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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


落ち着けモチつけ米をつけ!!

------<オープニング>--------------------------------------
新年を迎えたく様興信所に届いたある年賀状。

『新年明けましておめでとう御座います御座います。
 今年も、どうかよろしくお願い致しますね。
 新年に伴い、私の店の前で、「モチつき」を催したいと思います。
 日付は1月×日・午前10時より始める予定です。
 よろしければ、是非いらしてください。
 ―――プラントショップ『まきえ』より』

最初乗り気ではない草間だったが、零と希望の即興芝居によって上手い事連れ出され。
同じくまきえ達から年賀状を貰った面々と一緒にプラントショップ『まきえ』に赴くのだった。
まぁ、家から直行した輩もいるようだが。

●晴れ着と餅と愛しのボブ(笑)
草間達と一緒に歩いていた桜木・愛華は、「プラントショップ『まきえ』」に着くなり、唐突に走り出した。
勿論、綺麗な晴れ着を着用しているので正確には「小走り」だったが。
素早く聡に近づくと、がしっとその襟首を掴む。
「ボブは!?ボブは何処にいるんですか!?」
やっぱりと言えばやっぱりか、彼女の目的はボブだった。
「え、えっと…。そ、そろそろ杵を持って来るかと…」
かなりマジな愛華の目に脅え気味な聡だったが、愛華はその言葉を聞いた瞬間に勢いよく放り投げる。
聡はガンッ!と地面に頭を勢いよくぶつけて目を回すが、愛華は完全に無視していた。
「この晴れ着姿をぜひボブに見てもらわなきゃ!…あぁ、愛しのボブ…vv」
愛華がうっとりと自分の身体を抱きしめていると、ボブが店内から頭部に杵を紐で括りつけた状態で現れた。
「あっ!ボブ〜!!」
発見するなり小走りの筈なのに物凄いスピードで駆け寄った愛華はボブに思い切り抱きつく。
「あけましておめでとうっ!ボブっvv」
戸惑うボブの頬にちゅっと可愛らしい音を立ててキスする愛華と、戸惑いつつ恥ずかしそうに『あ、明けましておめでとうでござる…』と返すボブ。
なんと言うか…半端にラブラブな1人と一体なのであった。

●相変わらず変な店
午前10時ピッタリに全員が揃う。
…が、未だにまきえと臼が来ていない。杵はボブが運んできたからあるのだが。
「あの…臼は?」
不思議そうに問いかけるシュライン・エマに、聡が中を見ながら困ったような顔をする。
「…確か母さんが持ってくる筈だったんですけど…」
「…あら…皆さんもういらしていたんですか…?」
聡の言葉を遮って、まきえが現れた。
「あ、まき…」
まきえを笑顔で呼ぼうとした葛西・朝幸は、笑顔のままで固まる。
全員(聡・ボブ・希望は除く)も驚いて目を見開いたままの状態で硬直した。
―――なぜなら。
まきえは片腕に二個ずつ、合計四個の臼を軽々と抱えてやってきたからだ。
「……お母さん、そんなに一度に持つと落としますよ?」
「…そう、かしら…?」
なんだかずれた聡とまきえの会話を聞き、硬直から戻って頭を抱える者、呆然としたままの者、楽しそうに笑う者など、様々なリアクションが発生したのは、言うまでもない。

そんなこんなで、餅つき(の準備)、開始。

●…本当に愛してますか?(何)
もち米を臼に入れるのを見ながら、愛華は残念そうに溜息を吐く。
「お餅は大好きだけど…愛華は力ないからお餅はつけそうにないなぁ…」
『さようで御座るか。女人も大変で御座るな』
「うん…だから、ついたお餅を食べられるように準備するのお手伝いするんだ!
 …そうだなぁ…つける物は…きなこ、あんこに大根おろしにお醤油…」
指折り数えながらつける物を呟いたいた愛華が、ふとボブを見て止まる。
『…愛華殿?』
不思議そうに声をかけたボブを見ながら、愛華はぽつりと呟いた。
「……カボチャ餡とか、美味しいかも……」
『!!!』
ごくり、と生唾を飲み込むような音がして、ボブがびくりと身体を強張らせながらズザザザッ!と猛スピードで2mほど後ずさる。
それを見てはっとした愛華は、慌てて顔の前で手を振った。
「じょ、冗談だよ冗談!ヤだなぁ、本気なワケないでしょ!?」
『そ、そうでござるか…?』
その言葉にほっとしたように戻ってくるボブを見て、ほっと安堵の溜息を吐いた愛華は、ボブに聞こえないくらい小さな声でぽつりと呟く。
「…愛しのボブを食べようだなんて…愛華ってば怖いわ…」
実は、かなり「本気」と書いて「マジ」と読む状態だったようだ。
ボブ…気を抜いたら食べられるかもしれないぞ、君。

