている。よからぬ気持ちでそのスイッチを押せばどんな悲惨な事が起こるかるかわからないのだ。
スイッチの出現場所は日によって変わるが、都内の、人がより多く集まる場所に現れるらしい事がわかっている。スイッチが押される事を未然に防ぎ、その正体を突き止めるのが目的だ。

『色々嫌な事が重なって、ヘコんでたんです。そして気付いたとき、足下に赤いスイッチがありました』
『最近東京近郊でよく耳にしますね〜。スイッチって一体何なんでしょうか?』
『スイッチは人を救う力を持っているらしい』
『願いが叶うらしい』
『何が起こるからないんです』

 東京に住む人の書き込みや日記に最近よく登場するようになった単語『スイッチ』。実際に目にした事がある者も少なくなかったが、彼らはいずれもそのスイッチを押した事がないらしい。存在の意図が不明なモノ。それの発する異質な空気に人々は恐れをなしていた。
しかし、<神秘を神秘として捉らえない者>や<欲に溺れそうな者>がその存在を知ったとしたらどうだろう。今やそれは、邪さの漂う噂として東京都内の、特にネット上に蔓延しようとしていたのだった。

 謎のスイッチ!面白そうやないの。
 緑色の瞳を細めた少女は、最近よく見かけるようになったネット上の噂に興味を示した。目の当たりにした人の話が妙にリアルだし、しかもそのスイッチは何らかの力を持っているらしいのだ。しかも東京都内に現れるそれに、興味を持つなと言う方が間違っている。
 「これはうちが見つけんとな。あー、押したら何が起こるんやろ!?」
 天音は、ワクワクしながらスイッチが現れる可能性の高いと言われる「人の多く集まりそうな場所」を検索し始めた。

 休日の街の雑踏の中、少女はその若さにしては少し鋭い目つきで時折地面を見ながら歩いている。彼女は緑色の目を光らせながら、それでいて通行人に不審がられる事もなく目的地へと歩みを進めていた。彼女、南宮寺天音の向かう先は都内でも比較的大きな公園である。そこで今日、あるTV局のイベントが行われるのだ。
 高校生にして一流の賭博師である彼女が一人でそんな場所へ向かうにはもちろん訳があった。
 「さすがに人が多いなー。ここなら確実やろ」
 天音は会場である公園に着くなり呟いてにやりと笑うと、時折盛り上がりの声を上げる人々にうまく紛れつつ目的のモノを探し始めたのだった。
 1時間弱の時が経過した頃だろうか?天音はスイッチがどうこうと呟いている女の子を見つけた。それも銀の髪に銀の瞳を持った可愛らしい少女。見た目には小学校低学年程にしか見えない彼女が自分と同じものを探している。やはり興味が湧き、疲れたようにベンチに腰掛ける少女に天音は話し掛けた。
 「あんた、もしかしてスイッチ探してるん?」
 すると少女は突然の問いかけにも関わらず素直に頷く。そこに妙に好感を抱いた天音は続けて言った。
 「小さいのに、変わった子やね。良かったら一緒に探さん?」
 そして簡単に自己紹介をすると少女もそれを返してきた。彼女の名は海原みあお、と言うらしかった。

