コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Gate02〜ループ

□オープニング
「……おかしい。これって絶対変!」
 雫はパソコンの前で眉を潜めていた。
 画面に映し出されるのは彼女のサイトの掲示板。
 最初は三日前だった。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
タイトル:助けてください!  投稿者:高間広志 MAIL
 明日にならないんです!
 ずっと今日のままなんです!
 誰か助けてください!
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 日付がその記事だけ一昨日だった。一日だけなら妙な事もあるものだと思っていたかもしれない。悪戯だと思っていたかもしれない。
 しかしその書き込みは次の日にも行われていた。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
タイトル:助けてください!  投稿者:高間広志 MAIL
 明日にならないんです!
 ずっと今日のままなんです!
 誰か助けてください!
 もう四日も今日なんです!
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 やはり日付は同じ。タイムスタンプもほぼ一緒。流石に雫も気になってレスをつけた。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
タイトル:re:助けてください!  投稿者:雫 MAIL
 どうなってるの?
 詳しい事を教えてください。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 次の日雫はドキドキしながら高間が書き込む時間を待った。
 やはり書き込みはきた。レスではなく新規で。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
タイトル:助けてください!  投稿者:高間広志 MAIL
 明日にならない……、どうしたらいいんだ?
 明日もきっと今日のままなんだ。ずっとこのままかもしれない
 誰か明日になる方法を教えてください。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「どういう事? 書き込み見てないのかな……あ、そうか、私の書き込みは昨日で、この人が見てるのは5日前なんだ」
 その理論なら記事が見れる訳もない。
「一体どうしたら良いんだろう」

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
タイトル:協力者を探しています  投稿者:涼蘭 MAIL
 こんばんは、涼蘭(Suzu-Ran)と言います。
 ループする時間の中に閉じ込められた高間さんを助けてくれる人
いませんか?
 高間さんのいる時間までお送りします。
 原因がきっとどこかにある筈です。それを取り除いてください。
 まずはメールで連絡を。詳細をお送りします。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「この涼蘭って人に頼るしかないのかな?」
 雫は自分は何も出来ないけれど、知り合いにあたってみるとメールを出した。即座に返事がきた。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 メールありがとうございます。涼蘭です。
 是非協力できる方を教えてください。
 えっと、高間さんについて詳しく言ったほうがいいんですよね?
 高間さんは港区の区立高校に通っています。高校二年生です。
 私が調べた高間さんの今日のスケジュールはこんな感じです。

 7:30 起床
 8:00 自転車で登校
      一時間目 現国
           お休み時間売店へ
      二時間目 数学
      三時間目 数学
           宿題をやってました。
      四時間目 化学 後片付け担当。薬品をこぼしてた。
      昼休み  ご飯の後、手紙を持ってうろうろ。
      五時間目 英語 予習やってなくて怒られる。
      六時間目 体育
      放課後  何かをなくして探してた。
      帰り道  自転車を盗まれる。慌てて帰り道途中の
           公園に行ってがっかり。
           階段で誰かに突き落とされる。足を捻挫。
18:00 帰宅
           友達と電話で大喧嘩。
23:00      ゴーストネットに書き込み。
23:30 就寝 

 このどれかが引っかかりになってループを発生させてると思うん
ですけど……どれかまで私には判りません。
 協力してくださる方は私が直接お迎えに上がります。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