その後、愛華はボブと離れることになる。
…単に裏方担当と餅つき担当に分かれただけなのだが。
その時にちょっとしたいざこざがあったのは…また、ちょっと別の話。

●酒盛りGOGO!(ぇ)
全部のもち米を綺麗につき終わったので、数人の希望もあり、全員で宴会を始める事に。
人間と植物が入り乱れたとんでもない宴会ではあるが、会場代わりが危険な温室の一角なので問題はない…筈。
ジュースに餅、エマが持ってきたお茶、珈琲、御節。勿論酒はまきえ大量に用意されている。
「さぁ、どうぞ。いっぱい食べてくださいね」
にっこりと笑って長机に並べた料理や酒を指差す聡に、全員が一気に飛びついた。
そこからはわいわいと騒がしい宴会タイムになった。

――――まではよかったのだが。

酒とジュースの区別がつかなかった零、愛華、朝幸がうっかり酒を飲んでしまい。
未成年の筈の希望、聡が平然と酒を飲み。
草間、まきえ、エマ、葛生・摩耶、秋月・霞波の成人済組も希望や神島・聖の手によって強制的に飲まされたりで。
あっと言う間に「宴会」は「酒の宴」に早代わりした。

「ボブを殺して愛華も死ぬ〜!」
『あ、愛華殿!やめるで御座る!拙者は殺されたくないで御座るよ〜!!!』
「嫌ァ〜!天国で一緒に幸せになるの〜!!」
などと火サス風に叫びながら、包丁を持ってボブを追い掛け回す愛華。
「あはははははは!!!」
その光景を見、指差しながら実に楽しそうに爆笑する零。
『零殿!笑ってないで助けて欲しいで御座るよ〜っ!!』
「あっはははははは!!!!」
ボブの必死の叫びに返ってくるのは笑い声。
「ボブは美味しいカボチャ餡になって愛華の血となり肉となるの〜!!」
『そ、それだけは勘弁してほしいで御座る〜っ!!!』
(ボブだけが)かなり命がけな『鬼』ごっこは、愛華が酔い潰れて眠り出すまで、数時間続いたのだった。

「……」
一方、出来るだけメンバーから離れようと宴会地帯からかなり離れたところに座り、ちゃっかりゲットしておいた御節や餅をつまみに無言で酒を飲む草間。
「…武彦さん、一緒にあっちでお酒、飲みまないの?」
草間を見つけたエマが、コップと一升瓶数本を持ってやってくる。
エマの問に騒ぎの中心を見た草間は、深々と溜息を吐いた。
「…あそこに入ると大変なことになりそうだから遠慮しておく」
とりあえず隣に腰を降ろしたエマは、草間の言葉に苦笑を零す。
「…零ちゃん、かなり酔ってるけど、いいの?」
エマが火サス状態の愛華とボブを指差して爆笑している零を見ながら言うと、草間は眉を顰めた。
「…そのうち酔いつぶれて眠るだろ」
暗にあまり関わりたくない、と言いたげな草間に、エマは思わず苦笑する。
「……まぁ、こっちはこっちで、ゆっくりしましょうか」
「あぁ」
こうして、暴走酔っ払いメンバーが全員酔いつぶれるまで、草間とエマはゆっくりと2人きりの酒盛りを楽しんだのだった。

愛華達からほんの少し離れた所で思う存分酒を煽っていた聖の所に、酔っ払った朝幸が擦り寄る。
「…聖…俺から言うのもなんだけど…」
「な、なんや…?」
ウルウルと目を潤ませながらじっと見つめてくる朝幸に、聖が怯んでやや後ずさる。
朝幸はそれを追いかけてずずいと顔を近づけ、にっこり笑いつつ手を差し出して一言。
「――お年玉、ちょうだいv」
小動物を演じつつ手を差し出した朝幸に、聖はズシャァッ!と座っている状態で器用にずっこけた。
「…あ、あのなぁ…」
「……お年玉…くれないの…?」
どこぞのチワワのように潤んだ瞳でじーっと聖を見つめる朝幸にうっと言葉を詰まらせた聖は、がくりと肩を落とし、財布を探る。
「……ったく…今回だけやで……?」
聖も少し酔っていたのだろうか、五千円のつもりが、うっかり一万円を出して渡す。
「あ…」
「わぁ、聖ありがとー!大好きーvv」
時、既に遅し。朝幸は金を懐にしまってにこにこ笑っている。
「…こうなったらヤケや!もっと酒持ってこんかーい!!!」
ヤケクソになった聖によって、1人一気酒が始まったのだった。

