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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


LAST DAY

オープニング

「夫を助けてください」
 草間興信所にやってきたのは女性だった。
「助けてください、とはどういう意味ですか?」
 草間武彦は新聞を机の上に置いて女性の方を向く。
「半年前、娘が死にました。ひき逃げです…ですが…」
 女性は泣きながら話し始める。
 娘、真理という7歳の子供がひき逃げで死んだ事。
 ひき逃げをしたのはまだ中学生の不良グループだったという事。
 そして、父親、女性にとっては夫にあたる男性がそのひき逃げをした少年を殺そうとしていること。
「あなたは憎くないんですか?」
「憎くないわけないでしょう?自分のお腹を痛めた子供が殺されたんですよ?だけど…」
 死んで償わせるにはあまりにも重い罪だから生きて償って欲しい、と女性は言う。
「お願いです。夫を救ってください」
 深々と頭を下げて言う女性に草間武彦は頭を掻いてどうしたものかと考える。
「………分かりました、この依頼引き受けます」
草間は溜め息と共に言葉を出す。
「ありがとうございます」
 女性は再度深々と頭を下げて興信所を後にした。


視点⇒ベル・アッシュ

「残念」
 草間興信所で草間武彦に話を聞いてベルが本当に残念そうに呟いた。
「何が残念なんだ?」
「だって仕事が出来るかなーと思ったのにその反対の事しなきゃなんないのよ?残念でしょ?」
 はぁ、と溜め息をつきながらベルは出されたお茶を一気に飲み干す。草間武彦は新聞を読みながら視線だけをベルに向ける。
「じゃあ、この仕事はやめるか?」
 それも何か悔しい気がする。わざわざ出向いたと言うのに、とベルは呟く。
「いいわ。その仕事は受ける。でもあたしが仕事持ちかけて旦那の方がその気ならお仕事させていただくわよ?」
 草間武彦の返事を聞かずにベルは草間興信所を後にした。もちろん向かったのは依頼人の家。旦那の行きそうな場所を聞くには長年連れ添った依頼人に効くのが一番だと思ったからだ。
「はい、どちら様ですか?」
 依頼人が住んでいるのは安っぽいアパートの一室。玄関のドアを開けて現れたのは中年の女性でガリガリに痩せている。いや、痩せていると言うよりはやつれているといった方が正しいのかもしれない。
「え〜と、旦那の事を聞きにきたんだけど〜」
 頭を掻きながらベルが言うと女性は「中にどうぞ」と言ってチェーンを外してベルに部屋の中に入るように促した。
「コーヒーでよろしいでしょうか?」
「あ、お構いなく」
 女性は台所でコーヒーを入れてからベルのいる部屋にやってくる。待ってる間ベルは部屋を見渡す。狭い部屋だけどそれなりの幸せはあったのだろう。
(あの子がひき逃げされた子供…か)
 奥の部屋に一枚の写真が飾られている。髪の毛をポニーテールにして結んでこちらに向かってピースをしている写真だ。
「娘の真理です。遅くに出来た子供でしたから夫も溺愛していました」
 カチャンとテーブルにコーヒーを置いてから女性が話し出す。真理という子供は学校の帰りに轢かれてほぼ即し状態だったと言う事。
「ふぅん」
 さして興味を示すこともなくベルは出されたコーヒーを飲む。大切な者を亡くした人間に気休めなど言っても仕方がないということを知っているからだ。
「それでさ、旦那の行きそうなところ知らない?もしくはその少年グループがいそうな場所とか」
 ベルがコーヒーを飲みながら聞くと女性は少し下を俯いた。
「その不良グループの通う学校の近くに、よくたまっているお店があるそうです…。恐らく……」
 女性は拳をギュッと握り締めながら搾り出すような声で呟いた。
「そぉ…。じゃあ今から行く事にするわ。コーヒーご馳走様」
 それだけ言うとベルは家から出る。少年達の通う学校の近くならば歩いて行けない距離ではない。寒いけれどタクシーを呼んで待つ時間もダルイなぁと思ったので結局歩いていく事にした。