■隣の部屋では?
 同居人は相変わらずパソコンの虫になっている。ため息をついて朧月桜夜(おぼろつき・さくや)はノートパソコンの電源を入れた。
「……あれ? 涼蘭ちゃんだー♪」
 ゴーストネットの涼蘭の発言に速攻で協力する旨をメールする。返事を待つ間、朧月は改めて高間の発言を見直した。
「ずっと今日のまま……つまり同じタイムテーブルが繰り返されてるってコトよね?」
 発言が次第に必死になってきている様子に、朧月は眉を顰めた。普通は明日になる方法なんて探し求めたりしない。しかしそれによく似た心境を少女は良く知っていた。
 こんとテーブルに額を置いて思い出しちゃうなと呟く。テーブルの冷たい感触や隣の部屋の気配が確かに今朧月がいるのがここだと確信させてくれて、少しだけ安心できた。
「あんまり長いコト、ンな中いると頭おかしくなっちゃうよね」
 少女は決意を込めて一つ頷く。
「早く助けなきゃね……あ、着信音。涼蘭ちゃん早いっ!」
 メールの文面は高間の一日のスケジュールと躊躇いがちな私信。それを見た途端に朧月はものすごい勢いで立ち上がった。駆け出すと同居人の部屋にノックもなしに飛び込んだ。
「隼ァ! 涼蘭ちゃんと連絡とってるの!?」
 突然の恋人の行動に驚きながらも瀬水月隼(せみづき・はやぶさ)は頷いた。
「何でお前そんな事知ってんだ? つーか、知り合いか?」
「うん! とっても!」
 どういう返事だと思わなくもないが瀬水月はとりあえず納得した。ちなみに涼蘭のメールに書かれていた私信は一行。
 ――桜夜さん、F/Hって方知り合いにいますか? 反応が近くなんですけど。
 瀬水月が聞けば反応が近いってなんだよと思っただろう。が、朧月はといえば、普通にメールしてる訳じゃないのか程度の感想が浮かんだだけだった。振り返った瀬水月の膝に半ば腰掛けながら、画面を覗き込むと涼蘭へのメールを書き込んでいる途中だったのでそこへ一文付け足す。
 ――私もこっちのメール見るから一本化しようか、手間ないしね♪ 桜夜
「隼も人為的な路線疑ってるンだ?」
「ああ。んなもんしょっちゅう起こってたらたまったもんじゃねーだろ? ……でな」
「何?」
「重い。どけ」
「ちょっとぉ!? それどういう意味!? 太ってないわよ、アタシ!」
 力技でどけられた朧月が椅子を運んできて瀬水月の隣に座ったのはそれから五分後の事だった。


