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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


茸正月
●序
 世の中には様々な年の越し方がある。コンサートでアーティストと一緒にカウントダウンをする人もいる。家でのんびりテレビを見ながらそばを食べる人もいる。神社におまいりに行く人もいる。
「もうすぐ年が明けますねぇ」
 にこにこと笑いながら、木野は傍らにいるキャサリンに話し掛けた。赤い傘に白の体をしたキャサリンは、嬉しそうにぴと、と木野にくっついた。
「こうして、二人きりで年を越すのもいいですよね。のんびりとして」
 木野はそう言い、すっと立ち上がった。キャサリンは木野が動いたのを知って、慌ててぴょーんと跳ね上がった。勢い良く、木野の鳩尾に突っ込む。
「ぐほっ!」
 咳き込み、その拍子に危うく飛び出しそうな眼鏡を何とか押さえつけ、木野はキャサリンを抱き上げた。
「どうしたんですか?キャサリン。……怖いのですか?」
 ぷるぷる、とキャサリンは震えた。木野は苦笑し、優しく抱きしめた。
「そりゃ、この研究所が不思議な位置に来ちゃったから怖いのかもしれないけど……大丈夫ですって」
(この裏山は、豊富に茸があるし)
 にっこりと木野は笑って諭し、心の中でそっと付け加えた。
「ほら、もうすぐ除夜の鐘が鳴るんじゃないですかね?いつもとは違う、鐘の音が」
 ちらりと時計を見て、木野はそう言って再び座りなおした。それから、目線だけ戸口の方に向けた。何となく、人の気配がしたと思ったのだ。
(折角の正月だし……平和に過ごしたいですねぇ)
 木野は心の中で呟いた。腕の中に、キャサリンを抱きしめながら。

●年越し前
 守崎・啓斗(もりさき けいと)は緑の目を真剣に光らせ、何かを作っていた。その真剣な眼差しとは何とも似つかわぬ、赤い桜柄の振袖を手にし、小さく笑みすら携えている。
「……一年とは、経つのが早いな」
 小さく呟き、それでも作業の手は止まらない。一年のラストスパートをかけているかのように、ただただ真剣な眼差しで作業を進めている。
「思えば、家計を助ける為と思っていた……いや、それは今でも変わってはいない」
 ぴっ。糸を切る。ばさっと広げ、出来具合に小さく頷く。
「完璧だな」
 啓斗は再び頷く。振袖にしては、妙に小さく不思議な形をしていた。確かに振袖の布地なのだが、形が違った。人間が着るとは思えぬ形と、大きさ。
「よし、あとは荷物を詰めるだけだな」
 満足そうに微笑み、啓斗は鞄に様々なものを詰め始めた。先ほど完成した振袖もどきも、きちんと綺麗に詰め込む。きゅっと締めると、ぱんぱんと軽く叩いて形を整えた。
「兄貴、何しているんだ?」
 準備を済ませたあたりで、ひょっこりと守崎・北斗(もりさき ほくと)が顔を出した。青の目がじっと不思議そうに啓斗を見つめる。
「準備だ」
「準備?何のだよ。もう少しで年明けちゃうじゃんか。そば食べようぜ、そば」
「相変わらず食欲旺盛な奴だな」
 啓斗は小さく溜息をつく。
「え?兄貴どっか行くのか?神社?それより前にそばが……」
「そばを食べたら、出かけるぞ」
「え?何処に?」
 不思議そうに北斗は首を傾げた。啓斗は何も答えぬまま台所に向かい、そばをゆで始めた。ぐつぐつとゆであがってくるそばに合わせ、出汁も温めておく。
「早く食べろ。でないと、置いていくからな」
 自分の分量の二倍はあろうかという丼を北斗の前に置き、啓斗は自らのそばに手を付け始めた。
「置いていくって……」
 北斗は丼の前で手を合わせ、「いただきます」と呟いてからそばに取り掛かる。ものの五分もせずに、それはなくなってしまったが。啓斗は手早く片付け、鞄を手にとって戸締りを確認していく。
「兄貴、神社にお参りにでも行くのかよ?」
「違う。もっと良い所だ」
 啓斗は小さく笑い、北斗を促して玄関に鍵をかけた。ほう、と吐く息は白い。
「もうすぐ年が明けるな」
 ごおぉぉん、と鐘の音が鳴り響く。いつしか聞いた、鐘の音とはまた違う音だ。
「まったく、そんな中何処行くんだよ?」
「……ほか……いや、挨拶にな」
 啓斗は何かを言いかけ、慌てて言い直す。
(正しくは、捕獲)
 啓斗はそっと小さく微笑んだ。隣にいる北斗に分からぬように。
「……兄貴、その荷物は何なんだよ?」
 北斗が訝しげに啓斗の持っている鞄を指差して尋ねる。妙に大きな鞄だ。挨拶に行くだけならば、一体何を入れているのかと聞きたくなるほど大きな鞄。
「着いてからのお楽しみだ」
「着いてからって……あれ?ここって……」
 ふと前方に見える建物に、北斗は呟く。以前来た不思議な世界の一部だと、気付いたのだ。そうして、建物には『茸研究所』という表札がかかっている。
「茸研究所……って、兄貴?」
 恐る恐る北斗が尋ねると、啓斗は何も言わずにただ小さく笑った。北斗は何も言えずにただただ黙った。
 びゅう、と風が吹き、二人の茶色の髪を揺らすのも全く気にならなかった。

