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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


白紙

 境界現象、あたかも割れた鏡のように世界が分散する事柄。行方不明の兄を待つ少女の悲しみが鳴く世界もあれば、何事も無い平凡がお決まりな不幸が保たれている世界だって。そんな全てにIO2が虚無の境界がある興信所や編集部に馬鹿でかい学園と古びたアパートが、惑いか明確か疾走する中において、
 その異界は、更に異質である。

「なんでこの企画が通らんのやぁッ!」
 少女の叫びはある一室に木霊した。ある一室とはテレビモニターが蜂の巣のように巡らせている暗い一室。その映像は、橋から飛び降りる人が居て、白い服のホストが駆け回り、たこ焼きが売られ、ソースの二度漬けは禁止され、漫才。
 全ては街の様子である。東京というこの場所において、犯罪と人情が乱立する西の都の様相、だけど中には何故何故か、コントのセットに熱湯風呂、テレビで御馴染みの光景が……。
 この異界全てを掌握できる一室は、何かにより作られたのだから、勿論、意味はあった。意味は、「うちが徹夜こいて考えたっちゅうに……、なんでボツやねんっ!」「し、しかしですね局長」「なんやっ!?」
 まだ十代であろう少女に、プロデューサーらしき男は少しびびり気味。ですが、意を決して、
「確かに今までに無い企画ですが――」それがこの一室の意義、そして、
「《ムキっ!筋肉だらけの運動会》というのはちょっと」
「大人気は鉄板やて!イケる、てかイケすぎやん!」
 彼女の意義である。
 彼女の名前は鈴木恵、この一室があるバラエテ異界の象徴、異界の様子をそこら中に備え付けられた隠しカメラで受信し、そして番組として発信するテレビ塔TWO-TEN-KAKUを放送局としてゴーストTV、その主はこの若干十六歳であるショートの髪も勇ましい彼女、である。
 だがいくら局長だからと言っても、「その、乳と尻と違って筋肉はあんまり需要が……」「そんな事ないって、うちの友達に腹筋萌えな人がいたもん」「いや、だからそれは余り一般的では」「少数を殺すっちゅうんかい!」
 ――二〇分に渡る激論の末、
「じゃあ局長は上腕二等筋をマクラに出来るんですかっ!」「うっ」という感じで彼女は敗れ去った。暫し沈黙した後、アホーアホーと連呼して編集室から去って行く。呆れ顔の局員達から走って走って辿りついたのは、TWO-TEN-KAKUのてっぺん。バラエテ異界を全て見渡せる場所。ゴーストTVのロゴをあしらった白のジャンパーがばっさばさと揺れる。
「……絶対いけると思ったんやけどなぁ、何があかんかったんやろ、………なぁ」
 兄ちゃん――そう呟いた、その時、
(ハハハ☆お困りのようだな恵っ☆)
「あ、兄ちゃん!」
 突如大空というスクリーンに映し出された無駄に爽やかな青年のドアップ、へ、鈴木恵は声をあげた。
「兄ちゃん!兄ちゃんは何があかんかったか解ってるんっ!?」
(お前に足りなかったもの……それはLOVEだ☆)
「LOVE!」
(その通り!LOVEが世界を変えるのさッ!LOVEはビューチホーなのだっ!)
「わ、解ったわ兄ちゃん、うち今から企画練り直す、ってああもうすでに兄ちゃんがフェードアウトしてるぅっ!?兄ちゃあぁんっ!」
 そうだ、力だけでは世の中は変わらない、大事なのは愛、つまり筋肉と愛の融合ッ!「そこから、考えられる企画はっ!」