□作戦会議
 涼蘭が迎えに行った面々を引き合わせる為に選んだ場所は応接セットがぽつねんと置いてある部屋だった。壁にドアの絵が描いてあるのを見てシュライン・エマと朧月はこの間の場所かと頷いた。
「落ち着いてんなよ」
 恨みがましく呟いたのは瀬水月だった。
「何で?」
 あっさりと問い返した朧月に少年は仏頂面になる。
「いきなり部屋からこんな場所に繋がったら普通慌てるだろうが」
「あ! そっちもなの? 私も突然繋がってた! 変よね、絶対変!」
 勢い込んで言ったのは村上涼(むらかみ・りょう)である。朧月とエマは軽く肩を竦めた。
「だってそれが涼蘭ちゃんだし」
「不思議と言えば不思議なんだけどねえ」
「まあ、夢の世界と鍵一つで繋げる人ですからね、彼女」
 九尾桐伯(きゅうび・とうはく)も細かい理屈を涼蘭に求める気はないらしかった。知り合いの言い様と夢の世界と言う言葉に眉を寄せた村上はあっさりと理解を放棄する事にした。
「まー、確かに五日前に連れてくとか言ってる時点で普通じゃないか」
「そういう事ね。細かい理屈を聞いてみたいのだけどねえ」
 涼蘭に理屈を問い掛けて判りやすく返事がくるかどうかは謎だとエマは思う。当人真面目でも方向性がしばしばずれている。
 さて、その当人はと言えば。最後の一人を迎えに行ってきますと壁の扉に入って以来とりあえず戻ってきていない。結果、何となくお茶会のような作戦会議のような事態が発生していた。
 しゃんっ。
 鈴の音が響く。絵のドアが立体となりドアが――より正確には壁だった場所が――開かれる。瀬水月と村上は思わず立ち上がった。二度目だが、何度見ても慣れないと2人は思う。しかし、九尾とエマは落ち着いたままお茶を飲んでいる。朧月は落ち着けと示すように瀬水月の上着の裾を引いた。
「帰ってきたみたいね」
 涼蘭が背の高い青年を伴って現れた。青年は一同に向かって軽く頭を下げる。
「俺が最後みたいですね。柚品孤月(ゆしな・こげつ)です」
 柚品を知っているエマが久しぶりと声をかけた。目礼で応じる柚品に涼蘭が苦情を言う。
「高間さんの近くにいなかったから探しちゃいましたよ」
「え? 高間に会ってきたのか?」
「ああ。時間があったので先にちょっと五日前を見てきたんだ」
 瀬水月の言葉に柚品が頷く。村上が質問とばかりに手を上げた。
「で、高間クンにくっつかずに誰を見てきたの?」
「手紙、ですよ」
「内容をですか? それとも」
「行方の方です」
 九尾の言葉に答える柚品にエマが訊ねる。
「誰が持って行ってたの?」
「彼の友達ですよ。涼蘭さんに確認したらどうも電話の口論相手らしいんだが、妙な事が」
「妙な事って?」
 朧月が興味深げに訊ねる。柚品は涼蘭を確かめるように見つめた。
「手紙を高間君が取り返してたんだが……涼蘭さんのスケジュールにはなかったんだ」
「ないです。放課後に高間さんはそのお友達に会ってません。それに柚品さん、高間さんがいない場所にいましたよ」
 だから探したんですと涼蘭が答える。瀬水月は眉を寄せた。
「ちょっと待て、矛盾してねーか?」
「矛盾していますね。これではまるで高間君が2人いるように聞こえます」
「涼蘭さん、調べ間違えてないー? あ、この時間ならもしかして突き落とされた現場確認してない? どんな状況だった?」
 九尾が頷き、村上が矢継ぎ早に質問を重ねる。涼蘭も柚品も首を振った。
「調べに間違いないです! だって2日間見てました! それに高間さんが公園に着いた時間に柚品さんはまだ学校にいたんです」
「それとね、俺、その手紙を受け取った高間君を見失ったんだ。ポケットの中から何か取り出して、手紙を一緒にゴミ箱に捨てた後に人ごみに紛れた後に唐突に消えてしまった」
「変ね、それ。手紙を捨てるんなら取り返す必要ないわよね」
「当人に聞いた方が早そうだな……高間と話せるか?」
「あ、それ、私も考えてたの。ゴーストネットに書き込んでる時間帯の高間くんなら話せないかしら?」
 朧月が考えるようにソファに沈み込み、瀬水月が提案した言葉にエマが同意の頷きを返す。
「成程。確かにその時間帯の高間君ならばループを悟っているでしょうから、詳しく聞けそうですね」
「いや、俺が言いたいのは現実の高間。ループを抜け出してる高間もいるんじゃね−のか?」
「あ、そっか。5日前に永遠に閉じ込められてない限りいつかは終わってる筈だし、行方不明になってるんじゃなきゃ現在の高間君いる筈よね?」
 九尾の頷きに瀬水月が反論を返して村上がそれに同意する。柚品が確かめるように涼蘭を見遣った。
「5日前の高間君と今日の高間君、両方の場所に連れて行く事出来るかな?」
 涼蘭が頷いた事で、6人は早速二手に別れる事にした。