●年明け
 ピンポン。何もためらう事なく、啓斗は研究所のチャイムを押した。すると、中から木野の「はいはい」という呟きと共に小さくドアを開けられ……ぱたん、とまた閉められた。
「生意気な」
 小さく啓斗は呟き、力任せにドアは開けた。
「何で閉めるんだ?」
 不思議そうに木野を見ながら、啓斗は尋ねた。木野の目は何故か怯えを含んでいる。
「兄貴、何かやらかしたんじゃねーの?」
 半ばからかうように悪戯っぽく目を光らせ、北斗が笑った。
「あら、啓斗君に北斗君じゃないの」
 ふと声をかけられてそちらを見ると、そこには黒髪に青の目を携えたシュライン・エマ(しゅらいん えま)が座っていた。啓斗と北斗は揃えて口をあける。
「シュラ姐」
「明けましておめでとう御座います」
 シュラインが正座して頭を下げると、啓斗が半ば慌てたように正座し、頭を下げる。それにつられたように、北斗も頭を下げた。
「明けましておめでとう御座います」
「おめでとさん」
 とりあえずの挨拶を済ませると、啓斗はぐるりと室内を見回してから一つの場所に視線を集中させた。キャサリンの所だ。そっと近付き、微笑む。
「逢いたかった……キャサリン。この前は逢えなくて寂しかったよ。元気そうで何よりだ」
 まるで久々に会った恋人に対するような物言いだ。シュラインも北斗も、そして木野も呆気に取られる。
「ピンピンしていてくれないと、売れないからな」
 ぼそり、と啓斗は呟く。その呟きに、キャサリンの体がびくりと震える。勿論、啓斗はそんな事はお構いなしだ。
「シュラ姐、兄貴ってあんなんだっけ?」
 北斗が口をぽかんと開けたまま、シュラインに尋ねる。
「まるで別人に見えるけど……あんなんだったかしら」
 シュラインも首を傾げた。北斗はふとキャサリンを見つめる。
「そういや、噂では聞いてたけど初めて見るんだよな、歩く茸。確かにでけーな」
 北斗はそう言いながらキャサリンに近付く。キャサリンがびくりと体を振るわせる。まるで啓斗が二人になったかのように思えたのかもしれない。
「なぁなぁ、これって喰えるの?」
 北斗の質問に、その場が固まった。木野はぴくりとも動かず、キャサリンも震わせていた体をぴたりと止める。啓斗だけが平然としている。シュラインは慌ててキャサリンに近付き、抱き上げる。
「もう、馬鹿な事言わないの!ほら、キャサリンちゃんがおびえているじゃない」
 ブルブルと奮えるキャサリンを、よしよしとシュラインは撫でた。啓斗は北斗に「今そんな事言ったら警戒するだろう?」と嗜めた。北斗は「そっか」と呟き、納得した。全ては此処から始まる、と啓斗は小さく微笑むのだった。

