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<PCシナリオノベル(シングル)>


アトラス☆大捜査戦 − 未知との遭遇 − ≪報酬は晩御飯≫

〜前回までのあらすじ〜 ←いや、前回ってあったんですか?
 仕事上のゴタゴタ――いつものように取材ミスしたり、編集長のお気に入りのシャープペンシルを踏んで折ったり、コピー機を壊したり――が原因で、警察組織のあるところに売り飛ばされてしまった、三下。
 そこは、何故か、警視庁の特殊部隊であった。何が特殊であるかというと‥‥特殊な趣味だかららしい。何が特殊な趣味だかは、お願いだから聞かなかった事にしてください。
 その特殊部隊部隊で、今度行われる演劇――よりによって、『シンデレラ』だ。シンデレラ・ドリームという言葉があるように、乙女の夢満載の――に、三下は強制的に出演される事になった。
 よりによって、主役のシンデレラだ。
 何で、ここまでする羽目になったかと言うと、ゴッツイおっさんやお兄さんがシンデレラ役をするよりかは、マシだから。というのが、最もな意見だったりするが、真相は‥‥相変わらずのへまを三下がやって、彼らの愛車に十円傷をつけ、その示談としてらしい。
 しくしくと泣きながら三下が草間に電話してみると、意外な情報が。
「草間さ〜んっ」
「あぁ、そこ。『色んな意味で特殊』な部隊だから。頑張れ」
「草間さーんっ!」
 叫べども、既に回線は切れている。
 脅えた三下は、さっさと逃げ出したのであった。

●不思議な人々
「警視庁特殊(‥‥な趣味)部隊ってどんな部隊なんだ‥‥」
 心の中で小一時間、税金の無駄遣いして何してんだ、と、ツッコミを入れながら待つのは、藤井葛。
 新宿の駅前。
 携帯電話で三下に助けを求められたのはいいが、待ち合わせ場所に彼の姿はなかった。一応電話で一通りのわけを聞かせてもらったので、どういった状態になっているかは、わかっている。
 危険を感じて逃走したのだろう。
 電話をかけて現在地を聞こうと思ったが、やめた。彼が危険を感じたのならば、追いかけてくる特殊部隊がここを訪れてくるはずだ。
 半分、どういった面々か見ておきたかったのと、もう半分は彼らをミスリードする為に、待つ事にしたのだ。
 と思っていたら、来た。
「そこの方、これこれこーいう眼鏡をかけて、おどおどした男を見かけなかったかね?」
 声をかけられ、答えようとして座っていた植え込みから立ち上がって見ようとして――絶句。
 何せ、彼らは舞台衣装のままであったからだ。
 いかつい面持ちのアニキやオヤジが、継母や意地悪な義姉の服装をしていて、誰が驚かないのだろう。顔面を蒼白にして、葛はプルプル震える指先で、適当な場所を示した。
「ありがたい。感謝する」
 彼らが接近する前に人の群れが音を立てて割れる。その中を突っ切る、特殊部隊。誰もが関わりたがらないその気持ちはよーく、わかる。
 今回ばかりは三下に心から同情してしまった。そう思いつつも、三下が彼らと一緒に、シンデレラ姿で劇をしているのを想像して笑ってしまったのは、秘密だ。
 さて、どうしようか。
(「何事もなかったかのように家に帰る、というのも、ありだよな‥‥」)
 一番まっとうで、簡単な選択肢を選んでしまおうかと、悩んでしまう。
 だが、せっかく助けを求められたのに、放り投げるというのも、気が退ける。とりあえず、連絡しようと携帯電話に手をかけたところで――異様なプレッシャーを感じて、振り返ってしまった。‥‥振り返らなければよかった、と、深く後悔をしてしまう。
 軍服姿の男が三人。
「君が、藤井葛君かね?」
「いや、違うから」
「だが、碇という女性から貰った写真と顔が一致するのだが」
 何故、あの編集長が自分の写真を持っていて、更にこんな妖しい軍服姿の男に渡しているのか。怒りが沸々と湧き上がるのを感じてしまう。
「で‥‥何者だ?」
「俺達は2197年のIO2だ!」
 堂々と胸を張って、リーダー格らしい男が答えた。
 その男の名は、ゴメス少佐。
 彼の話によると、未来は今、株が大暴落したり、戦争が頻発に起きていたり、彼の娘が『パパ‥‥うざーい』と、反抗期のようだ。
「娘が、俺の愛する娘が‥‥くぅっ」
 男泣きするゴメス少佐を見て、冷たく一言。
「それは関係ないだろ」
 その言葉を聞いて、キッ、と、ゴメス少佐は葛を睨みつけた。
「関係ない事はないっ! それらの原因を調査した結果、因果の始まりは――三下という漢が劇の出演を拒否したからと出た!」
 そういう事らしい。
 世界が不安定な事よりも、この己の娘にZOKKONNラブな四十七才は、反抗期の方が大事らしいが。
 そんなこんなで、時空を超え、この男達はアトラス編集部に現れ、その足で葛のところへやってきたようだ。
「ともかく、三下という男はどこだっ!? 貴様が、その男と連絡を取り合ったという話は、碇から聞いておるっ!」
 どうやら、自分は編集長に、簡単に売られてしまったらしい。思わず、乾いた笑いが出てしまう。
「まぁ、あっちに行ったけどな」
「ありがとうっ! 君の事は永遠に感謝するっ!」
 別にいらない。
 葛が適当に差した方向へ、男達は去って行った。

