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すも〜きん・ひあ〜
問.タイトルの間違いを2箇所直しなさい。
■視点⇒光月・羽澄
今日は3人でスケート場にやってきている。
「は、羽澄おねーさまっ、絶対手を離さないで下さいませね〜」
と自転車に初めて乗った子供のようなことを言っているのは、御影・璃瑠花ちゃん。私に両手を預けて、安定しない足を震わせながら、それでもなんとか前に進んでいる。
実は璃瑠花ちゃん、スケートは初めてらしい。
(どうりで)
それ用に新しい服を買いに行くほど、楽しみにしていたわけだ。
今日の私と璃瑠花ちゃんの服装は、お揃いの白いワンピース(雪の妖精ふう)。そしてコートの模様は色違いだ。はたから見たらきっと姉妹のように見えるだろう。
「……羽澄おねーさま、わたくし進んでますの?」
不安そうに私を見上げる璃瑠花ちゃん。確かに、足を動かしているわりにはあまり進んでいないようだったが。
「うんうん、うまいよ璃瑠花ちゃん。その調子、その調子!」
上達への近道は褒めることである。
「はーいっ、頑張ります!」
事実その後、璃瑠花ちゃんはすぐに1人で立てるようになるまで上達した。
「た、立てました〜〜〜vv」
感動に瞳を輝かせている璃瑠花ちゃん。
「これなら、私と桐伯さんで挟んで滑ればあの輪の中に入れるよ」
私が外のコースに視線を送る。
私たちが練習していたのは中の円になっている部分で、ただ遊ぶために用意されているコースだ。対してそれを取り囲んでいるドーナツ状のコースは、滑りたい人のためのコース。
「まぁっ、ではあんなにカッコよく滑れますの?!」
「――桐伯さんしだいかもしれないわね」
ちょうどその外のコースのさらに外で、こちらを見ていた九尾・桐伯さんと目が合った。白い世界の中で1人だけ黒ずくめなのでよく目立つ。
私は小さく手を振った。
(だって私じゃあ)
璃瑠花ちゃんが転びそうになったとしても、うまく支えてあげることができない。璃瑠花ちゃんをコントロールするにはやはり男性の力が必要なのだ。
――と。
桐伯さんは何かに気づいたらしく、慌ててリンクの中に入ろうとしている。
(? どうしたのかしら)
「きゃあっ」
今度は璃瑠花ちゃんの悲鳴に驚いて振り返る……より早く、璃瑠花ちゃんが半分転んで私に掴まっていた。
「大丈夫?! 璃瑠花ちゃん」
私は助け起こそうとするけれど、下手に動かすと本格的に転びそう――倒れそうな体勢だった。
(どうしよ……)
桐伯さんを待ってた方がいいかな。
そう考えた私の耳に。
「こんなとこに突っ立ってる方が悪いんだよ!」
「あーあ、服汚れちまった」
「当然責任取ってくれるんだろうな?!」
上から降ってくる横柄な声。
「な……っ」
腹が立った私は行動を起こそうとしたけれど。
「わー、おねーさま動かないで下さいっ」
「あ、ごめん」
璃瑠花ちゃんはまだ辛い体勢のままだ。
そこへやっと、桐伯さんが到着。
「大丈夫ですか?」
璃瑠花ちゃんを助け起こすと、キッと3人のガラの悪い若者たちを睨んだ。
「――私が見ていたところ、余所見をしながら滑っていたのはあなたがたの方だと思いましたが?」
背の高い桐伯さんに上から睨まれて、若者たちはたじろいでいる。
「い、今時ナイト気取りかよ」
「あー、すっかり気分が盛り下がったな」
「行こうぜ〜。こんなお子ちゃまと滑ってられっかってんだ」
わざと聞こえるように捨て台詞を残して、3人は私たちの所から離れていった。
「なによあいつらー!」
「…………」
私が握りこぶしをつくると、桐伯さんは何故かその手を抑えた。
「?」
そして3人の後ろ姿を指差す。
再び目をやると。
「うわーーーーっ」
「おまっ、とまれよ!」
「無茶言うな、とまらねぇ!!」
3人は物凄いスピードで、コースとコースを隔てているアクリル板の壁へと突っ込んでいった。