 【筋肉愛〜身体で語り合う男達〜】

「気持ち悪いわ!」
 一人ボケツッコミが響き渡る異界である。


◇◆◇


 ツッコミとは!通常とは違う見解、あるいは的外れの部分に対しッ!魂をこめて指摘する事であるっ!これが右角度四十五度の裏拳とともに放たれた時、唯の間違いは痛恨のボケに昇華され、またその間違いが計算天然関わらず素敵にボケていたのなら、8を横にして無限大ならくらいパワーを生み、それを目の当たりにした者は深夜番組の通販商品要らずで腹筋が鍛え上げられるのだっ!
「………」
 しかし一人ボケツッコミ、例えば《一人暮らしの19歳学生が深夜番組を見終えた後》とか対象が居ない状況でやると、虚しい静寂が待ってるだけで「……何やってるんやろうち」と軽い自己嫌悪に陥るので注意が必要である。あいたたたーと頬を掻く鈴木恵、であったが、
「恵の案はいい線行ってるよっ」
 突如声がした、それも自分が歩いてきた屋上へ通じる入り口がある背後からでなく、頭上からである。すわっ、天の声かと思って大急ぎで見上げれば、――確かにそれは神々しく。
 それは何処までも蒼い羽を、虚空にはためかせながら舞い降りた、天使。
 触れる事すら躊躇われる美しい羽、しかして、思わず抱きしめたくなるような可憐が、少女。名前は、海原みあお。
 夏の花のように咲く笑顔を浮かべながら、ふわり、と恵の前に目を閉じながら着地して、そして目を開いて、
「初めましてっ!あたしみあ」明るくファーストコンタクトをとろうと、したが、
 相手は後ろを向いて携帯電話していた。「ああ放送室かっ!?ちょっとはよ屋上にクルー寄越して、スクープやスクープ!《バラエテ異界の羽人伝説は真実だった!》っちゅう」
「あの〜」
「ほら今探検隊のロケやっとるやろ、くさや味のうまい棒はガセやったけど今度はほんま、ああ切るなぁっ!」
 狼が来たぞと叫び続けた少年の言葉は、やがて重みがなくなるらしい。携帯の受信が途絶えた音がした。憤る恵、その怒りをぶつけるようにっ、
「ほんまに今おるんやって!」
 誰に言ってるのか解らないが、そのセリフと共に振り返りながらみあおに指ビシィっと!
「……あれ?」
「どうしたの?」
 その時にはもう、みあおは羽を仕舞っていた。
「こ、こらー!証拠隠滅すなーっ!ってもしかして今までのメイクかっ!うちをドッキリにはめる気かッ!?」
「み、みあおはそんなつもり無いよー」
「ほな何たくらんでんねん!」
「だからぁ」
 そこでにこりと笑って、「みあおもテレビのお手伝いしたいの」
 その言葉を聞いた時点では、目を白黒するだけの恵だったが、「さっき恵の叫んでた筋肉も面白そうだし」
「ああ、やっぱ解ってくれる!?」
 同士をみつけたと感極まってガシィッ!とシェイクハンドする恵、そして手をブンブン。
「うん、見たこと無いもん!でも筋肉はやっぱりマニア向けだと思うから、深夜番組にした方がいいと思うの」
「うんうん!」
「そういうコア向けの番組を作っておいて、広く浅い一般向けの番組も作っておいて」
「うんうんっ!」
 中学生の意見に首を縦に振り続ける局長、恵もまだ16才であるが。
「王道で、今時のノリだったらやっぱり動物モノと人情モノだね。あと政治とか実弾とか」「実弾?」「お金の事〜」「さらっととんでもない事言ってへんみあお?」「っそれでね」「無視かいっ!」「バラエティだったら基本は罰ゲームとコスプレだね。とりあえずコア向けは恵がもう考えてるから、一般向けのを考えると―――」
 《動物モノ》の《クイズ番組(バラエティー)》で《賞金(実弾)》つけて、《ペット探し(人情モノ)》や《ペット自慢(罰ゲーム)》を入れて、アシスタントに動物の《コスプレ》を《日替わり(政治)》でさせる。
「って、なんでペット自慢が罰ゲームなん?」
「他人の自慢話はくだらないよ」
「ほな日替わりが政治って」
「セイキョクは日々変わってるってニュースのお姉さんが言うもん」
「それならOKやっ!」
「わーい!」
 恵すらボケ役に回った事により、乙女二人暴走中。