■『今日』の高間
 午後11時を待って高間の部屋を訪れたのは九尾とエマ、朧月だった。
「だ、誰だ!? と、突然どうやって!?」
「騒いでもとりあえず声聞こえないわよ。えっと、そこのサイトから来たンだケドな?」
 なんだか悪人のような台詞を言った後、朧月はディスプレイを指し示した。
 少女が陰陽道で結界でも敷いたのだろうとあたりをつけてエマが口を開く。
「ここからじゃ今までの他の発言は見えないのね。今、六日目かしら?」
「おそらくはここからでは涼蘭さんの発言は見えないでしょうから驚くのは無理もありませんね。貴方の発言を見て来たんですよ」
「……! 助けてくれるんですか?」
 しばしの間を起き少年が漸く理解した様子で三人を見つめる。頷きを返されて呟くように良かった無駄じゃなかったと言ったのが印象的だった。
「幾つか確かめたいことがあるんだけど、良いかしら?」
「はい」
「突き落とした相手の顔は見た? 男だったとか女だったとか特定の誰って判らなくても構わないんだけど」
「見てません。ちょうど駅前で人が多かったから……ただ、すごく強い力でした」
「どの辺りから押されたの?」
「一番上からだったけど、人が多かったからぶつかってそこまで落ちずにすみました」
「一番上から? それ悪質ね。打ち所悪ければヤバいわよ?」
 黙って鋭い目で辺りを観察していた朧月が聞きとがめて口を出す。エマも深く頷いた。
「そうね。……あと、公園で待ち合わせをしていたのよね? どのくらい遅れたの?」
「一時間です。自転車でなら間に合ったかもしれないけど……歩きじゃどうにもならなかった」
「自転車でなら間に合ったかも知れない訳ですね……ところで、これがその鍵ですか?」
「あ、いえ、それはスペアキーで、本物の鍵はどっかにいっちゃいました。朝から鍵かけ忘れたのかな」
 最後は独り言のように高間は呟く。九尾は鍵を手にとった。
「お借りしても良いですか?」
 高間がこくりと頷いた。


■ループ脱出
 しんとした校舎内に三人分の足音が密かに響く。放課後でも結構時間が経てば無人に近くなる。隠れ身の術を施しているとなれば目立つ事を考慮する余地も尚更少なくなる。
「涼蘭ちゃんも結構便利な術使うわよね」
「……キミもね」
「騒ぐと気付かれる可能性あるんじゃなかったか?」
 頷いた朧月を横目で眺めた村上の台詞にやや呆れたように瀬水月がつっこむ。なんとなくこの後盛大な口喧嘩に発展するような気がするのは少女が暇さえあればよく似た電子生命体と角を突き合わせているせいだろうかと思う。その光景を思い出して気力を殺がれる気がしたのはあながち気のせいばかりでもあるまい。
「これぐらい、平気よ」
「そーね。……ドッペルくんより先にお友達見つけなきゃねー」
 村上の言い様に不審げに瀬水月が振り返った。
「『ドッペルくん』ってなんだよ?」
「ドッペルゲンガー。知らない?」
 自分と同じ顔をした人間を見ると三日後に死ぬ等という噂で有名なアレである。
「あ、成程。正しいわね。……でも、同じツラしてるからってドッペルゲンガーとは限ンないケドね」
「化けたとかそういう事か?」
「そ」
「でもそんな事して何の得になるってのよ?」
「さあ? そこまではアタシにもわかンないケド。でも可能性はアリだと思う」
 不審げな村上に朧月は肩を竦めた。元より人為的な路線を疑っていた瀬水月は不機嫌に頷いた。
「何の得になるからやってンだか謎だな」
「……確かに後悔とか自然発生だけでループが発生しまくったら怖いわね。それよりは誰かがやってる方が安心できそうだケド……安心していいのかどうかも今一つ謎よね」
「やってる人間に目をつけられたらおしまいだしねぇ。……! 出たっ!」
 気を探っていた朧月が一気に走り始めた。慌てて二人が後に続く。
「出たってどういう事だ?」
「文字通り! 涼蘭ちゃんみたいに突然出た!」
「よく判んないケド、ドア? って高間見っけ! って何でここに!?」
 角を曲がれば高間が手紙を持った友人を見つけた所だった。本人からすら友人に会ってないと聞いているのにと村上が唖然とする。若き陰陽師はあっさりと首を振った。
「気配が違う! アレは当人でもドッペルでもないわ!」
「じゃあ、多少手荒でもOKだな。おい、ソコ! 高間に近付くな!」
 一気に加速して高間と友人――相沢と言うらしい――、の間に瀬水月は割って入る。
「何だ!? あんた達は!」
「手紙盗んでおいて偉そうに言ってんじゃない!」
 相沢を勢い良く村上が叱りつける。とっとと返しなさいよと手をずいっと差し出す村上にどうしたものかと相沢は高間と村上を代わる代わるに見る。
「……自転車を移動させたのもお前達か?」
「さぁね。知ってどうすンのよ?」
 高間の姿をしたそれの言葉に朧月が眉を上げて答えた。瀬水月はじりじりと間合いをとる。その後で村上は相沢から手紙を取り戻していた。
「これ以上のループは無理か、もう少しで開ききる所だったのに……いや、後一日延ばせば」
「何訳判ンね−事言ってんだよ!?」
 瀬水月が高間の腕を取ろうと手を伸ばす。高間は狭く開いた窓の隙間に何か光るものを投げ捨て踵を返した。
「! 自転車の鍵!?」
 気がついた朧月が声をあげて窓に張り付く。しかし、窓の向こうに消えたそれの軌跡を追う事は出来ない。
 腕を取った瀬水月はそのまま極めようとしたが思わぬ力に体勢を崩し、手を離した。
「何て力だ」
 やや呆然と呟く。高間の体つきから想像される以上の力だった。高間と目が合った村上は何故か金属バットを構えた。釘のついた金属バットはまるで鬼の持つ金棒のようだった。細い村上の腕に不似合いなそれの形状よりもどこから出したと訊ねてみたいと思った人間の方が多い。
「四番! 村上涼。来るんならホームランの気合で行くわよ!」
「……なんで四番よ」
 多分打率が高いからであろう。高間はその様子に向きを変えて駆け出した。――教室のドアに向かって。
「どこに向かってンだよ!」
「ちょっとぉ、正々堂々勝負しなさいっ!」
 追う瀬水月と村上の目の前で教室のドアが閉まる。間髪いれず開けた村上の目に映ったのは無人の教室だった。
「……消えた? いや、涼蘭と同じじゃねーか、これ」
「何にせよ逃げられたって事よね」
「手紙を取り戻せただけで十分よ」
 朧月の腕には紙から生み出された鳥がいた。この式神に手紙を運ばせる手筈だった。村上の手から渡された手紙を加えて鳥は白い羽を羽ばたいて飛び立つ。
 後に残されたのは三人と何も知らない相沢。
「さて、何て説明すっかな」
 気を取り直したのか現実的な感想を瀬水月が呟いた。


