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通りすがりのお店にて〜楽しみは買い取りましょう
………………わたくしもたまには“陸”で買い物を致します。
ええ、そうです。
確かに主に洋服ですわね。
ですが、別の物が売っているお店にも入ります。
いえ、“そう言った物”とも限りませんわ。
そう言う…“ファッションカタログに良さそうな本”でもなくて…もっと色々なお店に入る事もあります。
“陸”での買い物は…それもそれで、色々と物珍しい物がありますからね。
服に限らずとも。
で。
その時も…買い物でした。
ひとり、“陸”を歩いていたある時に。
………………そのお店を“見つけ”たのですわ。
何処か異質で、わたくしに近しく感じられたものだったから…でしょうか。
惹かれるようにしてそのお店の扉を潜ります。
すると…やはり近しいものを感じる、何処か異質な空間でした。
ここは“陸”だと言うのに、珍しい事です。
…と、思いながら店内を伺っていますと…やがて出てらっしゃいました店主の方も、やはり“そう言う”御方でした。
すぐにわかりましたわ。
………………わたくしとは話が合いそうです。
店主は丁寧に店の中を案内して下さいました。
ここは“がいこく”や“異界”から仕入れた『家具』を扱っているお店だそうで。
店主もわたくしに、自分と近しい異質な部分…があると気付いたのか…ふたりして、色々と話が弾みます。
店内にあるのは…“陸”に――人の世にある普通の家具のよう。
けれど、この空間にあると言う事は…それは、存在は、人の世にある物とは…異なるものでしょう。
戸棚、箪笥、テーブル、時計――椅子。
特にその、椅子の中に。
なんと、わたくしにとっては見知った“椅子”がありました。
そう、まるで“妹”のような。
………………いえ、これは…“そのもの”でしょうか。
少し考え、店主にその“椅子”についてさりげなく伺います。
曰く。
深い青色の革張りの“椅子”で、座り心地と肌触りは一級品…との事。
…勧められてしまいました。
そんな事、それがわたくしの思う通りの“椅子”ならば当然だと察しは付くのですけれど。
“妹”ならば当然ですので。
…ですが、その方法には素直に感心致しました。
わたくしには――思いも寄らぬ事だったので。
………………なるほど。こう言う方法もあったのですね。
頷きつつ、元の…“姿形”をそのまま残した、馴染み深い青い青い“椅子”をじっくりと見分します。
そ、と触れました。
やはり、思った通りの“肌触り”。
再び頷き、納得します。
間違う筈がありません。
座ってみては、と店主に勧められました。
けれどそれはこの場では止め、悪戯っぽく財布を開きました。
………………座ってみるのは…持ち帰った後で。
おいくらですかと問います。
良ければ“これ”のレプリカなんかありませんか? と、ついでに問いながら。
すると店主は大袈裟なジェスチャーを見せ、あります、とこれまた当然のように。
思わず笑みが零れます。
やっぱり。
………………何の関係も無い筈のここの店主でさえ、レプリカまで造ってしまうんですのね。
それ程の。
嬉しくもあり誇らしくもあり、僅かに…怒りに似たものまで浮かびます。
どうしてここまで無防備なのでしょう。
………………わたくし以外の相手にも。
正直、他の方の目に触れさせるのは…勿体ありません。
ここはわたくしが買うしか無いでしょう。
わたくし以外の…他の方の手に寄って“遊ばれた”結果だと言うのも…気にはなりますしね。
店主は快く“椅子”を譲って下さいました。
その対価は幾らだったのか…と言うのは、秘密です。
それ相応だった、とだけ言っておきましょうか。
大切な大切な“妹”なので。
そして“妹”の自宅に伺います。
わたくしの自宅…と言っても良いのでしょうか。
殆ど居た事はありませんけれど。
持ち返った“椅子”――本物の方――を元に戻します。
まだ無防備に眠っていますわ。
余程疲れていたのでしょう。
やがて目覚めると、また申し訳無さそうな顔でわたくしを見ていました。
迷惑を掛けたと思っているのね。
内心で苦笑します。
わたくしは楽しませてもらったのですけれどね。
ああ無論、本当の事情は明かしません。
細かい事情は誤魔化して…可愛い“妹”には説明致しましたわ。
………………その時の“椅子”のレプリカはわたくしの深淵の部屋にあります。
諸々二級品になりますが――“妹”のものだと思えば、宝物になりますから。
【了】
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