―HELL


 女性が言っていたように学校のすぐ近くにクラブがあった。派手な看板で今は昼だからライトはついていないが、夜になれば悪趣味に輝く事間違いナシだろう。
 一応『準備中』という札がかけられているが中からは人の気配がする。
「…あら」
 どうしたものかな、と考えている時に依頼してきた女性の夫という人物が現れた。
「ねぇねぇ、確かあんた真理って子亡くした人の旦那?」
 回りくどい言い方にはなったが、多分男性には通じているだろう。
(名前聞いておけばよかったかしら…)
 そんな事を思いながら反応を見る。
「誰だ…あんたは」
「自称行商人のベル・アッシュよ。あんたの奥さんに頼まれてさぁ」
 止めに来た、と最後の言葉を言う前に「ふざけるな」と言う声がベルの耳に入ってきた。
「人を殺しても子供だから許されるというのか!」
 ぜぇぜぇ、と息を切らしながら話す男性にベルは笑って首を横に振った。
「確かにそういう依頼はされてきたけど、それじゃ不本意だよねぇ?若者には未来があり更生する為の機会を残さなければならない、なんて綺麗事の為に馬鹿なガキは護られてのうのうと生き続けなんてくだらないにもほどがある」
 だから、とベルは言葉を続けた。
「馬鹿な轢き逃げのガキに死を。どう?その代わり奥さん残して復讐遂げてあんたは死ぬ。あんたが直接手を下す訳じゃないから単独不注意の事故で殺す事も出来る。裁くべき者は自分以外存在しない惨めな死に方。それは見届けさせてあげる」
 そのベルの言葉に男性の表情が硬くこわばる。
「殺して、くれるのか……」
「そうよ、魂さえよこせばね」
 その言葉に男性は揺れているようだ。
(あぁ、ようやく仕事らしい仕事ができそうだわ)
「魂はやる。だから、あの憎いガキ達を殺してくれ」
「了解」
 ベルが視線を写した先には大型のトラック。ベルがトラックの軌道を変えて店に突っ込ませた。
「どう?これでいいかしら?」
 男性はガタガタと震えながら、ぐしゃぐしゃになった店を見つめている。
「……………あら」
 突然ベルが呟き、男性はビクリと肩を震えさせた。
「まだ死んでないのね。でもこの状態じゃ歩く事すらままならないでしょうねぇ」
 クスクスと笑いながらベルは男性を見やる。
「この後、どうして欲しい?ぐちゃぐちゃに原型も分からないくらいに引き裂いてあげようか?…まぁ、歩けないでしょうから後は好きにすればいいわ」
 それだけ言うとベルはその場から立ち去ろうとする。
「待ってくれ!俺の魂は―……」
「悪魔を甘く見ないでくれる?一応プライドってものがあるんだから仕事が最後までできなかったのに報酬をもらえるわけないでしょう?」
 それだけ言うとベルは振り向く事もなくその場から立ち去った。



「ありゃ…」
 後日、男性があの後どうしたのかは新聞を見て知ることになった。結局彼は誰も殺さなかった。『子を失う親の気持ち』を誰よりも理解していたからだろう。
 歩けなくなったという事で少年達の人生は失われたも同然と感じたからだろう。
「神様とやらは平等がモットーだから誰でも許すんでしょうけれど、悪魔は許さなかったってコトね」
 あの男性はベルの真意に気づかなかった。死んで許される罪じゃないのなら、最悪な形で生きて苦しめばいいというベルの気持ち。
「ま、どうでもいいんだけど。一つ確かなのは仕事をし損ねたってことよね」
 はぁ、とベルは溜め息をついて新聞をクシャリと握り締めた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2119/ベル・アッシュ/女性/999歳/タダの行商人(自称)


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■         ライター通信          ■
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ベル・アッシュ様>

いつもお世話になっております、瀬皇緋澄です。
今回は『LAST DAY』に発注をかけてくださいましてありがとうございます。
今回の話はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださったら幸いです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくおねがいします。


                  −瀬皇緋澄