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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


温泉へいこうよっ!

●オープニング
 月刊アトラス編集部。
 7月に入ったのに梅雨明け宣言がまだ入っていない。それに、編集部内のエアコンは壊れていた。
「あっつーい。あつい。暑いーっ」
 胸の前を大きくはだけた、だらしない格好の麗香は手にした書類で扇ぐ。男どもの視線が集中しそうだが、もしそのような事をすれば、間違いなくボールペーンが脳天に突き刺さるだろう。故に、他の男達はなるべく麗香の方を見ないよう、努力していた。
「編集長! 原稿あがりましたっ!」
「んー? はい、ボツ」
「うわぁぁぁんっ!」
 シュレッダーに飲み込まれる原稿を見て、三下は涙を流す。
「何度も言ってるけど、伝聞や目測だけで原稿を書かないの。温泉に出る妖怪だなんて‥‥温泉?」
 きらり、と、麗香の眼鏡が輝いた。
 この時、その輝きは編集部内を照らした程、凄かった、と、とある編集者が後日語った程であった。
「この暑い夏でかいた汗を温泉で流し、リフレッシュするのもいいわよね」
 うっとりと夢見る目つきで呟く、麗香。
「でも、この温泉って人里離れているので、交通機関がなく、徒歩で山を登っていかないと‥‥。それに、その妖怪が暴れまくってるので、温泉宿に客が入らないそうです」
「やっぱ、三下、あなたが行ってきなさい」
「えーっと、温泉の効能は美肌効果‥‥」
「私が行くわ。荷物持ちがいれば、多少の山道なんて大丈夫よ。場合によってはお姫様抱っこしてもらうから」
 そう言うと、麗香はさっさと心当たりのある者に電話をかけたり、不幸にも編集部を訪れた者に声をかけまくった。

●温泉への道程
「美肌。いいですわねぇ。ぜひ、お供させてくださいまし、碇様」
 強引に麗香に誘われた感はあったが、海原みそのは『温泉』という単語を聞いて飛びついた。
「これから花火の季節だし、お座敷忙しくなる前に行ってこようかしらね。美肌って所もポイント高いし」
 と、真迫奏子もノリノリで参加表明した。
 そうやって、温泉に行く為に集まった者は、女性ばかり五人。勿論、三下は荷物役で同行させられている。
 話に聞いてはいたが、電車を乗り継いで、バスに乗り換えて、降りたところは山の中。そして、これから険しそうな山道を登っていかねばならない。
 泣きじゃくって逃げようとする荷物係の頭を押さえつけて、奏子は爽快に笑う。
「あらあら三下さんってば。別に三下さんが泣こうと喚こうと知ったことじゃないんだけど、温泉は魅力的よねえ」
 遥か上に見える温泉宿を見て、既に温泉気分だ。
「温泉♪ 久しぶりにのんびりしたいね」
 笑顔を振りまいて、ここにも温泉気分の者が一人。秋月霞波だ。
「まぁ、この山を登れば温泉なんだけどねぇ‥‥」
 現実的に温泉に辿り着くまでの苦労を見越して、麗香は呟いた。
 その麗香の腕を取って、一人の少女が申し訳なさそうに言う。
「私、麗香さんのことお姫様抱っこできないけど良い?」
 楠木茉莉奈の言葉に、麗香は微笑む。
「別にいいわよ。その小さな身体では無理なのわかってるから」
 危ないから手を繋いで行きましょうか、と、そのまま歩く事になって、茉莉奈は嬉しかった。どさくさ紛れに手を繋いで歩いて、と思っていたら、麗香の方から繋いでくれたのだから。
 半ばスキップしながら、山を登る。幸いに、山登りだと言う事はわかっていたので、いつものスカートではなく、夏らしくタンクトップにショートパンツ。元気に跳ねながら歩く。
 箒で飛べたら楽なのに、と思いはしたが、その様子を人に見られたら、と、あきらめる。だからこそ、麗香の手を握ったままでいられるし。
「マール、大丈夫?」
 傍らに歩く、黒猫の事を心配するが、大丈夫のようだ。みゃぁ、と、元気な声で返事してくれた。
「虫に噛まれんようにな」と、獅王一葉が、三下に持たせた荷物の中から、虫除けスプレーを貸してくれた。
「‥‥三下はん、荷物持ち頑張ってぇな」
 そのまま重そうな荷物を三下に預け、励ましの言葉をかける。三下は荷物の重さで苦しく、何も言えないようだ。
「霞波も三下はんに頼んだらどや?」
 一葉のその言葉に、霞波は「そうですね。お願いします」と、ドサッと自分の荷物を荷物の山に上乗せした。
「編集長も美白効果で張りきっとるし、いっちょ張り切ってええ風呂と飯でもいただこか!」
 一葉は張り切ってそう言うと、温泉宿目がけて力強く足を踏み出した。
「べ、別に最近徹夜が多くて肌荒れしてる訳ではないわよっ」