◇◆◇


【良い子の社会勉強番組〜働くおっちゃん〜】

♪華麗にくるりと串使うたこ焼き屋(たこ焼き屋)
  ひっくり返すの大変お好み焼き屋(お好み焼き屋)♪

♪応援熱すぎ暴走野球ファン(野球ファン)
  チケット買うよ売るよダフ屋(ダフ屋)♪

♪いろんなおっちゃんいるんやな〜
 いろんなおっちゃんいるんやな〜♪

♪睨む!がなる!働くおっちゃん♪

「さてと、」
 と、青空カラオケよろしく無表情ながら華麗に歌いきったのは、誰もが見蕩れる絶世の美女で、その奇行を後ろから冷や汗かいてみつめるのも、これまた絶世の美男である。美女はマイクを空中に放り投げて、どういう術かマイクを消滅させた後、淡々と正面に向き直り、
「という訳で今日から始まったこの番組なんですが」と続けた時、
「ス、ステラ様」
 ―――バラエテ異界における食の都DOU-TON-BORIにて
 我慢できなくなって絶世の美男、彼女の使い魔であるオーロラは、人の姿である時の喉で声を出した。聞く事はやまほどある。まずなぜゆえに自分達がこのコテコテな異界に迷い込んでるか、そもそもステラ様はどこに向かって喋ってるのか、さっきの歌の曲は何処から流れたというのか、いや、それすらも些細な問題かもしれない、何よりの問題は、
「一体何を始める気で」「ステラ様じゃありません」
 え?と顔で言葉を表したオーロラにステラ、「お姉さんです」「あの、仰ってる意味が」
 それ以上の問いかけは許さないとばかりに、
 ステラは何かを、オーロラに押し付けた。これは、
「……人形?」
 腹話術師が扱う本格的な物でなく、手にはめるタイプのパペット。赤い帽子をかぶって丸眼鏡をかけた男の子の人形をみつめ、戸惑うオーロラだが、ステラに早くしなさいと目で促されて、釈然としない侭装着完了した途端、
「わっ!?」
 いきなり頭を押さえつけられて、狼の時と同じ姿勢よつんばいに、「何をステラ様」「お姉さんです」「だから」
「お姉さんです、と言っているのですが?」
「……解りましたからヤジロベーを取り出すのはやめてください」
「よろしい、後それと」
 あのゆらゆらと揺れる憎い道具によって繰り出されるまだ誰も見た事もないお仕置きを思い出して凍った身を、急速解凍させて間もないオーロラに、二言目、
「お姉さんには敬語はいりません、無礼に馴れ馴れしくそれでいて可愛らしく無様な道化のように喋りなさい」
「………一体何故」
「最初に言ったではないですか」
 三言目、「これは新しい番組だと」
 ああ、なるほど。
 つまりはアレか。某教育番組で見かける間抜けな人形劇。
 あれも確かに、人形とお姉さんのやりとりである。しかし、
「働くおっちゃんって」
「今日も色々なおっちゃん達が汗水垂らして働いてますね」
「そ、そうだねーお姉さん」
 とりあえずノッておくオーロラ。さもなければ後が怖い。慣れない手つきで人形の口をパクパクさせて、
「ええとええと、あ、お姉さん、歌にもあった通りたこ焼き売ってるよー」
「全く食いしん坊ですね、オーロラは」
 名前はその侭なんかい。「おいしそうだねー、僕も食べたいなー。ねぇおねーさん買ってみようよ」
「何を言うのですか?消化器官を持っていない人形が」
 子供の夢をさらりと壊してるよ。
「さてオーロラ、記念すべき第一回目で紹介するおっちゃんは決まっています」
「だれだれー?教えておねーさん」
「このバラエテ異界の中心であるゴーストTVの局長、鈴木恵様です」
「あ、あれお姉さん、紹介するのは働く《おっちゃん》なんだよね?」
「いい所に気付きましたね。確かに恵様は女性です。しかしバラエテ異界の女性は年をとればもれなく関西のおばちゃんになって、おっちゃん顔負けにゲップをし睨みを聞かせ」
「お、おねーさん、偏った情報だよこれ」
「これはバラエテ異界の話です。他にもこの異界の特徴として、ラーメン屋のコショウは蓋が必ず緩んでいて、レベルの高い芸人の発言力は政治家並で、信号は青なら進め、黄色なら急げ、そして赤なら気をつけて行け。野球ファンは今回の優勝について聞くと《わしが応援しとったからや》と回答する確立が高く」
 バラエテ異界の話です。