●集合
 ピンポン、再びチャイムの音が鳴り響いた。木野は半ばふらふらとしながらドアに近付き、ドアを開けた。
「……お疲れ様です」
 ぺこり、と木野は来客に声をかけ、それから他の来客にも中に入るように促した。
「おお、皆さん揃っておられるのですな」
 入ってきたのは、護堂・霜月(ごどう そうげつ)であった。網代笠の奥にある銀の目で、中をぐるりと見回す。それに続き、黒髪を結い、着物で着飾った藤井・葛(ふじい かずら)が緑の目でやはりぐるりと見回し、続けて緑の髪に袴姿の藤井・蘭(ふじい らん)が銀の目でぐるりと見回した。
「あら、明けましておめでとうございます」
 シュラインは三つ指そろえて頭を下げる。
「明けましておめでとうございます」
 シュラインに倣ったように、続けて啓斗が頭を下げた。何故か目はキャサリンを捉えたままだ。
「おめでとさん」
 軽いノリで、北斗が続けて言った。不思議と人間が集まるものだと、妙に感心をしてしまう。
「明けましておめでとう」
 ぺこり、と葛が頭を下げると、蘭がそれを見てにっこりと笑う。
「あけましておめでとーなの」
 いまいち挨拶の意味を理解していないのかもしれない。
「護堂さん、手は大丈夫ですか?」
 心配そうに木野が霜月に尋ねた。
「そうだ、大丈夫なのか?」
「大丈夫なのー?」
 葛と蘭も、続いて心配そうに霜月の手を見つめた。シュライン・啓斗・北斗の三人は首を傾げる。
「護堂さん、108回も正拳突きで除夜の鐘を鳴らされたんです」
 木野が言うと、三人が顔を見合わせた。霜月はくつくつと笑う。
(笑い事か?……だが、いい修行になるかもしれんな)
「そんな、108回如きでどうにかなるような手はしておりませぬぞ」
 霜月は笑うが、啓斗の顔は複雑だ。修行になるか否かが微妙だ。
「そうだわ。今から初詣に行かないかしら?近くに神社があるのを見つけたの」
「ほほう、初詣……」
 シュラインが提案すると、何故か啓斗がちらりとキャサリンを見た。キャサリンの体が再びびくりと震える。
「あ、キャサリンだ。元気だった?」
 びくりと震えるキャサリンに、葛は微笑みかけた。すると、キャサリンの震えが少しだけ緩和された。
「キャサリンちゃん、お正月なのー」
 にこにこと笑い、赤い笠を撫でながら蘭が言った。完全に震えが収まる。
「じゃあ、皆で初詣に行こうぜ」
 よいしょ、と小さく呟きながら北斗が立ち上がる。それにつられ、座っていたメンバーも立ち上がる。
「シュラ姐、俺がキャサリンを連れて行きたいんだが」
 そっと手を差し出し、啓斗が進言した。が、それは却下される。
「駄目よ、啓斗君。早い者勝ち」
 にこにこと笑いながら言われると、もう何もいえない。啓斗は小さく舌打ちする。
「そう言えば、寺と神社のフルコースになりますなぁ」
 ぼんやりと霜月が呟いた。108寺の鐘を撞き……もとい突き、今度は神社。宗教が不思議に入り混じっていると霜月は苦笑する。
「まあ、いいじゃないか。年に一度の行事だし」
 葛はそう言いながら持ってきたものを冷蔵庫に納めた。蘭も背負っていた熊のリュックを置き、「はつもうでー」とはしゃぎながらドアノブに手をかけている。
「願い事はしっかり決めとかないとね」
 シュラインはそう言って笑った。キャサリンも、少しだけ体を揺らすのだった。