それはもちろん桐伯さんがやったのだろう、おそらくお得意の、鋼糸を使って。
「――ごちそう様♪」
「どういたしまして」
クスクスと笑いながら、桐伯さんと言葉を交わす。間に立っている璃瑠花ちゃんはどうやらわかっていないようだった。
「? 何がですのー?」
「大したことではありませんよ。それより、1人で立てるようになったみたいですね。外側のコースで滑ってみましょうか?」
桐伯さんが優しく璃瑠花ちゃんに告げた。けれどてっきり喜ぶと思っていた璃瑠花ちゃんの、表情は何故か冴えない。
「どうしたの? 璃瑠花ちゃん」
「――大変申し上げにくいことなのですけど……足が痛いですぅ〜」
「え?! さっきので捻っちゃった?」
――ドスンっ
「ぎゃー」
「わー」
なんだか向こうが騒がしい。どうやら桐伯さんをさらに怒らせてしまったようだ。
「じゃあ帰りましょうか」
「え……でも、折角来ましたのに……」
「スケートなんていつでも来れますし、いつでもお付き合いしますよ」
気がすんだのか、桐伯さんはひょいと璃瑠花ちゃんを持ち上げると、自分の右肩に乗せた。
「わっ」
「それに、怪我をしたらまず最初に言わなければなりません。言いにくいなどと思ってはいけませんよ」
優しい声で諭す。
「はーい」
それには璃瑠花ちゃんも素直に頷いた。
「わぁ、桐伯様の髪の毛って、不思議な質感をしていらっしゃるのね。今度三つ編みをさせて下さりませんか?」
「え? ……まあ、構いませんが」
★
後日開かれた、璃瑠花ちゃんが桐伯さんの髪を三つ編みにする会――というのはもちろん冗談で、実際は先日のスケート場で撮った写真などを見て、話に花を咲かせている。
「璃瑠花ちゃん、この写真焼き増しして〜」
「私も欲しいですね」
「あ、では印をつけておいて下さいな」
「了解」
璃瑠花ちゃんは今手が放せないのだ。何故なら手を放すと最初からやり直しになってしまうから。
(……やっぱり、三つ編みの会かしら……)
ちなみに私の頭は、既に編み済みだ。
私の髪は長いにも関わらずすぐに編めた璃瑠花ちゃんだったけれど、桐伯さんの髪には妙にてこずっている。
「うーん……桐伯様の髪、何だか生きているみたいでやりづらいですわ」
困り顔でチャレンジしていた璃瑠花ちゃんがそんなことを言うと、桐伯さんが突然笑い出した。
「っはっはっは、ばれてしまいましたか」
「わわっ?!」
そうして髪がわさわさと動き始め、蛇のごとく璃瑠花ちゃんの指に絡みついてゆく。
「……やっぱり」
私は半ば呆れたように呟いた。桐伯さんの髪だ、たとえ本当に生きていたって不思議じゃない。
(――いえ)
それが本当は生きていないことを、ちゃんと知ってはいるのだけれど。
璃瑠花ちゃんは不気味がるわけでもなく。
「一体どういう仕組みなんですの〜?」
むしろ楽しそうに告げた。そして蛇たちと遊んでいる。
(あれって多分、鋼糸で操っているのよね?)
髪をもてあそばれている桐伯さんも楽しそうに。
「それは秘密です」
そう答えた。それから。
「折角ですからメデューサごっこでもしましょうか。ほら向こうにも、メデューサがいますよ」
「えっ?」
桐伯さんが何故か私を指した。
「まあ本当! 羽澄おねーさまの髪も生きていますわっ。凄いですぅ〜」
「きゃー」
気がつくと、本当に髪が動いていた。三つ編みを1本で結っているので、小さな蛇が何匹もいるように見える桐伯さんとは違い、大きな蛇が1匹いるように見える。
「おねーさまのはアレですわね。メデューサというよりも、蛇使いですわ!」
「おや、うまいこといいますねぇ」
「そこ! 感心しなーいっ」
そうしてしばらく、おかしな蛇ごっこは続いていたのだった……。
答.”も”→”ね”、”ひ”→”へ”
つまり、すも〜きん・ひあ〜(激しく撃ち合おうぜ)ではなく、すね〜きん・へあ〜(蛇な髪/?)でした。おそまつ!
(終)
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