□開かれかけた扉
 全員があの壁の扉の部屋に戻ったのは夕方の事だった。ホッとして体を伸ばすもの、考え深げにするもの、そして早速ネットに繋げるもの。様々だった。
「何やってんのよ、隼」
「ああ。あ、やっぱり」
 瀬水月は朧月の方へディスプレイの向きを変えた。高間の発言が表示されている。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
タイトル:ありがとうございました  投稿者:高間広志 MAIL
 おかげで助かりました。
 皆さん本当にありがとうございます。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「これ高間クンの!」
 言葉少なな謝辞であったがそれはあの同じ時間の中にいる高間からのものではなかった。その証拠に日付が違う。
「じゃあ、ループは何とかなったんだ。良かったわねー」
「ええ。本当に。どうもぎりぎりだったみたいだしね」
「まあ、それでも間に合いましたからね」
 手を叩いて喜ぶ村上に頷きあうエマと九尾。柚品は一人難しい顔になった。
「しかし、あのもう一人の高間君は一体……」
「あ、それ。偽物だったけど変なコト言ってたのよね」
「涼蘭、アレ、お前の仲間じゃないのか? ドア開いてどっかに移動しちまったみたいに見えた」
「ドアを開いて……確かにそれは涼蘭さんのやっている事と同じですね」
 朧月と瀬水月の言葉に九尾が確かめるように涼蘭を見た。
「……私以外の扉との契約者かもしれません。ドアーズとの契約者は私だけですケド、でも、ドアーズ以外にも力を持つ扉が現れたんだと思います」
「そのドアーズとかって何? あ、似たような事言ってなかった? もう少しで開ききるとかなんとか」
「ちょっと待って、それって前の時にも……」
 村上の言葉にエマが眉を寄せた。涼蘭が以前草間興信所に持ち込んだ事件でもやはり扉を開けるというフレーズがあったような気がする。
「誰かが人為的に涼蘭さんの言う『扉』を開け放したりなんだりしようとしてるって事?」
「涼蘭さん、貴方の言う所の扉というのはどういう事です? これまでの貴方の開いてきた扉はいずれも普通に私達が考える扉ではなかった」
 エマが顎を指先に当てて瞑目する。そして九尾はもう一度涼蘭に問い掛ける。
「私達が契約する扉は、扉の精霊みたいなものだと思ってください。扉は新しい場所に続く場所ですよね。例えばそれが家の扉なら家の中にしか出入り出来ないけれど、それが別のどこかに続いている可能性、それが私の言う扉です」
「そういえば、ナルニア国とかって箪笥を開いたら別の世界に続いてるわよね、そんな感じ?」
 あとどっかの猫型ロボットのアレとかと村上が指折り数えて例示する。柚品が納得したように頷いた。
「夏への扉とかそう言うのもあるよな。そういうイメージなのか……、で、別口が現れていると」
「厄介ねぇ、で、多分その力を増強しようとして色々やらかしてる、と。そしたらどうなっちゃうのかしら」
「ドア開いたら思った場所と違う場所でしたなんて事が有り得る世の中になったりしてな。……ヤな世界だ」
 やや投げやりに言った朧月の言葉に何を想像したのか瀬水月が眉を顰めて渋面になった。
「あながち間違いじゃないかもしれません。その想像。とにかく見つけたら正常に戻して行くしかないんですよね」
 協力してくれますか、そう問い掛けた涼蘭は思い出したようにお礼だと言って小さな鍵を取り出した。
「一度だけですけど、どんな鍵がかかっていても開けられます。使ってください」
「……ありがとう。でも」
「え?」
「これ使ったら、扉に力がどうこうとか、ないわよね?」
 エマの言葉に涼蘭がきょとんと見上げてから大きく頭を振った。大丈夫ですよーという大きな声とリアクションに思わず笑い出した一同だった。