●初詣
 神社は、こぢんまりと佇んでいた。人がいる訳でもなく、ただただそこに何かしら祀っているのであろうという程度の、神社。
「さて、お参りしないとね」
 シュラインはキャサリンを下に降ろし、賽銭を投げて鈴を鳴らし、拍手を打ってから祈る。それを見て、他のメンバーも続いて賽銭を投げて鈴を鳴らし、拍手を打つ。
 そんな中、一足先に祈り終わった北斗がキャサリンを持ち上げた。意外に軽い。
「うーん、見れば見るほど立派な茸だな」
「そうだろう?立派なもんだ」
 いつの間にか、啓斗も祈り終わって北斗の持っているキャサリンをそっと見つめている。
「前さー、マッシュルームをバターで焼いたら……美味しかったよな」
「そうだな」
 危うい双子の会話に、葛は慌てて北斗からそっとキャサリンを奪う。
「駄目だって。食べたら、可哀想じゃないか」
「キャサリンちゃん、怯えてるのー」
 蘭も葛に加勢する。が、啓斗と北斗は顔を見合わせて小さく笑う。
「別に食べるとは言ってねぇって」
 北斗の言葉に、啓斗も頷く。
「ですが……食べる気満々でしたなぁ」
 祈り終わったらしい霜月も口を挟む。葛の腕の中で、ぶるりとキャサリンが体を震わせた。
「そんな事は無い。俺はキャサリンが大好きだからな」
 啓斗がにこやかに笑って言う。が、目は笑っていない。
「んもう、物騒なんだから」
 祈り終わったシュラインが「めっ」と言いながら啓斗と北斗を軽く睨んだ。そして、一同は気付く。木野が未だに祈っている事に。そっと近付くと、木野は「茸を……茸を是非!」とブツブツと呟きながら強く念じていた。どうやら、未だに茸に囲まれる夢は捨ててはいないようだ。
「そうだわ、皆で写真とらない?」
 シュラインはそう言ってポケットからカメラを取り出す。それを霜月がそっと受け取る。
「では、私にお任せくだされ。べすとしょっとを撮って見せようぞ」
「ああ、でも護堂さんが写れないじゃないか。順番に撮るとか?」
 葛が尋ねると、霜月は首を振り、にやりと笑う。
「かめらのせっとした所から私の写る場所までは、一瞬で移動できますから大丈夫ですぞ」
 霜月はそう言うや否や、カメラを安定した所にセットして覗き込み、大丈夫な事を確認してからタイマーを押した。そして、まさしく瞬時に移動した。
「おお」
 皆の中から拍手が生まれる。目線はカメラに向いたまま。そして、一枚撮れる。
「写真、とれたのー?」
 蘭が尋ねると、葛は頷く。蘭はにこにこと笑ってキャサリンに「よかったのー」と話し掛けた。
「そうだわ。キャサリンちゃん」
 シュラインはそう言って、パシャリと一枚キャサリンだけを撮る。そして妙に嬉しそうににっこりと笑った。
「本当に可愛いわ、キャサリンちゃん」
「本当だな。可愛すぎて、連れ去りたくなるな」
 限りなく棒読みで啓斗が頷く。北斗はぽん、と啓斗の肩を軽く叩く。
「兄貴、諦めてはいないんだな」
 北斗の言葉に、こっくりと啓斗は頷く。
「じゃあ、帰りますかな。無事お参りも記念撮影もできましたしな」
 霜月が言うと、皆が再び茸研究所の方に向かい始めた。と、葛が何かに気付いて声をかける。
「木野さーん?帰るぞ?」
「え?……あ、はい!」
 向こうから、木野が慌ててやってきた。木野はどうやらずっと祈願していたようだ。動く巨大茸に囲まれるという夢をかなえるために。
「帰ったらー皆で遊ぶのー」
 にこにこと笑いながら蘭が言った。そうして再び、茸研究所へと向かうのだった。