●死を予感させる、メモ
 Pi、Pi、Pi!
 携帯電話のコール音が鳴った。発信者を見ると、三下。
「おぃ。今、どこにいるんだ」
 不機嫌な声を出して、開口一番、三下の居場所を問う。
「ずみませ〜んっ、ぞごにいだら、変な男だぢが来だんで、逃げまじだぁ〜っ」
 ビュービューと、風の唸る音がやかましい。
 どうやら、泣いているらしい。ただ泣いて言い訳するばかりの三下を宥め、葛はもう一度尋ねる。
「今、レインボーブリッジでずぅ〜っ」
 三下の話によると、再度、草間に助けを求めたら、潜伏場所として、レインボーブリッジ作業通路に案内されたらしい。
 それで、轟々と唸る風の音もしてるのか、と、納得する。
 草間も以前に、警視庁特殊部隊に酷い目にあった経験があったようで、一度は見捨てたものの、同情して潜伏場所の都合だけはしてくれたようだ。
「いいか。今から行くからな。じっとしているんだぞ」
 今度こそはぐれない為に、何度も念押しする、葛。
 電話を切ると、駐車場へと向かった。
 帰りの事も考えて、姉の車を借りてきてよかった、と、思った。運転席に座り、バックミラーの角度を整える。
 その時、ダッシュボードに一枚の紙が挟んでいるのに、気づいた。
「? ‥‥何だ?」
 助手席に手を伸ばして、その紙を取ると――『傷をつけたら殺ス』と、姉の字で書かれていたメモであった。
 脂汗がダラダラと出てしまう、葛。
 もし、この姉の車に傷をちょっとだけでもつければ――殺される。『殺す』の『す』が、『ス』になってるのは、かなり本気な証拠――かも、しれない。
「‥‥ともかく、行こう」
 三下を追うのが、専らの目的だ。
 傷つけないように、安全運転でレインボーブリッジ目指して、葛はハンドルを動かした。