fin.


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0444/朧月・桜夜(おぼろつき・さくや)/女性/16/陰陽師
 0072/瀬水月・隼(せみづき・はやぶさ)/男性/15/高校生(裏でデジタルジャンク屋)
 0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
 0332/九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)/男性/27/バーテンダー
 0381/村上・涼(むらかみ・りょう)/女性/22/学生
 1582/柚品・孤月(ゆしな・こげつ)/男性/22/大学生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 依頼に応えていただいて、ありがとうございました。
 小夜曲と申します。
 今回のお話はいかがでしたでしょうか?
 もしご不満な点などございましたら、どんどんご指導くださいませ。

 ループは、いかがでしたでしょうか?
 この話は小夜曲の異界シリーズ第2話となります。
 ループというと一昔前に流行ったリングの続編みたいですね(笑)
 永遠に同じ日が巡るのに自分一人がそれが違う日だと認識しているというのはなんだか気が狂いそうな状況ですよね。
 そんな狂った時間の扉が正常に閉じきれなかった異界〜Gateはどうなっていくのでしょうか?
 お楽しみいただけましたら、幸いでございます。
 また、今回涼蘭の手から渡しました鍵は小夜曲の依頼に限りお使い頂いて構いませんので思いついたら使ってみてくださいませ

 朧月さま、九度目のご参加ありがとうございます。
 階段から落ちて云々には思わずああ、あったあったと納得の声をあげてしまいました。そして同じ日々に関しては確かに朧月さまにとってはきつい話かななどと思いました。
 制服で潜入は準備が出来ればやってみたかったなと思いました。セーラー服の朧月さま可愛いでしょうねー。喜んで瀬水月さまに見せに行きそうなどとつい考えちゃいました(笑)
 今回のお話では各キャラで個別のパートもございます(■が個別パートです)。
 興味がございましたら目を通していただけると光栄です。
 では、今後の朧月さまの活躍を期待しております。
 いずれまたどこかの依頼で再会できると幸いでございます。