●正月
 茸研究所に帰ると、葛が人数分の雑煮を下拵えして持ってきた具と共に作り始めた。それをシュラインが手伝い、持ってきたおせちも用意する。
「俺もおせち持ってきたけど……多かったかな?」
 葛が持ってきたおせちのお重を出しながら言うと、シュラインははたはたと手を振る。
「大丈夫よ。一杯食べる人がいるから」
 ちらり、と北斗を見ながらシュラインは言った。北斗はどうやら寝正月にしようとごろりと寝転がっており、シュラインが何か言った事に対して「ん?」とだけ聞き返してきた。
「ウチではきな粉餅とかも作るけど……まあ、それはあとでもいっか」
 葛は小さく呟き、きな粉を冷蔵庫に納めた。
「あのねー、ご飯食べたら皆で遊ぶのー」
 蘭は嬉しそうに熊のリュックから様々なものを取り出し始めた。羽根突きのための羽子板と、羽と、筆と墨汁。
「これで丸を描くのー」
 妙に嬉しそうに、筆をふりふりと振る。
「負けませぬぞ!」
 そして、霜月は妙に本気の目で羽子板を見つめている。
「……キャサリン」
 そんな中、啓斗は鞄をそっと引き寄せ、キャサリンに話しかけた。キャサリンの体がぴくりと震える。
「今日はプレゼントがあるんだ。……シュラ姐のも素敵だけど、これも着てみて欲しいんだ」
 鞄の中から出てきたのは、赤い生地に桜模様の振袖だった。
「……赤に桜って……兄貴の嫌いなもんのオンパレードじゃねーか」
 寝転がっていた北斗は起き上がり、小さく呟く。
「あら、可愛いじゃない」
 赤い桜模様の振袖を着せられているキャサリンを見て、シュラインが言った。思わずポケットに入れておいたカメラで写真を撮る。
「赤い笠に赤い振袖が映えるんだね。綺麗じゃん」
 葛も感心したように言う。
「綺麗なのー。可愛いのー」
 きゃっきゃっと蘭もはしゃぐ。
「綺麗だよ、キャサリン」
 限りなく棒読みの、声。
「何処に出しても恥ずかしくないくらい似合ってるよ」
 にっこりと、啓斗は笑った。そして、他の誰にも聞こえないようにそっと「売り飛ばす市場にな」と付け加えた。途端、突如キャサリンは駆け出して木野に飛びついた。啓斗は小さく「ちっ」と舌打ちする。
「あのさ……」
 突如、ごそごそと啓斗の持ってきていた鞄を漁っていた北斗が口を開く。
「兄貴、やっぱり今年も茸に萌えるのかな?」
 鞄の中から取り出したのは、啓斗が自分用に縫ったらしい振袖と、収穫網。振袖はともかく、収穫網は……。
「いやはや……キャサリン殿はいつしか捕らわれるかもしれませぬなぁ」
 しみじみと霜月は呟いた。それから、皆が啓斗とキャサリン、そして木野を交互に見つめた。きっと今年も、戦いが起こるのだろうと思いながら。

●新年
 皆が茸研究所を後にしたのは、おせちと雑煮を堪能してからであった。それぞれが自らの家路についていく。
「今年こそ、目指せ栽培、だ」
 ぐっと拳を作り、啓斗は呟く。北斗は隣で苦笑する。
「そりゃいいけど……ほどほどにしねーと」
 啓斗はそれに対してただ笑顔だけ返した。今年の目標を、心の中に定めながら。

 茸研究所では、キャサリンと木野が二人でこたつに入り、うとうとと眠っていた。嵐が過ぎ去ったかのように、今は静かな時間だけが流れる。
「明けましておめでとう……」
 ぽつり、と木野が呟いた。キャサリンに聞こえたか聞こえていないのかは定かではない。だがしかし、確かにその呟きは研究所内に響いていったのであった。

<新年の始まりを感じながら・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所の事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗 / 男 / 17 / 高校生(忍)】
【 0568 / 守崎・北斗 / 男 / 17 / 高校生(忍)】
【 1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999 / 真言宗僧侶 】
【 1312 / 藤井・葛 / 女 / 22 / 学生 】
【 2163 / 藤井・蘭 / 男 / 1 / 藤井家の居候 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。そして明けましておめでとう御座います。霜月玲守です。この度は「茸正月」にご参加いただきまして、本当に有難う御座いました。如何だったでしょうか?
 今回は事件も危ない事も何もなし、ただただ茸研究所で正月を過ごそうという企画でした。のんびりと進んでいくのも結構楽しいなぁと思いました。また機会があれば、やろうと思っております。
 守崎・啓斗さん、いつもご参加有難う御座います。今回はキャサリンを口説いて口説いて口説きまくってもらいました。茸の事となると人が変わる啓斗さんが素敵でした。木野はどきどきでしょうが。
 今回の話も、少しずつですが個別の文章となっております。お暇な時にでも他の方の文章を読んでくださると嬉しいです。
 ご意見・ご感想等心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。