●温泉宿
「お願い、私の歌を聞いて‥‥」
「きしゃーきしゃー」
「ばうわうあぉーんっ」
 茉莉奈が歌を歌って狸やら犬やら何か訳わからぬ妖怪の気を鎮めようとするが、全く効果がないようだ。妖怪たちは気ままに暴れている。
「‥‥どうして、暴れてるの?」
「ぎゃうぎゃぅ」
「みゃおーん!」
 返ってきたのは、意味不明な叫び。
「そぅ‥‥」
 仕方がない。眠ってもらい、温泉を開放してもらおう、と、思ったとき、奏子の言葉が浴場に響いた。
「『私』の温泉、占拠してくれてるいい度胸な妖怪ってのはなんなのかしらぁ? 撤去。退去。撤収。しないなら殴るわよ」
「‥‥あなたの温泉なんですか?」
 思わずツッコミ入れる、霞波。
 温泉に出る妖怪の話を先程まで現地の人に聞いていたのだが、戻ってみたら‥‥と、苦笑する。現地の人の話では、突如として現れ、いきなり温泉を占拠したようだ。
 こっそり見張って退治しようと思っていたのだが、既に現れており、しかも奏子の言葉で臨戦モードに入っている。
 みそのもまた、着替えた黒の浴衣姿で妖怪たちに話を聞こうと近づく。ちなみに、温泉でひなびているのだったら、このような姿で行くのが通例らしい(海原みその談)。
 転ばないように慎重に足を運ぶが――その隙を狙って、妖怪の一匹が着物の裾をめくる。驚いたみそのは、派手に転んでしまった。
「大丈夫?」
 麗香が駆け寄って起こすのを助けてくれた。その麗香の腕にすがって立ち上がりながら、みそのは赤くした顔で声を荒げる。
「な、何をするのですかっ!」
 ただ、妖怪たちは楽しそうに笑うのみ。
 この時、妖怪どもの表層思念が、みそのの頭の中に流れ込んできた。
「問題の風呂やけど‥‥どないな輩が暴れとんのやろな?」
 その時、そう言って一葉も浴場に現れた。
「へぇー、何しとんのや?」
「見ての通りです!」
 怒った顔で一葉を見返す、みその。
 苦笑し、一葉は「まぁ、まぁ」と宥めながら、今度は己に近づいてきた妖怪に、パシンッと、いい音立ててハリセンをかました。
「とにかく‥‥この妖怪さん達は、ここから退いてくれないみたいなの」
「そう、ですわね」
 妖怪たちの言葉を何とか理解した、茉莉奈の言葉に、みそのも同意する。
「どういった目的だったの?」
 そう、霞波が尋ねると、二人は沈痛な面持ちで答えた。
 ギャルと混浴したいだけ、と。
 それを聞いて、妖怪たちの方を振り返る、霞波。彼らの顔は――スケベ心丸出しだった。
「温泉の為に倒されてね」
 速攻でほろりと嘘泣きしながら、源泉を使い、妖怪たちを荒波の向こうへと弾き飛ばす、霞波。
「丁度、武器はとびっきりのが無限にある事だし」
 微笑を浮かべ、遠慮なしに源泉を操って追い払う。何せ、源泉は人が入るようにぬるめられてない。つまり、完全な熱湯。
 悲鳴を上げつつ、スケベ顔を消して妖怪たちは逃げ惑った。
 必殺のハリセンを問答無用で振り回す、一葉。
 犬妖怪が振りまく、尻尾(フサフサ)の誘惑と必死に戦う、奏子。
 そんな様子を、仕方がないな、といった感じで犬妖怪を眠らせる、茉莉奈。
「痛いのはいやですし、面倒くさいですし‥‥何より、汚れてしまうのが嫌だったのですけど」
 文字通り流してしまえばいいか、と、温泉の湯で妖怪たちを押し流す、みその。
「もう終わった?」
 部屋で休んでいた麗香が姿を見せると、五人はすっきりした様子で「はい」と、声を揃えた。