一方、酒豪組その1。
まきえは意外と酒に慣れているらしく、平然と酒をあおっている。
「…酒、結構飲み慣れてます?」
「えぇ、まぁ…よく、主人に付き合って飲んでいたので…」
やや驚いたような感心したような調子で言う摩耶に、まきえは苦笑気味に言葉を返した。
「ふぅん…じゃあ、息子さんも?」
「えぇ…主人が、冗談でよく飲ましていましたから…」
「…子供のうちに?」
「……そこは、聞かないで下さい…」
ふいっと顔をそらして呟くまきえに、摩耶は小さく笑う。
「…にしても、今日は楽しかったかなぁ。溜まってる鬱憤吐き出してスッキリしたしー。
 もしまたやるんだったら、今度も呼んで欲しいかなー、なんて」
「えぇ…是非、呼ばせて頂きます…」
そんな感じで、意外とほのぼのした空気の中、摩耶とまきえは酒を飲み交わすのだった。
―――周りの喧騒を、さりげなーく無視しつつ。

その頃、酒豪組その2。
「へぇ〜。霞波って結構イケる口なんだ?意外〜」
「うーん…私としては聡さんの方が意外でしたけど?」
「そ、そうですか…?僕、結構父の付き合いで飲んでたんですけど…」
ちゃっかり程よい場所を陣取った希望、霞波、聡は、呑気に酒を飲んでいた。
「…にしても…向こう、色々ととんでもない事になってますね…」
局地的に大混乱な光景を見て、困ったように隣にいる霞波と希望を見る聡。
それにとてつもなく爽やかな笑顔を返した2人からは、「気にしたら負けだから気にすんなv」オーラが発せられていて。
「……後片付け、大変そうですね」
「えぇ、ホントにv」
「俺は手伝わないけどな♪」
虚空を見つながらぽつりと呟く聡に、霞波と希望は楽しそうに言葉を返すのだった。
その後、「植物達がお酒を飲んだらどうなるのかしら?」と興味津々で酒瓶片手に植物達の集まりに入ろうとした霞波と面白がって「やれやれ〜!」と煽る希望、そして「温室が壊れるから勘弁して下さい〜!」と必死に止める聡、と言う愉快な光景が見られたのだった。

数時間に渡った宴会は、酒が無くなった事によって幕を閉じた。
結局酔いつぶれて倒れた愛華、朝幸、零、聖の四人と、酔い潰れるてはいないが思いの外酔ってしまったエマ、草間、摩耶の三人。
何故かケロリとしている山川親子、希望、霞波の四人が、七人を看病しつつ、後片付けをすることになり。
結局、なし崩しに来訪者の面々は山川家に泊まることとなるのだった。

―――次の日、目が覚めた愛華は酔っ払っている時の記憶は全く無く。
   自分の姿を見て脅えるボブを見て、どうしてだろうと、当分の間、首を傾げることになる。
   結局。愛華が理由を知って必死に誤解を解こうと奮闘するのは、それから数日後のこと。

終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0696/秋月・霞波/女/21歳/フラワーショップ(ノワ・ルワーナ)店主】
【1294/葛西・朝幸/男/16歳/高校生】
【1295/神島・聖/男/21歳/セールスマン】
【1979/葛生・摩耶/女/20歳/泡姫】
【2155/桜木・愛華/女/17歳/高校生・ウェイトレス】

○○ライター通信○○
お待たせいたしました。異界第三弾、「落ち着けモチつけ米をつけ!!」をお届けします。
今回も「プラントショップ『まきえ』」はどうでもいい方向で元気な様子で(爆)

愛華様:御参加、どうも有難う御座いました。
    今回もボブ三昧で、最後に酔っ払って暴走していただきましたが、如何だったでしょうか?

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
他の方にもそれぞれ個別エピソードがあるので、見てみると結構面白いかもしれません。
それでは、またお会いできることを願って。