 その後、2人は自分の身の上などを語り合いながら先ほどまでよりはずっと楽しくスイッチを探した。そして2時間くらい経った頃。ついに、見つけたのだ。
 「ちょっとみあおちゃん!あった!あったで!!」
 天音は会場の端の方にある、とっくに散ってしまった桜の木がある植え込みとコンクリートの間辺りの所にスイッチを発見していた。直径10センチくらいの丸くて赤い押しボタンが、そこにあった。現実的に考えて、そこにスイッチがあるのは偶然ではないだろう。偶然に誰かがスイッチを置いていったとは考えられないから、おそらくこれが噂の正体だ。
 「うわぁ、、、これが」
 ちょっと離れた所から走ってきたみあおは、少しだけ息を切らしながら言った。
 「まさか本当にあるなんてねぇ」
 天音は思わず感慨深げな呟きをもらしてしまう。面白そうな噂。その好奇心と、ある種の打算によってここまで来た。しかしそこにあるものはやはり、先入観を越えた無気味さを漂わせている。
 「どうしよう?押しちゃう??」
 みあおはその雰囲気にも負けずに目を輝かせている。天音は思わず苦笑して、
 「いや、うちも押してみたいんやけど〜」
 そう、素直に言ってみる。両者とも好奇心の強さでは引けを取っていないのだ。そのとき。
 「何やってんの〜?」
 天音の後ろから軽薄そうな声がかけられた。天音は振り返る。
 「どちらさん?うちら今、忙しいんやけど」
 天音は少し冷たいと言える声で答えた。ナンパ男は全くその気の無さそうな天音を見て諦めたようだったが、ふいにその目つきが変わる。
 「それ、もしかして例のスイッチじゃねぇの?」
 男は何も言わずにそれに触れようとする。
 「ちょっと、やめてよ!どういうつもりでそれを押すの?」
 みあおはつい大声を出す。男は、みあおの存在に初めて気付いたようだったが、人の悪そうな顔で笑う。
 「願いが叶うんだろ?知ってるぜ。叶えてもらいたい事ならいくらでもあるからな」
 「あんたみたいな人に押させる訳にはいかんのやけど」
 天音は男を睨む。男は不愉快そうに眉根を寄せた。
 「いいから、そこどけよ」
 「いややね」
 「いや!」
 言う事を聞かない女達を、男は無理矢理従わせようと手を伸ばした。しかし。
 「な、何してるんですか?!」
 そこに現れたのはとても日本人には見えない風貌の、僧衣を着た若者だった。明らかに女の子に乱暴しようとしている男の所に近付く。
 「理由は知りませんが、乱暴はいけません」
 若者、ヨハネ・ミケーレと言う名の神父は男をたしなめるように言った。そんな言い方をされて、男は逆ギレする。
 「うるせぇな!お前には関係ねぇだろ!」
 その声にみあおは少し怯え、天音は何かを思い付いたようににやりと笑った。
 「久しぶりやね、神父さん!」
 天音が上げた声にヨハネは振り返る。もちろんヨハネは、天音の事を知らない。しかし、状況を悟ったヨハネはすぐに返した。
 「お久しぶりです」
 にっこりと微笑む。それを見て男は舌打ちした。
 「うちらは関係なくなんかないんや。わかったら早く別の所に行き?」
 「それとこれとは話が違う!そのスイッチは俺のもんだ!」
 男は根拠のない事を言ってスイッチを指さす。ヨハネもそっちの方を見て、驚愕した。
 「これが、、、?!それなら尚更、ここから離れてもらわないといけませんね」
 ヨハネはそう言って男を見据えた。男は背の高い彼に見られて少しだけ後ずさった。別にヨハネは睨んだ訳でもないと言うのに。
 「後ろ!」
 みあおがヨハネの後ろを指差す。天音は舌打ちしていた。ヨハネの後ろには人が集まってきているのだ。
 「スイッチを押させろ」「私が押したいわ!」「俺のもんだ!」
 などと口々に言いながら。スイッチの噂を知っていた人達が4人の騒ぎを聞き付けて集まってきたのだ。その上、会場にいた野次馬まで集まってその場所は混乱しようとしていた。
 「だめだめ!もっとちゃんとした意志のある人はおらへんの?!」
 「怖い事が起こるかもしれないんだよ!」
 天音とみあおが一生懸命言っても彼らは聞く耳持たない。まるで、欲に取り憑かれているようだ。
 「僕達がちゃんと調査をしますから!それまで待って下さい!」
 ヨハネがそう言う。しかし人々はその言葉を信じない。
 「そんな事を言って、お前が押す気だろう!」
 などと言われる始末。その上、調査の仕方もわからない。ヨハネも天音もみあおも、困ってしまっていた。これ以上人を止められるのだろうか?と言う、不安。
 「もう、押しちゃおうよ!みあお、いい事を考えながら押すから!」
 みあおは周りの人々にき声ないように、天音とヨハネに言った。彼女ももちろんヨハネと初対面だったが、とても悪い人には思えなく、信用していた。
 「待って下さい。もう少し考えてから、、、」
 「もう押した方が早いんとちゃうの?」
 ヨハネは冷静に止めたが、天音はもう面倒くさくなっていて、早くスイッチが何を引き起こすのか見てみたいと思っていた。
 「あああ、皆さん待って下さいよぉ!」
 ヨハネは危険な香りを感じ、必死になっていた。そこに、天の声が聞こえてくる。
 『皆さん、どうしたんですか!道をあけて下さい!』
 拡声器を通して流れたのは、今日のイベントの為に警備をしていた者の声だった。そういう人が出てくると、さすがに人々は道をあけ始める。
 やがて警備員はヨハネと天音とみあおのいる所まで来た。ヨハネは事情を話そうと口を開くが、それは無駄に終わった。
 「君か、首謀者は」
 「えええ?!」
 当然である。騒ぎ立てる集団の先頭に居たのはヨハネなのだ。
 「違うよ!この人は、、、」
 みあおが抗議するが、小さな子供である彼女の意見を聞いてもらえるはずもなく。天音は天音で、今連行されたら誰がスイッチを守るのだ、と思いながら、知らない振りをしていた。結構冷酷である。
 警備員がヨハネを連行しようと彼の肩を掴もうとするが、ヨハネが少し抵抗したせいで掴もうとしていた手は、肩を押すに留まった。ヨハネはバランスを崩し、
 「あああ!!」
 そして、コケた。
 「あああああああ!!!!!」
 集団の声のオーケストラ。何故なら、コケたヨハネのちょうど下にスイッチがあったからだ。ヨハネはしりもちを付いたまま、状況を悟って青ざめた。上から、人々の殺意にも似た眼差しが突き刺さる。警備員は訳がわからず困惑していた。
 「ど、、、どうなるの?」
 みあおは呟いた。それは周りの者の気持ちを代弁している。
 「ん?」
 ヨハネは目の前に落ちてきた物を掴んだ。手を開くと、それは淡いピンク色をしていた。
 「あ!」
 何人かが上の方を指さす。
 「もうほとんど葉っぱになってたのに、、、」
 みあおが呟く。
 「これが、スイッチの力なんか、、、?」
 天音が少し気抜けしたように言った。でも、その顔は微笑みを浮かべている。それは周りに集まっていた人も同じだった。あの警備員も例に漏れない。
 「こんな事もあるもんだなぁ、、、」
 なんて、普通あるはずないのに呟いてしまっている。
 そこには、既に葉桜になったはずの、もうあまり人の目に止められなくなってしまったはずの桜の花が、満開になっていた。

