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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


幻想の国から〜『不思議の国のアリス』


●ことの始まり

 住宅街にほど近く、商店街から少し外れたところに、小さな本屋がある。
 かつては近所の子供や奥様方で賑わっていたその本屋は、今ではひっそりと静まり返っていた。
 半年ほど前に店主の老人が体を患い、店は閉店してしまったのだ。
 こじんまりと暖かい店の雰囲気は近所でも評判で、常連客の誰もが淋しがったが、こればかりはどうしようもない。
 近所の人たちが閉まり切りのシャッターにようやっと慣れてきた頃――噂が、流れ始めた。
 誰もいないはずの二階の窓に灯りがついていただとか。室内に人影が見えただとか。
 あの店主は本当に本が好きだったから・・・・・・放りっぱなしにされている本の状態が心配になったんだろうなんて冗談混じりの井戸端会議が出来たのも最初のうちだけ。
 途切れない幽霊話に、人はいつしかその本屋を不気味がり、近づかなくなった。

 そして・・・・その本屋はいま、ひっそりと静まり返っている。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 投稿者:ふうか
 タイトル:誰か、一緒に探検に行きませんかー?

 こんにちわー。初めて書きこみします。
 うちのおじいちゃんが経営してた本屋が半年くらい前に廃業したんだけど・・・・。
 最近になって、そこに幽霊が出るって噂が広がってるの。
 誰か、一緒に探検しに行こうよー♪
 行ってみたいんだけど、一人で行くのはちょっと恐くって(^^;
 興味のある方は私のとこにメールください。場所や日時など詳しい内容を送ります。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



●集合

 ある晴れた日曜日。最近の幽霊騒動以来さっぱり人通りが減った小さな本屋の前に、三人の少女と一人の男性いた。
 今回の探検の言い出しっペ、茶髪に黒い瞳の少女――ふうか、こと芳野 風海(よしの ふうか)。
 銀の髪に銀の瞳の小柄な少女。――海原みあお。
 二人はお菓子を抱え、懐中電灯を装備し、楽しそうに話す様子は探検ごっこに向かうお子様そのものである。
 それから、掃除用具片手に二人の会話に加わっている長身細身の少女――朧月桜夜。
 そしてこのメンバーの中で唯一の成人にして男性。緩いウェーブがかかった長い髪を後ろで束ねている美男子――九尾桐伯。
 本屋のこと、その店主のこと、幽霊のこと・・・・・・そんな会話を交わしながら、風海の案内で一行は店の裏に移動した。
「――・・・でね、別に悪さしてるってわけじゃないのよ。人影って言っても店の中でごそごそ動いてるくらいだし。まー・・・それでも確かに不気味って言ったら不気味だけどさあ」
 実は風海も何度か噂の幽霊を見たことがあったそうだ。すぐに裏口や窓を確認したが開いている扉や窓はナシ。
 本当に幽霊なのか・・・・・原因究明のために店内を確認してみようと思い立ったというわけだ。
「じゃあ、幽霊は本屋の中でしか・・それも、皆影しか見てないってことかしら?」
 桜夜の問いに風海はこくりと頷き、鞄から鍵を取り出して扉に向かった。
「もし彼らに害意がないなら・・・なんとか説得して騒ぎを収めたいところですね」
 静かに口を開いた桐伯の横で、みあおがワクワクと楽しげな表情で扉を見つめていた。
「どんな幽霊さんがいるのかなあ〜。楽しみだよね♪」
 カチリと、小さな音と共に鍵が開かれる。
 ゆっくりと扉を開ける―― 一行の表情に、一瞬緊張の色が浮かんだ。


●遭遇

「やあ」
 裏口から入ってすぐの倉庫。半年間誰の出入りもなかったはずの店内は、チリ一つなくと言っても過言ではないくらいに掃除されていた。
 だがそれよりなにより、四人の目を引いたのは、部屋の真中で明るい笑顔を浮かべている一人の少年。蒼い髪に金の瞳で、年は十三、四――風海やみあおと同じくらいの年だ。
 少年は四人を見て、にこにこと楽しげな笑みを浮かべた。
「お客さんなんて久しぶりだなあ♪」
 言いつつ店内の方に向かい、何かの本を持って戻ってくる。
「あなたが、ここの幽霊?」
 桜夜は真剣な表情で問いかけたが、
「幽霊? オレが?」
 少年はきょとんとした顔つきと軽い口調で答えて流してしまった。
「ねえねえ、ここの掃除したの、きみ?」
 少年に負けず劣らずの軽い声音でみあおが聞くと、少年は持って来た本に目を落としながら答えた。
「うん」
 パラパラと本を捲る手が一つところで止まる。
「まあ、細かい話はのんびりお茶でもしながらにしようよ」
 ぽんっと、軽い音がして・・・・・・突如、可愛らしいティーセットが出現した。少年は倉庫に出された簡易テーブルの上にカップを並べながら四人に目を向ける。
「あんたたちも飲むだろ?」
「飲むー。ねね、今の、どうやったの?」
 一番に返答したのはみあお。持って来たお菓子をテーブルの上に広げて、近場の椅子に腰を下ろす。
「ん? ここから持って来たんだ」
 少年は、持ってきた本を示してみあおに見せる。
「ここ・・・?」
 次に風海。適当な椅子を引っ張ってきて座り、カップの一つを手元に寄せた。
「ここって、これ?」
 桜夜もいつの間にやらちゃっかりお茶を口に運びつつ、少年が指差す先――本の一ページを覗き込んだ。
「アリスのティーパーティですか」
 桐伯は、上から少年が示しているページを見つめて、一言。そして、ぴたりとその動きが止まった。
 少年が持っていた本は『不思議の国のアリス』。だが何故か、開いていたページは物語の序盤――
「確か・・・三月兎のお茶会って、こんな前のほうじゃなかったよね?」
 首を傾げるみあおに、少年はニッと楽しげに口の端を上げて大きく頷いた。
「正解っ♪」
 直後、みあおと桜夜の姿が消えた。
「このお茶。ただのお茶じゃないんだなあ、これが」
 言うが早いか、少年の姿も消えた。
「ちょっ・・・」
「二人をどこにやったんです!?」
 だが、その問いに答える者はすでにいなかった・・・・・・。
 