◇◆◇


 鳴神時雨は唸っていた。
「どうやら大阪っぽいのだが……」
 辺りに溢れる関西弁に、東京とは違う独特の雰囲気、それにあそこにあるのは、有名な300メートル走選手のネオン看板。大阪である事に疑いの余地は無い、無いのだが、
「――大阪らしすぎ無いか?」
 意味不明の発言が漏れる理由、言葉どおり、大阪が強すぎるのだ。通りすがる人から察しても、彼等の格好は白と黒のストライプだったり、ギンギラスーツにばかでかい蝶ネクタイだったり、パンチパーマにバリバリのスーツだったり……。
 スシ、ハラキリ、ゲイシャという外人的なイメージの大阪版と言った所か。つまり何が言いたいかと言うと、ここは大阪であって大阪で無い、という可能性だ。迷い込んでしまった鳴神時雨、とりあえずは、
「状況の把握だな」
 某球団はとうに優勝してるので、飛び込むわけでも無いのにこんな所で突っ立っていてもしょうがない。緊張感は無く観光気分で歩き出す時雨、謎の外人が路上でシルバーアクセサリー売ってたり、カラオケの店員が問答無用でチラシを押し付けてきたり、綺麗なお姉さんがアンケートと称して個人情報を聞き出そうとしたり、まさに商売の都市、浪速情緒が世話無く漂っている。さて、何処から見て回ろうか、
 グー。
「………その前に腹ごしらえだな」
 と言っても河豚と蟹は高いし、たこ焼きだとおやつにしかならず。お好み焼きがいいかもしれないが、ごはんと同時に出された絵を想像するとためらってしまう。他に大阪らしい食べ物と言えば。空腹に手をあてながら彷徨う鳴神時雨、の横目に、ふと、
「串カツか」
 食に造詣の深い時雨は知っている、店に入って隣の人と肩が擦り合うくらいに敷き詰められた椅子に座る。目の前で串にさした種をカラっとあげてその侭出すスタイル。早速二三本注文。串カツとはこの場合安い牛肉の事を言う。合間合間にキャベツを食べて胃のムカツキを防止する。主な種はアスパラガスやタマネギ変り種でシュウマイ等。ビールをあおってる内に油きりの上に並べられる香ばしい串カツ。一本手にとって目の前に置かれたアルミ製の小箱に満たされた店の秘伝のソースにドボっとカツを漬け込む。そして食う。
 ふむ、と唸る味である。揚げ物であるのにすぐ次に手がでる。焼き鳥と同じ勘定システムで、串は目の前の竹筒に入れていく。
 串カツの味の要はソースだ、こんがりとあがった衣にじゅうじゅうとソースを染みさせて、一口で頂いてもらいたい。そうすれば口の中に幸福が広がるのを約束する。なおソースは客達が共有して使う物、なので、「これはうまいな」
 ソースの二度漬けは厳禁である。
 ドボ、っと。
 時雨もその事は知っていた、知っていたのだが庶民の美味に囚われてうっかりしていた。禁を犯してしまった時雨。しでかしてしまった、と冷や汗を一粒流す時雨。
 だがその後の展開は飛躍していた。
 警報が鳴ったのだ。
「な!?」
 サイレンと共に店内が赤く点滅し、騒然とし始める、冷や汗を更に二粒程追加した時雨、を、
 後ろから二つの腕が。「何っ!?」
「おんどらぁっ!ソースの二度付けは条例で禁止されてるんやぞ!」右後ろの声に振り返ればそれは景観、微妙に帽子がずれている。そして左後ろは、「はい、はい、確保いたしました。これから連行致します」やけに淡々としていて。そして、時雨を問答無用で引きずり出す。余りの事に呆然としてた時雨の身体は運ぶのが楽なのか、警報が鳴って間もない内に彼は店外へと排除された。
 そして、静寂が戻る店、で、「あいたー、あの男大変やなぁ」「せやなぁ、俺の友達も前処罰受けて泣きそうなった言うし」「処罰って金か?」「いや、売れへん芸人の二時間ライブを見せる」「そりゃ苦痛や」
 と、名も知らぬ男の心配を少しだけした後さっさと忘れ、「兄ちゃん、ウィンナーとチーズ」と注文をした時、
 ドゴォッ!
「……ん?」
 店の外から何やら激しい音が。