●レインボーブリッジの戦い
 何とか、今のところは車に傷をつけずに、レインボーブリッジまで辿り着いた。そして、三下を回収して、何処へ逃げようとか、と、思ったところで。
「はっはっはっ! ここにいたのかっ、三下!」
 変態集団、もとい、警視庁特殊部隊の面々が立ちはだかっていた。
「少し迷ったようだが、目的の三下を見つける事ができた。ありがとう、そこの方!」
 裏切ったな、と、三下が涙目で見つめるのを、葛はブンブンと首を横に振って答える。本当に適当な方向に行かせたはずなのだが‥‥。
 もしかして、方向音痴で、間違えて正しい場所に来たのだろうか。
 恐るべし、変態。
(「変態に常識は通用しないのだな」)
 一つ学習した、葛であった。
 特殊部隊の彼らの姿は、先程の舞台衣装とは違い――更に、変態度が増していた‥‥。
「‥‥おまえら‥‥そんな格好でここまで来たのか?」
「うむ!」
 三下の言葉によると、特殊部隊を率いているのは、耽美小五郎隊長。耽美の暗黒面に魂がドップリとはまった、男。
 真っ白なブリーフの他に、フリフリの耽美チックなスケスケ衣装に身を包んでいる。インパクトは隊長程ではないが、部下達も似たり寄ったりだ。
 溜息ばかりが出る。
 今日は何て一日なのだろう。
「帰っていいか?」
 逃げ出そうとする葛に、プルプルと首を振って、すがりつく三下。
 まぁ、災難はこんなものでは、終わらない。
「見つけたぞ! 三下とやらっ!」
 変態が変態を呼ぶのだろうか。それとも、今日は単に厄日なだけなのだろうか。出かける前に、今日の運勢を見ておくべきだったかな、と、思った。
 威勢のいい声で現れたのは、IO2の三人組。何だか色々と汚れているのは、どぶ川に落ちたり、犬に噛まれたり、といった感じがするのだが‥‥気のせいだろうか。
 力なく倒れそうな自分に発破をかけ、木刀を彼らに向ける、葛。
「すまないが、通してもらうな」
 さっさと倒して三下を安全なところに置いて、帰って寝よう。面倒事、もとい、変態事はうんざりだ。
「「そんな事はさせんっ!!」」
 行く手を防ぐ、警視庁特殊部隊と、IO2。だが、葛は問答無用で、バッタバッタと、木刀で打ち倒していった。
「てぇぃっ!」
 かけ声上げて襲い来るブリーフ男を、軽く木刀で足を薙ぎ払い、ブリッジの外へと落とす。
 大きい悲鳴が次第に小さくフェードアウトし、海に落ちた音が遠くに聞こえた。
「とりゃっ」
「遅いっ」
 軍服男が横から素早く飛びかかるが、軽くバックジャンプしてかわす、葛。そのまま海へと蹴落とす。
 また、悲鳴が一つ消えて行った。
 警視庁特殊(‥‥な趣味←ここに注目)部隊という名前なので、あまり強くないかと思っていたが‥‥弱すぎる。未来から来たというIO2の者も、大したものではなかった。
 そうやって、倒しまくって残ったのは、耽美小五郎隊長とゴメス少佐の二人のみ。
「‥‥どうする?」
 剣呑な目つきで二人を睨む。二人はびびって後退るも、逃げようとはしなかった。
「シンデレラをせねばならんのだっ!!」
「何としてでも、未来を救う為に! 娘の愛情を取り戻す為に!!」
 夕陽をバックに、空中で交錯する、一人と二人の影。
 スタッ。
「‥‥つまらぬものを斬った」
 葛が木刀を腰に構えると、二人の男は海へと落ちていった。

●仕事の報酬
「藤井さぁ〜ん‥‥もうちょっと、食べるの、おさえませんか?」
 相変わらず情けない声を出して、三下が涙する。
「‥‥あれだけ苦労したんだ。デザートつけても、文句はないだろ」
 報酬として、三下からファミレスで晩飯を奢ってもらっている。始めは牛丼屋だったのだが、それは余りにも、だったので、隣にあったファミレスに三下を引き摺って入ったのだ。
 運動したせいか、いつもより食べる量が多いような気がする。
 さっさとデザートに三品程頼み、食後の珈琲を啜る。
 まったくな一日だったが、暇潰しにはなったかと思う。
 舞台がどうとか、未来の事はちょっとは気になりはしたが、今が平和なのが一番だ。第一‥‥あんなのに危機とかどーとかと言われても説得力はない。
「シンデレラ、か‥‥」
 ムキムキ男達のシンデレラは見たくないが、普通のシンデレラなら見てもいいかな、と、窓の外を眺めながら思った。
 夜闇の中、ライトアップされたレインボーブリッジが、王子様のいるお城のように輝いていた。