●幻想の国から

 倉庫に取り残された二人は、突然の出来事に目を丸くした。
「ど、どうなってるの・・・?」
 オロオロとした様子で聞いてくる風海に、桐伯は残された本を手に取って答える。
「先ほどのティーセット・・・彼は『本の中から持って来た』と言っていました。それならば、考えられるのはひとつ」
 彼が開いていたページ――それは、物語の序盤。アリスが、不思議の国に落ちたばかりの場面。
 アリスが、”私を飲んで”と書かれたジュースを飲んで小さくなってしまうシーンだ。
「本の中の物品を現実に持ち出せるというなら、おそらくこれをお茶の中に入れていたのでしょう」
 桐伯は、アリスが小さくなってしまうシーンの挿絵を示して説明する。
 風海は少し考えたあと納得した様子で頷いた。
「でも、どうすればいいんだろ・・・元に戻るためには、彼に頼んで大きくなるクッキーを出してもらわなきゃいけないわけよね?」
「ええ。それですが、私に考えがあります」
 話して聞いてくれればそれが一番なのだが、万が一ということもある。できれば、こちらが有利になれるよう準備をしたいところだ。
「考え?」
 風海が期待を込めた眼差しで桐伯を見つめる。
 桐伯はゆっくりと視線を動かして、店内の方に目を向けた。
「見たところ、どうやら意思を持っているのは彼だけのようです。ならば、彼がどの本に宿った意思なのかを探しましょう。風海さん、お祖父さんが特に大切にしていた本などは知りませんか?」
「え? え〜っと・・・・・・・・」
 問われて風海はしばらく考えこんだあと、ポンっと手を叩いた。そして、上を指差して言う。
「確か・・・おじいちゃんの蔵書の方に置いてあったと思う。タイトルとかは覚えてないんだけど、想い出の品だって見せてもらったことがあるの」
「では、そちらに行ってみましょう」
「うんっ」
 二人は倉庫の隅にある階段から店の二階に向かった。二階は店主の住居になっているが、一番大きな部屋――と言っても六畳程度の広さだが――は書棚で埋まっていた。
 綺麗に整理されているが、量はそれなりに多い。探すのは骨が折れそうだ。
「うわあ・・・・どうやって探そう」
「装丁などもまったく覚えていませんか?」
「えっと・・・・うーん・・・多分なんだけど・・・蒼っぽかった気がする」
「わかりました。あとは中身を読んで判断するしかありませんね」
 こうして、二人の地道な探索が始まったのだった。


●ことの終わり

 みあおと桜夜が姿を消してから約二時間後。二人は消えた時――正確には、小さくなってしまったために見えなくなったわけだが――と同じようにパッと倉庫に姿を現した。
「あれ・・・・?」
 テーブルもティーセットもそのまま。だが、桐伯と風海がいない。
 桜夜が二人と一緒に元の大きさに戻っていた少年に鋭い視線を向けると、少年は慌てて首を横に振った。
「オレ、知らないよ。二人がその紅茶飲んじゃったっていうなら・・・どっかその辺で小さくなってるかもしれないけど」
 ちょうどその時、倉庫の隅の階段から足音が聞こえた。そして・・・・
「あ! みあおちゃん、桜夜さん」
「無事だったのですね」
 綺麗な蒼い装丁の本を抱えた風海と桐伯が降りてきた。
「あーっ、それ!」
 少年が、目を丸くして本を指差す。
 桐伯が穏やかに笑ってチラリと本に目をやった。
「念の為に貴方の本体を探していたのですが・・・ちゃんと二人を元に戻してくれたみたいですね」
「いっぱい遊んだの。面白かったよ〜♪」
「暇なだけだったみたい。まったく、人騒がせなんだから」
 心底楽しそうに言うみあおとは対照的に、桜夜は呆れたような顔で少年を睨みつけた。
 少年はぷくっと頬を膨らませて、拗ねたような顔を見せる。
「だってさー、じいさんがいなくなって店が閉まっちゃってさ。ずっと一人で暇だったんだもんよ。暇つぶしに本読んだり店の掃除したりしてたんだけどさあ・・・」
 見た目の年齢よりもさらに数歳は幼く見えそうな子供っぽい雰囲気に、一行のあいだに小さな笑みが浮かぶ。
 ここ最近周辺で広まってしまっていた噂話を告げると少年はキョトンとした顔をして、それから・・・バツ悪そうに頭を掻いて笑った。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号|PC名  |性別|年齢|職業    】
【1415|海原みあお|女 |13|小学生   】
【0444|朧月桜夜 |女 |16|陰陽師   】
【0332|九尾桐伯 |男 |27|バーテンダー】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして。依頼初挑戦の日向 葵です。
 参加してくださった皆様、どうもありがとうございました。
 あまりにもほのぼので、特殊能力を使う機会を作れなかったのはちょっと悔しいですが・・・・。
 今回のお話はどうだったでしょうか? 少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

 それでは・・・ご縁がありましたらまたどこかでお会いしましょう。