 ―――原因は言わずもがな、時雨である。

 変身、完了。
「ついうっかりやってしまったが……」
 時雨よりヴォイドに。
 それは銀の仮面と身体に姿を変えて、多種多様のアタッチメントアームを振るう戦士。なのだが、
 《重力制御》で市民の手本となるべき警官をDOU-TON-BORIダイブさせたのはまずいだらうと自己批判。いや、だって捕獲の為に回した腕が脇にくすぐったもんだから。
 溜息をつく時雨、とりあえず周囲の好奇の目から逃れて、変身解除してからけつねうろんでも――
「た、隊長発見致しましたッ!」
「成る程、我々はついに辿り着いたのだな」
 ……好奇な目を送っている周囲の中で、何やら熱い視線を自分に送る集団が。
 それはぶっちゃけ探検隊であった。サファリジャケットにリュックサック、この街のどこをどう歩いてそうなったというのか汚れた顔、その戦闘に居る人物は、
「この未開の異界に突入してから四十日、我々はついに目的である仮面の部族ライゥドアに遭遇する事が出来た」
 なんか自前でナレーションいれてる、眉毛の濃い隊長っぽい人。てかここ未開でも無いだろ。
「よし、俺が接触を試みてみる」
「隊長!気をつけてくださいっ!」
「聞いた所によると仮面の部族ライドゥアは、好戦的な部族。我々が握手やキス等で会話をするように、彼等は肉体で己達を通じ合わせるという」自前ナレーション、その二。
「ならば、俺の痛恨の一撃を受けてみよってあべしっ!」
「た、隊長ぉぉうっ!」
 三人目のダイブ。今度はいきなり日本刀取り出して斬りかかって来たのだから正当防衛だが。「なんなんだ一体……」
 いい加減頭が痛くなってきた時雨に、隊員の一人が歩み寄って、
「ちょ、ちょっとあんた何やってんすかッ!お約束って奴を守ってくださいよ、夜寝てる時には蛇が出て、川があったら溺れるの!」
「何の話だ何の」
「何の話って、そんな格好にメイクまでして待ってたんだから解ってるでしょ?」
「いや、メイクでは無いのだが」
 全員がえ?と頭上クエスチョンマークを浮かばせて。仕方ないと時雨、
 目の前で変身を解いてみせる。現れる精悍な顔つき。
 呆然とする隊員達、それを眺めて、もういいかと時雨そこから去ろうと、
「た、隊長だぁっ!」
「な?」
「その力強い顔ッ!逞しい身体っ!何よりも物事に動じぬ勇気!」勇気を見せた覚えは無いのだが、「貴方こそ新しい隊長です!」
「いや、ちょっと待て、俺は探検などしてる暇はな」
「隊長!」「隊長」「隊長ぉぉ!」
 こうして一人の隊長を失った探検隊だったのだが、それ以上の男を迎えたのだったッ!この新しいリーダーと共に、彼等は何処へ行くのだろうへぶっ
「何を空に出て語ってるんだ貴様は」
(す、凄いなぁ時雨さんは、所詮幻である僕に石を投げてあてるなんて☆)
「久しぶりに出会ったが、無駄話はどうでもいい。質問に答えろ」
(ウェンズデー特別!時雨探検隊は刻の涙をいてていてて凄いな時雨さんは幻にコブラツイいやギブギブ恵助けてくれー☆)
「キャラ変わってないか貴様」


◇◆◇


「探検隊変な方向へ行ってますねぇ」
「だが、こっちの方がアリじゃないか?正直あの隊長じゃ頼りなかったしなぁ」
「隊員を含めて、毎回隊長を募集するというのはいいかもしれませんね」
 ゴーストTVの番組作成方法は二つある。一つはこの異界に張り巡らしたカメラが切り取った風景を編集加工した物。もう一つがあらかじめ企画をして撮影する物だ。前者ならステラが突発でやった働くおっちゃんであるし、後者は言うまでも無く探検隊、あと、スタジオ収録の物が含まれる。
 どちらにしろ画を編集するのは、冒頭にも記した通りモニターが網羅されたこの部屋である。これからのゴーストTVの方向性もしばしば行われる重要な場所だ。ある意味で、神聖的なこの部屋に、
 乙女二人雪崩れ込む。「プロデューサーッ!」「うわ!?局長いきなり入ってこな、……その娘は?」
 見慣れない少女に指差すプロデューサー、に、「みあおでーす!よろしくねっ!」「は、はぁ」
 局長の友達かなぁとか思ったプロデューサー、だったが、
「今度の人事で企画部特別顧問にするさかい」「えーっ!?」
「なんや?ハトが豆鉄砲くらったような顔して?」
「しますよ局長ッ!何をご乱心してるんですかっ!」
「ご乱心ちゃうわ、みあおっ!あの企画をこの分らず屋に見せたって!」
「うん!」
 そう言って二つの企画書を手渡すみあお。「……はぁ、動物のクイズ番組ですか。まぁ無難なアイディアと言えますね。で、もう一つの方は」
 ――四秒後
「だから筋肉はやめてくださいってッ!」
「えー?深夜番組だったらコアな人が見ると思うんだけど」
「コア過ぎるんですよ筋肉はっ!だいたいなんですかこの筋肉愛コーナーってッ!」「えっとねぇ、ムキムキのマッチョさんを二人用意して、オイル」「いやぁ!それ以上は言わないでッ!汗臭い、汗臭いからぁ!」
 なんか凄い物を想像して、左右に揺れるプロデューサー、彼がこの仕事に耐えかねて局を去るのはまた別の話である。「ちゅう訳で、うちらは即急に筋肉を求めてる訳やっ!一人は某ムキムキ芸人を使うとして、あと一人やねんけど」
「いい身体持ってる人っていないからねー」
 みあおさん、13歳でそのセリフは危険です。
「せやなぁ、おいそれと転がってるもんでも」
 その時、
 その時彼女はモニターを見たのです。モニターには、
「みつけた」
 ちょうど川を(おばちゃんの大群を)乗り越えようとしてた、探検隊の隊長にピンポイント。