 みあおと天音とヨハネは東京都全域に渡って起こった怪現象の中を歩いている。
 「あのスイッチ結構すごかったね!」
 みあおはどこに行っても満開の桜を見て無邪気にはしゃいでいた。
 「僕、もしかして生物の原理を崩してしまったりしてないかなぁ、、、。うう、、、どうしよう」
 ヨハネは美しく咲き誇る桜の花を見て、しかし深刻そうな顔をしている。
 「気にする事ないで。他の人が押してたら酷い事が起こってたかもしれんし。第一、綺麗やからええやん」
 「そうだよ!大丈夫」
 天音とみあおはヨハネを励ます。
 「そうでしょうか、、、。ありがとうございます」
 ヨハネは笑顔を取り戻して礼を言った。しかし天音はにやりと笑う。
 「あのコケっぷりはなかなかのものやったしな!」
 そのときの光景を思い出したのか、みあおが横で爆笑を始めている。ヨハネはいたたまれなくなってため息を吐いた。
 街中の人達はこの怪現象を、しかし楽しんでいるようだった。明日の朝には「花見のために臨時休業の会社続出!」なんて見出しが新聞を飾るかもしれない。そんな事を思わせるには十分な空気が流れていた。世界の時は、いつもより少しだけ平和に流れていく。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)                   ■
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1415/海原・みあお/女/13/小学生
0576/南宮寺・天音/女/16/ギャンブラー(高校生)
1286/ヨハネ・ミケーレ/男/19/教皇庁公認エクソシスト(神父)
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

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■         ライター通信                                                       ■
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 この文の有り様、、、。まだ慣れてないせいだと言う事にしておきます(駄目。
ヘタレ新人ライターの佐々木洋燈です。今回は一応初仕事でして、、、(言い訳。 とにかく、こんな私の所へ来て下さった天音ちゃんに感謝です。ありがとうございました☆関西弁微妙になっちゃいましたね。あー、、、日々精進です!!(笑。