●湯煙美肌浪漫
 静かになった女湯。
 湯煙に巻かれながら、女性達はゆったりと湯につかっていた。
「今回の事件は、お笑いコーナーに載せるしかないわねぇ」
 事の顛末を皆から聞き、呆れたように麗香は呟いた。
「妖怪を改心させれれば、ちょっとした名物になると思ったのだけど」
 そう言ってから、霞波はあのスケベ顔を思い出し、それは無理だな、と頭を横に振った。
 まぁ、アレらがいなければ、静かにのんびりと過ごせる温泉宿だ。女湯の設備もいいし、眺めもいい。眼下に広がる山の景色を眺めながら、恋人の夾を連れて、また今度来てもいいな、と、思った。
「混浴じゃなくて、ほんと、よかった」
 湯を肌になじませるように腕を触りながら、奏子は呟いた。
 それにしても、同行者に男が混じっていなくて、よかった。「ただ三下さんでも男には違いないしねえ」とは思いはしたが、今は女湯の外で見張りに立っているはずだ。もし、当の見張りが覗きをするような真似をしたら――と、脅しをきっちし入れておいたので安心だろう。
 水着というのも野暮だし、湯浴み着を一応用意はしていたが、無駄になったようだ。まぁ、荷物になっても、持つのは三下だし。
 酒が乗った盆を近くに手繰り寄せる。湯に浮かんだ盆は、滑らかに奏子の前に流れてきた。
「麗香さんと一緒♪ うふふ、幸せ〜」
 本当に嬉しそうに、茉莉奈は麗香の隣に座って、一緒に温泉に入っている。
「そっちもどう?」と、奏子が杯を上げて示すと、麗香は微笑んで受け取った。もちろん、こそっと手を伸ばした茉莉奈の手を、やんわりとたしなめて。
「私も大人になったら麗香さんみたいな素敵な女性になりたいな」
 ちょっと残念そうに、杯をあおる麗香を見つめると、すぐに憧れの眼差しに変わる。
「あら、そうなの?」
 でも、私なんて、ずるい大人よ、と、麗香は苦笑した。
「本当に、いいお湯ですわね‥‥」
 長い髪を、湯の上に広がせないよう、頭の上でタオルを巻いた、みそのが、のんびりと呟いた。日頃の疲れが取れるように気持ちよく、このまま寝てしまいそうだ。
「温泉は裸で語り合うっちゅう場所やな」
 洗い場で、一葉が石鹸を身体につけながら、呟く。
 霞波が湯から上がり、自身も、身体を洗おうとするのを見て、「背中の流しっこ、しよか?」と誘った。
 その様子に、茉莉奈も気づき、他の皆も誘って洗い合いをする。
「何だか、家族風呂みたいねえ」
 和やかな雰囲気に奏子は半ば苦笑いで、半ば微笑んで。
「ま、何にしても皆が気持ちよーく風呂に入れる、そないな環境を作れて、よかったな」
 そう一葉が言うと、脱衣所の方から、ドタドタと騒がしい音がした。
「どうしたのかな?」
 不思議そうに茉莉奈がそちらへと視線を向けると、三下が慌てた様子で飛び込んできた。
「へんしゅうちょぉぉ〜、な、な、なんか変な生き物が出てきましたぁ〜。これって、記事になりますかね?」
 その様子はいつも通りだが、ここは女湯。
 麗香は「あんたっていう人は‥‥」と、こめかみに抑えると、視線を皆に向けた。
「「ぼーつっ!」」
 盛大な音を立て、女性陣の総力を以って、隣の男湯に放り投げられた、三下であった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0115 / 獅王・一葉 / 女 / 20 / 大学生】
【0696 / 秋月・霞波 / 女 / 21 / 自営業】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女】
【1421 / 楠木・茉莉奈 / 女 / 16 / 高校生(魔女っ子)】
【1650 / 真迫・奏子 / 女 / 20 / 芸者】

※上記の並びでここに物語に登場した全てのPCのデータを記載してください。
※PCのデータの掲載方法はライター各員でアレンジしてもかまいせん。

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■         ライター通信          ■
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 月海です。
 お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
 半ば、コメディ。半ば、ほのぼの。そんな感じの文章になりましたが、いかがでしたでしょうか?
 参加者の皆様が全員女性というのを見て、ちょっと驚きました。こういう偶然もあるのだな、と。
 それでは、またの皆様のご参加、お待ちしております。