◇◆◇


「さて、局長にインタビューをする前に」
 そう言って、人形には食えない外はカリッ!中はとろとろぉの熱々たこ焼きをほうばりながら、人形劇のお姉さんは、「バラエテ異界について少し紹介しましょう」
「わー、知りたい知りたいお姉さん」
 人形役も堂が入ってきたオーロラ、半分ヤケクソだが。
「まずこの異界で、私達のような訪問者が関西弁の場合は優遇されます」「優遇?」「ええ、あたかもカード特典のようにです。関西弁を操れる者は、何も無い所からハリセンを取り出し、KAN-JOU-SENは乗り放題です」「電車乗り放題は確かに魅力だねー」
「その他にも色々あるのですが、それはとりあえず置いときまして」
「……でもおねーさんは、なんでそんなにバラエテ異界に詳しいの?」
「置いときまして」
「置いとくんだ」
「大阪の名物といえば、皆たこ焼きを思い浮かぶと思いますが、それに負けないくらい関西で有名な食べ物を知ってますか?オーロラ」
「えー知らないよーおねーさん、なになにー?」
「それはGO!GO!壱のブタまんです」「へー、中華なんだ」「ええ、関西のおばちゃんはこのブタまんを並んで買ってくるのです。冷凍しとけば何時でも食べれます」
「美味しそうだなー、僕も」
「人形が何を」
「ごめんなさい」
「よろしい、では次に」
 などととめどなくトークを続けるお姉さんとお人形、であったのだが、
「隊長ぉ!ついに発見しましたっ!」
 え?とオーロラが素に戻って振り返ると、そこには、見慣れてる物と見慣れてない物の同居、見慣れてる物は、「し、時雨さん?」であるが、見慣れてないのは、
 なんですかそのアマゾンに突入しそうな格好は、と、とにもかくにも問いただそうとするオーロラ、に、
「ついに我々は狼男を発見したのだった」
「えぇぇぇっ!?」
 いきなりナレーションみたいな事始める時雨さん、「な、何を言ってるんですか時雨さん、一体」
「ギャラがもらえるのと、ソース二度漬けが無罪放免になるからな」
 さっぱり意味がわかんねぇ、オーロラ、「ス、ステラ様」困って主人に頼ろうと、
『おねーさん、あの人達はなんなのー?』
「良く気がつきましたね、あれは探検隊といって未知の生物という男のロマンを追い求める方達です」
 ステラミラ、自分の手に人形はめて演技。(腹話術
「私の意味は一体!?」「声が、遅れて」「聞こえてきてるっ!?」
 気まぐれな主人に翻弄される使い魔さん。げんなりとその場に肩を落とした時、時雨が近寄ってきて、「とりあえず、さっさと狼の姿になって、何処かへ走り去れ。あとはナレーションが締めてくれるからな」「……ステラ様といい貴方といい、順応しすぎかと」
 だがここは素直に言う事に従った方が良いだろう、オーロラ、もう一度溜息を吐いてから姿を戻そうと、
 した瞬間、バサァッ!「「!?」」
 突然二人はまとめて網で包まれこんがらがりッ!罠にかかった隊長、「な、演出か?」と上を見れば、
 天使が浮いていた。みあおである。「……何をしてるんだ貴様」
「えっとね〜、恵はマッチョの捕獲は姑息な手段だって」
「……なんなんでしょうかそれは」
「とりあえず、嫌な予感がするな」
 捕らえられたリーダーに、隊長隊長と叫ぶ声が響く中、みあおは、「それじゃ恵!さっそく連れて帰ってオイル風呂の用意」
 そう、物陰に隠れていたはずの恵を見た時、
 彼女も網の中に。「えぇぇぇっ!?」
「はうあ!?しもたぁ、レタスサンドとミックスジュースがおぼんにのってたさかいついうっかりぃ!?」一体誰がこんな罠をっ!
『はじめましてきょくちょうさーん』「初めまして」
 この人の所為だった。「え、あ、こりゃどうも」
「という訳で働くおっちゃん第一回、局長インタビューを行おうかと」その場に正座して、どこからか用意した紅茶をすするお姉さん。面を食らう鈴木恵。どうしようかなと悩むみあお。そして、「と、とりあえず出ないと」必死でもがくオーロラと、
「あれがテレビの局長か」「って時雨さん!?」《ブレイカー》でさっさと脱出した時雨。
「すいません、何故私はこの侭に」
「狼男を捕獲した方が、数は取れそうだしな」「……そういう問題じゃ」
「ああ駄目ぇっ!その人はみあおの番組に使うから駄目ぇ!」
「早い者勝ちだ、同じ物は二つとない」
「やだ!みあおは絶対筋肉番組を完成させるんだもんッ!それに狼だったら、動物クイズにも使えるしね」
「しかし、この状況だと隊長の立場上、貴様も捕獲しなければ」
 だんだんと混沌としてくる撮影現場、天使と隊長が口喧嘩して、局長はようやく誰がおっちゃんやねんと突っ込んで、オーロラは未だ網に囚われて、野次馬や隊員達もピーピーギャーギャーで。
 全く収集のつかない事態、で、
 突然ガタガタと世界が揺れた。「え、地震?」
「……ああそういえば、バラエテ異界の特徴ですが」
「ステラ様?」
 網目から主人に、訝しげに声かければ、
「事態が進展して、特に何もオチが見つからない場合」
「いや、オチって」

 爆発します

 ………、ええと、
「コントみたいに?」とみあおが呟きながら空へ飛行して、時雨が《キャンセラー》で探検隊も守りきる盾を形成し、ステラが恵含む野次馬と共に瞬間移動した刹那、「え、あの、私は」
 辺り一体はものの見事に爆発したそうじゃ。(爆発落ち





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
1057/ステラ・ミラ/女/999/古本屋の店主
1323/鳴神・時雨 /男/32/あやかし荘無償補修員(野良改造人間)
1415/海原・みあお/女/13/小学生

◇◆ ライター通信  ◆◇
 爆発でオーロラはんはアフロったかと。(えー
 ……ほんまは全員アフロなオチとかも考えたんですが、そこまでアフロにこだわるとイロモノ作家としての烙印が。あ、近々アフロンジャーというシナリオを予定してます(駄目じゃん
 ちゅうわけで初の異界作品となる依頼に、参加いただけておおきにでした。まだまだ発展途上のシステムではありますが、生暖かく見守っていただければありがたいです。
 なお今回時雨のプレイングにより、探検隊という番組を作ろうかなぁと(決定ちゃうんか)。近々異界にある番組表を更新しときますです。
 あと、余談ですがうちの異界の設定で、シチュノベ発注してもらってもかまいまへんです。(ここで宣伝かよ)番組とかそんなの。
 ステラミラのPL様、今回のプレイングはおもろかったですー、異界の解説役もかってでてもらって感謝しきりで。……というかオーロラあんな扱いですいまへんです;なんとなく三下の香りがして(こら
 時雨のPL様にはいつもご贔屓にしてもらっておおきにです。探検隊って番組はそいや考えてなかったなぁと。今後の異界に生かさせてもらいます。
 みあおのPL様、恵と積極的に絡んでいただけておおきにでした。恵は初のNPCやったので登用は正直不安があったのですが、NPCを使うというプレイングをみて、やっていけそうかなぁとか思ったりで。どもでした。
 んでは今日はこのへんで、ほなまたよろしゅうお願い致します。